遺跡でオーパーツを多く見つけたマゾ一行。その翌日も再び遺跡に潜っていた。どうやらこの遺跡は階層構造になっているようで、初日に下層への階段を見つけた一行は、本日下層の探索を行っていた。
下層は打って変わって機械仕掛けの金属ボディが遺跡の警備をしている。こうなると魔法や剣は通じづらく、鈍器や拳で衝撃を与えて壊すのが最適解となってくる。
マゾ一行においては、大男とガオは拳で、シスイは環の部分をメイスのようにしている改造錫杖で、フワワは大盾でぶん殴って進んでいた。
「この階層は金属製のモンスターしか出てきませんわね。私は力がないので、勘弁してほしいのですが」
そう言いながらモンスターを錫杖で叩き、叩き、振り下ろし、振り下ろし、振り下ろし、ようやく破壊するシスイ。
横を見れば、拳一発でモンスターを現代アートにしている格闘家2人と大盾を振り回して破壊しているケモファイターがいる。
「こうなると、私の仕事量が減るので申し訳なく思えてくるのですが……誰か怪我でもしてくれないでしょうか」
マゾパーティでは仕事量に関係なく、稼ぎを等分する決まりになっていた。
「あんま気にすんなよぉ。治療役がいるから思いっきり戦える節があるし、いるだけで仕事してると言っても過言じゃないぜぇ?」
「フォローしていただきどうも。仕事量のムラで言えば、フワワさんは安定していますわよね。魔法は使える、肉弾戦も得意ですし」
「確かになぁ。魔法の方はタメが必要とはいえ両方高水準の奴ってそういねぇし。なんなら武術もやってみないかぁ? アタシが教えてやるぜぇ」
「こ、この手でもできますかね……?」
フワワは毛でふわふわ、ぷにぷにの肉球がついた手を見せる。
「……やっぱ向いてないかも。その手じゃ殴るにはちょっとなぁ。内勁ならともかく、外勁は無理そうかぁ」
いつものように雑談交じりで進むマゾ一行。
♢
一方でフワワの旧パーティメンバーのガルマ一行は揉めていた。
彼らは初めの階層には魔法でしか対処できないモンスターが多かったものの、それらはある程度倒されたため、魔法使いの消耗をすることなく下層への階段にたどり着いていた。
そして下層のモンスターは魔法が必要ない相手ばかり。一時的に雇った純粋魔法使いのため、初日とは打って変わって出番が皆無であった。
それでもある程度のオーパーツを収集していたが、ガルマにとっては物足りない量。彼が賭場で負った借金を返すにはまだ足りない。
その焦りからか、彼はこうつぶやく。
「ちっ……こういう時魔法使いは楽で良いよなぁ。何もしなくても分け前がもらえてよぉ」
「へっへっへっ、おっしゃる通り。今日は楽に稼がせてもらえそうですわ。もちろんご命令とあれば、魔法は使わせていただきやすがね」
「金属相手に何ができるってんだ……くそっ」
「せいぜい氷塊をぶつけて邪魔する程度ですわ。正直もったいない使い方ですがな」
「それでも良いからお前も手伝え!」
「分かりやしたよ」
それからは魔法使いも混ざり、モンスターと戦う。しかし、彼自身が言ったように金属モンスターに有効打を与えることは難しく、サポートをするのが精いっぱいだった。
非効率に魔力を消費して、彼の魔力の残りが3割を切った頃。
「隊長、そろそろ魔力が3割を下回りそうなんで、ここからは魔法を控えさせていただきやすよ」
昨日と同じように魔力量を報告する魔法使い。
「ふん……ここからはまた気楽モードってか? そんなに楽なら分け前減らしたって文句ねぇだろ……」
「へっへっへっ、そうやっかみなさんなって。また下の階層があるかもしれやせんし、そこではきっと活躍して見せますから」
「へらへらしやがって、こっちは真面目なのによ」
ガルマがそういった瞬間、魔法使いは薄ら笑いを消して真顔になった。
「それは真剣にあっしの分け前を減らす、って話をしていると取っても?」
「そうだよ。仕事してない分報酬をもらえないのは当然だろ」
「そうだそうだ」
「働かざる者食うべからずって言うしな」
ガルマに同調するメンバーにも怯まず、魔法使いは言う。
