性器が結合していないだけでエロ漫画に出てきそうな肉鎧装備で決闘に臨もうとする大男。もちろんこの体勢を提案したのはシスイである。
「なっ、なんだそれは!? というかお前一人で戦うんじゃないのか!?」
「えっ、あれ……私たちで戦う、と言ったはずですが。もちろんシスイさんも含まれていますよ」
こんな形で戦うとは大男すら微塵も考えていなかったが。
「なんじゃありゃ!!」
「こりゃひでぇーッ!!」
「下種もすぎれば清々しいじゃねぇか!」
外野はこの極悪非道な一手に大盛り上がり。さっきこの形態で戦うと知らされた大男。もうなるようになれ、と呆れと諦めが入り混じっている。
「はぁっ……はぁっ……はぁーー…っ♡」
言い出しっぺは羞恥と興奮で息が荒くなっていた。密着している大男に心拍が伝わるほど鼓動は強く早く打っている。何とか落ち着けて哀れな被害者の体裁を保っていた。
「彼女を盾に使って……! 卑怯と思わないのか!?」
「えっと……私1人に3人で戦おうとした貴方達のセリフではありませんね」
大男はその剛腕で顔と首をガードする。がら空きのボディはシスイが体を張って守っていた。
3人はたじろいだ。攻撃する場所がない。やるとすれば背中だが、あの分厚い筋肉の塊に人体の中でも特に丈夫といわれる背中への攻撃は果たして意味があるのだろうか。
その隙に大男は前進する。そして間合い一歩手前というところで大きく両手を振り回しながら攻勢に出た。俗に言うダブルラリアットの体勢で回転しつつ3人に迫る。
観客に囲まれたリングでは逃げ場が限られる。観客を見捨ててダブルラリアットの餌食にすればその限りではないが、3人にその選択肢はなかった。また大男にも観客にまで被害を及ぼす意図はない。
ある種茶番のような状況であったが、ともかく3人で一番力自慢のベイルが大男の腕を掴み、何とか食い止める。
回転は止まり、振り回されていたシスイも姿が良く見えるようになる。ほんの数回転だったが酔ったシスイは気持ち悪そうにしていた。被害者を装うのにふさわしい面になったのは不幸中の幸い。
動きの一瞬止まった大男に対して、ユイとカリンが背後に回った。ユイはそのまま掌底を繰り出し、非力なカリンは母指で肝臓の位置を狙う。
貫通力を重視した母指での攻撃すら筋肉の鎧に弾かれた。ユイの掌底も見た目にはまるで効いていないように見えた。
しかし、現実には打撃を受けた大男が膝を付く。
打撃を内側に浸透させる内勁。そう呼ばれるこの世界で主流の打撃技術である。
(脂肪がある方が衝撃を浸透させる層が増えて厄介だが……こいつの体はほとんど筋肉なのが幸いした。僕の内勁でも十分通る!)
破壊力は筋肉と体重が多ければ多いほど増す。しかし耐久力は個人差こそあるものの、体躯の大きさによらずそう変わらない。
ユイは自分でも大男を倒せると、強く確信した。
「押さえろっ!」
「おおっ!」
「分かってる!」
態勢の崩れた大男を拘束しにかかる3人組。しかし、うつ伏せのまま地面に押し倒すとシスイが潰されてしまう。それを嫌い、大男が膝立ちになるように手足を押さえた。
そしてユイが何度も大男の背中に掌底を叩きこむ。
「早く降参しろ! これ以上痛い目にあいたくなければな!」
「それは私に聞いているのですか?」
「こんな状況で何をとぼけて……!」
その時、違和感に気づいた。大男の右腕と頭はベイルが押さえているが、左腕が不自然に折りたたまれている。体の下にいるシスイへ手を回しているかのように。
同時にくぐもった音が僅かに聞こえた。
「聞く相手を間違えていますよ」
「ぅぐっ!!」
大男がさっきまでシスイの口を塞いでいた左腕を体の下から出して3人に見せる。その直後、ユイが打撃を叩きこんだ瞬間に嗚咽が漏れた。
「し、シスイ!?」
3人が彼女の声を聞き間違えるはずもない。動揺した隙をついて大男がぬるりと立ち上がり、肩や首を回して始めた。その伸び伸びとした所作にはまるでダメージがない。
「ど、どうして……! いったい何が……!?」
「えー……スキル、といえば察しが付きますか?」
そう言われた3人は数瞬思考を巡らせ、恐ろしい推測にたどり着く。
