「ヤマト、ワープしました」
「続いてハレカゼもワープするぞ」
もう何度目かも分からないワープを、ヤマトに続いてハレカゼは行った。ヤマトとハレカゼのワープ座標が大きくズレたのは今のところ第一回のワープのみ。それに関しては、ガミラスの浮遊大陸が悪さをしたとはっきり原因が分かっている。
今回のワープ、操縦桿を握るのは航海士の内田まゆみ准宙尉だが、既に数度のワープを経験している。問題はないだろう。
「ワープアウトしました。ヤマトとの通信の確立を……」
納沙二尉の席に座っていた、宇田三尉が言葉に詰まった。いつもなら即座に通信確立の言葉が続くのに、妙なこともあったものだ。どこか壊れたのだろうか。
「ヤマト、予定宙域に姿がありません!」
「なんだと!?」
「レーダーの感知範囲限界まで探査していますが、それらしき艦もありません。完全にロストしています!」
これは私の手に負える事態じゃない。艦長に判断を仰がなければ。幹部乗組員を呼び出し、即座に対応の協議に入った。
「ヤマトが太陽系の時同様、何かに引っかかってしまったのではないでしょうか」
「前回と違い、今はガミラスの脅威が無いんだぞ。すぐに連絡が来ないのは何故だ」
「ワープで通信システムがダウンしたとかじゃないですか。座標がずれたなら、ヤマトそのものにも大きな損害が出ているはずですし」
その可能性は十分にあるか。ならしばらく待ってヤマトより通信が回復するのを待つべきだろう。
「い、一番最悪なのは次元断層にヤマトが入り込んじゃってた場合だよね」
「知床二尉、次元断層とはなんだ」
「現在の宇宙と異次元の間にある空間ですね。ワープで空間跳躍する際、運が悪いとそこに紛れ込む事があるみたいです」
「イスカンダルからもたらされた波動エンジンに関する説明の中で、ほんの少しだけ次元断層に関する記述があったね」
次元断層か。落とし穴のようなものという認識でいいのだろうか。
「理論上、次元断層と言われるものがある事。イスカンダルもそれを完全に観測した事は、今だにない事だけ書かれていたよ」
知床二尉は航海長との職務についているだけあり、ワープの事は熟知している。その性質、現時点で分かっている危険性などは知床二尉以上に知っているのは、艦長くらいのものだろう。
「艦長はどう思いますか?」
「可能性はあると思うよ。問題があるとすれば、イスカンダルでさえ把握できていないものが、本当にあるのか分からない事だね」
「では次元断層と言うものが存在していない可能性もあると」
私の問いかけに艦長は即答を避けた。
「ワープを失敗した時の原因の何割かは、次元断層かもしれない。だけどその全てが同じ原因だったわけじゃないだろうしね」
「なるほど。つまり艦長は、ヤマトが単純にワープに失敗して、爆発四散した可能性もあるって考えてるんですね」
「まぁ、そう言う事だよココちゃん」
太陽系でヤマトとはぐれた時と同じような会話が、またもや繰り広げられている。あの時と同じなら、西崎三尉が騒ぐはずだが。そう思って視線を向けると、意外な事に彼女は落ち着いていた。
「どっちにしろ、しばらくは様子を見るしかないって事でしょ。艦長はいつまで待つつもりなの?」
「あまり長時間待つつもりはないよ。ヤマトの座標が大きくイスカンダル寄りにズレだだけなら、ヤマトは私たちに構わず先を急いでるはずだからね」
想定できる一番いいパターンは、予定していたよりも、さらに先にワープ座標がずれた場合だ。その場合ヤマトは私達を迎えに来ることはあり得ない。
「長くて一日かな」
長くもなく短くもない。丁度いい塩梅の時間だと思う。ただでさえ時間の限られた航海だ、それ以上は待てない。
