このパーティ、マゾ多くない?   作:RKC

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5話

(フワワ目線)

 私はろくでもない者だ。

 しかし皆は言う。大盾を振るう力がある。魔力の効率が良い。耳が良い、と。

 それでも私の中で、私はろくでもない者に違いないのだ。

 

 皆はそんな私に優しくしてくれる。役に立っていると言ってくれる。

 だからこそ私は私のことを出来るだけ卑下しないように気を付けている。

 自虐は皆の言葉を否定することになるから。

 

 目を覚ますといつの間にかベッドの上に寝ていた。

 視線を動かすとベッドの縁に手をかけて私の顔を覗き込んでいるガオさんと目が合った。

 

「あ、目ぇ覚ました。大丈夫? 体痛くないかぁ?」

 

「え、あ、は、はい……」

 

 次第に何があったのかを思いだしてきた。遺跡でガルマを倒すために窒息して……。

 

「私、負けたはずなのに……」

 

「ん? あぁ、アカシが助けたんだってさ」

 

「ガルマさん、は……?」

 

「あいつ? 死んではないよ。まぁ死んだ方がマシだったかもしれないけど……♡」

 

 ガオさんがうらやましそうな表情を浮かべながらそう言うのであれば、相当な惨状だったのだろう。

 正直に言えば死んでいてくれた方が良かった。二度と会わなくて済むから。

 性根の悪い考えが浮かんできたことに対して嫌な気分になる。

 

「にしてもあいつ硬かったなぁ。フワワやられた腹いせに殴ろうとしたけど、私の手と肘じゃ歯が立たなかったし」

 

「あの人はスキルで体をアダマンタイトのように固くできるはずなので……」

 

「アダマンタイト、ねぇ。まぁアカシに壊された以上は所詮アダマンタイト止まりだったてことかぁ」

 

 ガオさんは自分の手を眺める。

 

「アダマンタイト以下かぁ……」

 

 彼女の瞳にじわりと涙が滲んだ。隠すようにベッドに顔を伏せる。

 そんなガオさんが心配で彼女の手を握った。部位鍛錬をしている武闘家特有の歪で硬い手。

 私からすればいったいどれほどの修練を積めばこうなるのか想像もできなかった。

 

「……ありがと。いや、本来フワワが一番辛い所なんだろうけど。ごめんなぁ、役回り入れ替わって」

 

「いえ、こちらこそ看病していただいてありがとうございます……。それより、遺跡での転移の後は大丈夫でしたか……?」

 

「私は一人だったから魔法発信辿ってシスイの所に合流したかなぁ。そしたらシスイの奴、1人で2人の相手しててさ」

 

「だ、大丈夫だったんですか……!?」

 

 この場にシスイさんは居らず。最悪の想像すらしたが杞憂に終わる。

 

「あぁ、全然。あいつらのナイフは刃渡りも短かったし、一撃必殺の技も持ってなかったみたいだから。あれじゃ半日経ってもシスイは殺せなかったよ」

 

「は、半日は言い過ぎでは……? シスイさんも魔力がなくなったら回復できないでしょうし……」

 

「いや、あいつの種族は天使だろぉ? 魔力の自己回復速度早い上、自分にかける回復魔法なら魔力変換効率68%だぜぇ? マジで半日持つよ、ああいう手合いならさぁ」

 

「でも、痛さで回復魔法が構築できなかったりとか……」

 

「それも大丈夫。あいつ、怪我したら反射で回復魔法構築してるから。武闘家は相手のパンチで目を閉じないように反射を抑える訓練するけど、あいつは逆にそういう反射を作ってるみたいでさぁ。ほとんど自動でやってるらしいぜぇ」

 

 そこまですごい事をしているとは知らなかった。シスイさんは元貴族らしく、勝手に引け目を感じていた私はあまり彼女と親密に話したことはない。

 素直に驚く反面、自分との差に暗い気持ちが影を作る。

 

「最初見た時、シスイの奴仁王立ちでグサグサ刺されまくっててさぁ。痛そうな顔と気持ちよさそうな顔を反復横跳びしてるもんだから、刺してる方が引いてたなぁ。そのおかげで楽に奇襲できたけど」

 

「あ、あはは……」

 

 笑うべきなのだろうか。私も人のことは言えないが、このパーティの女性陣は癖が特殊すぎる。

 そこでガオさんが私の手の甲を撫でているのに気付いた。短毛に触れるか触れないかの所で指を往復させている。

 

「あ、ごめん。つい気持ち良いから」

 

「そんなにですか……?」

 

 パーティメンバーから毛を撫でられることはよくある。ただ、私は自分の毛を撫でても特に気持ち良いとは感じない。

 皮膚と肉球では感触に違いがあるのかもしれない。

 

「うん、なんか微妙にくすぐったい感じがさ。この触れるか触れないかのギリギリのところがね」

 

 ガオさんは私の形状尺骨突起の部分で人差し指を細かく動かしている。

 

「失礼しますわ……って、目を覚ましたのですね。傷は全て引き受けましたが、お体は大丈夫ですか?」

 

