TS皇女様の救国戦記〜エロゲーの凌辱系ヒロインさん、確定敗戦ルートを全力で覆す〜 作:真嶋青
「ざっけんじゃないですわよ……」
心筋梗塞で倒れてTS転生した。
前世の記憶を取り戻したのは今さっき。
ここは、凌辱系エロゲー『ヴァルキリア・ブレイク』の世界。略称は『ヴァルブレ』。
DLs〇teの90%OFFセールでタダ同然の値段で購入したのは覚えている。
シナリオの方は覚えるまでもないというか、敵国に侵攻されあっさりと敗戦したタダマーン皇国の皇女(つまりわたくし)が捕虜となって凌辱されまくるという、起承転結もクソもない酷い内容だったはずだ。
壊滅的なネーミングセンスのおかげで、覚えたくもないのにキャラクターと舞台となる国の名前はしっかりと海馬に刻みこまれている。
わたくしの名前は、セーシ・ド・ビッチ。
もう人の名前じゃないでしょうに。
「開発者はノリと勢いだけのドブカスに違いありませんわ……」
わたくしの前世は、童貞のまま死んだ社畜である。
薄れゆく意識の中で、童貞捨てたかったなぁという下らない無念を抱いていた気がする。
神は二度目の人生でもその願いを叶えてはくれないらしい。
エロゲーに転生させるなら女の子にチヤホヤされる主人公とかでも良かったじゃないですか。
どうして竿役に凌辱される可哀想なヒロインなんですの?
もしかして、童貞が可哀想だから、次はいっぱいエッチなことができる世界に転生させてあげようって配慮かしら?
だとしたら何もかも選択を誤っていますわね。
前世のわたくしも、どうしてこんな下らないゲームを最後までプレイしてますのよ。
そんなんだから彼女のひとりも出来ずに死ぬんですわ……。
「セーシ? 顔色が優れないが、どうかしたかの?」
長机の対面に座る母――ディープ・ド・ビッチ皇后が、スプーンをスープ皿に浸しながら首を傾げると、背中まであるショッキングピンクの髪が絹糸を思わせる滑らかな動きで揺れた。
彼女はもうわたくしを含めた三児の母なのだが、まだまだ二十代を名乗れそうなピチピチ具合だ。
たしか、わたくしが今十六歳だから、母は既に四十路近い年齢のはず。
それでもまだまだハリのある母のグラマラスボディは「エッチするためだけに生まれてきました!」みたいな淫靡なオーラを漂わせている。
スケスケのネグリジェみたいな服のせいで余計に目の毒だ。
今まで当たり前だと思っていたけれど、なんですのよ、そのイカレタ格好。
ドスケベすぎてけしからん!
家族と食事をするときの姿ではないでしょうが!
なんて、わたくしも
これもう歩くだけでスカートが翻って中身丸出しじゃないのよ。
服の意味がありませんわ……。
ちなみに、わたくしも母と同じ髪色で、肩まで垂れるピンク髪をツインテールに結んでいる。
親子そろって馬鹿みたいな髪色しくさって。
地毛がショッキングピンクってどんなメラニン色素ですの?
「セーシ、聞いておるのか?」
「え? あ、ああ。何にも聞いてないっす……ですわ」
いけませんわ。
突然頭に流れ込んできた前世の記憶の影響で、思考と言葉遣いに乱れが出てる。
どうにか適応しないと…………って、そんなイキナリできるかぁ‼︎
「ないっす……? なんじゃ、その奇天烈な喋り方は?」
奇天烈なのはあなたのムチムチボディですわよ。
なんですか、その明らかに物理の法則を無視したデカ乳は?
いい加減にしなさいよ!
……まあいいや、とりあえず謝っておきましょう。
「失礼しました。舌を噛んでしまいまして。ぼーっとし過ぎていたようです」
「そうか。少々疲れが出ておるのかもしれんな。今日は早めに寝て身体を休めておけよ。明日は、大切な婚約式なのじゃから」
「そう、ですね」
そうか、明日は婚約式か。
つまり明日は、ゲームのチュートリアルが始まる日というわけだ。
わたくしの婚約相手は、ネイキッド・エス・リョナー。
隣国であるリョナー王国の第三王子で、このゲームにおける竿役を担っているイカレポンチだ。
最初は紳士ぶって近づいてきて、婚約式のその日のうちに、わたくしを部屋へ連れ込んで押し倒す。
……それだけでも十分クソ野郎なのに、奴の本当にヤバいところはその先にある。
『あっ、そうだ。タダマーン皇国攻め滅ぼして、手に入れたろ!』
こんなノリで、和平のための婚約を踏み倒し、独断で戦争をおっ
碌でもねぇ。本当に碌でもねぇですわよネイキッド。
つーか、どんだけ弱いんですのよ皇国兵。
相手は戦略も何もない、猿の集まりですわよ?
