宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ   作:鉄玉

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割と行き当たりばったりで書いてるけど、2205までならなんとか書けそうな気はしてます。


合流

ヤマトとの合流は当初、天王星と木星の中間地点で行われる予定だった。しかしヤマトの波動エンジンが損傷したことで、その予定は大きく変わった。

ヤマトは土星の衛星、エンケラドゥスに希少鉱石コスモナイト90を回収しに行く事とになった。

 

「エンケラドゥスでの補給か」

「国連ヤマト計画本部の航海日程にはない、イレギュラーな出来事ですね」

「確かヤマト計画は、全く余裕がないスケジュールで進行していたな。このロスはどれくらい響く?」

「少なくとも二日の損失ですが、取り返す為には結構無理をしないといけなくなりますね」

 

ヤマト計画は本来人類には到底不可能な航海だ。それをイスカンダルからもたらされた波動エンジンの力とで実現可能な段階まではいった。計画上はギリギリ達成可能だが、あくまでも計画上の話だ。航海には不測の事態はつきものだという。計画上は間に合うというのは、とどのつまり奇跡が起きなければ間に合わないという事だ。

 

「幸先が悪いな。こんな調子で本当にイスカンダルに辿り着けるのか。いや、辿り着けたとして果たして地球滅亡までに帰ってこられるのかどうか……」

「あまりネガティブな事を言いすぎない方がいいですよ」

「ここちゃんの言う通り。幹部がネガティブだと、艦全体の指揮に関わるよ」

 

幹部がネガティブなのは良くないと言うが、そもそも今のハレカゼの士気は良くない。今更だ。

 

「そもそも前回のガミラスとの接触で、艦長が戦う事を選択していれば良かったんです。士気低下の原因の一つは先の弱腰な姿勢にあります」

「戦闘で士気を上げるのは簡単だよ。だけどそれが戦闘で勝利してになると、途端に難しくなる。残念だけどヤマトもいない状態でそんなリスクを犯すつもりはないよ」

 

理屈は分かる。だが感情が納得できるかは別問題だ。

 

「この艦(ふね)にはガミラスに肉親を殺された人が大勢います。彼女達の気持ちも汲んであげてください」

 

私の言葉に艦長はずっと目を細めた。しばらく何か考えるかのように、艦長席の脇息を人差し指で叩いた後口を開いた。

 

「私の両親は第二次内惑星戦争で戦死しているよ。当時はマーズノイド(火星生まれの地球人)の人達を恨んだよ」

 

第二次内惑星戦争。人類初の地球外植民地である火星。その他で生まれた人々が地球からの独立を目指し起こした、二度目の戦争だ。

 

「だけど地球が内惑星戦争に勝利しても、全然嬉しくなんかなかった。両親が返ってくるわけでもないしね」

「……ガミラスとマーズノイドは違います」

「そうかもね。だけど結果はあまり変わらないと思うよ。もしかしたら、最初はスカッとするかもしれない。だけどそれを何度も繰り返せば、それが当たり前になって何も感じなくなる」

 

冷たい声だった。艦長室で航海中は適度に気を抜く方がいいと言っていた人物とは思えない、まるで機械みたいな声だった。

 

「内惑星戦争で、地球艦隊が勝利した。最初の頃はそれを聞いて喜んだよ。因果応報とも思ったかな」

「じゃあ私達にも同じ思いをさせてください。ハレカゼの魚雷なら、いやこの主砲でもガミラスの駆逐艦くらい楽に沈められます」

「……相手を恨み続けるのって、案外疲れる事なんだよ。それが生きる気力になっているうちはいいよ。だけど全てが終わった時、何も残らない。何も残らないんだよ」

 

含蓄のある言葉だった。あるいは、私も同じようにガミラスに勝利すれば同じ気持ちを共有できるのかもしれない。

 

「素晴らしい考えだと思います。ですが、私は不確定な未来より、確実な明日が欲しかった。あそこで戦わせてくれなかった事、恨みますよ」

「そうだろうね。だけど安心して。この航海を続ければ、いつか必ずガミラスに一泡吹かせる機会は来るはずだから」

「そうである事を祈りますよ」

 

