2話
マゾ♀3人を有する4人組パーティは新しく発見された遺跡を探索するために遠征していた。
遺跡を守るモンスターへの対処は物理で殴って突破するスタイルの4人組。しかし、新しい遺跡には粘液型のモンスターやガス状のモンスターが多く、物理ではどうにもできない。
そんなところで役に立つのが窒息魔法使いのフワワ。
「粘液3! 気体2!」
ガオが敵の数を叫ぶ。
「フワワさん、失礼します」
「は、はい……♡ ぅ、きゅ……♡」
大男は大盾ごとフワワを抱きかかえ、その喉元を絞める。4人パーティは固まり、モンスターが一か所に纏まるように誘導しながら魔法の準備が完了するまで逃げ続ける。
「ぁ……♡」
フワワは大男の腕をポンポンと叩き、合図する。瞬間、大男の手はフワワの喉を離れ、粘液は氷漬け、ガスの塊は液体となって地面のシミになった。
「ありがとうございます、フワワさん」
「ぃ、いえ……♡」
抱きかかえられたまま狐耳の根元をくしくしと撫でられてうれしそうにするフワワ。
「まぁ~こういうの相手はフワワに頼るしかねぇからなぁ。拳圧で吹き飛ばしてもすぐに再生しちまうし」
「私も回復魔法しか使えないので攻撃はフワワさんにお任せするしかありませんしね」
「あ、ありがとうございます……」
大男の手から降りつつ、褒められて恐縮そうにしているフワワ。顔を上げて他の3人の後ろを見た途端に顔から血の気を引かせた。
フワワの視線を追って振り返る3人。その先には他のハンターたちが見える。
「ちっ、他のパーティかよ……ん?」
悪態をつきながら前に進み出てくる他ハンターのリーダーらしき男。彼はフワワを目に止め、「ほーう」とでも言いたそうな驚き顔を浮かべた。
「なーんだ、フワワじゃねぇか。お前死んでなかったのか?」
「ガ、ガルマさん……あ、あはは……お、おかげさまで……?」
ガルマという男に話しかけられたフワワは委縮した様子で適当な相槌を返す。
「あそこから生き残るなんて大した幸運だぁな。その幸運、少しでも分けてほしかったぜ。あの時の稼ぎで一生暮らせるかと思ったがよぉ、カジノでスって何なら借金作っちまってよぉ。遺跡のドサ周りやる羽目になっちまった。久しぶりだけどあの時のメンバーがお前以外集まってくれたのは不幸中の幸いってやつか?」
一方的に話すガルマ。フワワはぎこちない愛想笑いを浮かべたまま。
「お前が抜けたから魔法使いがいなくなっちまったが、それは新しく雇いなおしたよ。ま、お前みたいな魔法発動までに時間のかかる奴じゃなくて専門の優秀な奴をな。お前はまだ大盾使ってんだな。魔法役か壁役かわかんねぇ中途半端なままか」
フワワに対して無礼な口を利くガルマに、ガオはあからさまに不機嫌そうな顔を浮かべる。
「つーかお前、肥えたか? 前はガリガリだったのによぉ」
ガルマはフワワの方に歩み寄り、無遠慮に彼女の腹肉をわしづかみにしようと手を伸ばす。
「お前さぁ」
「あの」
寸前でガオと大男がガルマの腕をつかんだ。
「流石にキモすぎ。勝手に触んなよ」
「許可を取らずに他人のお腹に触るべきではありませんよ」
「なんだよ、悪かったよ。今はお前らの玩具だもんな」
「……それは、どういう意味?」
なんとなく胸糞悪い雰囲気を察し、顔を歪ませながらも言葉の真意を探るガオ。
「あぁ? なんだ、お前ら知らないのか? ……あーなるほど! フワワが隠してるってことか!」
ガルマは勝手に納得した様子を見せ、良い事を教えてやるといった態度で話す。
「こいつはなぁ、首絞められて興奮する変態ドMなんだよ。だから前のパーティでもさんざ可愛がってやったんだ、なぁ?」
相槌を求める目くばせを受けたフワワ。彼女は目を伏せたままゆっくりと頷いた。
