もう一つの豹王譚   作:覇者

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 アニメ千年血戦編のアニメを観て、堪らず書いてしまいました。


新しい自分

 

 

 ──【虚圏(ウェコムンド)】。

 

 

 其処は、果てしなく続く白い砂漠に石英のような物質で出来ている枯れ木が生え、年中夜の闇に包まれる虚(ホロウ)達の住まう世界。夜空に浮かぶ月は、【現世】とは反転して見えている。

 地下には【メノスの森】と呼ばれる空間が広がっており、そこに大虚(メノス)の最下級─下級大虚(ギリアン)以下の虚(ホロウ)達が住んでいる。そして上に広がる白い砂漠には、主に中級大虚(アジューカス)以上の虚(ホロウ)達が暮らしている。

 

 〘虚(ホロウ)〙とは、簡単に言えば生前生きていた人間の霊体が、堕ちて悪霊となった存在である。虚(ホロウ)は共通して心が欠落し、その孔を埋める為に人間の魂を求めて食い殺す。しかし、稀にその魂への飢えが極端に強い個体が現れ、それらは自然と集まって互いに食い合いを始める。

 そうしている内に、魂が溶け合って一つになった結果、莫大な霊力を持つ巨大で愚鈍な〘下級大虚(ギリアン)〙になり、そこで大半の虚(ホロウ)は自我を失う。

 だが、食い合いの中に居たたった一体の自我や能力が他と隔絶していた場合、自我を失わない者が現れ、その者は更に他の下級大虚(ギリアン)を食らって進化を続け、やがてその名を〘中級大虚(アジューカス)〙と変える。

 そこから更に虚を食らい続け、力をつけていくとやがて二つのパターンに別れる。一つは大半の中級大虚(アジューカス)が辿る道であり、虚(ホロウ)を食べても力が増大しなくなる。つまりは成長限界を迎えるという事だ。

 そしてもう一つは、更に上の存在である〘最上級大虚(ヴァストローデ)〙に進化するパターンだ。この最上級大虚(ヴァストローデ)は、虚圏(ウェコムンド)の中でも数えられるほどしか存在しない、純粋な虚の頂点である。

 

「──???何だこの姿は……?どうなってやがる?」

 

 そんな大虚(メノス)の階級の一つ、中級大虚(アジューカス)の四足獣─豹型の虚(ホロウ)の名は、グリムジョー・ジャガージャック。だがその中身は、ついさっきまで高校生活を満喫するBLEACH愛読者の人間の男である。

 故に暫く混乱の中にあったが、少し時間を掛けて周囲を見回りつつ冷静に思考した事で、少しずつ現状を理解していった。

 まず、この体に下級大虚(ギリアン)だった頃の記憶は微かにあるが、殆どないと言っていい。これは下級大虚(ギリアン)故の知性の低さが原因で忘れたのだろう。ハッキリ覚えていたのは己の名前くらいだ。つまり、この体が中級大虚(アジューカス)になって自我が確立したのをきっかけに、意識が目覚めたという事だ。

 次に前世の記憶だが、ここで意識を確立する寸前に前世の自分が何をしていたのかが、思い出せない。

 

「……いや、これは別に覚えてなくてもいいな。この現象の原理は分からねェが、これが俗に言う憑依転生ってやつだろ。この体になった以上は、この体でこれからを生きて行く!それだけの事だ…!!」

 

 幸いなのは、前世で読んでいたBLEACHの内容は覚えている。それで充分だと考えた転生者の彼─グリムジョーは、早速これからどうするかを考え始める。

 ──取り敢えず、自我が消えるのだけは絶対に御免だ。他の連中を食らって力を付けていくのは当然として、目標も欲しいな……。

 

 中級大虚(アジューカス)は、他の虚を食らって進化を続けないと下級大虚(ギリアン)に退化し、百パーセントの確立で自家を失う。それだけは避けなければならないので、他の虚(ホロウ)を食らうのは確定事項。

 その上で、明確な目標をグリムジョーは欲していた。

 

「……っし、決めたぜ!真似っこなんざ御免だからなァッ!!…力でも立場でも、原作のグリムジョーを超えてやる!!それが──俺がこの世界で生きた証だァ!!!!」

 

 少しの間考え込んだグリムジョーは、己が決めた目標─否、野望を叫ぶ。それはまるで新たに生まれた強者の産声の如く、虚圏(ウェコムンド)の夜空に木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリムジョーが新たなる生の産声を上げ、歩み出してから数分。早速出会ったと言うべきか、将又グリムジョーの声を聞いて来たのか。

 どちらにしても、現在グリムジョーは初めて他の虚と遭遇していた。

 

