「顔60点、体100点」と評価されている幼馴染と同棲することになった俺。彼女は無防備なうえに甘やかしてくるので、毎日が刺激的すぎるんだが…!   作:白井ムク

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第5話 唯一の例外

 ——ややあって。

 

 リビングで、紀子から聞かされた事情はこうだった。

 

 小晴の父親が勤める会社の海外進出に伴い、両親揃って渡米することになった。

 だが、高校二年生の小晴を、慣れない海外へ連れていくのは負担が大きい。小晴自身も日本に残りたいと言っている。そこで昔から家族ぐるみの付き合いがある宮本家に、卒業まで小晴を預けたいと頼んできたらしい——。

 

「——というわけで、今日から約一年半よろしくね♪」

 

 リビングのソファに座った小晴が楽しそうに言った。

 

「一年半……」

「長い?」

「長いというか、急すぎて実感がない……」

「律くん。ちゃんと現実を受け容れて」

「どこぞの誰かが言ったカッコいいセリフを使うなよ、問題の元凶が……」

「ひっど〜。元凶ってなに?」

「この状況をつくりだしているお前のことだよ」

 

 冷静にツッコミを入れたが、小晴は悪びれもなく「あはは」と笑った。

 遠慮なく毒を吐き合えるこの距離感だけは、四年以上の月日が流れても少しも変わっていない。周りの顔色を窺い、波風を立てないように「いい人」の仮面を被り続けてきた律にとって、気遣いも遠慮もいらない木ノ下小晴という存在は、昔も今も唯一の例外だった。

 

 しかし——。

 

 律は、さっきまで人生で初めての失恋に打ちのめされていた。それが家へ帰ってみれば、身体だけすっかり大人になった幼馴染と、卒業まで同じ家で暮らすことになっていた。

 理解も感情も追いつくはずがない。

 

「それって、小晴の両親は了承してるのか?」

「逆、逆。パパたちからお願いしたんだよ。律くんの家なら安心だからって」

「よく見ろ、これがうちの母さんだぞ? いいのか?」

「なによ」

 

 息子に指差され、紀子が不満そうに声を上げた。

 

 しかし律の言い分もその通りだ。今日の一件もそうだが、普段の天然具合を見るに、息子の信用スコアはかなり低い位置にある。息子だけならまだしも、他人の小晴をこの天然に巻き込むわけにはいかないのだ。

 

「親父だって仕事でほとんど家にいないし、ホストファミリーとしては下の下だぞ?」

「そんなことないよ」

「そんなことあるんだって」

「でも、パパたちは律くんがいるから大丈夫だって言ってたよ」

「え? 俺?」

 

 小晴は迷いなく「うん」と頷いた。

 

「私もそう思う。律くんなら絶対に変なことしないから」

「……信用が重いな」

 

 もちろんそんなことをするつもりもないが、さっきのようなハグが続くのであれば、一気に理性が本能に食われるかもしれない。正直、そこについてはなんの保証もできない。律の中の「宮本律」が暴走したら——もちろんそうはならないように善処すればいいだけなのだが、いつその理性の壁が決壊するかはわからない。

 

 すると小晴は律の耳元でささやく。

 

「……こっそり変なことしてもいいよ?」

「っーーー!? おい!」

 

 律は真っ赤になって身を引いた。

 

「ふふっ。冗談です〜」

 

 小晴は悪戯っぽく舌を出したが——いちいち可愛い。あざといとも言えなくないが、昔から小晴は、こういうあざといことを、無邪気に、無自覚にやるタイプなのだ。

 そこで紀子が「とにかく」と口を挟む。

 

「決まったことだから。いい、律? ちゃんと小晴ちゃんをサポートしてあげなさいよ」

「しゃーないにしても、先に相談くらいしてくれよ……」

「相談したら反対した?」

「いや……反対はしないけど」

 

 そう言って、律は小晴を見た。小晴は少し不安そうにこちらを見ている。

 家族が海外へ行き、一人だけ日本へ残る。再会してからずっと明るく振る舞っているが、本当のところは不安でたまらないのではないだろうか。

 

「まあ、小晴がうちでいいなら……」

「ほんと?」

「もう来てるんだし、今さら追い出せないだろ?」

「やった!」

 

 小晴の表情が一気に輝く。立ち上がると、また律へ抱きつこうとした。危うく母の前で醜態を晒すところだったが、律はすんでで小晴の両肩を押さえて止めた。

 

「ちょっと待て! ハグは禁止!」

「えー? もっかい!」

「さっきので一回分使い切った!」

「回数制だったの?」

「いや、課金制」

「ケチ! ——からのぉ〜、隙あり♪」

「ほあっ!? 抱きつくなぁーーーっ!」

 

 いよいよ律の腕を振り切った小晴は、律の胸へと飛び込んだ。

 そのやり取りを見ていた紀子は「あらら」と言いつつも、やけにニマニマしていた。

 




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