「だからよぉ、お前らもそいつのことを可愛がってやれよぉ? 変態の相手も大変だが、良い声で鳴くからストレス解消にもなってな。まぁWinWinってやつか? それじゃあな」
言いたいことだけ言い終えたガルマはさっさと奥の方に進んでいってしまった。彼らの姿が見えなくなってからガオが呟く。
「キレそう」
「確かに横暴な言いぐさでしたわね。そのくせどこか所々滲ませてくる良い人感が無性に気に障るといいますか」
腹立たしさを示す二人に対して、大男は変わらずに糸目と微笑で佇んでいる。
「アカシは腹立たねぇのかぁ?」
「思うところがないわけではありませんが、ああいうのは関わらないのが一番だと思っているので。反応を示さない方が向こうの印象にも残らないでしょう」
「大人なこって」
「それより、フワワさんは大丈夫ですか?」
完全に委縮しているフワワに対して、しゃがみこんで下から話しかける大男。
「気分が優れないようでしたら今日のところは引き返しましょう。無理をしないでください」
「い、いえ……。新しく見つかった遺跡は早い者勝ちです……。私は大丈夫ですので、探索を続けましょう……」
顔は少し青いが、気丈に振る舞うフワワ。ガオとシスイは心配そうな表情を浮かべていたが、新しい遺跡という絶好の稼ぎ場をみすみす見逃すのももったいないという気持ちの後押しもあり、フワワに従う。
大男は変わらず、糸目で微笑を浮かべていた。
♢
場面は変わって先ほどのガルマのパーティ。手練れの仲間と一時雇いの魔法使いをメンバーに、意気揚々と遺跡を進んでいく。
この遺跡には液体や気体のモンスターが多く、魔法使いに頼る場面が多い。数時間探索したところで、魔法使いがガルマに報告する。
「隊長、そろそろ魔力が3割を下回りそうなんで、帰還いたしやせんか?」
「はぁ? それぐらいなら魔力ポーション飲んで回復しろよ。3つも買い込んだだろうが」
「いえ、すでに3つ飲んでますよ。こうも魔法での対処を強いられるとバカ魔力で有名なあっしの魔力も底を付いちまいますわ」
魔法使いの言にガルマや他のメンバーは不信感をあらわにした。
「どういうことだよ。正確には数えてねぇが、30ぐらいしか魔法を使ってないはずだろ? そんだけでガス欠か?」
「あたりまえでしょう。初級魔法、中級魔法ならともかくあっしが使ったのは範囲上級魔法ですぜ? そいつを30発も、ってんだから……自分で言うのもなんですが、相当に優秀な方ですがね」
「前の魔法使いは魔力ポーション3つもあれば100は魔法を使ってたぞ」
「少し前の獣人のお嬢ちゃんのことですかい? 見た感じ、あの魔力量じゃ素で5,6発が限界だと思いますがね。魔力ポーション3つ合わせても15発ってところでしょう。一見ですから確実とは言えねぇですが、あの娘は獣人よろしく魔力回路が細いみたいで上級魔法を使える体ではないようでしたがねぇ」
「はぁ? そんなわけ……!」
「あ、思い出した。あいつ確か魔法関係のスキル持ってただろ? なんだっけ……魔力変換効率を上げるとかなんとか」
「ふーむ、それなら納得ですわ。あっしの魔法変換効率は得意な魔法で22%が最高ですが、スキルで70%や80%に上げられたとするなら少ない魔力消費で高火力の魔法を使えるのもうなずけますなぁ。はてさて、うらやましいスキルをお持ちで」
「けどよぉ、あいつスキルの発動条件って息をとめるだったっけか?」
「それに時間もやたらかかってたしよ。正直待つ間耐えるのもしんどかったよなぁ」
「万能ってわけではないようですねぇ。ちょっと安心しましたよ、自信をなくすところでしたわ。ともかく、あっしの魔力量が3割切ってることは変わりやせん。帰りでモンスターに会うことも考えると引き返すのが無難と思いますがねぇ」
