「ど、どうするんだ! ヤマトが轟沈したぞ!!」
ヤマトが、人類最後の希望が沈んでしまった。これじゃあ人類は滅びの道を行くしかなくなるじゃないか。
「ココちゃん、ヤマトの波動防壁展開時間は?」
「さ、先ほど受けた攻撃からおよそ三十秒後に消失予定でした」
ヤマトが沈んだと言うのに、艦長は呑気なものだった。今更波動防壁の稼働時間を聞いても、肝心のヤマトがいないのでは意味がない。
「なら大丈夫だね。さっきまでまでの攻撃を見た感じ、波動防壁があればヤマトに大きなダメージは入らない」
「馬鹿な事を言うな! 現にヤマトは沈んだんだぞ!!」
「しろちゃんそう焦らないで。ヤマトは海の上を走る船じゃないんだよ。沈んだんだ所で問題はないよ」
「言葉尻を捉えるな! 沈んだと言うのは撃沈されたと言う事で、海に沈む事を指してるんじゃない!!」
こんな時に言うべき冗談ではない。不謹慎にも程がある。いや、案外艦長も目の前で人類の希望が沈んで、気が動転しているのかもしれない。そう思うと怒りも少し和らいだ。
「波動防壁を展開した状態で攻撃を受けたなら、あの沈没は偽装工作って事になる」
「つまりヤマトは生きてるって事ですか?」
「そう言う事だよココちゃん」
艦長の考えは、あまりにも希望的観測に満ちていた。
「どのみち航空隊が残っている以上、まだ作戦は続行中だよ」
ヤマト航空隊か。ヤマトが沈んだとも知らずに、今も敵基地を探しているのだろう。
「こちらから一報を入れて、回収すべきです」
「そんな事はしないよ。むしろここは囮としての役割を全うすべきだよ」
「つまり作戦を続行すべきだと」
ヤマト航空隊だけで叩ける基地ならいい。だが砲撃支援が必要なほど大きな基地だと、ハレカゼでは厳しい。
『ブラボーワン、電波管制解除。敵基地を発見した』
ヤマトが生きているかも分からないのに、ブラボーワンは基地を発見してしまった。ハレカゼの砲撃支援でどうにかなるのだろうか。
「レーダーに感あり。冥王星からです!」
「敵はハレカゼによる砲撃を警戒したのかな。でないと迎撃部隊は出してこないよね」
かなりこちらに都合の良い考えではあるが、もし西崎三尉の推測通りだとしたら、ハレカゼでも何とかなる規模の基地なのかもしれない。
「数は八隻、駆逐艦と思われます。ですが変です。ブラボーワンの報告とは別の場所から艦隊が来ています」
ブラボーワンの報告が確かなら、艦隊はブラボーワンのいる場所から湧いてくるはずだ。だがそうではない。と言う事は、艦隊の係留場所は別の位置にあるのだろうか。
「ヤマト沈没海域に浮上する物体あり!」
「なんだと?」
「ヤマトです! ヤマトが浮上してきます!!」
岬艦長の予想は正しかった。敵の攻撃を避けるために、ヤマトは海底に身を潜めていたんだ。これならまだ戦える。
『こちらアルファワン古代。ヤマトへ支援要請。偽装した敵基地を発見した。こちらの装備では殲滅は困難』
「アルファワンの場所は、敵艦が現れた場所と概ね一致しています」
「どうやら本命を引いたようだね」
ブラボーワンが見つけた基地は敵からの攻撃を見越した囮だったのか、それとも全く別の施設だったのか。真実は分からないが、本命の基地を見つけたのならそんな事はどうでもいい。
「総員対艦戦闘用意。上昇してくる敵艦隊を撃破する」
「ですが艦長、敵は八隻です。ハレカゼではとても勝てません」
「勝てるよ、この
「正気ですか?」
一対一でも、地球艦ではガミラス艦に勝つのは難しい。なのに一対八だなんて。
「主砲魚雷共に装填完了。いつでも行けるよ」
「タマちゃん、射程に入り次第主砲撃ち方始め。その後、魚雷戦に移行します。ココちゃん、敵の射程まではあとどれくらい。距離じゃなく時間でお願い」
「敵の射程まではあと二十秒。こちらの射程はあと二十五秒です」
敵の方が口径も大きく、射程も長い。一発でも当たればハレカゼは終わりだ。
「マロンちゃん、波動防壁展開」
『がってんでい!』
柳原機関長の返事が聞こえ、波動防壁の展開が終わると同時にハレカゼに軽い衝撃が走った。
「敵砲本艦に命中。ですが被害はありません」
「ほ、本当に当たったのか?」
「これが波動防壁だよ。展開されている間は、ハレカゼでもガミラス艦と対等に戦える」
「主砲、撃ち方始め」
戦術長の立石二尉の指示の下発射された主砲は、初弾から命中弾を与えた。一発は敵艦を正面から粉砕し、もう一発は敵の側面を抉り取り冥王星へと墜落した。
「魚雷一番から四番開け!」
「