「しかしですがね、雇われるときにしっかりと決めたでしょう? 報酬はパーティメンバーで等分する、と。それに働きを言うなら昨日はあっしばかり働いたにもかかわらず、あっしはきちんと約束通りに報酬を等分いたしやした」
正しい道理を突き付けられ言葉につまるガルマ。だがそれでも反論する。
「いや……けどよぉ……昨日と今日じゃ稼ぎの額が違う。楽した今日だけ大金もらおうってのはムシが良いと思わねぇか、なぁ?」
「思いやせんね。そういう契約を交わしたからにはその通り金をいただく。それをしていただがにゃあ、あっしら雇いのハンターはおまんまの食い上げですわな」
報酬の減額を断る魔法使いに、ガルマは仲間たちに後ろ手で合図を出す。
「まぁ、断るのはお前の好きにすれば良いがよ。魔力の少ない魔法使いが遺跡の中で偉そうにするもんじゃねぇよな」
「……それはあっしを脅しているととっても?」
「いや別に? 俺はな~んにもそんなこと言っちゃいねぇぜ? なぁ、お前たち」
人数差を誇示するようにガルマは後ろの仲間たちに声をかけ、首肯の返事をもらっていた。
魔法使いは肩をすくめて話す。
「隊長、そういうのはもうやめませんかい? 人の目がある外じゃあるまいに、はっきり言ってくださいよ」
「ふん、はっきり言ったところで何も変わらねぇだろ? お前が報酬を諦めざるを得ないって結果はな」
「そうでもありやせんよ?」
魔法使いは懐に手を入れて魔力ポーションを取り出した。それを口に運ぼうとする。
ガルマの仲間がそれを阻止するためにナイフを魔法使いに投げつける。しかし、ナイフは魔法使いをすり抜け、虚像を揺らすだけ。
「幻影!? いつのまに……!」
「へっへっへっ……。隊長の言う通りですぜ? 魔力の少ない魔法使いは戦闘力に劣る。遺跡の中で不幸な事故にあう確率も魔法使いがダントツでトップ。信頼関係のない雇いの魔法使いなんざ、もうやってられませんわ」
魔法使いの声は変わらずに虚像から聞こえる。
「だからこそ、逆にこう考えるべきでしたな。雇いでもやっていける能力がある、ってな具合に」
「ちっ……声と幻影は魔法。本体が見えないのはスキルか……」
苛立つガルマだがすぐに冷静になる。
「まぁ逃げる分には別に構いやしねぇか。くっくっくっ……ある事ない事吹聴されるのは面倒だが、仕事放棄したあいつには報酬を払わなくても良いわけだしな」
「……あ、あれ? おかしいな……」
そこで仲間の一人が声を上げる。
「どうした?」
「いや、さっき見つけたオーパーツ。袋に入れといたはずなのに……袋ごとなくなってて……」
「はぁ!?」
「お、俺もだ! ガルマ! お前のは?」
恐る恐る自分の持つオーパーツを確認するガルマ。やはりというべきか、そこには何もなかった。
「あの野郎……っ!!」
ギリギリと歯噛みするが、時すでに遅し。魔法使いの幻影は消え、声も聞こえない。
♢
フワワは九尾と呼ばれる狐獣人の生まれだ。獣人とは魔法に劣る代わりに身体能力に優れる種族である。種族の傾向として活動的で活発な者が多いが、フワワは生来の気性かおとなしい性格をしていた。
身体能力自体は並であったが、運動神経の悪い彼女は同年代の子供からバカにされることが多かった。
しかし、彼女には生まれつきのスキルがあった。それによって他の子には扱えない規模の魔法を使える。普段バカにされている鬱憤も相まり、そのことに密かな優越感を感じていた。
スキル発動条件の窒息とその優越感の悦びが結びつくのは自然なことだ。
彼女が成人してからはスキルを活かして遺跡ハンターになろうとしていた。しかし、引っ込み思案が足を引っ張り誰かとパーティを組めずにいた。
そこで逆に声をかけてきたのがガルマ達である。彼女らは初めの方は良くやっていた。
綻びはフワワが魔法を使った後に息切れしているのをガルマたちが心配したのが最初。
自分のスキルとそれが心地よい事を素直に話したフワワだったが、これが良くなかった。
窒息して気持ち良いと言う人間。普通の人はそんな人をマゾとカテゴライズするのではないだろうか。そしてマゾとは痛めつけられて、ないがしろにされて喜ぶ人間だと飛躍する。に
大義名分を得た人間は何でもする。時間が経つにつれて、フワワに対するガルマ達の接し方は雑になっていった。
