宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ   作:鉄玉

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久しぶりにちゃんと執筆活動すると楽しくて仕方がない。筆が進む進む。次の更新は明日です。どこまで毎日更新が続けられるか、少しワクワクしながら書いてます。


ワープ酔い

ヤマトとハレカゼにとって、いや人類にとって初めてのワープは順調とは言い難かった。

 

「ヤマトがいない!?」

「少なくとも、レーダーの探知圏内にヤマトと思われる反応はありません」

 

天王星軌道を目標に行われたワープテストで、ハレカゼは無事目的地へとワープアウトする事ができた。だけど先行してワープしたはずのヤマトがどこにもいない。思わず納沙二尉の席に駆け寄って、レーダーの反応を確認したがそれらしい反応はない。

 

「一体ヤマトはどうなったんだ」

「何らかのトラブルでワープ座標がずれたか、あるいは失敗してこの宇宙から消滅したかじゃないですかね」

 

なんて事ないように納沙二尉が言った。

 

「消滅!? じゃあヤマト計画は、イスカンダルへの旅がこんな所で終わるって言うの? まだ太陽系も出てないのに!!」

「し、小惑星の影に隠れてたらレーダーには映らないよ。まだヤマトが消滅したって決まったわけじゃないよ」

 

焦りを露わにした西崎三尉を知床二尉が宥めた。だけどそんな気休めも、納沙二尉の一言で台無しになった。

 

「この付近にはヤマトが隠れるような小惑星はありませんね。あってもヤマト艦橋くらいの大きさです」

「じゃあやっぱりヤマトはワープに失敗して消滅したんじゃない!」

「まだそうと決まったわけじゃない。天王星軌道が目標だったのは、ヤマトも同じだ。待っていれば向こうから通信が来るはずだ」

 

目的地はお互いに把握できている。なら目的地からズレた側が、無事を知らせる為に連絡をよこすのは通りだろう。そう言うと、西崎三尉は一応落ち着きを見せた。だがまたしても納沙二尉が余計な事を言った。

 

「ワープしたのは向こうが先ですから、無事ならもう通信は来ていると思いますけどね」

「じゃあやっぱりヤマトは木っ端微塵の、海の藻屑になったって事じゃない!!」

「この場合海の藻屑より宇宙ゴミ、あるいはデブリといった方が正しいですね」

「そんなのはどうだっていい。問題はこの後の方針だ。ヤマトがどうなったかは分からないが、方針を決定しない事にはどうしようもない。艦長はどうお考えですか?」

 

これ以上ヤマトの話をしていたら、ますます西崎三尉の懸念が晴れない。根本的な解決にはならないが、話を逸らした方がいいだろう。

 

「ヤマトが本当に沈んだのなら、私達にできる事は二つだね。地球に戻るか、それともクマノ計画を復活させるか。まだ太陽系内だし、一度地球に戻るのも手かもしれないね」

「せっかく天王星まで来たのに、また戻るんですか?」

「少なくともハレカゼはワープする事ができる。また天王星まで来るのは、そう難しい事じゃないよ」

 

確かにワープがあれば太陽系を離脱する事は比較的容易だ。だがそれをガミラスが許すだろうか。ヤマトの出航は、ガミラスに感知されている。ハレカゼも同様とみなすのが妥当だ。どんな理由があるにせよ、地球を飛び出した艦(ふね)を、ガミラスが理由もなく見逃すとは思えない。おそらく次に地球から旅立つときは、前回のようにはいかないだろう。

 

「だけど私はもう少し待とうと思う。ワープが成功したにせよ、失敗したにせよヤマトが長距離通信する事は簡単な事じゃないから」

「設備的には、太陽系外縁部から地球まで電波を届かせる事ができるはずです」

「太陽系は地球の勢力圏じゃない。すでにここは敵地なんだよ。迂闊に電波を出したら逆探知されて、艦隊が押し寄せてくるかもしれないよ」

 

母星である地球でさえ、もはや人類の勢力圏とは言い難い。ガミラスの冥王星基地には百隻を超える戦闘艦がいる。捕捉されこれを派遣されたらひとたまりも無い。

 