「ここまで引き返すのはあり得ねぇだろ? やっとオーパーツが見つかるような深部までこれたんだ。ここからが一番美味しい探索じゃねぇか」
「それに魔法が30発しか使えないなら前もってそれを言っとけよな。黙ってるのはずっこいだろ?」
「まぁそれに関してはあっしに非がないわけでもないですがね。普通の魔法使いの2倍魔力を持っていると曖昧にしか言っていませんでしたし。しかし、その普通の基準がズレているそちらにも多少の問題があるのではないですかねぇ?」
「ちっ……」
ガルマは舌打ちをしてからしばし考える。
「分かったよ、今日のところは引き返す。クソっ……幸先悪いぜ」
彼ら一行は渋々来た道を戻ることになった。
♢
場面は戻ってマゾご一行。
「だいぶ進んできたよなぁ。オーパーツも1つ見つかったし、運が良けりゃがっぽがっぽかもなこりゃあ」
「フワワさん、魔力量の残りは大丈夫ですか?」
「は、はい……魔力ポーションも2本残っていますし、私の魔力も4割ほどありますから……」
「やはりフワワさんは魔力の持ちが良いですわね。私も魔力量と魔力変換効率には自信がありますが、流石に勝てません」
「いつかはフワワよりシスイの魔力が先になくなったこともあるしなぁ」
「あれはガオさんが趣味に走って回復しないといけなかったからでしょうに」
「いや、流石のアタシも遺跡では控えてるから。純粋にモンスターが強かったんだってぇ」
「真面目な話、私たちのパーティは持久力があるので、こういう新規遺跡の探索では引き返さずに奥まで探索できるのはメリットですわね」
ガオとシスイが話している間、大男はフワワを気に掛ける。
「魔力量はともかく、体力の方は大丈夫ですか? 何度も窒息して疲れていませんか?」
「だ、大丈夫です……普段から練習しているので……慣れてます……」
「それならよかったです」
そうして一行が歩いていると、T字路に行き当たる。左の道からガルマ達一行が顔を表した。
「あ? なんだよ、またお前らか」
彼は不機嫌そうな面を引っ提げている。そしてフワワを見た瞬間、何か言いたそうに口を開いたが言葉として発することはなかった。そのまますれ違うように去って行ってしまう。
「また絡まれるかと思ったけど、特に何にもなかったなぁ」
「これが普通の反応ですけどね。遺跡で他のパーティなんて良くて中立、悪くてオーパーツを奪いに来る敵ですもの。出会ったら警戒するのが普通ですわよ」
「それで、T字路どっち進む? セオリーならあいつらが来た方はすでに探索されてる可能性が高いから反対側行くのが良いと思うけど」
「それについてなんですけど……」
フワワがおずおずと手を挙げた。
「ガルマさんのパーティの魔法使いの人の魔力量が残り少ないようでしたので、彼らは引き返している途中だと思います……。だから、左側は行き止まりとかじゃなくて、未探索部分が残っているんじゃないかと……」
「そうだとしても、右側に行くのが良くねぇかぁ? ほぼ確実に未探索だろうし」
「その、ガルマさんのパーティの仲間……ジュノさんって人が、スキルを持ってるんです……。作意の無い選択肢に対して必ず良い方を引くってスキルを……」
「今回の場合はオーパーツがある方、というわけですわね?」
「恐らくは……」
「そういうことなら右行こうぜぇ~」
「決断が軽いですわよ? こういうのはもう少し慎重に……」
「良いだろ別にぃ。左も右も理はあるんだから悩むだけ時間の無駄だ。他のパーティに先を越される前に早く行こうぜぇ」
「まぁ……それもそうですわね」
結果この選択が功を奏し、マゾ一行はこの探索で多くのオーパーツを得ることとなった。