……と、そこまで考えて、ふと気づく。
わたくしが知っているのは、「負けた後」だけだ。
エロゲーのシナリオは、凌辱される側の視点でしか描かれない。
ネイキッドがいつ兵を挙げるのか。皇国軍が何人いるのか。山賊どもがどこから湧いてくるのか。
どうして皇国は負けたのか。
そんなものは、ゲームのどこにも書かれていなかった。
負け方だけを知っていて、勝ち方を何ひとつ知らない。
笑えない。
ふと、長机の端に座る父が目に入った。
いつもは政務で忙しくて、一緒に食事を取ることの少ない父。
忙しい所を押して、わたくしの様子を見に来てくれたのだとわかる。
「セーシ、本当に大丈夫なのか? 先程から様子がおかしいが……」
大丈夫か、と聞きたいのはこちらの方だ。
父の顔には、隠しきれない疲れが滲んでいた。
ネイキッドとわたくしの婚約が決まってから、今後の国家間の関係についてリョナー王国と密な話し合いを繰り返しているようだし、政務のため寝ずの晩を繰り返しているのだろう。
これだけ苦労して結んだ協定は、ネイキッドの性欲というしょうもない理由で台無しになるのだが。
「うむ。やはり心配じゃな。侍医長を呼んで
人の気も知らずに呑気なことを。
そんな邪険にする考えも浮かぶが、胸の奥から締め付けられるような苦しさが込み上げてくる。
親に心配されるときというのは、妙に落ち着かない気持ちになるものだ。
たとえ前世の記憶を取り戻したって、眼前の二人がわたくしを育てた愛すべき家族であることに変わりはない。
食卓には兄弟たちもいる。
使用人たちも、口は挟まないが、揃って不安そうにわたくしを見ていた。
中でも、一番年下の弟は、今にも泣きそうな目をしている。
……待って。
あれ、でも弟なんて、ゲームにいたかしら?
思い出せるのは、牢の中の母とわたくし、それから父の処刑シーンだけ。
弟の立ち絵も、ボイスも、名前すら、なかった。
ゲームに描かれなかったのか。
それとも、描かれる前に、いなくなったのか。
まあ、単なる抜きゲーに男キャラについて深く言及しないのも無理はない。
今はそれよりも明日から始まる地獄の日々について考えなければ。
「はぁ~~~~」
我慢していた溜息が、ダムが決壊したような勢いで漏れ出した。
わたくしは知っている。
このままでは、この国は滅び、今こうしてわたくしを心配してくれている大切な家族までもが、狂い果てた混沌へ堕ちる。
父は拷問の末に死に、わたくしと母は、ネイキッドの性玩具として生涯を終える。
「……まっぴら御免なすって」
そんな運命、誰が受け入れられる?
少なくとも、わたくしには無理だ。
無意識に力がこもり、スプーンを持つ手が震えた。
「せ、セーシ? 大丈夫か?」
「おい、誰か! 今すぐ侍医長を呼んで参るのじゃ!」
慌てた両親を、手で制する。
わたくしは、できるだけ落ち着けた声音で答えた。
「申し訳ございません。本当に大丈夫ですから、心配なさらないでくださいませ」
「……本当に大丈夫なのかの? この母に遠慮などいらぬのだぞ?」
「ええ。本当に大丈夫ですから」
「セーシ。遠慮するな。体調が悪いなら正直に申せ。明日は大切な婚約式なのだぞ」
「陛下も、心配し過ぎです」
微笑み掛けると両親が顔を見合わせる。
それから、揃った動きでまたわたくしを見て、これまた似たような困り顔になった。
さらに隣を見れば、まだ幼い弟の泣きそうな瞳がある。
それを前に、わたくしは逆に平静を取り戻す。
お姉ちゃんをまっとうしなければ!
「心配ご無用です! それより食事を楽しみましょう! 今日はわたくしの大好物ばかりなのですから!」
そう言って、わたくしはステーキを豪快に頬張った。
わざとらしすぎるくらい満面の笑みを見せてやると、ようやく皆も少し安心したのか、口元を綻ばす。
「これ、もう少し上品に食べんか。もう貴様も子供ではないのじゃぞ?」
母は本気で怒っているわけではないようで、
お小言を言われたが、今はそんな団欒の時間も心地が良かった。
この温かさを、絶対に失わせるものか。
婚約式は明日。
その後ネイキッドがリョナー王国へ帰り、タダマーン皇国を攻め滅ぼそうと動き出すのは、おそらく数か月後だ。
残念ながらゲームの知識は、負けた後のものしかない。
ゲーム世界の知識はエロCGの回収手順くらいのものだ。
味方も、軍も、時間も、足りないものだらけ。
それでも。
非常に業腹ではあるけれど、転生してしまったものは仕方ない。
わたくしは、ドブカスが作ったこのクソゲー世界を、シナリオガン無視で攻略する決意を固めた。
まずは明日、あの部屋に入る前に、やっておくべきことがある。
絶対に、絶対にネイキッドの玉を蹴り潰し、わたくしの貞操と平和な国を守って見せますわ……!