ここは平和なトレセン学園。ウマ娘達が日々切磋琢磨し、己を磨いている。
そんなトレセン学園に、タマモクロスという関西ウマ娘がいた。
彼女は数々のレースで勝利を収め、ライバルのオグリキャップやスーパークリーク、イナリワンと共に名を轟かせていた。
そんなタマモクロスがある日、生徒会長のシンボリルドルフに呼び出された。それは。
「タマモクロス君、君にアルバイトをして欲しい」
「アルバイトやて?」
一体どういう事なのか?
困惑するタマモクロスに、シンボリルドルフは続ける。
「実はトレセン学園に出資しているある団体が、私達ウマ娘の力を借りたいと言っていてね。そこで、君に白羽の矢が立ったというわけさ」
「なるほど、政治的やりとりってワケですな」
「そういう事さ、ははは」
そういうシンボリルドルフの顔はどこかやつれていた。
トレセン学園生徒会長としてやりくりする上での政治的な問題がある事はタマモクロスも察していた。
スターウマ娘である自分がわざわざ出向するというのも、そういう事だろうと。
「そんでウチはどこに行けばええんですか?」
タマモクロスに問われ、シンボリルドルフは答える。
「第三新東京市だ」
***
トレセン学園のある府中から離れる事しばらく。電車とバスに揺られてタマモクロスはその第三新東京市にやってきた。
ここは太平洋に面した東京都の郊外。
自然豊かな地域であり、近くにはダムもあるようだ。
しかし。
「うわあ、なんやありゃ!?」
その時、ズシンズシンと足音を立てて巨大な怪獣のような生物が街に侵入してきた。
髑髏のような仮面をつけたその怪物は、タマモクロスも見覚えがあった。
「あれは、テレビで見たことあるで!使徒ってやつやないか!!」
それはこの第三新東京市を襲う謎の存在・使徒。あの死神のような使徒は「サキエル」と呼ばれる使徒である。
そして、使徒サキエルが現れたという事は。
「うわっ!また来よった!」
街の道路のハッチが開き、中から巨大な人型がせり上がってきた。
サキエルに対しヒロイックなデザインのそれは、これまたタマモクロスもテレビで見て知っている存在。
「これってエヴァンゲリオンやないか!?」
それは人類が悪魔の使徒に対抗するために開発した、人造人間・エヴァンゲリオン。
その初号機。
そしてそのエヴァンゲリオンを運用する特殊部隊「特務機関NERV(ネルフ)」が今回のアルバイト先だというのだ。
「………ってかこんな事しとる場合とちゃう!!逃げな!!」
そしてエヴァ初号機とサキエルがついに激闘を始めた。
しかし、その足元にはタマモクロスがいる。このままでは戦いに巻き込まれる。
そんな絶体絶命のピンチ、その時である。
「おーい!」
「なんや!?」
「こっちじゃあタマモクロス、早くくるんじゃ!」
一人の老人が壁に空いたハッチから顔を出して手を振っていた。タマモクロスを知っているという事は、おそらくNERVの人間だろう。
タマモクロスは急いでそのハッチの中に入った。
「いやぁすまんのお嬢さん。いきなり使徒に襲われるとは思わんかったじゃろ」
「ホンマに心臓止まるかと思いましたわ」
「これでドリンクでも買うといい」
そう言って老人はタマモクロスに一万円札を渡してきた。
「ええんですか?」
「いいんじゃいいんじゃ、可愛い子には旅をさせろと言うしな」
そう言うと老人は高らかに笑った。
その表情は明るかったが、ケタケタと笑う様はどこか狂気的な印象を与える。
「それじゃあ自己紹介といこうかの。ワシは敷島博士じゃ」
「タマモクロスです、おおきに」
「さあこっちじゃ。今回頼みたい事について話すぞい」
そしてタマモクロスは敷島博士の後についていく。
そしていくつかの通路を抜け、道中移動通路やら何やらを乗り継ぎして進んでゆく。
そして地下空間ジオフロントにあるNERV本部へとやってきた。
「碇司令ー!タマモクロスをお連れしましたぞーい!」
「感謝する、敷島博士」
NERV本部にやってきたタマモクロスの前に、サングラスをかけた男が現れた。
そしてその後ろには、眼鏡をかけた緑のスーツ姿の女性が控えている。
「私は碇ゲンドウ、このNERVの司令をしている。こちらは副司令の葛城ミサトだ」
