「顔60点、体100点」と評価されている幼馴染と同棲することになった俺。彼女は無防備なうえに甘やかしてくるので、毎日が刺激的すぎるんだが…! 作:白井ムク
「ただいま……」
「あっ、律くん。おかえりなさい」
「うん。ただいま。母さんは?」
「おばさんなら買い物。もうすぐ戻るって」
「そっか」
「あ、プリン食べる? 冷蔵庫に入ってるよ」
「じゃあ、あとで——」
そこまで自然に答えてから、律は「ん?」と足を止めた。
恐る恐る顔を上げる。リビングの前に知らない女の子が立っている。
いや、正確には、すぐには気づかなかっただけだった。
その黒髪、その少し垂れた人懐っこい目、その笑うと柔らかくなる口元——記憶の中より少し大人びているが、きちんと面影は残っていた。
その少女は、どこか可笑しそうに笑う。
「ふふっ。なにその顔?
「……誰だ、鳩山って? そいつになにがあったんだよ……」
というより、
いや、そんなことよりも——律が知る限り、数年ぶりに会った相手へこんな物騒な喩えを平然と使う女子は一人しかいない。そしてあまりにもいつも通りだったので、感激や懐かしさを飛び越えて、呆れのほうが勝ってしまった。
「……うちでなにしてんだよ、小晴」
「ふふっ。正解!」
木ノ下小晴。
小学生のころまで近所に住んでいた同級生で、中学へ上がるタイミングで父親の仕事の都合により北海道へ引っ越した。遊び友達の一人ではあったが、とりわけ、彼女とは家族ぐるみの付き合いがあったので、一番親しい間柄と言っても過言ではない。
問題は、どうしてこの家にいるかということだ。
夏休みだから遊びに来たということだろうか。
そんな律の疑問をよそに、小晴は嬉しそうに笑った。
「覚えててくれたんだね。嬉しい〜!」
「いや、忘れるわけ——」
言いかけた律の視線が、その顔から自然と下へ落ちた。正確には、吸い込まれたという表現のほうが合っているかもしれない。
薄手のサマーニットを内側から押し上げる、あまりにも大きな二つの膨らみ。さらに視線を下ろせば、ショートパンツに包まれた丸みのある腰回りと、健康的に伸びた白い脚。顔には昔の面影がある。けれど、その身体だけは律の記憶とまるで一致しない。
——デカくないか……!?
胸が。ついでに尻も。
小学生のころは細くて小さかったはずの幼馴染が、数年会わないうちに、どこを見ればいいのかわからないほど大人びた身体になっていた。
「律くん?」
「え?」
「さっきからどこ見てるの?」
「……どこも見てない」
「嘘。見てたよね?」
「いや、まあ……ちょっと成長したなと思って」
あえて成長という言葉を使ってはみたものの、それでも照れは隠せない。
真っ赤になった律の顔を見て、小晴は気づいているのかいないのか、
「えへへ。ちょっとむっちりしちゃった」
そう言って、笑いながら胸の下で腕を組んだ。その仕草のせいで、サマーニットがぐいっと引っ張られ、ただでさえ目立っていた胸の輪郭がさらに強調される。
律は慌てて視線を逸らした。見てはいけないものを見ている気がして。
「北海道の料理、美味しかったから」
「……ヤバいな、北海道」
「うん。ヤバいね、北海道」
小晴は一度頷き、それから両腕を広げると、
「でも、そんなことより——」
次の瞬間、律は正面から抱きつかれた。
「うおっ!?」
思わず声を上げてしまうほどの、胸元へ押し当てられる二つの圧倒的な柔らかさ。予想していた以上の弾力と温もりが、サマーニット越しに律の身体へ伝わってくる。
「やっと会えた! ずっと会いたかったんだよ!」
小晴は律の背中へ腕を回し、ぎゅっと力を込めた。
「ちょ、小晴……!」
