第三話は明日投稿予定です。
翌日、私はいつもよりも随分と早くに目覚めた。昨晩は家族会議だった。母と姉にハレカゼの件と、真冬姉さんの戦死の件で、出航前日だと言うのに思いの外ドタバタとした。目覚ましを何個もかけ、ようやく起きたのは早朝
「あ、おはようございます副長」
「おはよう納沙二尉」
昨日のブリーフィングの後、私は副長に指名されることになった。私よりも相応しい、ハレカゼ艤装時から関わっていた船務長の納沙二尉は階級の問題で、柳原一尉は波動エンジンの調整で、艦橋には殆どいられない事から、私が副長を拝命することになった。
「そっちの二人は……」
生憎昨日名簿を渡されてから、ろくに読む時間か取れない。だからいまだに乗員の顔と名前が一致していない。
「砲雷長の
それは昨日、ハレカゼがイスカンダルまでたどり着けるのかを問いかけた人物だった。
「戦術長。
昨日ハレカゼの大きさに言及した二尉だ。
「すみません遅れました!」
慌てた様子で駆け込んできたのは黒髪をポニーテールにした二尉だった。膝に手をついて息を整えると顔を上げた。
「わ、私航海長の
私を含めた五人に艦長を入れた六人が、この艦のブリッジクルーだ。
「おはよう。全員揃ってる?」
「残留希望者なし。副長以下三十名、揃っています」
私の言葉に艦長は満足そうに頷いた。
「じゃあ出航しようか」
「まだ抜錨時間には少し時間がありますが」
時刻は抜錨予定時の五分前だ。そう焦る必要はないように感じる。
「私達の役目はヤマトの護衛だよ。ヤマトより先に抜錨して、宇宙空間で待機するんだよ」
「失礼しました」
そうだった。メインはあくまでヤマト。私達はその護衛に過ぎない。地球圏とは言え、昨日はガミラスの空母による襲撃があった。またそれがないとも限らない。
「波動エンジンを始動させるために莫大な電力が必要だからね。ヤマトの方は予定通りにはいかないと思った方がいいよ」
「ヤマトの方はですか。ハレカゼは違うんですか?」
「ユリーシャの宇宙船のエンジンを稼働状態で無理矢理搭載したから、起動する必要がないんだよ。その代わり、エンジンが不安定になっちゃったけどね」
ハレカゼは磯風型の設計を流用しているが、磯風型と比べてエンジン部分が膨らみやや不恰好な形になっている。そもそも他の惑星で製造されたエンジンでもあるし、無理矢理乗せた事の弊害は大きそうだ。
「マロンちゃん、機関の調子はどう?」
『まだちょっと愚図ってるけど、出航には問題ねぇ!』
柳原機関長の言葉に岬艦長は頷いた。
「取り敢えず宇宙空間に待機できればいいから、無理せずに行こう」
『なら機関に負担をかけねぇよう、巡航速度までで頼む!』
「聞いた通りだよ、鈴ちゃん。巡航速度で大気圏外に離脱するよ」
「りょ、了解!」
知床航海長の返事に、岬艦長は制帽を被り直すと号令を下した。
「抜錨、ハレカゼ出航!」
少し大きな揺れとともに、ハレカゼがドッグを離れた。そのまま通路をゆっくりと進むと、眩い地表の光が姿を現した。ほんの十年ほど前までは、緑の木々や青い海が輝いていた地球は今はもうない。赤い大地が地表を覆うばかりだ。この大地を直接目にするのは、訓練生の時以来だ。私はずっと地下都市に勤務していたから、この地獄のような景色を見ずにすんでいた。
「司令部より緊急入電です」
「内容は?」
「惑星間弾道弾を確認。目標はヤマトと思われるとのことです」
目標はヤマト。私達の護衛対象が狙われている事実に、艦橋はざわめいた。
「すぐに迎撃に行こう。出航前にヤマトが撃沈されるなんてシャレになんないよ」
「艦長すぐに大気圏を離脱し、衛星軌道で迎撃しましょう。大気圏内で爆発されると、ヤマトが粉々になってしまいます」
私達の心配をよそに、艦長は呑気なものだった。
「司令部からの命令は?」
「それがヤマト出航のために電力を使ってしまったらしく、繋がりません」
「じゃあヤマトから、沖田提督からは何かある?」
艦長の質問に、納沙船務長は手元で何か操作すると答えた。
「ヤマトからも何もありません」