「葛城ミサトです、よろしくね。あなたの事は聞いているわ。あなたのご活躍はテレビでも拝見しているのよ」
ニコリと微笑む葛城ミサト。
美人でスタイルもいい。タマモクロスは少し緊張した。
「タマモクロスです。今日は何をしたらええんですか?」
「実は君にやってもらいたい事があってね」
「やってもらいたい事?」
すると、碇ゲンドウは顔色一つ変えずに言った。
「その為にはまず、我々の置かれている状況について説明しなくてはならん」
「置かれている状況?」
「うむ、まず今エヴァが戦っている使徒だが………」
正面の巨大モニターには、激闘を繰り広げるエヴァ初号機とサキエルの姿が映し出されていた。
まるで、テレビ特撮で戦う巨大ヒーローと怪獣のようである。
「あれは、本来なら既に倒されたもの。二度と現れるはずのないものなのだ」
「な、なんですって!?」
タマモクロスは驚いた。
確かに、あの使徒サキエルは過去テレビで見たことがある。過去に出現した使徒なのだ。
それが再び現れ、エヴァ初号機と戦っているのである。
「つまりあれでっか、テレビのヒーロー番組みたいに、一度倒された使徒が復活してまた現れとると。再生ベムスターとか再生ベロクロンみたいに」
「………おおよそそんな感じの認識でいい」
タマモクロスの例えに若干解せぬと感じながらも、ゲンドウはサングラスをクイッと上げた。
「倒された使徒の復活。それだけならまだ良かった。問題はもう一つある」
「もう一つ?」
「見ていればわかる」
モニターの中では相変わらずエヴァ初号機とサキエル………否、再生サキエルが激闘を演じていた。
しかしその時、異変が起きる。
『あーっ!おぅううっす!』
「なんやあのおっさん!?」
エヴァ初号機と再生サキエルの激闘に、突如として乱入する者が現れたのだ。
それはエヴァ程の大きさを持った巨人であり、浅黒い皮膚に、不細工な顔、サングラス、そして屈強な上半身に対して貧弱な下半身というアンバランスな体型をしていた。
「なんですのあの変なの!?」
「あれはタクヤだ」
「いや固有名詞じゃなくて………!」
冷静にその、タクヤと呼ばれる謎の存在について述べるゲンドウに、タマモクロスの突っ込み魂が刺激される。
「使徒だけでなく、あのよくわからない存在………巨大ナマモノが現れるようになったのだ。それこそが第二の厄介事」
「あ、あのナマモノはなんなんです?」
「わからん。ただ解っている事は、ナマモノが我々の敵であるという事だ。現にナマモノはエヴァを狙っている」
画面の中でエヴァが、再生サキエルが、そしてタクヤが戦いを続けていた。タクヤの咆哮がスピーカー越しに響き渡る。
『あーっ!おぅううっす!おぅううっす!』
「アカン、全然状況がわからへん!?誰かウチのわかるように説明してくれ!!」
再生サキエルとタクヤの謎の存在。
そしてそれらと交戦するエヴァ。
全てが理解不能であった。
「ええじゃろう、お前さんにも解かるよう説明してやろう」
「敷島博士………」
そこに、さっきまで黙っていた敷島博士が出てきた。
「エヴァは再生使徒と戦うんで忙しい。ナマモノの相手まではしていられん。そこでじゃタマモクロス、お前さんはエヴァの代わりにナマモノと戦って貰いたいんじゃ」
「ウチが?」
「実はお前さんが乗る機体はもう準備してある。ついてくるんじゃ」
「な、なんやてー!?」
どうやらウマ娘を第三新東京市に招いたのは、このためだったのだ。
タマモクロスは敷島博士の後をついて行く。
そしてしばらく歩いたところで、タマモクロスは自分の目を疑うような光景を目にした。
「こ、これは!?」
そこにあったのは、巨大なロボットの頭部であった。
そのロボット、二本角を伸ばした赤い姿をし、その様は赤鬼を彷彿とさせる。
そしてそれは明らかにエヴァとは違う技術によって製造されている。
「どうじゃ?驚いたか?」
「こ、これは一体なんなんです?」
「ゲッターロボじゃ。君にはこれに搭乗してもらう」
「ゲッター……!」
ゲッターロボ。
それがこのロボットの名称らしい。
その見た目は明らかに既存のロボットとは異なり、タマモクロスの想像を遥かに超えていた。