「だからき沖田提督は、タイミングを測っていると思うんだ。ガミラス側に探知されても、問題のないタイミングを」

「ですが通信が来たとして、ヤマトとどう合流するんですか?」

「ワープすればいいんじゃないかな。少なくとも太陽系の中なら、ワープをすればすぐに合流できるよ」

 

しばらくこの場で待機するそう結論付けられ、艦長が命令を下し、艦橋内の空気が俄かに緩んだ。その時だった。前方の戦術長席から呻き声が聞こえ、立石二尉が突っ伏すのが見えた。

 

「立石二尉!?」

 

艦橋内が騒然となると同時に、他部者からも同じような報告が次々と寄せられてきた。

 

『こちら機関室。機関員二名が吐き気を催し、って機関室で吐くな! せめて外に出てから吐けってんでい!!』

『こ、こちら第三砲塔日置(へき)。ワープ後から吐き気が……』

 

この他にも数人、吐き気や眩暈を訴える報告が相次いだ。岬艦長の命令で、同様の症状を訴えた者達は全員医務室送りになり、私は船医の鏑木美波(かぶらぎみなみ)医師に原因について推論を聞くべく医務室に向かった。

 

「症状としては、乗り物酔いと変わらない。おそらく、ワープに伴う後遺症だ」

「人体に害はないのか?」

「それは分からない。何せ人類初のワープだからな。データが不足している」

 

人類初のワープ。よくよく考えたら、これは壮大な人体実験だったのではないだろうか。ヤマト含め一千人以上の人間を、ワープという新しい技術の生贄として捧げた。しかもそれによる後遺症は、万全とは言い難い設備で治療されることになる。

 

「しかし少なくとも、現段階においては乗り物酔い以上の症状は見られない」

「どうにかもっと詳しく調べられないのか?」

 

私の問いかけに、鏑木医師は怪しい笑みを浮かべた。

 

「解剖すれば分かる。古来より人類は解剖を用いて病や怪我を解明してきた。ワープが原因で何か人体に悪影響があるのなら、切って中を見るのが一番だ」

「……冗談だよな?」

 

私の問いかけに、鏑木医師はにっこりと笑って私のタブレット端末にデータを送りつけてきた。

 

「艦長に渡すワープ酔いに関する報告書だ」

 

そう言うと鏑木医師は、話は終わりだとばかりに患者の元に向かった。患者が解剖されないかほんの少しばかり心配になったが、艦長への報告もある為断腸の思いで医務室を後にした。

 

ハレカゼには高位軍人用の部屋が二つある。一つは艦長室。もう一つは司令官室だ。もっとも、司令官室については該当する人物がいない為、完全に閉ざされている。岬艦長が使っているのは、艦橋の真下にある艦長室だ。入室すると制帽を外し、制服も脱いだ随分とくつろいだ様子の艦長がいた。

 

「……ここは敵地ではなかったのですか?」

 

思わず苦言を呈すると、艦長は苦笑いを浮かべた。

 

「航海の間ずっと気を張り続けてたらいつか倒れちゃうよ。しろちゃんも適度に気を抜いた方がいいよ」

「はぁ、ってしろちゃん!?」

「副長の名前は宗谷真白でしょ。だからしろちゃん」

 

あだ名、と言う事だろうか。だがしかし、ここは軍隊だ。そんな馴れ馴れしくてはダメだ。

 

「艦長。宗谷一尉、もしくは副長と呼んでいただきたい」

「艦(ふね)の仲間ってね、時には血よりも濃い関係になるんだって。ようは家族以上に家族、艦の仲間は家族って事だね」

「それがどうしたんですか」

「分からないかなぁ。堅苦しいのは抜きにして、適度に気を抜いた方がいいって事だよ。三十一人しか乗ってない艦なんだから、多少気を抜いても誰も気にしないよ」

 

なんだか私の中の艦長像が、今の会話で随分と崩れてしまった。いや、初めて出会った時からこの人はだらしのない人だったか。

 

「少なくとも、私は気にします」

「そういえばしろちゃんはずっと地上勤務だったね」

 

初めて会った時も、廊下を走るなと言っても走り去るような人だ。この人には人の話を聞くと言う能力が欠如しているのかもしれない。

 

