次話は明日です。
月軌道通過後に行われた通信で、一部の艦橋メンバーは浮き足立っていた。ヤマト一隻でイスカンダルへの旅路を行くと思っていたのに、随伴艦が存在したからだ。
「嚮導駆逐艦ハレカゼか。駆逐艦というには随分と大きな
宇宙戦艦ヤマト戦術長、古代進の疑問に答えたのは技術長兼副長の真田士郎だった。
「嚮導駆逐艦というのは、駆逐艦の指揮を担当する目的で作られたものだからね。通常の駆逐艦よりも大きいのさ」
「流石に巡洋艦以上のサイズのものを、駆逐艦と言うのは無理があると思いますが」
「まさしくその通りだな。私も区分は巡洋艦が相応しいと思う。しかしそれを言うなら、このヤマトだって戦艦というには些か機能が多すぎる。航空機もそうだが、惑星探査の為の装備や艦内工場なんかは、通常の戦艦には必要のないものだ」
ヤマトは元々イズモ計画の地球脱出船として計画されていた。その名残が各所に残されていて、見た目はともかく、中身は戦艦というには多機能すぎた。
「いずれにせよ、気になる事があるのならハレカゼ艦長に直接聞くといい。火星軌道でのブリーフィングで、こちらに乗り込んでくるのだからな」
ハレカゼから来たのは、艦長岬明乃二佐と副長の宗谷真白一尉。そして航海長の知床鈴二尉だった。
「ヤマトもハレカゼも、光速航行が可能とはいえ一年という限りある時間で地球とイスカンダルを往復する事は不可能だ。それを実現するには、光速の壁を突破する超光速ワープ航法が必要なのだ」
往復三十三万六千光年の旅路は、光速でも三十三万年の月日がかかる。それを一年に縮める為の手段が、ワープだった。
「ワープはタイミングを間違えると、宇宙を相転移させる危険性を孕んでいる」
「という事は、つまり……」
「波動エンジンの運用には、最新の注意が必要だという事だね。ましてや、不安定な波動エンジンを使っている私達のハレカゼは尚更気をつけないといけない」
安定した波動エンジンを積んでいるヤマトでさえ、ワープの際には最新の注意を必要とする。不安定な波動エンジンのハレカゼでは尚更だ。
「それと、もう一つ」
「技術科情報長の新見です。我々はその波動エンジンの莫大なエネルギーを利用した兵器を完成させ、ヤマト艦首に搭載することに成功しました」
「兵器ですか?」
「次元波動爆縮投射機。便宜上、私達は波動砲と呼んでいます」
新見の説明を聞き、砲雷長の南部が端的に述べた。
「それって、この
「当たらずとも遠からずね」
「儂にはさっぱりじゃな」
なんとなくでも波動砲の仕組みを理解した南部と違い、機関長の徳川には波動砲の仕組みはさっぱり分からなかった。
「この波動砲も、いずれは発射テストを行わなくてはならないでしょう」
「ワープテストは、火星軌道を超えた重力低干渉宙域にて行う。まずはヤマトが、その後にハレカゼが続く。テスト予定時刻は
沖田が一歩下がると、今度はハレカゼ艦長岬明乃が前に出た。
「ヤマトの旅路を護衛する事になる、ハレカゼ艦長岬明乃です。まず最初に、私が皆さんと直接顔を合わせるのは、これが最後になると思います。今後ヤマトに直接乗り込む用事がある時は、私ではなく副長の宗谷真白が来ます」
真白は少し驚いた様子だったが、すぐに取り繕うと軽く頭を下げた。
「ハレカゼにはヤマトのような波動砲はありませんが、航海に着いては同等の速度でついていく事ができます。しかし物資、主にミサイルや魚雷に関してはどうやっても増やす事ができません。不足した際には、ヤマトからの補給に頼る事になります」
ハレカゼにはヤマトの同様、食料自給装置
「ハレカゼ側代表者は、副長の宗谷真白になります。後ほど通信で詳細を詰めようとは思いますが、そちらの代表者は決まっていますか?」