「ま、まさかお前のスキルは……! 他人のスキルを操る……いや、他人にスキルを強制的に使わせるスキル……!?」
そう考えればすべて合点がいく。シスイの「他人の傷を自分に移すスキル」を強制的に発動することで、大男のダメージは全てシスイに流れる。
ノーダメージなことも、動きにくくなるにもかかわらず大仰な肉鎧をまとったこと、シスイがうめき声を漏らしたことも。
シスイがわざわざ大男の傷を治す理由は(3人にとっては)全くないのだ。そうとしか考えられない。
「その……当たらずとも遠からずとだけ言っておきましょう。あー……それで、来ないのですか?」
両手で手招きをして誘う大男。しかし、3人は動けない。大男を攻撃してもダメージは全てシスイに行くのだ。
そしてシスイがどれだけ持続的に怪我を治せるかを知っている3人は、持久戦では絶対に勝ち目がない事を悟っていた。
あるいは、大男からシスイを分離できれば。
「えー……構いませんよ、私はいくらでも待ちます。あー……えっ、……暇つぶしの道具なら丁度ここにあるので」
大男は自分に括り付けているシスイの胸元に手を置き、上着のボタンを一つ外した。
「なっ……!!」
「いいぞぉ!!」
「やれやれぇ!」
「眼福だぜぇ!!」
絶句する3人。にわかに色めき立つ外野。
向けられる視線に大興奮のシスイ。外されたのはボタンだけでなく彼女の理性のタガ。開かれたのは胸元だけでなく彼女の新しい性癖の扉。
「えー……どこまで露出すればあなた達は戦う気になるでしょうか」
大男は諦めを超えた悟りの境地。昇天しかけていたシスイの顔を手で覆い隠し、胸元のボタンを一つずつ外していく。
「きっ、貴様ぁああぁぁ!!!」
威勢だけは人を殺せそうだが、現実には手出しができない。
シスイと大男を繋ぐ紐を切ろうにも素手で布を引き裂く膂力は3人に無かった。背中を攻撃している時に見えた結び目も、結んだ本人ですら解けなさそうなほど無茶苦茶だった。
武器を禁止されたことがここにきて3人に大きくのしかかっていた。
あと1つボタンが外れれば恩人のたわわが万人の目に晒されるというその時、3人に突破口が見える。
大男の後ろに陣取るフワワとガオ。彼女たちは丁度3人の武器を預かっている。
ユイが大男に気づかれないように自分のベルトに手刀を当てて、意図を伝えようとする
(頼む……! 大男を攻撃しろとまでは言わない! 紐を切ってくれ……!)
「えっ、えっ……?」
フワワはなんとなく自分に合図を出されていることを理解したものの、細かい内容までは理解できない。
ガオはそもそも合図にすら気づかない。
大男も同じだった。手に伝わる柔らかい感触についてできるだけ考えないようにするのに精いっぱい。
しかしシスイだけは違った。冴えているのは恥辱の性感だけでなくその思考も。大男の指の隙間というわずかな視界からユイのサインの意図、それが誰に出されているのかまで完璧に把握する。
そして大男の首の後ろに回している手でフワワにサインを送った。この紐を切れと。
「は、はいっ……!」
シスイからのサインには反応できたフワワ。預かっていたナイフを抜き、群衆のリングの中へ躍り出て大男の背後に近づく。
そして一刀のもとにシスイと大男を繋ぐ紐を断ち切った。
「よし! 今だ!!」
急なことに反応が遅れた大男。カリンとベイルが大男に体当たりして怯ませた隙にユイがシスイを確保した。
「えっ、あれ、紐切れて……。これ、刃物で切ったような……」
「武器を使ったのは私たちじゃない、善意の第三者よ!」
「はっ! お前のふるまいのツケが回ったな!」
呆然とする大男。勝ち誇る、とまではいかないまでも現時点での優位を悟る2人。
「シスイ、大丈夫か?」
「……っ”、……ぅ”っ”……」
ユイがしゃがみこむシスイの肩を抱いて声をかけるが、彼女はうつ向いたまま小刻みに震えるだけ。
「大丈夫だ。後は僕たちに任せてくれ」
一度シスイの体を強く抱きしめた後、大男の方に向かって見栄を切るユイ。
「これでもう回復はできないな! 3人でお前1人へかかるのに微塵の罪悪感もない今、やりすぎても文句は無し……っ!?」
その時、ユイの天地がひっくり返る。背後にいたシスイが彼の腰に手を回し、バックドロップ。
