王は進む
地を這いずり 泥を啜り
屈辱知りて尚
野心を抱いて 玉座を望む
グリムジョーが中級大虚になって初めての戦闘から数十年、或いは数百年の月日が流れた。虚圏には朝も昼も無く、永遠に続く夜があるだけだ。
そんな場所ではまともに時間を測る事も出来ない為、グリムジョーもすぐに諦めた。結果、転生してどれくらいの時間が経ったのか、全く分からない。
しかし、数え切れない虚との戦いの果てに最上級大虚に進化出来た事から、数百年くらいが経っているだろうとグリムジョーは思っている。
因みに原作では、中級大虚の時にシャウロン達と出会っているが、今では出会っていない上に恐らく原作よりも格段に早く最上級大虚になっている。これは、憑依転生をした結果、原作とは違う動きをしているからとしか考えられない。
特に力に関しては、一時期何かに取り憑かれたかのように虚達に戦いを挑み挑まれ、その尽くを食らい尽くして己の血肉に変えてきた。その原因としては、今のグリムジョーが人間としての自我を持つ男な為、退化し自我を失う事への恐怖が他の一般的な中級大虚と比べて特に強かった事だ。
グリムジョーになった事で人格が混ざり合ったとはいえ、どんな存在でも自我や記憶が消えるのは怖いだろう。それがハッキリしているなら尚更だ。
──原作でも藍染が言ってたからな。進化には、今すぐにでも退化して消え失せる恐怖が必要。俺もそれが原因だろう。
最上級大虚になった事で、人型で二足歩行となっている。但し身体のサイズは元々小柄だった為、そこまで変化はない。
容姿は顔は人間ぽくなったが、身体は中級大虚だった頃の姿を直立にして多少人間に寄せた様になっていた。
「これで取り敢えず退化する事もなくなったしなァ…」
最上級大虚まで進化すると、退化する事はなくなる。故に自我消失の恐怖からも解放されている為、今までの張り詰めた緊張状態から肩の力が抜けたグリムジョーは、極度のリラックス状態にあった。今までの状態が張り詰め過ぎていたからこその落差によって、気が抜けて過ぎていた。それに加えて最上級大虚に至ったという事実から、今の虚圏に己の敵になる存在はそうそう居ない事もあった。
それ故に、虚圏の何処かには自分より強い者がいるかもしれない。そんな当たり前の事を忘れてしまっていた。
だからこの出会いは、正に間が悪かったと言わざるを得ない。
「──お前、最上級大虚だよな?」
「ん?……ッ!テメェは!」
その日グリムジョーの前に現れた者は、人より一回り大きな体躯に、全身が体毛で覆われているが人の形をしており、何より顔の仮面が割れて人の顔らしき物が見えている。ハリベルの過去編で出てきた破面と同じ様な段階の者だ。元は、ゴリラの中級大虚だったと思われる。
そのゴリラに問われた事で振り返ったグリムジョーは、前世の記憶にそれと該当する種族が居る事に気が付き、顔に焦燥の表情を浮かべる。
──マジかよ。見るからに成体じゃねェが、破面だな。仮面が中途半端に剥がれてやがる…。感じる霊圧からして俺より上なのも確実……!!
「俺が最上級大虚なのはその通りだが──ッ!……やる気か」
「当然だろ!?最上級大虚のお前を食えば、俺は更に強くなれる!このチャンスを逃す訳がないだろうがァッ!!」
──
真正面から突っ込んで来たにも関わらず、今のグリムジョーがギリギリ反応するのがやっとの速度。辛うじて両腕をクロスさせて、ゴリラの右ストレートを受け止める。
「!!!」
──速ェ上に、重い!!!