というか。
「………なんで頭しかありまへんの?」
ゲッターロボは、頭と両肩しか無かった。
その未完成の状態で、NERV本部の格納庫に吊り下げられている。
「うーん、ロボット博物館に展示されてた物を引っ張り出してきたからの。色々とガタが来てる所があったから、動かす為に一旦バラしてるんじゃよ」
「博物館って、つまりこれ骨董品って事やないですか!?」
タマモクロスが声を荒げた。ツッコミとも文句とも言えた。
無理もない。自分はあのわけの分からないナマモノと戦わされるというのに、与えられた戦力が博物館行きの旧式メカなど。
不安にならない方がおかしい。
「うわっ!?なんや!?」
その時、突然の揺れ。
再生サキエルの放ったプロトンビームが、タクヤのドラミングが第三新東京市を揺らしているのだ。
「被害報告!」
「第三隔壁に亀裂!」
「ダメージ23%!」
「エヴァ初号機、なお攻撃を受けてます!」
危機的状況。オペレーター達が、こちら側が受けたダメージを緊迫した声色で読み上げる。
もはや迷っている暇はない。タマモクロスは、改めて敷島博士と向き合った。
「………敷島博士、ウチがこのゲッターロボで出撃したら………なんとかなるんやな?」
「………なる!」
敷島博士はにっこりと狂気的な笑みを浮かべて断言した。
信じられない事ばかりであったが、タマモクロスはこの博打に乗るしかなかった。
***
第三新東京市・地上。
再生サキエルの攻撃を受けるエヴァ初号機。反撃しようとするが、そのエヴァ初号機を背後からタクヤが撫で回す。
『初号機!また胸がデカくなったな!』
「なんなんだよこいつ気持ち悪いな………!」
エヴァ初号機のパイロット碇シンジは、タクヤの気持ち悪いセクハラのような動きに困惑していた。
しかし、そんな困惑すら許されないのがこの戦場なのだ。
『碇シンジ君、ナマモノを振り払って!』
「わかってる!」
エヴァ初号機がタクヤを振り払う為に、再生サキエルを無視して拳を振るう。
しかしタクヤは、エヴァ初号機の胸部装甲を何度も叩き、エヴァ初号機の股間部分を何度も撫でまわし、そして頬ずりをする。
碇シンジは困惑と怒りが入り混じった顔で操縦桿を握った。
「こいつ……!離れろ!」
『ウッス!ウッス!』
エヴァ初号機がタクヤを振り払おうとするが、タクヤはがっしりと組み付いたまま離れない。
「くそっ!」
タクヤに抱きつかれて動けないエヴァ初号機に対し、再生サキエルが髑髏のような顔を向けて向かってくる。
タクヤごとエヴァ初号機を葬るつもりだ。
絶体絶命の危機に陥るシンジ。その時、都市の一角に備え付けられたハッチが開いた。
「地獄への直通特急やああああああっ!!」
タマモクロスの咆哮が響いた。
上半身だけのゲッターロボが射出されるように飛び出し、エヴァ初号機に組み付いたタクヤに真っ直ぐ向かってゆく。
そして強烈な頭突きで、タクヤの上半身を吹き飛ばした。
『コ°ッ!』
タクヤは断末魔を上げると、そのまま力なくエヴァ初号機から離れ、物言わぬ肉塊となりその場に崩れ落ちた。
タクヤは生命活動を停止………死んだのだ。
「今だッ!!」
そうして自由になったシンジは、エヴァ初号機を再生サキエルに向けて突撃させた。
エヴァ初号機の肩のウェポンラックが開き、中からプログレッシブナイフが出てくる。
エヴァ初号機はそれを掴むと、再生サキエルの胴体を一閃。
真っ二つに斬り裂いてやった。
切断された再生サキエルは、消滅する事なくただの肉塊となり地面に倒れ伏す。
「やったのか……?」
シンジが呟いた。再生サキエルが倒れた。その戦いを見届けたタマモクロスも、安堵の息を吐く。
「……雨や」
やがて雨が降ってきた。
タクヤを体当たりで吹き飛ばしたゲッターロボの上半身は、そのままビルに突き刺さり、静止している。
今日色々な事がありすぎて、タマモクロスはあまりにも疲れていた。何も考えず、ただぼーっとするしかない。
戦いの疲れを感じつつ、タマモクロスはゲッターロボから外を見ていた。
これからどうするか。そう考えたとき。
「ウチはいったいどこで寝たらええんやろ……?」
戦いの終わりと共にやってくる次の問題に直面していた。