シスイの足とユイの背中で綺麗な橋が架かっていた。
「ぐっ……! な、なに、が……!?」
バックドロップの怪我はシスイが引き受け、一瞬で治したためダメージはない。
しかし、事態のつかめないユイが間抜けな格好で固まっていると大きな高笑い。
「……ぶっ”、あっはははぁはははぁははははは!! はぁーーぁ……っ!!」
突如笑い出したシスイ。途中までバックドロップの技後姿勢で器用に笑っていたものの、お腹が痛くなったのか地面に寝そべりながら自分の腹を抱える。
「それは……笑いますわね、あの人たちも!」
「し、シスイ……!?」
「ど、どうしたの!?」
「しっかりしろ!」
シスイが今までに見せたことのない爆笑。3人組も大男やフワワ、ガオまでもあっけにとられていた。
「いえ、失敬……。そう演出したとはいえ的外れな貴方達があまりにも滑稽で……!」
思い出したようにまた笑い始めるシスイを前に、3人は呆然するほかない。
「気が動転したのか? 大丈夫だ、安心しろ。もうあの男に脅かされることは……」
「えぇ、えぇ。もう脅かされることはありませんわ。ただし……」
シスイは膝を曲げてタメを作る。
「貴方達からですわぁ!!」
跳躍の勢いままに、一番近くにいたベイルの首に腕をひっかけ重心を崩す。そのまま地面への断頭台ギロチン。
あまりに危険な技を易々と行使できるのは彼女のスキルあってこそ。
「ぅぎっ」
ベイルの受けたダメージをすぐさま自分が肩代わりし治癒する。
「お”、っほぉ……♡」
喉と後頭部を押さえながら悶えるシスイの表情は恍惚としていた。
まるで理外の振る舞いをするシスイに、3人組は一歩後ずさる。
「一体どうしたんだ、シスイ!」
「目を覚まして!」
「どうしたもこうしたも……この決闘に勝てば貴方達が二度と私たちに絡んでこなくなるのですから、張り切りもするというものですわ」
すん、真顔で言い放つシスイに3人は困惑を強める。
「そ、それは……どういう……?」
「……そういう、言葉を言葉通り受け取らない。そういうところ、ずっと。あの時からずっと。ずっと、ずっと」
一言紡ぐたびにシスイの目が濁っていく。一番近くにいたカリンのそばにゆっくりと近寄り、大きく腕を振りかぶった。
そのまま思い切り平手打ちを尻に叩きこむ。
「っはぁぁあああ!! ーーーぁぁぁぁぁん……!♡」
その平手打ちのダメージを引き受けたシスイ。恥も外聞もなく大きな声で喘ぎ、大衆の前で余韻に浸る。
「想像はしていましたが、人のケツ叩いてその痛みを肩代わりするのは良いものですわね……。自分で自分を叩くのは相当に力が入らないですし」
平手打ちの衝撃だけは食らったカリン。よろける彼女を捕まえて再び大きく腕を振りかぶるシスイ。
「ひっ……!」
「止めろ!」
「そんなことをして何の得になる!」
訳の分からなさに怯えるカリンを助けるため、ユイとベイルがシスイを捕まえた。
腕を掴まれたシスイだが、無理やり体をひねって拘束を解こうとする。
押さえつける力は強くなる一方だが、それに比例してシスイの力も強くなる。
「シスイ、それ以上は……!」
拘束に無理やり逆らえば、必然訪れる関節の破壊。
その惨劇の数瞬前に二人は手を離した。
「っ……ほほほぉぉほおおぉ……♡」
ずきずきと痛む関節が治る心地よさにご満悦な彼女を見て、3人組の心には嫌なものが生じていた。
その表情の変化を見逃さずにシスイが畳みかける。
「何の得になる、と先ほどおっしゃいましたわね。私の訴えをこれっぽちも聞いていない良い証拠ですわ。何度も、繰り返し、執拗に、再三、度々、改めて、重ねて申し上げているではありませんか。私は傷が治った時の安心感とマイナスからゼロへの相対的幸福が大好きだと」
シスイは打って変わって弾けるような笑みで話す。
「そ、それは……俺たちが気に病まないための……嘘で……」
「だれが、いつ、そんなことを言いましたか?」
彼女の幼少期に嫌という程刻まれた嫌がらせのような詰問。被害者として身に染みているその所作を今は加害者としてのぞかせる。
「それは……」
「貴方達の頭の中だけでしょう? 私という命の恩人への崇拝か何か知りませんが、くだらない尊敬とそんな人間がいるはずないという常識のろ過装置を通って出てきたピュアで世間知らずな妄想」