響転の速度の突進力にゴリラの腕力を乗せた右拳。その重さに歯を食いしばって受け止めたものの、その場に踏み止まる事は出来ず、グリムジョーは遥か後方に殴り飛ばされていく。
「──グオッ!!!」
やがて、大きな岩山に激突したグリムジョーは背中を強打し、衝撃で血と息を一度吐き出す。岩山は大きく凹み、その窪みの中で岩に埋もれたが、邪魔な岩を吹き飛ばして立ち上がる。
「クソッ!何つぅバカ力だあのゴリラ!!一体何処に───ッ!!!」
「こっちだカスがァッ!“
立ち込める砂煙の中から出たグリムジョーは、悪態をつきながら見失ったゴリラを探して右から左に視線を移した瞬間、ゴリラは右側に姿を現す。
それから、片腕では防がれた事を考慮して、次は右と左の両腕の拳を側頭部に繰り出した。
「──グァッ!!?」
ギリギリで右腕を差し込んだグリムジョーだが、全く意味を保たず右腕ごとめり込み、仮面にはヒビが入っていき、殴り飛ばされる。
そして吹き飛んでいくグリムジョーに向けて移動し、今度は下側からアッパーを繰り出す。
「──ゴハァッ!!!」
ゴリラのアッパーが腹に直撃したグリムジョーは、盛大に吐血し真上に飛ばされていく。そんなグリムジョーに更なる追撃をかけようと、響転で追い越し素性で両手の指を組んで頭上に掲げる。
「──どうしたァ!?最上級大虚様の力はこんなものかァ!!?」
「グ!……ク、ソォッ!!──ガアァッ!!!」
ゴリラの挑発に怒りの形相で睨むグリムジョーの頭に、容赦なくゴリラの両手が叩き込まれた。地面に叩き付けられ、白い砂漠にクレーターが出来た。
「これで終わりだァッ!!」
頭から血を流し、右腕も圧し折られながらも左手を付いて立ち上がろうとするグリムジョーに、向けて駆け出すゴリラ。デカい体躯の重量、怪力と助走による突進力を乗せたタックルでグリムジョーに衝突した。
「──グォ…!!オアァアァァ───ッ!!!」
今までで一番の勢いで弾き飛ばされたグリムジョーは、虚圏の中でも一際大きいであろう岩肌に激突し、中にあったらしい空洞の中に落下してしまった。
グリムジョーは、転がり込んだ空洞の中でズリズリ這いずり、奥の壁に進む。壁を支えに立ち上がろうとしているのだ。
その時の顔は、成すがままにやられた自分の慢心と無様に憤怒の形相になっていた。
──クソ……!!油断、いや……最上級大虚になって慢心してたか…!なんつぅ無様晒して……!!
「ハァ…ハァ…。このままじゃァ……ハァ…終われねェッ!!俺は……まだまだ強くなる!こんな所で………躓いてる場合じゃねェんだァッ!!!」
グリムジョーが今の猛る心を吠えたその時、壁際まで辿り着いた。今のグリムジョーは意識も朦朧としており、洞穴の中は月の光も一か所しか空いていない。
よって、グリムジョーが辿り着いた所に居た存在─右足に目の付いた異形に気付かず、手を触れた。
その瞬間、グリムジョーの意識は水面に覆われた地面の、先に居た場所とは全く違う場所にあった。
「──!ここは、何処だ?テメェは……誰だ?」
当然不審に思ったグリムジョーは、周囲を見渡した後で自分の真正面に立っている右足の膝下に瞳のある姿。余人なら普通の生物にはあり得ないその姿に驚いていただろうが、生憎とグリムジョーの前世の記憶には該当する者がいる。
それは勿論、霊王の右腕と左腕だ。涅マユリの言葉を借りるなら、両腕が意思と目を持ち存在しているなら、両足がいても何の疑問もないという事だ。
その為、残る疑問は自分を連れてきただろう右足の名前とこの場所についてだけだ。
「私ハ、コーラス。ココハ、私ノ内包セシ世界」
「内包……?精神世界みてェなモンか」
左腕のペルニダと同じくカタコトだが、話は通じるようで応答する右脚─コーラス。簡潔でも分かったその答えに納得したグリムジョーに、今度はコーラスの方が問い掛ける。
「汝、何故力ヲ欲スルノカ?」
「んなモンテメェが、知ってどうする?」
「ドウモシナイ──ガ、興味ガアル」
「──いいだろう。答えてやる」
目の前で叫んでいた事から、聞こえていたのだろう。見るからに重傷なのに、まだ動こうとしていたグリムジョーの根源に興味を抱いたのだ。
答えるかどうか、少し逡巡したグリムジョーは、結局答える事にした。
「──“野望”の為だ」
「……ホウ?」
「この虚圏の頂点に君臨する!!これこそが俺の中で煮え滾り……燃え盛る“野心”……!!それこそが、この俺を駆り立ててんだ!!」