「魚雷発射!」
岬艦長の命令に、立石二尉は即座に発射命令を下した。西崎三尉が発射ボタンを壊しそうな勢いで叩くと、艦首から魚雷が発射さた。
「魚雷全弾命中を確認。残敵は四隻です」
「主砲一番、
納沙さんの言葉に立石二尉が即座に発砲を命じた。その腕は見事としか言いようがない。放たれた陽電子ビームは、またもや敵の駆逐艦を粉砕した。
「敵艦二隻の撃破を確認!」
「一隻ではないのか?」
「今の一撃が手前の艦を貫通して、奥にいた敵艦も撃破したみたいです。まさに神技ですね」
そんな馬鹿な、とは思うが現実に起きてしまっている。信じないわけにはいかない。
「敵艦、反転しました。冥王星からの離脱軌道です」
「追撃するよ。最大戦速」
『すまねぇ艦長、それは無理だ。波動防壁を展開した事で波動エンジンが不安定になったんでい。もう第四戦速までしか出せねぇ』
エンジンの不調。イスカンダル製のエンジンは、性能自体は地球のものよりも高いはずだ。だが地球人類が無理矢理地球製の艦に取り付けて使おうとした弊害で、極めて不安定なものになっていた。その弊害がこのタイミングで出るなんて。
「冥王星基地、ヤマトの攻撃で爆発炎上中。スクリーンに出します」
映し出された映像は、私達が待ち望んでいたものだった。地球を苦しめ続けた冥王星基地の破壊。これで地球に残された人類は遊星爆弾に怯えずに済む。
「冥王星基地より離脱する艦影あり。数は四つです」
「離脱する敵の鼻先を抑える。第四戦速で敵の侵攻方向に向かうよ」
「間に合いますか?」
「難しいかもね。だけど取り逃がせば地球への脅威になりかねない」
たった四隻でも、今の地球の戦力で撃退するのは不可能に近い。間に合わないと分かっていても、艦長は追撃するつもりのようだ。
「ヤマトが駆逐艦二隻を撃破しました!」
残る離脱した敵艦は超弩級戦艦と戦艦が一隻ずつ。敵がどこかに撤退するのなら、ワープをして逃げるだろう。間に合うか?
「敵戦艦反転してヤマトに突っ込んできます!」
「相打ち覚悟、いや旗艦を逃すつもりか!?」
「戦闘の敵艦を逃すわけにはいかない。タマちゃん、射程外でも構わないから撃って!」
本来の威力よりも大分劣るが、繊細な操作を必要とするワープを邪魔することくらいはできるはずだ。
「ダメです艦長。宇宙空間よりもビームの拡散が酷く、敵艦まで届いていません」
走行している間に、超弩級戦艦はワープしていった。どこに行ったのかは分からないが、少なくともあの艦一隻で地球を襲うようなことはしないだろう。
「取り逃したのは残念ですが、これで地球の危機は当面の間取り除かれたと見て良いのではないでしょうか」
私の言葉に艦長は椅子に深く座ると頷いた。
「ヤマトの沖田提督との通信回線を開いて」
徐に艦長がそう言うと、暫く納沙さんがヤマトとやりとりをしてからスクリーンに沖田艦長が映し出された。
「まずはおめでとうございます、沖田提督」
『岬艦長の協力あってのことだ。儂の無理に付き合ってくれて感謝する』
「この後は予定航路に戻るので良いんですよね?」
『そうだ。冥王星軌道離脱後、予定航路に復帰する。まだまだ先は長い。今後ともよろしく頼む』
短い会話を終えると、艦長は命令を下した。
「総員第三種戦闘配置。冥王星基地は無力化したとはいえ、またどこかに敵が隠れているかもしれない。油断せずに冥王星を離脱しよう」
ヤマトが冥王星からの離脱を始めると、ハレカゼもそれに続いて離脱を開始した。冥王星軌道から離脱したところで、艦長はようやく警戒体制を解除した。
「ヤマト予定航路に向かいます」
「リンちゃんハレカゼも後に続いて」
まだまだ太陽系すら出ていないと言うのに、もうずっと宇宙にいるような気がする。そんな長い長い一日だった。だがそれは、一年という長い航海のたった一日でしかない。
昨日まであった、ハレカゼが本当にガミラスに太刀打ちできるのかという不安は、今日一日で払拭された。まだまだ不安は大きい。だが一年体長い航海で、それらも少しずつ拭い去られるだろう。そんな予感を僅かながらに感じ、少しだけこの航海の未来に希望が増えた気がした。
立石志麻
2177年8月5日 誕生
2193年4月1日 士官学校入学
2197年3月31日 士官学校卒業。三等宙尉。巡洋艦クラマ砲術員
2198年2月20日 巡洋艦クラマ砲雷長として第二次火星沖海戦に参加。二等宙尉に昇進
2198年5月5日 技術開発部兵器実験室に移籍。
2199年2月11日 宇宙嚮導駆逐艦ハレカゼ戦術長