「しかし、今更妄想と認めるわけにもいきませんわよね? だって妄想だとすれば、貴方がたは自己の空虚な妄想で命の恩人の人間性を否定し続ける善人の皮を被るとんだ悪党。誰だって、自分が悪いと思いたくありませんわよね?」
獲物を値踏みする蛇のように3人にまとわりつくシスイ。一言ごとに3人の体や首、顔に手を回し、舐めるような距離感で囁きかけていく。
「わかります、えぇわかりますわ。誰だって自分が正しいと思いたい。その正しさを人に理解してほしいとおもうものですわ。自分が間違っているのは怖い、恐ろしい、人が社会的生物として集団を営み続ける限り、この本能からは逃げれられませんわ。だから声高々に主張する。自分の正しさを、正義を」
「だから容認したのです。無言で、愛想笑いで、容認したのです。だって私は良く知っていますもの。何を言っても聞いてもらえない、自分の正当性をまるで認めてもらえないあの絶望を」
真っ青な顔で身震いするカリンに囁く。
「怪我するのが好きって……そんなはずあるわけないじゃない!(声真似)」
それはシスイが己の性癖をカミングアウトした時に言ったかつての彼女の言葉。
その場に蹲って泣き始める彼女から離脱し、視線を彷徨わせるベイルに囁く。
「気持ちは嬉しいが……下手なフォローは止めてくれ(出来るだけ低い渋めの声)」
同じくかつての彼の言葉。
シスイはその場で膝を付く彼の肩に手を置きながら、ユイの方を向く。
「ユイ様は……なんとおっしゃっていましたっけ? 覚えていらっしゃいますか?」
「ぼ、僕は……」
「覚えていなく結構。何にせよユイ様にはこれから完全なるとどめを刺すといたしますので」
言い淀む彼を無視してシスイはベイルの身に着けている皮のベルトを外して手に持った。
「貴方達のスキルはこういった直接戦闘向けの物ではない。しかし戦闘能力という点において、私は貴方達誰か1人と戦っても勝てはしないでしょう。3人の実力をもってすれば、私を抑え込むなど容易なはず。しかし、現実にはそうなっていない。これはなぜだかお分かりでしょうか?」
シスイは悠々と語りながら自らのスカートに手をかける。
「それは今のあなた達と私では決定的な差があるからです」
そのままスカートを上へとたくし上げ、ワンピースのように上着とスカートが一体となった法衣を一息に頭から脱ぎ捨てる。
そのグラマラスでありながらも洒脱さを感じられる優雅な下着姿。野次馬がひときわ大きな歓声を上げた。
「それすなわち正当性。己の行為に対する罪悪感の無さ」
シスイは手に持った革のベルトを大きく振りかぶり、己の体に巻き付けるように叩きつけた。
「貴方ぁぁあああああ!! ……方、の正義はぁ……♡ 私のこの痴態を前にぃ……♡ 脆くも崩れかけ……♡」
「一方ッッ”ッ”!! ……私の正義はぁ……♡ あなた方の度重なる私の心への狼藉……っ♡ 果てはああァッ”!! 私のぉ……♡ 大切な人への迷惑行為でぇ……♡ 揺るぎないものにぃぃいいぃッ!!」
素肌に当たる革の鞭。数十回叩きつけられればショックで死ぬ者さえいる程の痛みに、悶絶と陶酔を反復横跳びしながらまくしたてるシスイ。
「正義なき力は悪だの……♡ 力なき正義は無力だの……♡ ちゃんちゃらおかしいですわぁああぁッ”!! 正義がッ”!♡ 正義こそが力!♡! 差別迫害殺人ッ”♡ 果ては公開SMプレイまでもをおぉおおッ”ッ”♡♡ 可能にする無限の意思の力ぁああ”ッ”ッっ”♡♡♡」
公衆の面前で半裸の自らをしばき回し悦に入るシスイ。その目と言動はイっていた。
「屈しなさい”ッ”!♡ このッ”♡♡ 私の
「分かった!! 分かったからやめてくれぇえええぇぇッ”ッ”!!!」
興奮しすぎて汗をかいている上に、瞳孔の上半分が瞼の裏に隠れるシスイの前にユイが許しを請う。
その敗北宣言を前に、シスイはベルトを大上段に振りかぶった。
そして風呂上がりの爺が手ぬぐいを股間越しで背中に叩きつけて水を落とすみたいにする。革のベルトで。
「正義執行ぉ”ぉ”お”お”お”ぉ”お”お”お”ん!♡!♡!♡♡!!」
地に落ちたのは彼女の汗と品位と世間体と意識だった。