ガミラスは銀河系内のどこかに本拠地を持つとされている。銀河系を飛び出してしまっては、出会うこともできなくなる。

 

「それとしろちゃん」

「だから宗谷一尉、もしくは副長とお呼びください」

「前回戦闘を回避した事を批判するのはいいけど、それを公然と言うのはやめてね。上層部での意見の対立が、艦(ふね)全体に波及するのは避けたいから」

 

それはつまり、私が乗組員を扇動して反乱を企てるのではないかと疑っているのだろうか。だとしたらとんでもない侮辱だ。

 

「別にしろちゃんが反乱を起こすと思っているわけじゃないよ。信頼関係ができていない状態で、派閥みたいなのが出来るのは後々良くない結果を招くかもしれないから」

「その言い方だと、信頼関係ができているなら派閥ができていいみたいですね」

「信頼関係があっても、仲の良し悪しはあるからね。だけど仲間意識が芽生える前だと、些細な事から対立する可能性が高まる。今はまだ信頼関係構築の期間だから、しろちゃんにも幹部乗組員として協力して欲しいな」

 

協力して欲しい。その言葉選びに艦長の性質が詰まっている。命令すれば私は否とは言わない。昨日のガミラスとの接触で、戦闘を強硬に主張しなかった事からもそれは明らかだ。艦長がそれを理解していないとは思えない。

 

「命令とあれば、拒否はしません」

 

我ながら意地の悪い返答だった。だけど艦長のお願いに、軽く頷くのもなんだか癪だった。

 

「仲間(かぞく)相手に、命令なんてしないでしょ。これからそうなろうって相手に、命令はしたくないな」

 

甘い人だと思った。だけど私が幹部乗組員である以上、積極的に艦内に不和をもたらすわけにはいかないのも事実だ。

 

「頼まれずとも、この場以外で言ったりしません」

「そっか」

 

艦長は軽くなずくと、艦橋を見渡した。

 

「ヤマトとはエンケラドゥスで合流予定だけど、それまではまだ時間がある。各自交代要員と交代して、順番に休憩をとってね」

 

そう言うと艦長は早々に艦橋を立ち去った。それに続いて、交代要員が来たメンバーが続々と艦橋を去っていく。戦闘時以外のハレカゼ艦橋は、三人程度しか必要ない。操艦担当とレーダー手と、火器の担当者。

今回の場合、航海長に代わって操舵は航海士の内田まゆみ准宙尉が担当。レーダー手は宇田慧(うだめぐみ)三尉が担当し、戦術長の立石志麻二尉が指揮と火器を担当する。

 

「じゃあ私も艦橋を離れるが、くれぐれも安全な航海を心がけてくれ」

 

私や艦長は、各科の科長が艦橋にいればその場を離れることが可能だ。今回の場合、立石二尉がその役割を果たす。

 

「宗谷先輩!」

 

艦橋を出て早々、先輩という聞きなれない敬称で呼びかけられた。視線を向けると、どこか見覚えのあるような人物が目に入った。

 

「黒木准宙尉か」

 

黒木洋美(くろきひろみ)准宙尉は、士官学校時代の後輩だ。本来なら卒業は三月だが、ヤマト計画に伴い繰り上げで卒業。本来なら三尉任官のところ繰り上げのせいで准宙尉となり、ハレカゼ機関科目に配属された。

士官学校時代から、私の事を尊敬する先輩だと言って憚らない人物だ。

 

「確か所属は機関科だったな」

「はい。まろん、柳原機関長の下で機関長補佐をしているわ」

「自分の上司を呼び捨ては感心しないな」

 

艦長と渾名の話をしたせいか、少しばかり強い口調になってしまった。

 

「ごめんなさい。柳原機関長は子供の頃から家が隣同士で、あまり実感がなくて」

「幼馴染というやつか」

「少し年は離れてますけど、そんな感じです」

 

珍しいこともあるものだ。最初に配属された艦で幼馴染と一緒になるなんて。

 

「そんな事より、この間ガミラスと接敵したって聞いたんだけど……」

「接敵はしたが、それがどうしたんだ?」

「どうして戦わなかったの?」

 

艦長の命令だ。そう答えるのは簡単だ。だがそれで黒木准宙尉があの決定に不満を持っていたら、私はどう答えればいい。同調して艦長を批判するのは論外だ。それだと艦長の願いに反することになる。

