カードゲーム初心者お嬢様のカードに転生したっぽい 作:とーしん
カードショップmeetは現在貸切中で、中には3人しか居ない。
よって少し騒がしくてもいいものだから、平時よりも1.1割増しで恋々のテンションが高くなっている。
「というわけで第一回! サチエちゃん修行DAYを開催いたしま〜す! いぇ〜〜い! 人居な〜い! 広〜〜い! 店長ありがとう〜」
「わーい。店長さんありがとうございます〜」
奥で商品在庫を整理している店長さんは無言で拳を突き上げていた。
筋骨隆々な大人は子供の青春の邪魔をしない───クールに在庫整理に戻り、大量の在庫を1人で捌かなければならない事実に1人泣いていた。
かわいい姪っ子恋々の為に涙を堪えた。
「無理に合わせなくていいからね幸恵さん」
「え? 結構たのしみですよ?」
「……幸恵さんがいいなら……まあ……」
別に表情を偽ってるようにも見えないし楽しんでるならそれでよし、と考える事にしたユウジは、今後幸恵にダル絡みしないよう恋々に牽制をしていく事を決めた。
「とりあえずデッキを組み直してきました、今度こそ、リベンジいたします」
「リベンジ、受けて立つよ。俺は来る者拒まず誰の挑戦も受ける。恋々は審判頼むよ」
「はいはーい! 任された任された」
幸恵とユウジはテーブル越しに向かい合うって椅子座り、恋々は隣のテーブルから椅子を借り横に座った。
この店のテーブルにはメイト用のプレイマットが印刷されており、専用のマットが書かれていなくても直接カードを置いてゲームを遊ぶ事ができた。
幸恵とユウジはお互いのデッキをシャッフルし、デッキゾーンに置き、カード5枚引いた。
1度だけ好きな枚数、引いたカードを戻して引き直しができるが、お互いに引き直しをしない。
お互いの手札が万全なのを察して、恋々が今から始まるファイトを心待ちにし、笑みが溢れる。
「じゃあ始めようか」
「ええ、よろしくお願い致します」
「「エンゲージ、let's……fight」」
定められた試合開始の掛け声と共に、闘いの幕は、ここに切られた。
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流れ。というかものがある。
ある種のテンプレートと言ってもいい。
挨拶をしたら挨拶を返すように。
暗闇に陽が登ったら世界が朝になるように。
ある行動をしたら、あるカードを出す。そんな『流れ』が、メイトというカードゲームにもあった。
幸恵に足りないと指摘された知識でもあり、それは相手が何をしてくるのか、という事を理解しなければ分からない事だった。
今回の練習は、それを分かってもらう為にユウジが提案したものだった。
「『機界天長ツキュリエル』でプレイヤーにアタック! アタック時に効果を使い、手札から『機械天使具バルムンク』を装備! 攻撃力を上昇させます!」
「ガードタイミングに手札から『
「攻撃力上昇に反応するカード……持っていたのですね」
「攻撃力を上げてアタックしてくるのは分かってたからね。序盤からドローするカードを使い続けて探していたのはこのカードだよ」
「……なるほど、ターンを終了します」
デッキが割れているなら、無理に対策しなくてもカードの切り方1つで致命傷を避けられる。そんなプレイングを見せる機会をユウジは探っている。
これからもメイトに関わる。関わらなければいけないなら、きっと覚えておいて損はない。そう考えながら、ユウジは自らの組み上げたデッキの1番上のカードに手を添え、引いた。
「俺のターン。ドローフェイズ、ドロー、チャージフェイズ、デッキの1番上をエネルギーゾーンに、メインフェイズ……エンゲージ」
一瞬の逡巡の後に、ユウジは手札の中に眠る一枚のカードに手をかける。
そのカードを手に取った瞬間から、ユウジの気配が微かに変わったのを幸恵は感じ取った。
先日戦った路地裏のファイターには無かったような、微かな、けれど確かな、圧迫感。
ある種の迫力のようなものを纏いながら、彼はエンゲージと宣言した。
エンゲージ、それはプレイヤーの相棒の証であり、共に戦うという意思表示の元、プレイヤー自らに憑依させる行い。
サチエにとっての機界天社長ツキュリエルであり、デッキの中核を為すカードを示す宣言。
簡単に言えば───切り札。
「その龍は朝を宿し、夜に輝く。消えぬ陽光を剣とする! 『竜鳥騎士王アサ・ペンドラ』!」
一枚のカードが盤面に降臨する。
それは鎧を着た巨大な竜であり、極北の竜と鳥の騎士の国、そこに君臨する王。
ユウジが相棒のように信頼を寄せるカードには、それが描かれている。
「……来ましたね、前回のリベンジをさせていただきましてよ」
「……ここから逆転? それは───楽しみだ。ペンドラでアタック!」
「───これが、逆転の一手ですわ!」
この瞬間の為にずっと潜めていた手札の一枚を、幸恵は盤面に出す。
「『ペンドラ』の攻撃に合わせて、『地宙宇下』のカードを使用しますわ!」
「……それは!」
「ええ! このカードはお互いのモンスター全ての攻撃力をこのターンの間0にして、全ての効果を無効にしますわ!」
ユウジが驚きを隠しきれずに居る間にも、幸恵は得意気にカードテキストを説明する。