「それがどうかしましたか?」

「私も経験したのはコンゴウだけだけど、案外どこの艦も通常航海中は緩いよ」

 

確かに私は士官学校卒業後、ずっと地上勤務だ。宇宙に出たのだって、ハレカゼに乗る前は士官学校の実習が最後だった。

 

「確かにあだ名呼びをする艦は滅多にない。だけど上から下まで、全員が仕事以外での付き合いがないって艦も滅多にないんだよ」

「たとえ非番だとしても、航海中は常に仕事状態にあるような……」

 

ものです。そう言うおうとする私に被せるようにして、けたたましい警報が鳴り響いた。

 

「この音は……」

 

こう言う時、地上勤務しかしてこなかった弊害が出る。艦内で流れる警報はいくつかあるが、咄嗟ではこの警報が何を示すものなのか理解できない。

 

「しろちゃん先に艦橋に行っててくれる?」

「は、はい!」

 

いずれにせよ、艦橋に向かえば全てわかる。艦長に言われるがまま、私は艦橋に向かった。

 

「何があった!」

「レーダーに反応がありました。数は二つ。ガミラスの駆逐艦と思われます」

「ガミラスだと!? 間違いないのか?」

 

できれば何かの間違いであって欲しい。こんな所でハレカゼ一隻でガミラスと戦闘をするのは自殺行為だ。

 

「こんなところに地球艦隊がいるわけありませんから、まず間違いないですよ」

「気付かれたのか?」

「おそらくまだ気付いてないと思います」

「奇襲のチャンスだよ。さっさと近づいて魚雷を撃っちゃおうよ!」

 

西崎さんの考えは魅力的だ。ハレカゼの魚雷はガミラスの駆逐艦程度は撃沈する事ができる。主砲も同じだ。陽電子衝撃砲を主砲としているから、今までの地球艦隊とは段違いの火力を出せる。勝機はある。そう結論付け、私は命令を下した。

 

「よし、じゃあ艦首を敵艦隊に向けろ」

「艦長の指示を仰がないんですか!?」

「納沙二尉、艦長はまだ艦橋に来ていない。なら必然的に最上位者の私が指揮を取るべきだ」

 

あんなに適当な人が、まともな指揮を取れるわけがない。火星沖海戦の英雄というのも、あの感じだと軍のプロパガンダか何かだろう。

 

「なら今は私が最上位者だね。副長の命令は取り消し。リンちゃん機関は停止したままで」

 

扉が開く音と共に、艦長が艦橋に入室し言った。

 

「何故ですか!? 今なら完全に不意をつけます!」

「内線でココちゃんからおおよその話は聞いてるよ。ガミラスは地球方面から、冥王星方面に向けて移動中。ハレカゼと最も近づく時でさえ、ハレカゼの射程圏外」

「だからこそ、こっちから近付いて攻撃すべきだよ艦長」

 

西崎三尉の意見に、艦長は首を横に振った。

 

「私達の任務は、ガミラスを倒す事じゃない。今ここで敵に挑んで、失敗して返り討ちにあったら取り返しがつかないよ」

 

ガミラスを倒す事は任務じゃない。確かに私達の任務はヤマトの護衛であり、ガミラスの撃破ではない。だが今は、その大前提を見直すべき状態にあるのではないだろうか。

 

「ヤマトは所在不明。生きているか死んでいるかもわからない状態です。我々の任務も見直すべきではないでしょうか」

「だとしても、ガミラスの撃破が任務になる事はないよ。在すべき事は、ヤマトの無事を信じて待つ事。交戦はできる限り避けないといけない。これは命令だよ」

 

命令と言われてしまっては、逆らうわけにもいかない。渋々了解の返事をし、艦内に第三種戦闘配置を命じた。

それから数時間後、ヤマトから無事を知らせる通信が入り安堵のため息を吐くことになった。




西崎芽衣
2177年1月28日 誕生
2194年4月1日 士官学校入学
2198年3月31日 士官学校卒業。三尉官任官。戦艦キリシマ魚雷運用員。
2198年12月24日 キリシマ魚雷運用員解任。内惑星艦隊司令部付き幕僚に。
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ砲雷長
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