シスイが性的な雰囲気に耐えかねて場をかき乱してから30分後。
時間も夕飯時ということで4人は大男とフワワの家で食事を取ることにした。
勝手の分かる大男とフワワが食事の用意をしている間、シスイとガオはリビングの椅子に座っている。
シスイは料理をしている2人の方を見たり、部屋の様子を観察したりと落ち着かない様子。
ガオは未知の感覚が残るお腹を庇うように椅子の上で体育座りをしていた。
「その、ガオ様は……」
シスイは言ってからもう一度料理中の大男の様子を確認してから、万が一にも聞かれないようにガオの耳元に口を寄せる。
「アカシさんの事、どう思っていますの?」
「どう、って……」
居場所を失った自分の新しい拠り所。
自分の弱さを許容してくれる優しい人。
自分より強い雄。
漠然とした問いでは答えに困るほど、ガオから大男への気持ちは複雑で重かった。
「その、す、す、好き、でしょうか?」
答える方でもないくせに顔を真っ赤にしてガオに聞くシスイ。
「好き」
大男への感情の多様さを処理しきれない呆けた顔のまま、それだけは不変の事実なのだと言わんばかりに即答した。
しかし、その様子から好きのニュアンスが違っているような気がしてシスイはさらに問いかけた。
「ひ、人としてではなく、い、異性としてはどうですの?」
「異性として……それは番になりたいかどうか、ってこと?」
「ぅ、ん……まぁ、そういうことですわね」
番というなんだかエッチな響き*1に恥ずかしくなりながらも肯定するシスイ。
ガオは両親の顔も知らず、昔に親しかった師匠にも伴侶は居なかった。知識はあるが、およそ番というものの具体的な想像ができない。
彼女は料理をしているフワワと大男の方を見た。横に並んで作業するだけで、特別に楽しそうにしているわけではない。その何でもない日常がずっと続く。
「なりたい、けど」
自分が彼の横に並ぶ。そんな妄想すらおこがましいという自己嫌悪に駆られて俯くガオ。
「アタシじゃ、ダメだよ……」
椅子の上で縮こまったガオを見て、何と言葉をかければ良いのか分からないシスイ。気まずくなって料理をしているフワワの方を見る。
フワワはシスイに見えるようにワインの瓶をカウンターの上に置いた。獣人の耳は良い。番になりたいという言葉をガオの口から聞いての意思表示。
(やりますのね……! 今日、ここで!!)
シスイはフワワに頷きを返す。そして料理ができるまでの間、蹲っているガオの頭を黙って撫でていた。
♢
料理が完成して4人で食卓を囲む。基本的に4人集まった時は主にガオとシスイが話を回す。しかしガオは意気消沈、シスイは今から実行する計画に気を急いて変なことを口走っていた。
自然と会話は少なく料理を食べる手だけが進む。そんな折、グラスのワインを飲み干したフワワが空のグラスを大男の方に勧める。
「一杯どうですか……?」
「いえ、私は……」
「明日は休みの予定ですし、良いじゃないですか」
普段主張の抑え目なフワワだが、この時ばかりは有無を言わせぬ圧があった。
「え、あ、じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
その圧自体は小さなものだったが、普段とのギャップに面食らって思わずグラスを受け取る大男。80kmのスローカーブばかり見ていれば120kmの直球も速く見えよう。
そのままフワワのペースで大男はグラス3杯のワインを飲む羽目になった。
ちなみにシスイはフワワが使ったグラスを大男に渡した時から、間接キスばかりに意識を持っていかれていた。フワワが口を付けていた場所を凝視し、大男がそこに口を近づけるたびに顔を赤くしていた。その度に恥ずかしさを誤魔化すように自分のワインの満たされたグラスを空にしていた。
ともかく出来上がった大男。机の上に頬杖をつき、うつらうつらとしている。
ついにその時が来た、と逸ってばかりのシスイが声を荒げた。
「これはいけません! アカシさんが酔っぱらってしまいましたわ! これはもうガオさんに寝室へ運んでもらうしかないでしょう! えぇ!!」
興奮気味のシスイに詰められて椅子から転げ落ちそうになるガオ。それを支えながらフワワが耳元で囁く。
「ガオさん、寝室まで運んでくれますか?」
優しくも、やはり有無を言わせぬ圧を纏った言葉にガオは首を縦に振らざるを得なかった。
