カードゲーム初心者お嬢様のカードに転生したっぽい 作:とーしん
「そうだ。勝った方は負けた方に一つだけ、お願いを聞いてもらうのはどうでしょう?」
全て隠すような暗い路地裏に、場違いに上品そうな金髪の少女と、大学生ぐらいの青年が向き合って立つ。
試合を始める直前にいきなりそんな事を言う少女、サチエ・宝条・スカーレットは、とてもではないが、今からカードゲームをする人間の眼をしていなかった。
少女の宝石のような紅い眼は、何かを燃やしている人間の眼だった。
自分の中にある執念のような煮えたぎった激情を、静かに焚き火を見るように客観視しているような、情熱と冷静の同居。
普通にカードゲームをやろうと言ってする眼でもなければ、そもそも路地裏でカードゲームをしようというのも、普通の事では無いかもしれない。
「いいよ。その条件も、このゲームも受ける。けど、強いぜ? 俺」
「ふふっ、この辺りのみんなも言ってたよ。そしてみんな弱かった。今回はどうでしょうか?」
昔の自分と同じだと、今は灰のような青年は思った。
紙道ユウジという青年は、ずっと瞳に灰を灯している。
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「で、その子にユウくんが勝ったんだ」
「ああ、勝った。サチエちゃんって言うらしい」
「負け犬のサチエ・宝条・カラーレッドですこんにちは本日はお日柄も良く……」
「えっとサチエちゃん?誰もそこまでは言ってないよ……?」
神土市、カードショップmeet神土店に、水に濡れたチワワのように情けない声がひびいた。
苛烈な炎を秘めた少女の姿はなく、今はただただ落ち込んでいる。
涼しいエアコンの風と共に、店員用のエプロンを身につけ現れた赤毛のショートカットの少女、新音恋々が覗きこむように2人を見た。
「ユウくん、この子が例の辻ファイターなんだよね? 路地裏の治安悪〜いダーティーファイターを狩まくってるっていう。強かった?」
「いや、そんなに」
「うっ」
「自分のカードの効果はちゃんと理解できてるしルールミスも無かった。けどリーサルプランの選定も見極めもできてなかったし見たことないカードも多そうだったし…………自分のカードはしっかり覚えてるんだろうけど実戦経験が足りてないね」
「うっ」
「でもダーティーファイター狩まくってるんだよね? それで実戦経験足りないとかある?」
「……それもそうだな。なんか負けた要因とかある?」
突飛に質問してくるユウジに驚きつつも、サチエは負けた試合の事を思い出す。
とても忌々しそうな顔をするものだから、少女を見ている2人は苦笑が漏れていた。
「う〜……あのカード、効果でモンスターを出せなくなるってカード! あれをよ〜し今からたくさん出すぞ〜! ってタイミングで使われて……」
「あーユウくんまた展開メタいれてる〜!」
「しょうがないだろ恋々が展開してくるんだから」
「うぅ……ズタボロに言われた後に目の前でいちゃつかれてる……」
恋々は暑さで溶けたチーズにすら見えた少女を励ますように、ショップの中に置いてある自販機からオレンジジュースを1つ買い、少女の目の前に置いた。
「まあまあこの人だって無敗では無いからさ、いつかリベンジしなよリベンジ、アタシこいつの弱点教えてあげよっか? 見ての通り仲がいいからね───」
恋々はどこか上機嫌だった。
「……オレンジかぁ。コーラとかがよかった」
「生意気な……!」
恋々は少し不機嫌になった。
「………サチエちゃんはいつからメイトやってるんだ?」
「えっと……確か3週間くらい前から」
「ずっと路地裏で?」
「えぇ、そこでやってるのは知ってましたので……」
「えー珍しい。むしろ路地裏ファイトはあんま知られてない方だよ? 昔からやってる私もつい最近知ったくらいなんだから」
「……3週間か」
「……ユウくん? どしたの?」
サチエと恋々がユウジの顔を覗き込むように見ている。
ユウジの顔は真剣そのものだった。
それはサチエから見れば、つい先ほどのファイト中に見せた勝負に真剣な時の顔そのままの、考え込んでいる顔だった。
恋々から見れば、新しいカードを使った時に、そのカードをデッキに入れてる理由は使い方を聞いたりしてきた時に見せる顔だった。
「なあサチエちゃん、弟子になる気はないか?」
真剣な顔のまま、突飛にユウジはそう告げた。
「「弟子」」
「うん、俺の弟子。もちろん嫌な───」
「よろしくお願いします!!!」
「えっ即答!?!?」
「思い立ったら吉日、リベンジだって早くしたいので!」
少女は笑顔でそう言い放った。
ひとりとひとりと一枚の因縁が、始まった瞬間だった。
その天使はあらゆる物を自ら作る、変わり者
───機械天使具バルムンク