ここまで一度も話題に出てないが、副長として一つ確認しなければならない事がある。正直あまり気は乗らないが、仕方が無い。
「一日待ってもヤマトが見つからなかった場合、どうしますか」
「一応ハレカゼにも、イスカンダルまでの航路図はあります。ハレカゼのだけで向かう事は可能ですね」
「イズモ計画で移住先の候補地としていた、星系の地図あるよね」
納沙二尉、知床二尉の二人が出した案は極めて現実的なものだった。
「移住先を見つけてどうする。この
「そ、そういえばそうだったね」
「となると、一度地球に帰ることも視野に入れなければならないのか」
できればイスカンダルを目指したい。だが、自動航法装置のないハレカゼで、本当にイスカンダルまで到達できるのだろうか。
「先の事は後で考えよう。それより今は、ヤマトを発見する事が先決だよ」
「航海予定を考えると、あまり大きく動かない方がいいでしょうね」
「丁度いい機会だし、少しゆっくりしようか。艦橋には操舵手とレーダー手、それと幹部乗組員一人を残しておけばそれでいいよ。みんな交代で休憩を取ろう」
私はてっきり百式偵察機を使って、広範囲に捜索するものだと思っていた。
「こんな時に正気ですか?」
「こんな時だからこそだよ。長い航海なんだから、休める時に休んでおこう」
幹部乗組員として知床二尉が残り、レーダー手に
「宗谷さん、ヤマトが行方不明になったって本当!?」
少し小腹が空いているくらい我慢すればよかった。食堂につき、人気の無い食堂で一息ついていたら給養員三人組に捕まってしまった。
「伊良子三尉。仮にも士官なんだから、人目のあるところであまりはしゃぐべきでは無い」
「人目があるって言っても、ここには私達しかいないよ。気にしないで」
「そうそう。気にしな気にしない」
私の注意に双子の給養員。
本来ならこんな馴れ馴れしい態度、褒められてものでは無い。だが下手に給養員の気を損ねては、今日みたいに突然押しかけて食事をとる。なんて事が出来なくなるかもしれない。料理番の機嫌は取っておくに越したことはない。
「本当だ。一日待ってヤマトが姿を現さない場合、ハレカゼは単独行動に移る事になる」
「単独行動って事は、人類の移住先を探すって事?」
「違うよほっちゃん。イスカンダルに行くって事だよ」
「けどイスカンダルへの性格な航路は、ヤマトにしかないんだよ。ハレカゼ単艦だと地球が滅亡するまでに辿り着けるかな」
双子だと言うのに、二人の意見は真っ二つに割れた。移住先を探すのと言う考えは、安定した選択肢に思える。一度地球に戻は必要はあるだろうが、辿り着けるかも分からないイスカンダルに向かうよりはよっぽど成功率が高そうだ。
逆にイスカンダルに向かうのは、成功した時は地球が元に戻るが失敗すれば人類は滅亡する。リスクの大きい考えだ。二人の性格の違いが出ているようで面白い。
「タイムリミットギリギリまでイスカンダルに向かって、ダメそうなら引き返して移住先を探すとかでいいんじゃないかな」
「イスカンダルがあるかも分からないんだよ。ならできる限り早く移住先を見つけて、一人でも多くの人を移住させる方がいいよ」
「イスカンダルをただ一途に目指す方が絶対にいいよ」
両者のいいとこ取りをした伊良子三尉の意見は、二人から拒絶されてしまった。個人的にはなかなかいい意見だと思うが、中途半端と言われれば否定はできない。
「残念だが、その後の方針についてはまだ定まっていない。タイムリミット前には結論を出す予定だが、それまでは考えないでいたいものだ。あまり、気持ちのいい話ではないからな」
地球人類全てを救う為に、地球人類全てを賭けるのか。それとも少数の人類を救う為に、その他大勢の人類の命を捧げるのか。いずれにせよ、ハレカゼだけで決めるにはあまりにも大きすぎる問題だ。できる事ならそれを決めるのは先延ばしにしたい。