「あ、はい……」

 

「果物を買ってきたのですが、食べられますか?」

 

「いただきます……」

 

 シスイさんは腰につけていたナイフで果物の皮を剥く。しかし、視線は私の毛を撫でるガオさんの手に注がれていた。

 

「あ”、い”っ”で!」

 

 そして当然のごとくナイフで指を切っていた。とはいえ血すら流れない。その前に反射で回復したのだろう。

 

「癖もほどほどにしろよなぁ。見境ないのはどうかと思うぜぇ?」

 

「貴方には言われたくないのですが。そもそも貴方がそのように羨まけしからんことをしているから目が吸われたのであって……!」

 

 そこまで言ってシスイさんはもごもごと口ごもる。そのまま当てつけのように一心不乱に果物を剥き終えていた。

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 少しだけ皮を残してくれたところを持ち手にしながら果物をかじる。酸味のある甘さがすきっ腹に染みた。

 

「良ければ、シスイさんも触りますか……?」

 

 私はシスイさんの方へ向けてぴこぴこと耳を動かした。

 

「い、良いのですか?」

 

「私ので良ければ……どうぞ……」

 

「ほ、本当に? じ、人中でも?」

 

「ど、どうぞ……?」

 

 人中の意味はすぐに分かった。シスイさんは鼻と唇の間にある溝で私の耳先を擦り始めた。

 そこ、人中って言うんだ。……なんでそこで?

 

「アタシも試す」

 

 ガオさんもシスイさんに習って私の人差し指を自分の人中で擦り始めた。

 

「なるほど……これはなかなか……」

 

 二人そろって毛で人中をくすぐる絵面をおかずに果物をむさぼる。

 咀嚼して、飲み込んでから言った。

 

「手で触らないんですか……?」

 

「ま、まさか手でも良いとおっしゃるのですか!?」

 

「ど、どうぞ……」

 

 人中より手の方が許されないと思っている思考回路はよくわからなかった。

 そして「人中でも?」と言っていたあたり、人中よりも許されると思っている個所はどこなのか気になった。

 

 恐る恐る頭に伸びてきた手に反応して耳を下げる。

 するとなぜか手が引いて行った。耳を立てる。

 また、手が頭に近づく。耳を下げる。

 

 シスイさんは再び手を引き、懐から金貨を取り出して差し出してきた。

 

「お納めください」

 

「え、あ、な、なんで……?」

 

 突如差し出された大金に困惑する。

 

「正当なる対価ですわ」

 

「い、いりません……」

 

「いけませんわ、無料でこんなことをさせては。大手ギルドがやればダンピングでしょっ引かれる行為ですわよ」

 

「だ、ダン……?」

 

「良いから受け取ってください」

 

 そのまま押しに負けて金貨を受け取る。

 

「あ、ありがとうございます……?」

 

 納得できたわけではないが、もらうものをもらったためお礼を言う。

 そうするとシスイさんは遠慮なく私の耳を触り始めた。

 

「そういえばアカシさんは……?」

 

「アカシさんなら外に居ますわよ。私がここに来るときにすれ違って声をかけたのですが、どうにも部屋に入りたくない様子で。……何かありましたか? しかし、転移する前まで一緒でしたし、それまでは普段通りでしたし……」

 

 シスイさんはオブラートに包んでいるが、言い換えれば私に会いたくないのだろう。

 理由はいくらでも見つかる。私のせいで厄介ごとを持ち込んだから。倒れて迷惑をかけたから。

 そういえば謝ってすらいなかった。ぎゅう、と胸が詰まるような気持ちになる。

 

「ごめんなさい……。私の過去のツケのとばっちりを与えて……」

 

「フワワさんが謝ることではありませんわ」

 

「そうだぜぇ。ああいう手合いは天災みたいなもんだし、気にするだけ無駄だって」

 

 心の中でどう思っていようと優しく接してくれる二人。私にはもったいない人たち。

 アカシさんにも謝らないといけない。立ち上がろうとして、脳裏を思考が駆け巡る。

 

 ……それは、許してもらうため? 烏滸がましい

 優しいから絶対に許してもらえる

    向こうは顔を合わせたくないのに? 自分勝手

 

 私は現実逃避気味に果物をかじった。

 

 

 

           ♢

 

 

 

 結局、私たちが拠点としている街に戻るまでアカシさんとはほとんど会話を交わさなかった。

 帰る道中、シスイさんとガオさんが気まずい空気を何とかしようとしてくれた事に罪悪感を覚えた。

 私は街に戻るなり、酒場で酒を飲んだ。随分長い事酒場にいたと思う。

 

「獣人の嬢ちゃん、よく飲むじゃねぇか。どうだ、飲み比べで負けたら俺に付き合うってのは?」

 

 途中変なのにも絡まれたが、私と同じペースで飲んでいた彼はいつの間にかつぶれて店主に引きずりだされていった。

 日が暮れ始めたころ、ようやく深く物事を考える理性がなくなってきた。

 私はアカシさんと同居している。この状態でもないと、とてもじゃないが家に帰れなかった。

 

