「顔60点、体100点」と評価されている幼馴染と同棲することになった俺。彼女は無防備なうえに甘やかしてくるので、毎日が刺激的すぎるんだが…! 作:白井ムク
よろしくお願いします。
——ややあって。
リビングで、紀子から聞かされた事情はこうだった。
小晴の父親が勤める会社の海外進出に伴い、両親揃って渡米することになった。
だが、高校二年生の小晴を、慣れない海外へ連れていくのは負担が大きい。小晴自身も日本に残りたいと言っている。そこで昔から家族ぐるみの付き合いがある宮本家に、卒業まで小晴を預けたいと頼んできたらしい——。
「——というわけで、今日から約一年半よろしくね♪」
リビングのソファに座った小晴が楽しそうに言った。
「一年半……」
「長い?」
「長いというか、急すぎて実感がない……」
「律くん。ちゃんと現実を受け容れて」
「どこぞの誰かが言ったカッコいいセリフを使うなよ、問題の元凶が……」
「ひっど〜。元凶ってなに?」
「この状況をつくりだしているお前のことだよ」
冷静にツッコミを入れたが、小晴は悪びれもなく「あはは」と笑った。
遠慮なく毒を吐き合えるこの距離感だけは、四年以上の月日が流れても少しも変わっていない。周りの顔色を窺い、波風を立てないように「いい人」の仮面を被り続けてきた律にとって、気遣いも遠慮もいらない木ノ下小晴という存在は、昔も今も唯一の例外だった。
しかし——。
律は、さっきまで人生で初めての失恋に打ちのめされていた。それが家へ帰ってみれば、身体だけすっかり大人になった幼馴染と、卒業まで同じ家で暮らすことになっていた。
理解も感情も追いつくはずがない。
「それって、小晴の両親は了承してるのか?」
「逆、逆。パパたちからお願いしたんだよ。律くんの家なら安心だからって」
「よく見ろ、これがうちの母さんだぞ? いいのか?」
「なによ」
息子に指差され、紀子が不満そうに声を上げた。
しかし律の言い分もその通りだ。今日の一件もそうだが、普段の天然具合を見るに、息子の信用スコアはかなり低い位置にある。息子だけならまだしも、他人の小晴をこの天然に巻き込むわけにはいかないのだ。
「親父だって仕事でほとんど家にいないし、ホストファミリーとしては下の下だぞ?」
「そんなことないよ」
「そんなことあるんだって」
「でも、パパたちは律くんがいるから大丈夫だって言ってたよ」
「え? 俺?」
小晴は迷いなく「うん」と頷いた。
「私もそう思う。律くんなら絶対に変なことしないから」
「……信用が重いな」
もちろんそんなことをするつもりもないが、さっきのようなハグが続くのであれば、一気に理性が本能に食われるかもしれない。正直、そこについてはなんの保証もできない。律の中の「宮本律」が暴走したら——もちろんそうはならないように善処すればいいだけなのだが、いつその理性の壁が決壊するかはわからない。
すると小晴は律の耳元でささやく。
「……こっそり変なことしてもいいよ?」
「っーーー!? おい!」
律は真っ赤になって身を引いた。
「ふふっ。冗談です〜」
小晴は悪戯っぽく舌を出したが——いちいち可愛い。あざといとも言えなくないが、昔から小晴は、こういうあざといことを、無邪気に、無自覚にやるタイプなのだ。
そこで紀子が「とにかく」と口を挟む。
「決まったことだから。いい、律? ちゃんと小晴ちゃんをサポートしてあげなさいよ」
「しゃーないにしても、先に相談くらいしてくれよ……」
「相談したら反対した?」
「いや……反対はしないけど」
そう言って、律は小晴を見た。小晴は少し不安そうにこちらを見ている。
家族が海外へ行き、一人だけ日本へ残る。再会してからずっと明るく振る舞っているが、本当のところは不安でたまらないのではないだろうか。
「まあ、小晴がうちでいいなら……」
「ほんと?」
「もう来てるんだし、今さら追い出せないだろ?」
「やった!」
小晴の表情が一気に輝く。立ち上がると、また律へ抱きつこうとした。危うく母の前で醜態を晒すところだったが、律はすんでで小晴の両肩を押さえて止めた。
「ちょっと待て! ハグは禁止!」
「えー? もっかい!」
「さっきので一回分使い切った!」
「回数制だったの?」
「いや、課金制」
「ケチ! ——からのぉ〜、隙あり♪」
「ほあっ!? 抱きつくなぁーーーっ!」
いよいよ律の腕を振り切った小晴は、律の胸へと飛び込んだ。
そのやり取りを見ていた紀子は「あらら」と言いつつも、やけにニマニマしていた。
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