宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ   作:鉄玉

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後書きにプロフィールを書くのが楽しいです。


死角なき罠

ヤマトとハレカゼによる冥王星攻略作戦、メ二号作戦はヤマト計画の日程には入っていないものだった。しかし構想としてはあり、その実行はヤマトとハレカゼの判断に任せられていた。

その判断をするブリーフィングに出るために、私はこれから大和に乗り移ることになっていた。

 

「艦長はメ二号作戦の発令には反対の立場なんですね」

「そうだよ。しろちゃんは賛成かもしれないけど、土星での二日はあまりにも痛すぎるよ。悔しいけどこれ以上、太陽系で足止めを喰らうわけにはいかない」

 

拳を強く握り締める艦長の様子から、その心情は察してあまりある。個人的にはメ二号作戦は大いに発令してほしいが、今回ばかりは艦長が正しい。

 

「だけどヤマトでのブリーフィングでは、ハレカゼ艦長としての意見とは別にしろちゃん自身の見解を言うのは構わないよ」

「私の見解ですか?」

 

それはつまり、メ二号作戦の発令を主張してもいいと言う事だろうか。

 

「沖田提督はメ二号作戦について話したいって連絡をしてきたでしょ。多分、提督の中ではもう答えは出ているよ」

 

岬艦長と沖田艦長は第二次火星沖海戦の盟友だ。おそらく岬艦長の言う通りなのだろう。

 

「なら沖田艦長はどちらを選んだと思いますか?」

「なんとなく分かるけど、それはしろちゃんがヤマトについてからの楽しみにとっておいて」

 

そんな言葉をかけられて向かったヤマトで、沖田艦長から発せられた第一声は、ハレカゼの意向を問う言葉ではなかった。

 

「儂はイスカンダルへの旅を急ぐために、無駄な戦闘は極力避けるつもりでいた。だが地球をあのような無惨な姿にかえ、今も遊星爆弾を発射し続けている冥王星基地だけは、見過ごすわけにはいかない。我々は全力で、この基地を叩く。すまないが、ハレカゼにもこの作戦に協力して貰いたい」

 

歴戦の沖田提督の視線の強さが、その決意の固さを物語っている。ハレカゼの意向を口にできるような雰囲気ではなかった。

 

「冥王星はガミラスに占領されて以来、その艦橋が捜査され今や海を要する準惑星に変貌している。国連宇宙軍では、地表の熱源反応の推移を分析しこれらのポイントのどこかに奴らの価値があると考えている」

 

基地の候補地となるポイントは二十近くに及んだ。冥王星基地を攻略するどころか、まずは探すことから始めなければならないなんて。これは想像以上に骨が折れそうだ。

 

「基地は特定されていないんですか?」

「おそらくなんらかの遮蔽幕を展開し、基地全体をステルス化しているのだろう」

 

相原通信長がの問いかけに真田副長が答えた。それにしても遮蔽幕によるステルスか。地球の技術力では到底なしえないことだ。

 

「我々にも、次元波動理論を応用した、波動防壁という盾がある。有効時間はヤマトで二十分程度。晴風で五分程度だ。これがあれば敵の陽電子ビームにも十分対応できるはずだ」

 

ハレカゼにもそれがあるのは知っているが、果たしてそれがどれほどのやけに立つのだろうか。技術者の真田副長が陽電子ビームを防げると言うのだから、かなり強力なのは確かなのだろう。だが過信はしないほうがいいだろうな。

 

「ヤマトとハレカゼが敵警戒宙域へ突入する前に、航空隊を発進させ、本艦は囮となり邀撃してくるてあろう敵艦隊を惹きつけます」

 

メ号作戦で出てきた敵艦隊の数を考えると、当時の艦隊よりもよっぽど強力とはいえ、たった二隻で相手をするのは至難の技に感じる。だが実行できると沖田艦長が考えたのなら何か秘策があるのだろう。

 

「その間航空隊はニクスの軌道を経てカノンを迂回しつつ、冥王星に降下。低空での索敵行動に移りつつ、基地を発見次第これを叩きます。なおヤマトとハレカゼが敵艦隊の包囲を突破、冥王星の沖合に達した後は上空からの艦砲射撃で航空作戦を支援します」

 

古代戦術長の作戦説明が終わると同時に、南部砲雷長が意見具申した。

 

「ロングレンジで波動砲を使えば、敵基地の殲滅も容易です」

「波動砲は使わない」

「何故です? それじゃあ宝の持ち腐れですよ!」

「波動砲を使えば、敵の基地ばかりか冥王星そのものを破壊してしまう。それはできない」

 

