カレル163での戦闘から数日後、ハレカゼはヤマトと合流する事に成功した。
「ハレカゼへの補給は、弾薬が優先で本当に構わないんですか?」
「構わないよ。ビーメラ4でしばらく滞在するだろうから、その間大和を護衛する必要がある。幸いレーダーには損傷がないし、多少の戦闘は波動防壁があればなんとかなるよ」
艦長は損傷したハレカゼの補修より、補給を優先した。だが確かに、補給中のヤマトを護衛するのなら弾薬は十全にあった方がいい。
「分かりました。古代戦術長にはそのように伝えます。ですが見たところヤマトもかなり損傷しています。補給に関しては、こちらから人手を回してもよろしいでしょうか?」
いつもならヤマトの甲板部を使う補給も、今回に限ってはハレカゼから人を出した方がいいだろう。
「魚雷運用員のりっちゃんとミサイル運用員のかよちゃんに頼もうか」
りっちゃんは
「できればもう一人欲しいのですが」
流石に二人だと少なすぎる。ヤマトからシーガルを借りるつもりだが、乗り移る際はこちらの百式偵察機を使う。二人乗りだから二機使うが、それなら私含め四人で行きたい。
「なら応急員のモモちゃんを連れて行っていいよ。その間ヒメちゃんを中心に、魚雷発射管の修理をしておくよ」
応急員の
「では私含め四人で向かいます」
「くれぐれも弾薬の補給だけは、ビーメラに着くまでには絶対に終わらせておいてね」
「了解しました」
前回の戦闘、ヤマトからの報告と照らし合わせると敵に何かが起きたようだ。ヤマトを撃沈寸前まで追い詰めたガミラスは、なぜかとどめを刺さずに立ち去った。
しばらくの間、ガミラスの脅威はないと判断して良いのではないだろうか。私ならそう考え、先にハレカゼの船体の補修を優先しただろう。だが艦長は油断せず、戦闘能力を取り戻すことを考えた。この辺りが、実戦経験の有無の違いなのだろうか。流石は第二次火星沖海戦の英雄だ。
「聞いたよ〜、この間の戦いでの艦長の指揮のこと」
「敵の砲撃を全部避けたんだってね〜」
百式偵察機発艦のために準備をしていると、姫路宙曹と松永宙曹が興味津々な様子で話しかけてきた。
「私も聞いたっすけど、あれ本当なんすか?」
「青木宙士長、にわかには信じ難いと思うが、艦長の指示で敵弩級戦艦の砲撃を避けた事は本当だ」
戦いが終わった後、どうやったのか聞いたがいまだに理解できない。
「艦長が言うには、モニターで敵の砲塔の動きで砲撃の兆候と、敵艦隊の配置を逐次確認していたそうだ。それにより、敵弩級戦艦が同士討ちをしない位置を割り出し、砲撃を誘っていたらしい」
敵が砲撃する兆候を見せたら、即座に舵を切り場所を移動する。理屈は理解できるが、言っている意味が全く分からない。
「だけど最後は堂々と直進したって聞いたよ」
「あれはこちらが回避するのを見越して、敵が砲撃すると判断して直進したそうだ。避けられるかは五分五分だと考えていたようだが、本当なのかどうか」
非科学的な話だが、実は超能力者で敵の思考が読めていました、と言われても驚きは無い。それくらい凄まじい戦い方だった。
「流石はキリシマ元航海長って感じの戦い方だね〜」
そう言えばこの二人は、火星沖海戦でキリシマに乗艦していたんだったな。せっかくだし当時の話を当人たちから聞いてみるか。
「艦長が火星沖海戦の英雄だと言うのは知っているんだが、艦長が一体何をしたのかは知らないんだ。良ければ教えてくれないか?」
「私も知りたいっす」
百式偵察機の発進準備をしながら、二人は当時の事を話してくれた。
「岬艦長の活躍って、なぜかあんまり知られてないよね」
「古代砲雷長は、正確な射撃で敵艦を次々に撃沈して行ったのは有名なのにね〜」
古代守砲雷長の活躍は本当に有名だ。隙の大きい艦首陽電子衝撃砲で、参加艦艇中最大の参加を叩き出した。だが岬艦長は、航海長としてキリシマの操艦を担当した以外の功績はあまり知られていない。だと言うのに、古代守砲雷長と並んで称されている。
「岬艦長が舵を握ったキリシマは、一発も被弾しなかったんだよ」
「キリシマは僚艦に守られなら砲撃を行い、最低限の被害で戦果を上げる作戦だったと聞いたことがある。なら被弾しないのは当然じゃ無いのか?」
何隻もの艦艇が、キリシマを守って沈む事になっていた。最大の火力を持つキリシマを失っては、火星での勝利はない。だからたとえ撃沈されると分かっていても、他の艦はキリシマの盾となった。そう聞いている。
「それはあってるんだけど、それでもキリシマは多少被弾するはずだったんだよね〜」
「艦首陽電子衝撃砲は、連射できないから一発撃った後の隙が大きいよね。敵に痛打を与えるから、警戒した敵から砲撃が集中するんだけど、岬艦長はその間敵の砲撃を避け続けたんだよ」
おそらく今回の事と同じような理屈なのだろう。だがそんな事が本当に人間に可能なのだろうか。
「無理やり味方を盾にした、とかでは無いんだよな」
「それだったらあんなに高く評価されてないよ」
「まぁ、予想に反してガミラスがあっさり退いたから、地球側の被害が小さくなったって言うのも大きいと思うけどね〜」
第二次火星沖海戦で、ガミラスは地球を制圧するつもりだっと考えられている。地球が実用化した陽電子衝撃砲が、通用した事からガミラスは大人しく撤退したが、もし通用しなかったら地球はそのまま占領されていてと考えられている。