自分の聞いたことに答えた以上、自分も答えようと思ったグリムジョーが自身の野心を語り出し、コーラスも興味深く聴いていた。
「今の王はバラガンだが……永遠に奴が君臨するんじゃあ、つまらねェッ!欲しい物は奪い取ってやる!!俺が覇権を掴み取ってやる!!」
「…………」
本人が思った以上に饒舌なグリムジョーの言葉を黙って聴いていたコーラスは、やがてもう一つ質問を口にした。
「……デハ、死神ヲドウ思ウ?」
「さァな。……だがまァ、世界の守護者を気取ってんのは気に入らねェのは事実だな…!」
死神をどう思うのかというコーラスの質問。これにグリムジョーは、前世の頃から思っていた事を口にする。
念の為に言うが、グリムジョーは死神が嫌いだった訳ではない。敵味方なく良いと思う奴、自分とは相容れないと思う奴が居たし、所謂推しキャラも存在した。
だが、事霊王にやった事に関しては良いとは口が裂けても言えないどころか、悪いと言うだろう。寧ろ藍染が、霊王の真実を知って立ち上がったという事を知った時は、それも正しい事の一つだと思えた程だ。それだけ、過去の死神とそれを維持しようとする者達が、人間性としては酷いだけかもしれないが。
何より、過去死神のやった事を思えば、自分達が守護者でいられる世界を維持しようとしている様にも見える。その観点から見ると、グリムジョーの気に入らないという答えも仕方ないだろう。
そして、こんな質問をしているという事は、死神に切り落とされた四肢の一つであるコーラスも、死神に思う所があるのだろう。原作でも、ユーハバッハから流れ出た霊王の力が死神に襲い掛かる描写があった。つまりはそういう事だ。
「……気ニ入ラナイ、カ。私モ……ソウナノダロウ」
「なら何で、こんなとこに閉じ籠もってやがる。蹴っ飛ばしに行こうと思ったりしねぇのか?」
「死神ノ手デ、四肢ヤ力ヲモガレタアト、無理矢理“境界”ノ力ヲ使ッテ、ココニキタ。ソノ時、力ノ大半ガコノ身カラ剥ガレオチタ。故ニ、ソノヨウナ力ガナイノダ」
“キョウカイ”─恐らくは漢字なら境界と表すのだろう。グリムジョーの聞く限りでは、コーラスの司るのが境界という事だ。その力を四肢やら力やら削ぎ落とされている最中に無理に行使し、虚圏の砂漠に落ちてきた。
しかし、無理な力の行使と爪やら何やらと共に別れた力のせいで、殆ど力が残されていないのがコーラスの現状だった。
「──ココヲ出タラ、私ノ身体ヲ食ラエ」
「あァ?」
「コノママ存在シテ居ヨウトモ、イズレ私ハ消エル。ナラバ、思イヲ共有シタ汝ニ、残ッタ力ヲ……」
「……託すってことか」
「ウム。汝ノ霊体ガ、私ノ力ニ耐エキルコトガ出来ネバ、身体ガ崩壊スルヤモシレヌガナ」
始めに身体を食えと言われた時は、怪訝そうな顔をしたグリムジョーは、続く話を聴いて納得した。
何れ消えるのを待つだけなら、今ここで出会った同じ思いを持つグリムジョーに、力を託そうとコーラスは考えたのだ。
その思いを知ったグリムジョーは、例え自身の死の危険があろうとも、ニヤリと不敵に笑って口を開いた。
「──ハッ、良いぜ!?食らってやる!!どうせこのままじゃ、あのクソゴリラに殺られちまうんだ!!」
グリムジョーのその表情、その言葉には恐怖や焦りは微塵もなく、既にその先を見据えて進む気満々のそれは、正に自信に満ち溢れた姿だった。
「だったらギャンブルでも何でもやって、俺は………更なる力を手に入れる!!!」
そんなグリムジョーの様子を見ていたコーラスは、グリムジョーを己の世界から出す準備をした後、声をかける。
「デハ、サラバダ───」
「──あァ、あばよコーラス」
最後に一言、互いに別れの言葉を口にして、グリムジョーの意識は浮上していった。
──岩山の洞穴。
月光の降り注ぐ中、意識を失って倒れていたグリムジョーは、ゆっくりと意識を取り戻した。始めは指先がピクリと動き、そこからゆっくり目を開いて正面の右足を見据えた。
「ア…ァァ……ハグッ!!」
這いずって、右足に口を近づけたグリムジョーは勢い良く齧りつき、肉を食い千切り嚥下した。その直後、グリムジョーの身体に急激な変化が訪れた。
「──グッ…!!オ……オァァァ…ァァッ!!!」
元々ゴリラに殴られ蹴られ、散々なやられようなグリムジョーの仮面は、盛大に罅割れが生じていた。その罅割れが更に広がっていったかと思えば、今度はポロポロと剥がれ落ち始める。それは、唯の純粋な虚から更に上の種族─“破面”への進化。
