「顔60点、体100点」と評価されている幼馴染と同棲することになった俺。彼女は無防備なうえに甘やかしてくるので、毎日が刺激的すぎるんだが…! 作:白井ムク
律と買い物に出かけた日の夜。
「じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ、律くん」
いつもと変わらない声で挨拶を交わし、扉が閉まる。
廊下を遠ざかっていく足音を聞きながら、小晴は小さく息を吐いた。
仲直りはできた。
律は事情を話してくれたし、最後には腕も組ませてくれた。「嫌ではない」とも言ってくれた。
嬉しかった。
嬉しかったはずなのに、胸の奥には小さな棘が刺さったままだ。
「……カノジョ、いたんだ」
律のスマホに映っていた女の子を思い出す。
モデルと見間違えるくらい綺麗で、律と並んだ写真は、どこから見てもお似合いの恋人同士だった。
その写真を見た瞬間、心配より先に「嫌だ」と思ってしまった。
失恋した律が傷ついていることよりも、自分の知らない女の子が律のカノジョだったことのほうが気になった。
そんな自分が、少し嫌になる。
小晴は机の前へ座ると、引き出しから日記帳を取り出した。
今日の日付を書き、しばらく迷ってからペンを動かし始める——
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【七月二十日】
律くんにカノジョがいた。そして昨日、フられたらしい。
知らなかった。律くんが誰かと付き合っていたことも、その人を好きだったことも、別れて傷ついていたことも、私はなにも知らなかった。
それなのに、律くんのことならわかるような気になっていた。
私には関係ないと言われて、すごく悲しかった。
でも、考えてみれば当たり前だった。私が知っているのは、北海道へ引っ越す前の律くんだ。離れていた時間まで、幼馴染だからというだけでわかるはずがない。
律くんは謝ってくれた。
私も、もっと今の律くんを知らなければいけないと思った。
昔と違うところがあるなら、これから知っていけばいい。
昔の律くんとの思い出だけに甘えず、今の律くんとも、もう一度幼馴染になりたい。
それから――律くんは、まだその人のことを好きなのかもしれない。
少し苦しい。
でも、私は律くんと再会するまで何年も待てた。
だから、律くんの気持ちが落ち着くまで待つくらい、きっと平気。
今日の私、十八点。
なにも知らないのに、知ったようなことを言ったのでマイナス五十点。
律くんにカノジョがいたと知って、心配より先に嫉妬してしまったのでマイナス四十点。
最後は仲直りできたのでプラス八点。
私にしては、かなりの辛口採点。
反省してください、今日の私。
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最後の一文を書き終えても、小晴は日記帳を閉じなかった。
少し前に書いた「きっと平気」という文字を、じっと見つめる。
「……ほんとは、平気じゃないけどね」
律がその人を好きだった時間を、自分は知らない。
もしかすると、今も好きなのかもしれない。そう考えるだけで、胸の奥がぎゅっと縮む。
それでも、失恋で空いた場所へ入り込んで、代わりのカノジョにしてほしいわけではなかった。
いつか律が自分の気持ちと向き合って、そのうえで小晴を選んでくれること。
小晴が欲しいのは、きっとそんな答えだった。
「だから、今は待つ」
ただし、待つからといって、離れているつもりはない。
話して、喧嘩して、仲直りして、離れていた時間のぶんまで今の律を知っていく。
小晴は日記帳を閉じると、新しく買った枕を胸元へ抱き寄せ、ベッドへ倒れ込んだ。
「それに、明日はデート二日目だもんね」
律に聞かれれば、またデートではないと否定されるだろう。
その顔を想像すると、ようやくいつもの笑みが戻ってきた。
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