「ただいまぁ……」

 

 今まであったことを忘れたわけではないが、気分は浮ついている。迷惑をかけた罪悪感も。愛想をつかされたかもしれない恐怖も。酒に逃げた自分への嫌悪も。

 酒精が心の奥深くに閉じ込めてくれる。

 よたよたと部屋の中に入ると、アカシさんが机に突っ伏していた。机の上には見慣れない酒瓶が置いてある。

 

 相当な下戸の彼が酒を飲むのは珍しい。案の定というべきか、酒瓶の中身は1/3も減っていなかった。

 

「大丈夫ですか……?」

 

 声をかけるが反応が遅い。彼は目を開けて緩慢にこちらを見た。

 

「寝室まで運びますね……」

 

 机で寝るのは体に悪い。彼に肩を貸して部屋まで移動する。

 

「……すみません」

 

 移動の最中、彼が話す。私は人と違って頭の上に耳があるため、今の位置関係では耳元で囁かれる形になる。

 それがくすぐったくて耳がピクリと痙攣した。

 

「いえ、これぐらい全然……」

 

「……あの男憎さを優先してしまった」

 

 何のことだろうか。

 

「……無力化だけでよかったのに、執拗に痛めつけてしまった」

 

 もしや遺跡での出来事だろうか。

 

「……何よりも優先するべき貴方を放って」

 

 彼は泣いていた。いつも笑顔でいる彼はそれ以外の表情を見せることは少ないのだが。

 慰めるべきだろうか。しかし、自嘲する人間にかける言葉などあるとは思えない。

 自分が悪いと思い込んでいる時、責められても気分が落ち込む。そんなことはないと言われても自分の気持ちとの不協和に苦しむ。

 

「私は嬉しいです……」

 

 しかし、酔っ払いの私にそんな理性はなかった。思ったことを口にする。

 

「私なんかのために心を動かしていただいて……」

 

 薄暗い笑みが浮かんでくる。彼が私のことを思って悩んでくれていた事に、彼の心の大半を私が占めていたという事実に。

 歪んだ独占欲だ。そのまま彼を寝室に運びベッドに寝かす。彼はベッドに寝転がるなり目を閉じて寝ていた。

 

 私は彼の上に跨った。普段ならきっとしない。酔っ払いの気の迷いだ。

 そのまま彼の胸の上に手を置く。そのまま生地をこねるように手を動かした。

 私たちの種族にとって最上の甘え仕草、同時に匂いをこすりつけるマーキング行為。素面じゃ絶対にできない。

 

 調子に乗った私は彼の上着をめくり、その鍛え上げられた腹筋に頬ずり。

 その時、地面が起き上がる。正確には彼が体を起こした。

 

 どくん、と心臓が跳ねる。酔いが一瞬で冷めた。

 

「あ、ご、ごめん……な、さ……」

 

 言い終わるより先に彼の手が頭を覆った。良く動かす耳の付け根、一番良い所に指が食い込む。

 

「貴方が家を出ていかなくてよかった」

 

 根元を押さえられ、無理やり立たされた耳に甘い言葉を流し込まれる。

 

「私に借金を返し終わって、何の縛りもなくなったにも関わらず」

 

 いつの間にか彼の左手が私の背中に回り、左腕を掴まれている。

 耳の付け根を按摩されてだらしない半開きの口。さも当然のように彼の口が重なりに来た。

 

 本当に、当然のように。だから回避できなかった。

 ……嘘、回避する気がなかった。

 

 私の種族に接吻の文化はない。とはいえ意味するところは知っている。

 体験は初めて。蜜で煮たリンゴの甘さ。

 

「…………っは……♡ はっ……♡ はっ……♡」

 

 作法を知らない私はずっと息を止めていた。酸欠の快感と愛情の文化に体温が上がる。

 汗を掻く機能に劣る獣人の私は口から熱っぽい息を吐いて空冷を図る。

 

 酒精で正気を保っていない彼の気まぐれで、正面から抱き合っている体勢から90度回転させられる。背中を支えられた状態で腹を指がくすぐる。

 

「ぅ、ぁっ~~~~~……♡」

 

 これは、あれだ。

     発情期のあの感じ。

 何で?   

 

 私の種族は長命で発情期の周期も十数年に1度。前の発情期から5年も経ってないのに。

 

 また、彼の顔が近づいてきた。拒む気は毛頭ない。

 彼に口移しで蜜を流し込まれて。逆らえるように設計されていない飢えや寝不足に似た疼きが腹から頭に走る。

 

「くるるるるるるぅぅ……♡♡」

 

 なんだこの痴女は。

 私だ。

 求愛にしても人前で出して良いゴロゴロ声じゃない。

 

 彼はいつの間にか服を脱いでいて、私も服をはだけさせられて。肌と毛で密着している。 

 

 私の毛で自らをくすぐるように彼が動いていたのも束の間。あれよあれよと覆いかぶさられる。

 

 ……そういえば、彼のスキルは体液が対象の好感度に応じた強度の媚薬になる、と恥ずかしそうに話していた。

 道理でこうもなるか、私。

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