律の心臓が激しく跳ねる。数年ぶりの再会だというのに、距離感がまるで変わっていない。小学生のころと同じように、なんの迷いもなく律の懐へ飛び込んでくる。
違うのは、その身体だけだ。
たしかに再会できて嬉しいことは嬉しい。しかし——「女性」を意識しないわけにもいかない。律は、さっき失恋したことなども忘れて、とにかく慌てた。
「い、一回離れろっ……!」
「え〜? もうちょっと再会のハグ〜」
「わかった! 会いたかったのはわかったから! 嬉しいのはわかったから……!」
「で、律くんは?」
「え? なにが?」
「私に会いたかった? 会えて嬉しい?」
小晴が胸元から顔を上げる。
期待するような目で見上げられ、律は「うっ」と言葉に詰まった。
「……まあ、少しくらいは」
「少しだけ?」
「じゃあ、かなり……嬉しい、です」
「やった〜♪」
小晴は嬉しそうに笑い、もう一度強く抱きついた。
「だから、ハグし直すなっ……!」
「照れてる照れてる〜♪」
「これで照れない男がいたら連れてこい!」
その一言を聞いた瞬間、小晴は悪戯っぽく微笑んだ。
「あれ? もしかして律くん、私のこと女の子として意識してるの?」
「あ、当たり前だろ! 女に抱きつかれてなにも思わない男がいるか!」
思わず本音が口から飛び出すと、小晴はわずかに目を見開いた。
それから、なぜか心底嬉しそうに笑う。
「それじゃ、合格点をあげましょう♪」
「いったいなんの試験だよ……」
「だって、昔は私のこと女の子扱いしてくれなかったもんねー?」
「小学生だったんだから仕方ないだろ……」
「今は?」
「今は……女にしか見えない」
主にその身体のせいで——そこまでは言わなかったが、やはり育ちすぎている。ちょっと丸みを帯びた、というレベルではない。これほどまでに小晴を成長させた北海道に薄っすら恐怖を覚えるレベルだ。
「つーか、いつまで抱きついてるつもりだ? いい加減にしろって……」
律が突き放そうとした瞬間——小晴の腕に力が入った。それどころか、なぜかさっきまでの笑顔が消えて、今は真剣そのものといった表情へと変わっている。
「な、なに? どうした?」
「あのね、律くん」
「なに?」
小晴は一拍置いた。
「なんで、そんなに泣きそうな顔してるの?」
「え……」
「なんか、辛いことでもあった?」
律は目を見開いた。心臓を直接摑まれたようだ。
いつも通りに笑えていたつもりだった。よく顔を合わせるご近所さんならまだしも、数年ぶりに会った小晴にも、ほんの数分で「辛いこと」があったと見抜かれたらしい。
「いや、べつに……泣きそうになんかなってないって……」
「ほんと?」
「ほんと」
「ふぅん……」
小晴は疑うように律の目を覗き込んだ。律は思わず視線を外す。
「まあいいや。私に会えて感動したってことにしておくね?」
「ああ、うん……」
「じゃ、改めまして〜……——これからよろしくね、律くん♪」
「うん? これから?」
律が訊き返したところで、玄関のドアが開いた。
「あら、律。帰ってたの?」
買い物袋を提げた母親の
「母さん、どういうことだ?」
「どういうことって?」
「なんで小晴がうちにいる?」
「あれ? 今日来るって言ってなかったっけ?」
「初耳だよ」
「それでね、小晴ちゃん、今日からうちに住むことになったから」
「……は?」
「部屋はあんたの隣。大きな荷物は明日届くから、終業式から帰ってきたら手伝ってあげてね」
そこで律はようやく理解した。
小晴が、夏休みだからうちに遊びに来たというわけではないことを——。
「小晴がうちに住むぅうううーーーっ!?」
律の叫びは家中に響き渡った。
そもそも、玄関先で聞くレベルの話ではないのだろうが——。