「これならペンドラの破壊に対する耐性も関係ありませんもの! このターンの間はペンドラの攻撃で負ける事はありません!」
「…… 『このモンスターが破壊された時、手札を2枚捨てる事で墓地から登場する事ができる』、サチエさんにはこの前見せてたね。そして攻撃力が0同士のモンスターではバトルによる破壊も起こらない」
「ええ、これでわたくしはこのターン負けない、次のターンで!」
「じゃあ『鳥竜騎士隊長ランスペンギン』を召喚。こいつは『地宙宇下』を使用した後に出たから効果を受けてないよ。速攻効果を持ってるからそのまま幸恵さんにアタック。俺の勝ちだね」
「えっ──!? な、なぜ!? このターンはモンスターの攻撃力が0になるのでは!?」
「『地宙宇下』は使った瞬間にフィールドに居るモンスターにしかカードが無いんだよ……わかるよ幸恵ちゃん、恋々は分かる。最初は難しいよね……」
「そんな……このカードではダメだったのでしょうか……?」
「いやでも、今回はうまく行かなかっただけで、しっかり自分で考えて対策になりそうなカードを入れて来たのは凄いよ幸恵さん」
「……ですが、それは初心者にしては良くできてる……という意味では?」
幸恵が眼を横に逸らしながら呟いた。
せっかく切り札の対策に入れたカードがまるで効いてないような対応をされ、不満そうな声色になっているようだった。
それは勝てなくて拗ねた子供のような言葉だったから、申し訳無く思いながらも、ユウジは少し苦笑した。
「ごめんね。でもすごかったって思ったのは本当なんだ。だってまだ初めたての初心者が、自分でカード調べてああでもない、こうでもないってデッキを作ってぶつけてくれて……嬉しいんだよ」
「……嬉しい、のですか? 対策されたのが?」
「あー、うーん……対策自体がと言うか……カードゲームってあーでもないこうでも無いって工夫するのが楽しいなって思った……? っていうのか……?」
唸りながら手探りで言葉を紡いでいるユウジ。
ユウジ自身も考えを正確に表す事が難しいのか、最後まで納得していないようだった。
「……まあとにかく、せっかく一緒に遊んでるんだからお互いに楽しくファイトしたい……みたいな……? ……‥ちょっと違う気もするけど」
「なんだか、難しいことを聞いてしまったみたいですね」
「いいよ師匠なんだし、一応。なんか他にも聴きたいことあったら俺と恋々に聴きなよ」
「そうそう! ユウジ師匠より分かりやすい説明を求めるならアタシを頼っていいからね」
「……えぇ、ちょうどさっきの効果やプレイングで検討したい部分があるのですがよろしくて?」
そよ風のような笑みを浮かべながら、サチエはカードを手に取った。
応えるように、ユウジと恋々もカードを手に取り、微笑んだ。
「もちろん、どっからいく?」
「そうですね、では───」
ユウジとサチエは人はカードを広げ、ふたたび盤面を作り始めた。
広げた盤面にサチエが質問して、それにユウジと恋々が応えて。
たまに意見が食い違って、どっちが良いか議論してまたファイトして、そんな時間が、夕方まで続いた。
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「ではわたくしはじぃやが迎えにくるので、ここでお暇しますね」
「あ、店前に来てた黒くてでっかい車? あれやっぱりサチエちゃんだったんだ!」
「あれ凄かったなー……」
店の前で3人は、まさに今帰ろうとしていた。
気づけば茜色の赤い空で夏の日に茜色になっているというのは、夕方なんて過ぎているという事で、ふと気を抜くと直ぐに夜空と星が顔を出してしまう。
「ごめんねサチエさん、遅くにまで突き合わせちゃって」
「いえ、わたくしも大変勉強になりました。次こそ、リベンジさせていただきますよ!」
「……あぁ、受けて立つよ!」
「じゃあねサチエちゃん! わたし達こっちだから! ばいばーい!」
「気をつけてねサチエさん」
「はい! ごきげんよう」
「ごきげんよう〜! ……ねえユウくん、今めちゃくちゃホンモノのごきげんようって感じじゃなかった? あたしも今日からご機嫌よう使っていこうかな……?」
「たぶんご機嫌ようを発動したって恋々のフィールドには気品は出ないよ」
「はーんまずはデッキに入れるとこからって言いたいんだ……」
「……お2人ってもしかしていつも言い合ってるの…………?」
遊司と恋々を見送って、幸恵は反対方向の駐車場の方へ踵を返し歩き出した。
駐車場には幸恵が来る時に乗っていた黒い車があり、その運転席には1人の白髪混じりの男性が黒いスーツを着て座っていた。
幸恵がドアの前に立ってからすぐ、運転席の窓が開いた。
傾いてきた陽光は、建物に当たり影を生み、2人を包んで、顔が見辛くなっていた。
「じいやさん、ありがとうございます。今日はちょっと気になる場所があったので、そちらに行ってから帰ろうと思います」
「……承知しました。しかしどうか危険な事をなさらぬように、それはあなたの本意でも無いはず」
暗い世界で顔はよく見えない中で、割れた皿を扱うような慎重な声が幸恵に届く。
「ええ、分かってます」
何でも無いように笑って幸恵は手を振り、黒い車から離れていく。
向かう先は薄暗い路地、先も見えない、夜に閉ざされた闇の中
無いから欲する、手に入れる為に創る─── 機界天長ツキュリエル