体格差は大きいながらも大男をなんとか支えて寝室まで運ぶ。そのまま自分ごと倒れるように大男をベッドの上に寝かせた。
お互い向き合った状態で横向き寝の体勢。
ガオはそのままベッドの上から退こうと考えたが、躊躇してしまう。
大男の開かれた胸元。魅入られたようにその懐へとにじり寄って。そんなことをするほど自分は上等な人間なのか、という自己嫌悪に陥りベッドから退こうとする。
その引き際で大男に組み付かれた。大男の腕がガオにかぶさる。丁度お尻の位置に。
「ふやっ」
お尻を叩かれる衝撃と、そのまま抱きかかえられたという状況に素っ頓狂な声を上げる。
ガオは驚いたものの、自分より強く大きな存在に抱えられて安心感を得ていた。それは子供が父や母に抱きかかえられて得る安心感と同じ。
幼き頃に誰もが得られるはずの赤子として当然の権利。それを今になってようやく享受する。動けない、動けるはずもない。
酔っ払いの手はお尻から登っていき、自然と尻尾の付け根に突き当たる。甲殻に覆われた外側と違い、内側の部分は尻尾を動かすための筋肉でできている。
それは力を入れれば鋼より硬く、しかし脱力すれば赤子のほっぺのように柔らかい垂涎の肉。
大男の手が尻尾の付け根に当たった時ガオは硬直した。その肉は堅い。しかし安心感に蕩けて次第に肉はほぐれていく。
撫でる指が、弾力が弱まるにつれて肉に沈む。ぐい、とその指圧が一線を越えた。
「ふ、ぐっ……?」
ガオの体が痙攣する。まるで脚気検査のように。生物として抗えない反射。
大男の指は遠慮なく肉を揉む。体は打ち上げられた魚のように痙攣する。
「ぅっ、あっ、は、っ、あっ……♡?」
体が痙攣するという本来なら異常事態。しかし抱かれている安心感が判断を鈍らせる。
蛇に睨まれた蛙のように冷静な判断力を失ったガオはそのまま尻根を揉まれ続ける。
尻尾の先はギブアップとでも言いたそうにパタパタとタップしているが、肝心の本体が動かないことにはどうにもならない。
尾先の切実な願いも空しくその時を迎える。
「~~~~っ!?♡!?♡?♡」
唐突に背筋を這いあがり、脳みそを犯す感覚。びん、と足先を伸ばして耐える。
その隙にお尻を探る手はガオの頭に置かれた。手つきこそ優しく頭を撫でているが、ぱちぱちと弾ける頭から刺激が逃げていかないように押さえつけているようにも見える。
「ふぅー……?♡ はぁ~……♡? あ、ふぅ……♡」
全身を硬直させて呼吸すら止まっていた状態からようやく戻ってきたガオ。その瞬間に頭を撫でる温かい感触に安堵を覚える。
まぁ、やられていることは暴力を振るってその後優しくするDVと大差ないのだが、そのような客観的事実は本人にとって無意味だ。
気の抜けた炭酸のように、ぐでりと横たわるガオ。その小さな顎を持ち上げられ、食事と発話以外の用途に用いられたことのないお子様な唇を奪われる。
竜人にキスの文化はない。ガオは人間の口づけという文化に明るくない。
無知と無抵抗を背景にガオの唇はあっさりと舌の侵入を許した。
「ん……、ぅぁ……、ふ……、……ぁっ?♡」
ずくん、と胎が疼く。まるでボディを殴られたような衝動。
ただ、その衝動を知らないお子様はどうすることもできずに頭の中で疑問符を浮かべるほかない。
ガオが下腹に手を伸ばしたのは本能的な物。痒い所を掻くように、疼いたところに刺激を与えようと。
しかし、ガオと大男の体が密着しすぎている。未知の感覚と発情で脳みそをでろでろのバニラシェイクみたいにされたガオは、手を体の間に割って入れる力を出せなかった。
腰を引こうにもいつの間にか足を大男の脚で絡め取られて離れられない。
自然と疼く腹を大男の体にこすりつけるように身をよじった。
そうしていつまでスライムとナメクジの相撲みたいな接吻を続けていただろうか。
ガオはとても脊椎動物とは思えない様子で横たわっている。その皮膚一枚の下に本来詰まっている肉と骨と神経、脳みそや臓器などその他すべてがゲルに置き換わったかのように。
「ぇぁ……♡」
大男の指が尻尾の根元を押しても反射すらしない。艶っぽいというにはあまりに意思のない喘ぎが漏れるだけ。
そんな雌が酔った雄の前でどう扱われたかは火を見るよりも明らかだろう。
♢
一方その頃リビング。
シスイとフワワが残った食事を肴にワインを嗜んでいた。
酒と料理に集中するフワワとは対照的にシスイは廊下の奥、寝室の方を何度も気にしている。
「そんなに気になりますか……?」