「フワワ、明日の準備やっといてくれよ」
雑用を押し付けることから始まり。
「フワワ、金貸してくんねぇ?」
金の無心。
「最近俺ら厳しいんだよ。だからお前の報酬減らしても問題ねぇよな」
報酬の横取り。
「ちっ、ここまで来て無駄足かよ……クソがっ!」
ついには暴力まで。
フワワはただ窒息が好きなだけだ。ないがしろにされることも、ましてや暴力を振るわれることは普通の人と同じく忌み嫌うこと。
しかし生来の引っ込み思案と初めの方の優しさを忘れられないことが足を引っ張り、反抗しなかった。何をされてもヘラヘラと笑うばかり。周りがそう望むように。
ある日の遺跡探索。最深部に足を踏み入れると、けたたましい警報が鳴り響いた。同時に部屋の左右に並んでいた甲冑たちが動き出す。甲冑が持つ武器は魔法の力を纏っており、火や氷、雷の力を迸らせている。
ここに来るまでに消耗していたのと、敵があまりにも多かったこと。彼女らのパーティは危機に陥る。甲冑はナイフ型のオーパーツを持つ者を狙っていた。
ここで贄として選ばれたのは順当と言うべきかフワワだった。ガルマはフワワにオーパーツを突き刺した。
「ぐ、ぁ……っ! な、なん……で……っ?」
「この中で死ぬならマゾのお前が適任だろ? まぁ人生最大の痛みでも楽しんでくれや」
「ま、待って……!」
甲冑は最優先目標をフワワに定める。ガルマ達は攻撃の手が緩まった甲冑たちを最低限倒し、フロアから脱出していった。
逆にフワワは出口ではなく奥のオーパーツがある台座に向かう。甲冑たちから無数に切り刻まれながらもなんとか台座に到達。自らに刺さったナイフを抜き、台座に収めた。
しかし、宝物を台座に戻しても甲冑は止まらない。目の前で一体の甲冑が剣を振り上げた。
一瞬見えた希望が潰えたその時、フワワの心は深い闇の中に沈んでいく。心だけでなく体も物理的に。先ほどまで寄りかかっていた台座が横に動き、下に隠されていた階段に転げ落ちたのだ。
底の見えない闇に永遠と落ちていくかに思えたが、誰かに受け止められる。
「大丈夫ですか?」
これがフワワと大男との初対面であった。
大男に抱えられたまま遺跡を脱出したフワワは治療を受け、一時的に大男の家に匿われる。
意識を取り戻した彼女は男に言った。
「た、助けていただいてありがとうございます……! 謝礼と治療費はもちろんお支払いいたしますので……!」
「謝礼はいりませんよ。あの台座にあったオーパーツはすべて私の稼ぎにさせていただきましたから」
治療費だけで支払いが済めば良かったのだが。実際には無理やり保証人にされていた借金をガルマ達にすっぽかされていたのも合わせて、莫大な負債を背負っていた。
その事実に途方に暮れるフワワだったが、大男が提案する。
「私が一括で負債を管理しましょうか? 返済は私の遺跡探索を手伝って、その収入を私がいただけば済みます。私としても遺跡のモンスターは問題ないのですが、オーパーツを探すとなると隠し部屋などに鼻が利かないもので。そこのところを経験豊富なフワワさんに補っていただけるのはこちらとしても助かります」
フワワはこの提案を飲んだ。住処もなかったため、大男の家に住み込みで借金の返済を続けた。その途中でシスイやガオ達もパーティに加わり、今のパーティとなった。
借金を返済し終えた後もフワワは流れで大男の家に住み続け、遺跡探索にも同行を続けている。
しかし今は大男の家があるホームの町ではなく、新しく遺跡が見つかった開拓村のような場所に泊っている。
ガルマと出会ってからフワワは彼のパーティにいた時のことを思い出していた。特に夜寝る前。明日の遺跡探索のために休養を取らなければいけないのは分かっているが、眠れない。
こういう時、フワワは外の風に当たることにしていた。宿から抜け出し、遺跡を軸に人が急速に集まりつつある雑多とした町をただ歩く。
夜には酔っ払いも多い。千鳥足でこちらに歩いてくる泥酔者をフワワが避けると、反対側の人にぶつかってしまう。
「あ、その、す、すみません……っ……!」
「あ? なんだよ、フワワじゃねぇか」
ぶつかったのはガルマだった。