「そうだよね。全人類を救う為の公開だったのに、急に人類の救い方を選ばされても困るよね」
「他人事のように言うが、士官である以上は伊良子三尉にも意見を聞く事になるかもしれないぞ」
「えー、そう言う責任の重い事は艦橋の人達で決めて欲しいな」
杵崎姉妹がみかんちゃん頑張れ、なんて他人事のように言っているがこの二人ももしかしたら無関係でいられないかもしれない。
「ハレカゼは極めて少ない人数で運用されているからな。艦長の考え方次第では全乗組員による合議、なんて可能性もあるぞ」
三人は信じられない様子だが、
『こちら艦橋。艦橋要員はただちに艦橋に集まってください。繰り返しますーー』
スピーカーから流れた呼び出しに、私は重い腰をあげた。おそらくヤマトが見つかったのだろうが、もう少しゆっくりと軽食を食べていたかった。
「余剰次元の爆縮、と言うとどう言う事だ?」
野間准宙尉の報告は、私にはピンとこないものだった。観測されたポイントに急行しているようだが、それがどうヤマトと関係があるのかイマイチ理解できない。
「波動砲」
「……波動砲が使われたと言う事か」
立石二尉の言葉で、ようやくその意味が理解できた。確かにそれはヤマトだ。
「問題はどうしない波動砲が使われたのか、ですね」
「敵に対してなのか、それとも全く別の何かなのか」
「どっちにしても、着けば分かるよ。警戒を厳にしつつ、急いで向かうよ」
波動砲が使われた地点は、それほど離れていなかった。数分でヤマトはレーダーに捕らえられた。
「ヤマト発見。ですがガミラス艦により曳行されています」
「まさか鹵獲されたのか!?」
「ヤマトに通信を……ヤマト前方にワープアウト反応多数確認!」
ヤマトの前に現れたのは、弩級戦艦含む十数隻のガミラス艦隊だった。
「ヤマトを救出するぞ!」
「待ってください! ガミラス艦がヤマトを曳航しているガミラス艦を攻撃し始めました!!」
「なんだと!?」
同士討ちだと? 一体どうなっているんだ。
「しろちゃん、何が起きているのかは後でいくらでも考えられるよ。今はヤマトの救出を最優先に」
「す、すみません」
「リンちゃん、最大戦速で敵艦隊に突入するよ」
ハレカゼの射程まではまだまだ距離がある。ヤマトが敵に接収されるまでに到達できるだろうか。
「ヤマト回頭しています。ガミラスに制圧されたわけではないようです」
「敵艦隊の動きは?」
「ヤマトを追撃するつもりのようです」
「じゃあヤマトとの間に割って入るよ」
結果的にこれは徒労に終わった。ヤマトが閉じ込められていた次元断層、その開口部が元に戻ろうとする反動で一時的に裂け目が広がり、ガミラスの艦隊は悉く次元断層へと飲み込まれていった。
「ヤマトとの通信回復しました」
「無事を確認しておきたいから通信を繋いで」
それからしばらくして、スクリーンに沖田艦長が映し出された。
『心配をかけたな、岬艦長』
「ご無事そうでなによりです」
それから一言二言二人は言葉を交わすと、通信を終了した。
念の為この後、ヤマト乗組員が何者かと入れ替わっていないか確認のため私がヤマトに向かう事が決定された。これは沖田艦長からの提案だった。通信だけだといくらでも誤魔化せるからと言っていたが、他に何か目的があるのは明らかだ。今から気が重い。
鏑木美波
2186年9月4日 誕生
2193年4月1日 飛び級により防衛医大入学
2195年3月31日 防衛医大卒業
同年4月1日 大学院入学
2198年3月31日 博士号獲得。大学院卒業。中央大病院勤務
2199年2月11日 一尉待遇で宇宙教導駆逐艦ハレカゼ船医。クマノ計画オブザーバー。