「なら私達はこのまま大気圏を離脱しよう」
「ヤマトを見捨てるつもりですか艦長!」
とても正気とは思えなかった。私達の、人類の希望を見捨てるなんて。
「もしヤマトに助けが必要なら、沖田司令はハレカゼに要請しているよ。それがないって事は、ヤマトで対処可能だって事だよ」
「ですが艦長!」
「それに、どのみち巡航速度じゃあ大気圏外での迎撃には間に合わない。無理をしてハレカゼが壊れたら元も子もないよ」
確かに巡航速度では、惑星間弾道弾の到達予想時刻に大気圏外に出るのは不可能だ。だがそれでヤマトが破壊されては、それこそ元も子もないのではないだろうか。
「大丈夫、沖田提督を信じて。あの人はこんな所で躓くような人じゃない」
岬艦長はそう言うが、肝心のヤマトは一向に動く気配がない。本当に大丈夫なんだろうか。
「見て! ヤマトの偽装が剥がれ始めたよ!!」
「せ、船体を起こし始めてる。電力が集まったんだ!」
確かにヤマトの偽装は剥がれ、船体が動き始めてる。だけど、果たして間に合うのだろうか。
「ヤマト、抜錨しました!」
「間に合うのか……」
ヤマトが宙に浮いた時には、惑星間弾道弾は肉眼で見える位置にまで到達していた。あれでは迎撃できたとしても、ヤマトも無事では済まない。
だがそれでもヤマトは迎撃のために主砲を回転させた。そう長い時間をかけずに照準を調整すると、即座に発報。惑星間弾道弾は大きな爆発を起こし、それはヤマトをも飲み込んだ。
「ヤマトが……」
「どうなったの?」
私と西崎砲雷長の心配をよそに、艦長は大気圏外への離脱を支持した。
「大気圏外でヤマトを待つよ。おそらく近くにキリシマがいるはずなのでまずはそこに合流します」
「ほ、本当にヤマトは無事なんですか?」
「この艦と違って、ヤマトは波動防壁を常時展開可能だから大丈夫。ほら、見て」
艦長に言われてモニターに視線を向けると、黒煙の中から無傷のヤマトが姿を現した。
『こちら機関室。波動エンジンはとりあえず落ち着いた。いまなら最大戦速まで発揮可能でい』
「ありがとうマロンちゃん。けど巡行速度で航行できたらそれで十分だよ」
不安だ。エンジンに欠陥を抱えた状態で、本当にイスカンダルまで向かうことができるのだろうか。
「左舷前方に艦影」
「敵か!?」
「いいえ、友軍です」
現れたのは金剛型戦艦のキリシマだった。現状、ヤマトとハレカゼ以外で唯一稼働状態にある戦闘艦だ。
ハレカゼがコンゴウの隣に並ぶと、発光信号が送られてきた。内容は『貴艦の航海に幸在らんことを願う』だった。
キリシマは先の戦いで通信設備に不調をきたしたと聞く。この距離でも通信は不可能だった。
「地球の未来に幸あれかし。そう返事しておいて」
「了解しました」
しばらくコンゴウの隣で待っていると、後ろからヤマトが近付いてきた。
「コンゴウ、発光信号。今度はヤマトに対してですね」
『貴艦の健闘と、航海の無事を祈る』か。わざわざハレカゼとヤマトでメッセージの内容を変えるあたり、あの艦になっている人は、随分とまめな人なんだな。
「ヤマトの前に出るよ。太陽系を脱出するまでは、ハレカゼはヤマトの後ろにつく事はない。月軌道通過後、ヤマトとの最初の通信を行います」
DLS-01 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ
全長184メートル
二十サンチ三連装陽電子衝撃砲塔二基
二十サンチ陽電子衝撃砲二基
魚雷発射管八
ミサイル発射管二十四
百式空間偵察機二機
艦の塗装はユキカゼと同じ。
艦橋も大型化しており、通信設備とレーダーについては、金剛型戦艦を凌駕する。艦橋内は副長含め座席完備。波動防壁も搭載しているが、機関が安定しないため常用は難しい。
O・M・C・S等一部機材はヤマト搭載の試作機を流用。全体的に機材が大型化する傾向にあり、船体に対して居住価格などは少ない。
ハレカゼ大型化最大の理由は、イスカンダルの船が想像以上に大きかったから(作者にとっても想定外です)