「そ、それは……! ま、まぁ、ガオ様のお子様具合ですし? その、滅茶苦茶なことになっている可能性を考慮してですね! 様子を見に行った方がよいのかな~、なんて?」
「気持ちは分かりますが、覗きは良くないと思いますよ……。初めては大事に取っておくものではありませんが、大事に執り行うべきです……。竜人は一夫多妻の文化だったと思いますが、乱交文化ではなかったはずなので、第三者が介入するのは野暮かと……」
「ぅ、ぇ、あ、まぁ、それは、おっしゃる通りですが……」
エッチな単語を言われてもじもじしながら口ごもるシスイ。
その間にもフワワはぐびぐびとワインを飲み進め、ついに用意していた酒瓶を全て空にしてしまう。
寝室の方に気を取られていたシスイ。テーブルの上を見ればワインの瓶が7つ空になっていて驚く。
「そ、そんなに飲んで大丈夫ですの!?」
「私は大丈夫ですけど……」
普通の人であればすでに酔いつぶれている量の飲酒を前に慌てるシスイ。フワワからすればほろ酔いレベルの酒量だが。
ともかく酒と料理がなくなったため、皿や酒瓶を片付けようとフワワが立ち上がる。
「フワワ様は座っていてください! ご無理なさらず!」
「は、はぁ……ではお言葉に甘えて」
そうは言ったが他人の家で慣れないため、フワワから指示をしてもらいながら片づけをすることになったが。
その後もフワワは必要のない介助を受けながら寝支度を整える。
シスイに手を引かれながら寝室へと連れていかれ、ベッドの上に腰かけた。
「そういえば、シスイさんはどこで寝るつもりですか……?」
「私は自分の家に戻ろうかと思います。この家に居ても、その、気になりすぎて眠れない気が……。それに来客用の寝具も無いのでしたよね?」
「はい……」
「それならなおさら家に帰ろうかと。夜道も明るい通りを選べば攫われるようなことはないでしょうし、半端な相手なら追い払えます」
そう言ってシスイはフワワから手を離してベッドから離れようとするが、逆にフワワが手を掴んで離さない。
「あの、離していただけないと動けないのですが……あ、ちょっ!」
フワワがシスイの手を引いてベッドに寝転がる。引っ張られたシスイはフワワの上に覆いかぶさるように倒れた。
突然のことに頭が真っ白になるシスイ。倒れる時に捲れたシャツの隙間をフワワの腹毛がくすぐる。
空白の頭がその感触で埋め尽くされる。どうにかしてこの感触を長く楽しむ方法はないかと。
その隙にフワワがシスイと上下を入れ替える。その衝撃でシスイは正気を取り戻したが、時すでに遅かった。
「あ、あの、フワワさひゃぁ……っ!?」
フワワは捲れているシスイの腹に頬ずりをする。
押し付けるように強く。時に浮かせて毛先でくすぐる。
「あっ、え、ふふっ……そ、その……っ」
頬ずりされているという状況に慌てているものの、その感触の心地よさに抜け出そうとしないシスイ。手をフワワの頭にかけようとしては躊躇し、辺りを彷徨わせていた。
「フ、ふふっ……ふ、フワワ、さん……っ、……~~~……っ」
執拗な頬ずりにシスイは言葉を失っていく。堪えがたい至福という矛盾を前にエラーを起こしたプログラムのごとくフリーズする。
彷徨っていた手はシーツを握りしめ、呼吸が止まるほど口を噛んでいるのに口角は上がっているという非常に気持ち悪い表情を浮かべていた。
十分にくすぐってシスイの戦闘力が完全に削いだ後に、フワワはマウントを取る。
フワワとばっちり目が合ったシスイ。フワワの目は酔いでわずかに輪郭をぼかしていた。
「危ないですから、今日は泊まっていってください……。ベッド共用で良ければ、ですけど……」
「そのっ……! いや、こんな、急にぃ……っ!?」
フワワの9つある尻尾がシスイの脚の裾を器用にまくり上げて、生足に絡む。6つは片足3本ずつ絡んで自由を奪い、残りの3つは筆先でくすぐるようにシスイのふくらはぎを撫でていた。
「同じベッドで、泊まっていってください……」
「え、えぇ……んっ♡? いや、……っん♡ そ、んな……ぁっ♡」
尚も戸惑い、返事を保留するシスイ。フワワはその喉元を指の毛でくすぐる。顎をクイ、と持ち上げるキザなナンパ師のように。
「一緒に、寝ましょう……?」
「~~~~…………っ……ひゃい……♡」
くすぐったさの中で何とか絞り出した、いや絞り出させられた肯定の言葉。その後シスイが眠れない夜を過ごしたことは言うまでもない。