 

「私達の任務は、ヤマトの護衛だ。ガミラスの撃破ではない」

 

私の口から出たのは、あの時の岬艦長と同じ言葉だった。

 

「ガミラスの撃破ではないか。あの子たちにも聞かせたい言葉ね」

「あの子達?」

 

意外なことに、黒木准宙尉はガミラスと戦わなかった事を批判しなかった。むしろその言葉からは、戦わなかった事を良い判断だったと思っているように感じられた。

 

「他の機関員4人よ。あの子達自分達は直接戦闘に関わらないからって、好き勝手言うのよ」

「たとえばどんな事を言っていたんだ?」

「戦ってガミラスを倒せとか、そんな事よ」

 

あまり私と変わらない考えだが、残りの機関科員は全員宙士長だ。士官の私が彼女達と同じ考えなのはいかがなものだろうか。

 

「誰かいるみたいね」

 

そんな話をしていると、いつの間にか談話室に到着していた。

ヤマトと比べて小さなハレカゼだが、長期航海を見越しているだけあり、艦内設備は案外充実している。艦内にある談話室にはダーツやビリヤード台の他、幾つもの遊戯設備が整っている。隣接された倉庫内にもさまざまな暇をつぶせる道具があり、正直これがなければもう少し廊下を広くできたのではないかと思う。すれ違うのも苦労するような細さの廊下は、戦闘時に障害になりかねない。

 

「クマノ計画ってなんなんだったんだろうね」

「イズモ計画ののサブプランって話だけど」

「こんな少人数で女だけの艦でどうやって人類を存続させるつもりだったのかな」

 

談話室にいたのは、件の機関科員。駿河留奈(するがるな)、広田空(ひろたそら)、伊勢桜良(いせさくら)、若狭麗央(わかされお)の四人だった。

 

「幕僚監部の人が話してるのを聞いたんだけど、この艦って元々イズモ計画から漏れた要人の子女を乗せるために計画されたんだって。なんでもその計画者が男のいる艦に娘を乗せたくなかったとか」

「要人の子女? そんな人この艦にいるの?」

「あれじゃない? 戦術科の万里小路楓(まりこうじかえで)准宙尉。あの人って万里小路重工のお嬢さんでしょ」

 

万里小路重工は、南部重工と並ぶ大企業だ。宇宙船の建造技術を未だに要している数少ない企業であり、政府からの信頼も厚い。万里小路准宙尉は黒木准宙尉と同期のはずだ。

 

「あとは宗谷副長。あの人って第二次内惑星戦争で活躍した、戦艦コンゴウ元艦長の宗谷真雪宙将の娘さんなんだって」

 

母、宗谷真雪は確かに私の母だ。だが現在の母は士官学校の校長でしかない。とてもじゃ無いがそんな力はない。

だがそれを説明したところで、彼女達が納得するとは思えない。

 

「ちょっとあなた達、妙な噂話はやめなさい」

 

談話室に足を踏み入れると、黒木准宙尉は凄みのある声で言った。

 

「特にルナとレオ。あなた達二人は今勤務時間でしょ。こんなところで何油を売ってるのよ」

「ま、マロンちゃんが機関が安定してるから、一人でも大丈夫って……」

「大丈夫なわけないでしょ! 波動エンジンがどれだけ扱いの難しいものなのか、分からないわけじゃないでしょ!! 今すぐ機関室に行きなさい!!」

 

黒木准宙尉が怒鳴りつけると、四人は蜘蛛の子を散らすように談話室から走り去った。

 

「ごめんなさい。まさかこんな所であんな噂話をするだなんて。きつく注意しておくわ」

 

黒木准尉宙尉の言葉に、私は生返事を返した。母が動いたとは思えない。だが私のもう一人の姉なら、その力があるんじゃないだろうか。




納沙幸子(のさこうこ)
2177年5月28日 誕生
2193年4月1日 士官学校入学
2197年3月31日 士官学校卒業。三等宙尉。極東管区軍務局長付き副官。
2198年3月12日 晴風艤装委員。二等宙尉昇進。
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ船務長兼クマノ計画最高責任者付き副官
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