直接見たわけではないか、波動砲は木星にあったガミラスの浮遊大陸基地を跡形もなく消し飛ばしたと言う。流石に星そのものを破壊するまでには至らないだろうが、星の形が大きく変わるくらいの威力はあるだろう。

 

「いいじゃないか、星の一つや二つ!!」

 

大胆な発言だと思った。少なくともヤマトの幹部乗組員の一部は、不快感を示していた。森船務長が小声で諌めるあたり、南部砲雷長の考えは彼個人のものなのだろう。古代戦術長が強く波動砲の使用を否定すると、航空隊の加藤隊長が古代戦術長を擁護した。

 

「戦術長がああ言ってんだからいいじゃないか」

「僕は君たち航空隊の損耗も防げますよと言っているんだ。そもそもヤマトに航空隊が必要なのかどうかは疑問だけどね」

 

その発言はない。なんの根拠も示さず、ただ相手を否定するためだけに出た言葉としか思えない。長い航海を共にするのに、これだと南部砲雷長と加藤隊長の仲が……。

なるほど、これが岬艦長が言っていたことか。なんの信頼関係もないのに無駄に不和を煽るのは、後々大きな問題になりそうだ。

 

「何だと?」

「本当の事だよ」

「貴様ァ!」

 

聞き返された時に謝るのは無理でも、せめて誤魔化せば加藤隊長もここまで怒らなかっただろう。自分の部隊の事をここまで言われては、反撃せざるをえない。実際加藤隊長は殴りかからんばかりの勢いで南部砲雷長に詰め寄った。

 

「やめんか!」

 

沖田艦長はたった一言でそれを止めた。そして艦長として、波動砲を使用しないことを宣言した。こう言われては流石の南部砲雷長もそれ以上の主張はできない。

 

「航空隊の指揮は古代、お前が取れ」

 

航空隊の指揮をできなくなった加藤隊長は不満そうだった。だがこれが沖田艦長なりのバランスの取り方なのかもしれない。

戦術長が艦橋で南部砲雷長の上につけば、何かにつけて波動砲の使用を進言しただろう。だが沖田艦長が直接南部砲雷長に指示をするのなら、そんなことはできない。

加藤隊長は少し貧乏くじを引いた感じがするが、殴り掛かろうとした分の罰だと思えば多少は納得できる。

 

「ハレカゼ副長。おそらく岬艦長は、儂の決定に思うところがあるだろう。だが今回は堪えて作戦に参加してくれ。そう伝えて欲しい」

「了解しました」

 

伝えるも何も、岬艦長は沖田艦長の決定に逆らわないだろう。岬艦長にはどこか沖田艦長の決定を察している節があった。もしもこの決定が不服なら、おそらく自分がヤマトに乗り込んでいたはずだ。

ヤマトからハレカゼに戻り、岬艦長に事の次第を伝えると小さく笑った。

 

「沖田提督らしい決定だよ」

「やはり察していたんですね」

「まぁね。この間、遊星爆弾が地球に向けて飛んでいくのを見たでしょ?」

 

それはヤマトと合流する少し前の事だった。ハレカゼでも発見できたのだから、それは間違いなくヤマトも発見している。

 

「あれを見て何も思わない人じゃないからね。ああ見えて案外、熱い人なんだよ」

 

メ号作戦で戦略目標を達成するや、即座に撤退の判断をする人にそんな熱い思いがあるとは思えない。だが他でもない、岬艦長が言うんだ。間違いないだろう。

 

「岬艦長はどうなんですか。あなたはハレカゼ艦長として、メ二号作戦発令に反対していました。遊星爆弾に対して思うことは無いんですか」

「無いと言えば嘘になるよ。だけど私は先のメ号作戦の沖田提督同様、目的を忘れたりはしない。それが指揮官ってものなんだよ」

 

それは暗に沖田艦長の行動を批判しているように感じられた。実際、そう感じたのは私一人てはなかった。

 

「それって沖田艦長がイスカンダルに向かうって目的を忘れて、寄り道をしたるって言いたいの?」

 

西崎さんは、私があえて口にしなかった事をあっさりと口にした。疑問に思ったことを正直に口に出すのは彼女の美点かもしれないが、今回ばかりは遠慮して欲しかった。ここで艦長がそうだと答えたら、次にヤマトに向かう時、私はどんな顔で沖田艦長に会えばいいのか分からない。

 

「そう言う意味じゃないよ。沖田艦長はこのロスを取り返せる自信があるから、メ二号作戦を発令したんだよ。私はその選択を信じる」

 

本心なのか、それとも上官を批判することを避けたのか。判断に迷うところだ

 

「お、沖田艦長はサブプランがあるから、大胆な行動をしたんじゃないかな」

「サブプランとは何だ?」

 

知床さんの言葉に思わず聞き返すと、彼女はしまったと言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「ヤマトより発光信号。メ二号作戦を発令するとの事です」