「おいおい!こんなチビがこの虚圏に居たのかよ?よく生き残れたなァ!オイッ!!」

 

 標準的な現世の四足獣と変わらない身体の大きさなグリムジョーは、見下すような姿勢と口調で喋る百足型の中級大虚(アジューカス)を見上げて睨みつける。体躯の差から姿勢が見下す形になるのは仕方ないが、口調もそうだと流す事はしなかった。

 

「……チッ、ムシケラが吠えてんじゃねぇよ」

 

 静かに言い返しつつ、グリムジョーは相手から感じ取れる霊圧からして自分より格上であることを内心察知して、冷や汗を流す。

 しかし、グリムジョーはこうも思う。

 ──中級大虚(アジューカス)になったばっかの自分にとっちゃあ、大半の奴らが格上なのは当然。相手が強かろうが、勝ち続けられなきゃ生き残れねぇ。なら、勝てばいい!─と。

 

 そうして自分を納得させたグリムジョーは、真っ白な牙を剥いて駆け出した。

 

「カスが調子に乗ってんじゃねぇよ!!──俺がムシケラなら、テメェはゴミカスだろうがァァッ!!!」

 

 グリムジョーのセリフと好戦的な姿勢に激昂した百足は、正面から噛みつきに行ったグリムジョーの突進を右に躱す。

 その動きを目で追ったグリムジョーが着いて行こうと止まった一瞬の内に、長い胴体で包囲した百足は逃げ場を失くした後で、鋭い甲殻で覆われた無数の足で突き刺そうとする。

 

「──ッ!!」

 

 ──囲まれた!?上に避けるしかねぇ!!

 

 無数に風穴を開けられる為、上に跳んで回避するグリムジョー。一本の脚が刺さりはせずとも、深く肉を抉り取るが無理矢理に回避行動を取った。しかし、それこそが相手の狙いであり、罠へとまんまと引っ掛かってしまった。

 

「──バカが!引っ掛かったなチビィッ!!」

 

「しまっ──グァッ!!!」

 

 長身な百足の頭が鎌首を持ち上げ、グリムジョーの後頭部から首筋を狙って噛みつきにいく。現世の百足には毒顎が存在し、この百足型にもそれはあった。

 その毒顎を用いて相手に突き刺し、そのまま食えればそれで良し。それが出来なくても掠りさえすれば毒が入って、時間と共に弱体化させられる。これまでの戦いに勝ってきた百足にとって、このパターンこそが必勝の型となっていた。

 これだけを見れば上に跳んだのはグリムジョーの失策に見えるだろう。だがそれは誤りであり、上に避けなければ全身に刺し傷。良くて重傷、悪くてそのまま死んでいた可能性も充分にあり得たのだ。

 迫る百足の毒顎に焦ったグリムジョーは、ギリギリのところで身体を捻って毒顎を躱したが、掠った際に毒が入り込んでしまった。

 

「……ッ!!」

 

「チッ、惜しかったな。だが、毒は打ち込んだ!俺の有利は動かねぇ!!」

 

 血を流しながら弧を描いて着地したグリムジョーは、二つの傷を“超速再生”で治しながら即効で効き始めた毒に顔を歪める。

 それを見た百足は、仕留め損なった事に舌打ちしつつも毒を打ち込めた事で優位に立てた為、更に余裕を顕にする。

 

「フン!こんなチンケな毒で、もう勝った気になってんじゃねぇよ……!!三下ァ!!!」

 

「減らず口を──叩くなァ!!」

 

 余裕を見せる百足に、鼻を鳴らして挑発するグリムジョー。安い挑発だが即効で乗った百足が、今度は自分から攻めかかる。

 突進から再び毒顎で噛みつかんとする百足を、ヒラリと右に回避したグリムジョーにもう一度包囲しようと蜷局を巻きに掛かった。

 しかし今度は、迷わず回避に動いたグリムジョーによって、包囲する前に右に回避される。体の大きさから力はまだ百足の方が上だが、速度は小柄で小回りが出来る自分の方が上。それに気付いたグリムジョーが、何度も展開される包囲網を包囲される前の穴を見つけて最短で抜け出していく展開となった。

 それだけが続くなら、時間が経って毒が回ると不利になる。それが分かっているグリムジョーは、左右の前脚の爪を振るって攻撃を加えていく。百足の表面を覆う甲殻は硬く、一撃目では傷一つ入らなかった。

 

「──ッ!」

 

「……さっきからちょこまかと!!毒を打たれた挙句、攻撃は俺の甲殻を壊せねぇ!いい加減諦めて、大人しく食われやがれェ!!」

 