「艦長って本当に人間なんっすかね。実は異星人だったりしないっすか?」
「疑いたくなる気持ちは分かるが、人間のはずだ」
確か艦長は第二次内惑星戦争で両親を亡くしたと言っていた。その後は知り合いに引き取られたとかなんとか。もし異星人なら、ガミラスよりも先に人類が出会った異星人という事になる。
「今回は被弾しているしな。絶対に当たらないと言うわけでは無いようだし、完璧というわけでは無い」
「それでもあの数の敵艦を相手に、沈まなかったのは流石だよ〜」
「そうっすよね。本来なら沈んでないとおかしいっすよね」
今思い返しても、不思議で仕方がない。一体どうしてハレカゼは沈まなかったのだろうか。
『しろちゃん、随分と準備に時間がかかっていますが何か問題がありましたか?』
「問題はない。そろそろ出発する」
おしゃべりに夢中なったていたせいで、出発が遅れている。艦長からは弾薬の補給だけは絶対に済ませろと言われた。しかし私としては、可能なら各部の補修も済ませておきたい。その方が安心できる。
ハレカゼの補給は、途中までは順調そのものだった。ヤマトのコスモシーガルを使い、魚雷と対艦ミサイルを運び込み装填する。ヤマトでは四人で作業をするが、ハレカゼに来れば和住三尉や他の戦術科員が装填作業をしてくれる。半日もしない内に弾薬の補給は終わり、ハレカゼ補修のための資材を運び込んできていたときの事だった。ヤマト艦長、沖田十三が倒れた。
「沖田提督が倒れた原因は?」
「ヤマトの佐渡医師によると、過労との事です。詳しい資料はこちらに」
沖田艦長が倒れたのは、これで二度目になる。前回はまた別の理由だったが、今回は過労だ。あの歳で多数の敵艦隊と激闘を繰り広げたのは、流石に堪えたのだろう。
「過労か……」
「何か気になる点がありましたか?」
「なんでもないよ」
佐渡医師から渡された資料は、岬艦長以外が見る事ができないようパスワードがかけられていた。私は資料に書かれたた内容を知っているが、沖田艦長のプライバシーに関する事だしロックをかけるのは当然だ。
「そう言えばビーメラ4について、何かわかったことはある?」
「新見情報長が言うには、水は勿論遊離酸素の存在も確認できたそうです」
遊離酸素の確認に、艦橋は少しざわめいた。
「遊離酸素があるって事は、私達も普通に活動できるって事よね。って事は、私達も住めるんじゃない?」
西崎三尉が目を輝かせた。地球で滅びを待つ人類を、イスカンダルに行かずとも救えるかもしれない。そう結論づけたのだろう。
「それは私も考えた。だが遊離酸素が確認されたと言っても、それが即ち生存できるとはならない。きちんと酸素が循環し、十分な遊離酸素がある状態を維持し続けられる環境かどうかを、確認しなくてはならない」
もっとも、仮に循環していなくともあの規模の惑星だ。ヤマト一隻分の乗組員が全員下船したとしても、すぐに酸素が無くなる事はないだろう。
「第二の地球になるかもしれませんね、艦長」
「納沙さん、その発言は不用意だぞ。私達はイスカンダルへ、コスモリバースシステムを受け取る為に航海しているんだ。破棄されたイズモ計画や、クマノ計画に回帰するような発言はしない方がいい」
下手をすれば反乱を疑われかねない。いや、疑われるだけならまだいい。この発言をきっかけにして、無理にでも移住計画を推し進めようとする人物が、現れないとも限らない。
「確かに不用意でしたね。すみません艦長」
「気にしてないよ。ハレカゼには反乱を起こすような人はいないって、信じてるからね」
甘い人だと思った。だけどここまでの航海で、岬艦長の人となりは十分理解している。その信頼には応えたい。
「それと艦長。ビーメラ4での補給に際して、ハレカゼに必要なものがあれば同時にヤマトが回収してくれるそうです。その際艦長がヤマト艦橋いた方が、なにかと都合がいいのではないかとの事でしたが」
「それは沖田艦長からの提案?」
「補給はヤマトの古代戦術長が、好意で申し出てくれました」
「私がヤマトに行く事を提案したのは誰?」
そう言えば艦長はヤマトに乗り移らないと、この航海の最初に宣言していたな。なのにヤマトに来るよう誘われたから、気を悪くしたのかもしれない。
「新見情報長がせっかくだから、旧交を温めようとおっしゃっていました。お知り合いだったんですね」
「薫さんとはユキカゼ艦長だった、古代先輩の縁で知り合ったんだよ」
亡くなった古代艦長を偲んでいるのだろうか。どこか悲しそうな横顔だった。
「私は行かないよ。しろちゃん行きたければ行ってもいいよ」
「でしたら、ヤマトのご好意に甘えさせてもらいます」
回収自体はヤマト乗組員が行うから、私自身は回収に同行する事はない。だがハレカゼ側から一人くらいヤマト艦橋にいた方が、回収班との意思疎通はしやすい。
「補給のメインはあくまでヤマトだよ。あまり過剰な要求はし過ぎないように」
「勿論です。必要最低限のものだけ、補給するようにします」
和住媛萌
2180年4月1日 誕生
2194年4月1日 士官学校入学
2198年3月31日 士官学校卒業。三等宙尉。巡洋艦ナチ機関員
2198年12月24日 空間防衛総隊第7航空団第810飛行隊整備士
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ応急長