 

納沙さんの言葉に、私は椅子から腰を浮かして双眼鏡を覗き込んだ。ピントを合わせると、先行するヤマトから続々と航空機が発艦しているのが見えた。

 

「ヤマト航空機発艦完了。ニクスの軌道に入ります」

「ココちゃん、レーダーから目を離さないで。少しでも敵の反応があればすぐに言って」

「了解です」

「機関室こちら艦橋。作戦は既に決行されています。波動防壁をいつでも展開できるよう、万全の準備をお願い」

 

ハレカゼの波動防壁は、ヤマトほど長くは保たない。要所要所で防壁を展開し、ハレカゼに対するダメージを最小化するのが艦長の考えだった。

柳原機関長の威勢のいい返事が聞こえた直後だった。突如ヤマトの左舷で爆発が起きた。

 

「ヤマト、被弾しました!」

「周囲に敵艦影は!?」

「確認できません。冥王星からでもありません!」

 

冥王星からでもない。あり得るとすれば、レーダーの範囲外からの長距離砲撃か。

 

「ヤマト回避行動に移ります」

「併せてこちらも回避行動」

「と、取り舵一杯」

 

ヤマトは敵の攻撃を受けた。こちらよりも詳細な敵の射撃位置のデータがあるはずだ。安全な場所まで迎えるはずだ。

 

「ヤマト停止しました」

「船体反転。ハレカゼはヤマトの真下につけて。

 

ここはおそらく安全圏だ。ヤマトは上部からの攻撃に対しては、分厚い防御火器がある。だが艦底部は上部ほどの防御火器がない。ハレカゼも同様の構造だが、互いが艦底を向け合えばその弱点も補える。

 

「リンちゃん冥王星周辺にデブリが多いです。データを送っておくので、操艦の際に参考にしてください」

「メ号作戦でのデブリだろうな」

「それにしては、何だか数が多いような気も……」

 

納沙二尉のデータを副長席で確認すると、確かに多い。なんならメ号作戦とは関係のない宙域にも広がっているように見える。ここはガミラスの支配域だ。最も可能性が高いのはアレだろう。

 

「ガミラスの偵察衛星か何かかもしれないな」

「偵察衛星!? じゃあ私達の場所が敵にバレてるってこと!?」

「敵に先制を許した時点で、まず間違いないだろうね。だけどそんな事、沖田提督は百も承知だと思うよ。その上でここに踏み込んだ」

「敵にバレても構わない。と言うか元々ら我々は囮ですし、バレなければならないと言うべきでしょうか」

 

囮なのにバレずに冥王星に辿り着けてしまっては、それそれで問題か。冥王星で敵の地上防空システムと艦隊、その両方を相手取らなくてはならなくなる。

 

「ヤマト、再び被弾しました!」

「何だと!?」

「ここは安全なはずじゃなかったの!?」

 

直後に先程まで停止していたヤマトが、重力に引っ張られて冥王星に降下していくのが艦橋から見えた。

 

「ヤマトが降下していく。艦長我々も後を追いましょう!」

 

私の言葉に岬艦長は反応を示さなかった。その間にもヤマトはどんどん降下し、遂には冥王星の海へと着水した。

 

「ヤマトの護衛であるハレカゼが、追い掛けずにどうするんですか!」

 

もう一度強く進言すると、艦長はようやく口を開いた。

 

「ヤマトは冥王星の海に着水できたんだよね」

「はい。無事とは言い難いですが、見た所大きな損傷はありません」

「じゃあハレカゼはヤマトの艦尾やや後方の、直上に付けて」

 

その指示は私の思い描いていたものでは無かった。

 

「冥王星に降りないんですか!?」

「地表ではハレカゼの能力を活かしきれない。ここで長距離砲撃をする敵を索敵、撃破する方がヤマトの利になる」

 

砲撃をしてくる敵は冥王星にはいない。だが冥王星基地の艦隊が、大和を直接狙いに来たらその想定は無意味だ。もう一度意見具申しようと艦長席を振り返ろうとした、その直後だった。ハレカゼの艦橋の前を一条の光が通り過ぎた。

 

「や、ヤマト再び被弾」

「ヤマトは無事か!?」

「スクリーンに映します!」

 

スクリーンに映されたのは、艦首を垂直に立て真っ直ぐに冥王星の海に沈んでいくヤマトの姿だった。




知床鈴
2177年10月29日 誕生
2193年4月1日 士官学校入学
2197年3月31日 士官学校卒業。三等宙尉。幕僚監部第八課所属。
2198年3月12日 幕僚監部よりクマノ計画に参加。二等宙尉に任官。
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ航海長兼クマノ計画補佐官。
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