 ずっと動き回っていれば、その分毒は体を回っていく。元々グリムジョーは野生の適応力と言うべきものがあり、この程度の毒ならそれほど時間を置かずに耐性が出来るだろう。とはいえ、それまでは毒は効力を発揮し続ける。

 今も毒の効果で一瞬足元がふらついた。それを目敏く見つけた百足がチャンスだと思い、真正面から直線的な動きで一気に食らいつきにかかる。

 

「──ガルァッ!!!」

 

「ギャアアァァァァァ──ッ!!!」

 

 しかし食われたのは、グリムジョーではなく百足の方。接近してきた百足の口を紙一重で完全に見切って躱した後、脚の根本に喰らいついたのだ。 

 かなり深く肉を食い千切られた百足は、絶叫しながらのたうち回った。

 

「なっ……何でだ!?お前の攻撃じゃぁ、俺の体は傷つかない筈だ!!」

 

 数秒で落ち着いた百足が今度は困惑した。先程からグリムジョーの攻撃を受けても傷つかないのは、実証済みだ。なのに何故傷付いたのかと混乱する百足に、肉を呑み込んだグリムジョーが静かに口を開く。

 

「──テメェが硬ェのは、最初の一撃でよく分かった!だから、体の三箇所に狙いを絞って攻撃を集中させてから、自慢の甲殻を砕いただけだ!!」

 

「──なっ!?」

 

 グリムジョーのやった事を要約するなら、一撃目で硬い甲殻を破るのが困難だと察し、同じ場所に何度も攻撃して耐久力を削いでいく。それを悟られないように、そして攻撃の的を増やす為に、敢えて複数ヵ所に分けて行っていたのだ。

 案の定、その事に微塵も気付かなかった百足は、目に見えて狼狽し始めた。それも当然で、一部でも同族である虚に体を食われたものはそこで完全に進化を止める。たった今そうなってしまった百足がそうなってしまうのは至極当たり前だろう。

 それから、先にグリムジョーが噛みつかれそうになった時に焦っていたのもこれが理由だ。あの時は、毒顎が掠っただけで肉を食い千切られる事がなかったから良かったが、最悪そこで進化が終わっていた可能性もある。

 その点で言えば、あの時は本当に危なかったのだ。

 

 

「今度は全身食い尽くしてやる…!!一片も残さずなァ──!!!」

 

「──ヒイィッ!!」

 

 グリムジョーの気迫に慄いた百足が後退りする。元々小物みたいなセリフを吐いていた百足は、本性から小物だったらしい。遂には背を向けて、脱兎の如く逃げ出した。 

 

 

「ヒィアァァアァァァッ!!!」

 

「逃さねェよッ!!」

 

 

 当然逃がす気のないグリムジョーがその後を追い、脆くしていた全ての脚に噛みつき、切り裂き、逃げ足を奪っていく。

 

「ギャアァッ!!──くそっ、こうなったら!!」

 

 このままでは逃げ切れないと判断した百足は、逃げ腰から反転。殺られる前に殺ろうと考え、攻撃に夢中なグリムジョーの背中側から噛みつきに掛かる。

 

「バカが……!!」

 

 生き残る事のみを考えた百足の攻撃は直線的であり、グリムジョーにとって躱すのは容易いが、完全に見切ったその攻撃にチャンスを感じたグリムジョーは躱さなかった。

 寧ろその逆で開いた口の下顎に食らいつき、下顎から喉にかけてを引き千切った。

 

 

「──ッ!!!…………」

 

 

 声帯まで食い千切られた事で声も上げられず、倒れ伏す百足。口の中なら柔らかいが故に、致命傷を与えられると考えていたグリムジョーの狙いは当たっており、大きな傷を負わせたのだ。

 それだけでは斬られた脚を再生出来る為、まだ逃げられる可能性がある。それを防ぐ為、グリムジョーは続けて口側から右前脚を突っ込み、頭鋭い爪を突き刺しトドメを刺す。

 

「──ッ!!」

 

 

 ───今の俺の力じゃ、こんなモンか…。まだまだ力をつけねェとな…!!

 最後に大きくビクンッ!と、体を痙攣させた後ピクリとも動かなくなり、息絶えた。グリムジョーはその後、突き刺していた右前脚を引き抜き、血だらけの右前脚を見詰めて内心独り言ちる。

 その言葉は現時点での自分の実力分析で、まだまだこれからだと前を見据え、まずは初めて仕留めた獲物を食らう為、百足の死体に噛みついた。

 そうして一欠片も残さず平らげたグリムジョーは、本格的に力を付ける為に旅立っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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