カードゲーム初心者お嬢様のカードに転生したっぽい 作:とーしん
「で? どうして?」
meetの近くにある住宅街。
ユウジと恋々は家が近所で、幼馴染で、この道を歩いたことは、何度でもあった。
2人のうちどらかが、何かを聞きたいときは決まってこの道だった。
少し、帰り道の、中にある、橙色の寄り道。
「……どうしてって、何のことだ?」
「あの子にメイト教える理由」
ひっそりとした道は秘密にぴったりの静けさと、話にぴったりの環境音が囀りのように流れていた。
「……あの子と路地裏でファイトしたって言ったよな。つまり
「やっぱそうなんだ。まあユウくんが勝ったなら大丈夫だったんだろうとは思ったんだけどさ」
「……まあバレてるよな。最近はファイトテーブルとか使ってファイトしないし」
メイト、それはこの世界で広まっているカードゲーム。
異世界のモンスターと契約し戦うホビー業界を躍進しているコンテンツ。
現実で対面してカードゲームを遊ぶ文化も残りつつも、現在では電子空間での対戦が主流となっている。
「あの子はたぶんモンスターを無意識に従えてるから、リチュアルに近い事ができたんだと思う。あの子はまず、そこをはっきりさせてから、メイトに関わらないと」
紙道ユウジはサチエと初めて会った日を思い出した。
日陰の路地裏でガラの悪いダーティーファイターに絡まれながら、大きな薄瑠璃の日傘をさしていた金糸のような髪の少女の、ファイター達をまっすぐ睨んでいた、陽射し以上にのあかね色の眼差し。
見覚えのある眼に似て見えた、その紅い瞳に。
─────────────────────────
その日は全てを焼くような晴れだった。
こんな皮膚が痛くなりそうな熱い日に少女を呼んでしまった事を、紙道ユウジはほんの少し後悔している。
「……暑すぎる。カードショップまで歩くのがこんなに辛いのは……少し……‥まずかったか……」
───マスターが話し合って決めたんだからしょうがないんじゃないか?
「いや……それはそう……おっしゃる通りで……」
───ならいいじゃん、オレァ快適だぜ! カードだからあんま熱くないし! ……いや、ちょっと湿っぽい気がしてイヤかも……。
「だろ……? ペンドラも夏いやだろ……?」
───夏イヤかも……。
ユウジの事情を知らぬ者が見れば、なんか独り言ばっか言って怖い……なんて言うかもしれない。
ユウジの事情を知った者が見れば、あいつまたくだらない事を話してる……と思うかもしれない。
どちらにしろ2人は性格的に相性が良く、話が弾む時は叩きつけた風船くらい弾むコンビだった。
「……ペンドラ王さまはどう思う? サチエさんの事」
───正直分からなねえ。あんなにモンスターの気配が強いんだ。オレみたいな何かが憑いてるんだろうが……オレには、ファイト中に戦ってる時すらデッキの中のどのカードが憑いてるのか分かんなかった。
「……王様にすらわからないんだ」
日差しは変わらず真上から降り注ぐ中、コンクリート張りの道をユウジは歩く。まるで進んでいないような、ずっと似た景色を歩いている。
ユウジには、まだサチエが読めなかった。
自分のようにモンスターと契約している人間なのかもしれない。
悪いモンスターに憑かれた被害者なのかもしれない。
モンスターを自分の私欲の為に使う人間なのかも知れない。
「……すぐ分かるといいんだが」
カードのテキストみたいに簡単に読めたらいいのに、とユウジは重い息を吐いた。
───ユウジ、王サマアドバイスだぜ。
「……何それ?」
───お前、アイツ……サチエだっけ? サチエが悪いやつだったらイヤだな〜ッて思ってるんだろ? 顔と心に出てるぜ!
「…………わかりやすい?」
───わかりやすい! 恋々ちゃんもたぶんすぐ分かっちまうぜ。
「……ちょっとはずいか」
───大丈夫だ! サチエちゃんはたぶん大丈夫!
「……なんで大丈夫なんだよ」
────オレのマスターが見込んだファイターだからな! あいつの真っ直ぐな眼を気に入ってんだろ? なら大丈夫だ! 何があっても、マスターとこのオレ、ペンドラゴンサマがついてるからな! ……今のはついてると憑いてるをかけたわけじゃないぞ!
「──────」
自信満々といった声色のイメージが頭に響いた。さながら鼻を吹かしてふんぞり帰ったドラゴンのようだった。
「……気に入ってる。そうだな、あの真っ直ぐな眼は、いいファイターの持ってる眼だ」
ふと前を向くと、ゆらめく陽炎の先に、カードショップmeet営業中! と大きな文字で書かれている。
目的地が見えたからか、とたんに暑さで軋んだような身体が、楽になった、気がした。
「……ありがとう王様、ちょっと楽になった気がする」
───おう! マスターとメイトは一心同体だからな……ムッ、あれじゃね? サチエ?
「……ん? 居る?」
───ホラ、あのでっけー黒ーい棒みたいな車!
2人の視線の先、この店にこんなでかい駐車場要るの? と揶揄されているmeetの駐車場にこの為だけに存在したように広さをフル活用できるような、黒く長い車の中から、日傘をさした金髪の少女が現れた。
少女は運転手に手を振った後に、meetの入口に向かい悠々と歩き出し───その途中で、遠くに居るユウジに気づいて、軽く手を振った後、meetの中に入っていった。
──────いいなーあの車、マスター、俺たちもアレ使おうぜ! なんか涼しそうだしデカいぜ!
「……一生エアコンで涼めなくなるくらいお金かかるかもよ」
──────なにッ!? オレのへそくりで足りるかな……
サチエさん、本当にお嬢様なんだな……。なんて実感を持ちながら、ユウジはmeetへ歩き続ける。
ユウジにはあと数百メートルの距離が、陽炎のせいか、酷く遠くに見えた。
「おおさまシロクロ!おれたちとおなじ!おおさまともだち!」───竜鳥騎士盾兵ペンギシールド