ヤマトは元々予定していた、幹部乗組員の多くを先日の襲撃で失った。元々予定していた代表者も、巻き込まれて戦死している。
「古代。お前が代表としてハレカゼの補給を担当しろ」
「はっ、自分がでありますか?」
階級こそ同じだが、副長と戦術長では立場が違いすぎた。また、補給はどちらかと言えば船務科の仕事であった。古代がその点を憂慮したかは分からないが、沖田の指示には難色を示した。
「補給には甲板部を使う、お前が適任だ」
看板部は戦術科所属だが、釈然としない様子で古代は頷いた。
「私からは以上です」
「よろしい。では解散!」
ワープテストにはまだほんの少しだが時間がある。懐中時計でそれを確認した岬は真白に声をかけた。
「時間があるし、ヤマトの戦術長と打ち合わせしてきたら? 私も少し話したい人がいるから、少しの間ヤマトに留まるつもりだし」
「よろしいのですか? ワープテストもありますしすぐに戻ったほうが……」
「大丈夫だよ。古代戦術長、ちょっといいかな?」
岬が古代に声をかけると、古代は渡りに船とばかりに近づいてきた。
「自分も岬艦長に聞きたい事があります」
「え、私!?」
担当者同士の顔合わせをと思って声をかけた。古代側にも用があるのは予想外だった。岬は困った様子で頬をかいた。
「元コンゴウ砲雷長、古代守は自分の兄です。艦長はかつて兄と同じ艦に乗っていたと聞きしました。自分が知っている兄は、あくまでも家族としての兄です。軍人としての古代守は、どのような人だったのでしょうか」
「古代先輩とは、私がコンゴウを降りてから一度も会ってないよ」
気不味そうな視線を逸らして岬は言った。岬は古代守の事を階級ではなく、先輩と呼んだ。少なくとも、悪い関係でなかった事は確かだった。
「いい先輩だったよ。先輩の彼女さんや、親友と飲みに行った事もあるし。いい関係を築けていたと思う」
ほんの一瞬、岬の視線が古代から外れた。その視線の先を確認する間もなく、岬は更に続けた。
「古代先輩の事なら、私よりもよく知っている人がこの艦にいる。その人達に聞いた方がいいよ」
「それは一体誰なんですか?」
「本人達が名乗り出ないのなら、話したくないのかもね。会ってない間もない古代戦術長よりも、私はその人達の意思を尊重する。残念だけど私から教える事はしないよ」
そう言うと、岬は再び懐中時計を取り出した。
「思ったよりも時間をかけちゃったね。副長、航海長。ハレカゼに戻るよ」
そう言って立ち去る岬達を、古代はただ見送る事しかできなかった。
「岬艦長は、お兄さんのことについて何か話してくれたのか?」
「いい先輩だったってさ」
艦橋に戻った古代に、航海長の島大介がおもむろに問いかけた。士官学校以来の仲である島に、今更隠し事をする事もないと、古代はなんてことないように言った。
しかし何処か気を落としている様子の古代を、島は訝しんだ。
「どうしてそんなに気を落としているんだ? 褒められて良かったじゃないか」
「俺は兄さんの事を何も知らなかった。兄さんに彼女がいた事も。親友の存在も。何も知らなかったんだ」
岬とのごく短い会話だけでも、古代の知らない兄の一面が出てきた。古代が知っていた兄は、知っていたつもりでいた兄は、いったいどれほどのものだったのだろう。
宗谷真白
2178年5月27日 誕生
2193年 遊星爆弾により父と死別。
2194年4月1日 士官学校入学。
2198年3月31日 士官学校を優秀な成績で卒業。
2198年5月31日 自動車事故に伴う要人救出に功有。二等宙尉に昇進。
2199年2月1日 一等宙尉に昇進。
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ副長