霊王の右足であるコーラスの司る権能は、“境界”。その右足の血肉の一部を取り込んだ事で、グリムジョーにその権能の効果が及んでいるのだ。即ち、死神と虚という相反する存在の境界を破壊する事で、更に上の種族である破面へと進化しているのだ。
「──ゥゥオオオオォォォァァァァッ!!!!」
やがて、身体や顔を覆っていた体毛や仮面の全てが剥がれ落ちた時、グリムジョーは特大の咆哮を上げた。それは、新たなる門出を示す猛獣を思わせるもの。
その時に溢れ出した霊圧も、今までとは一線を画していた。
「フッハハハハハッ!!最高だ、この湧き上がる力ァ!!」
進化後に昂ぶった感情のまま、高笑いし叫ぶグリムジョー。
その容姿は限りなく人に近くなり、最早違うのは腹に空いた孔と右頬に残った仮面の名残、そして目元の“仮面紋”ぐらいなものだ。その為、素っ裸なのだが気にせず一頻り笑った後、洞穴の中にあった人一人を覆える大きさのボロ布をマントの様にして体を隠し、傍らにあった刀を手に取った。
鉤状の鍔の付いたその刀こそ、グリムジョーが破面化した際に切り離した魂魄の力と姿の封じ込められた、グリムジョーの“斬魄刀”だ。
今回襲ってきたゴリラは、未完成の破面化の為存在しないが、グリムジョーの場合は完全な成体への進化な為、斬魄刀がある。この時点で既に、存在としての格付けは済んでしまったようなものだ。
現に、先程までは全身の色々な所を砕かれ死に際だったグリムジョーが、嘘のように自信と力に満ちた歩みで洞穴の壁に歩み寄り、背後のコーラスを一瞥した後、壁に刀を一閃した。
「!!」
一撃で壁を破壊して外に出たグリムジョーは、ガラガラと音を立てて崩れていく洞穴を背中で感じつつ、目の前に歩いてきたゴリラに目を向けた。
さっきまでは、余裕綽々で見下している感じが諸に出ている嘲笑を張り付けていた顔が、今や恐怖に彩られていた。グリムジョーが進化した後のその霊圧を肌で感じ、なまじ同じ様な進化を辿っているからこそ、その進化が自分よりも上の完成度─成体だということを理解したのだ。
「お、お前………」
「ハッ、どうやら分かってるみてェだな……。俺もお前と同じ破面……いや、出来損ないのお前と俺とじゃあ、比べる必要もねェ!!」
「───っ!いや!!破面になったからって俺に勝てると決まった訳じゃない!!お前がその力に慣れる前に───」
必死に、まだ負けた訳ではないと自分に言い聞かせ、奮い立たせるゴリラは先手を取ろうと右拳を構えて霊圧を込めようとした。
「──っ!消えた!?何処に──」
「遅ェ」
「──!!!ぐああぁぁぁっ!!!」
次の瞬間には、響転で目の前に移動していたグリムジョーが右手の刀を振り降ろす。ゴリラが気付いた時には右腕を切り落とされ、絶叫を上げたが、咄嗟に左拳を握ってジャブを振るう。
迫る左拳に同じ左拳をぶつけたグリムジョーは、そのまま拳ごと押し込みゴリラの腹に叩き込む。
「グホァッ!!」
無い右腕から血を撒き散らし、口からも吐血しながら飛んでいくゴリラ。そんなゴリラに最後に一発、最初の試し打ちには丁度いい相手だと思ったグリムジョーは、掌に小さな傷をつけて血を出した後にゴリラの方へ掌を向けた。
「景気づけの一発だ!!冥土の土産に受けて逝けェ──!!!」
不敵な笑みで構えたグリムジョーの掌に集まっていく蒼色の霊圧。大虚なら誰しもが使える技である虚閃だが──これは膨大な霊圧を持つ者達だけが使う事を許された強者の為の虚閃。
「“
放たれた巨大な虚閃─王虚の閃光は、射線上にある砂漠の表面や枯れ木を消しながら、まっすぐにゴリラの居る方へ向かっていき、その全身を呑み込んだ。
「───ッ!!!!」
蒼色の閃光に包まれたゴリラは、叫び声すら虚閃に掻き消され、大口を開けたまま灰と化し、この世から消滅していった。
BLEACH、遂に完結しましたね!!ユーハバッハとの最終決戦でのグリムジョーを見て、元々推しだったのが更に好きになってこの作品を描き始めました。
なので寂しくもありますが、BLEACHに関わった全ての人に感謝したいと思います!ありがとうございました!!
それから、この作品にお気に入り登録して頂いてありがとうございます!!
これからも高評価など、よろしくお願いします!!