「ワープ終了。地球から20.4光年。グリーゼ581に到達しました」
「今のワープで、これまでの航海の倍以上の距離を進んだな」
このワープで進んだ距離はおよそ12光年。グリーゼ581がなければ、更にその距離は伸びただろう。
「副長念の為みんなの体調に異常がないか、艦内に壊れた箇所がないか確認して。人手が必要なら人選は好きにしていいから」
「了解です。ですがワープは何度もしていますし、そう心配する必要は無いと思いますが」
「これまでで最長のワープだからね。今後これ以上のワープもあるし、今のうちにできる限りデータは集めておきたいんだよ」
なるほど、そう言う事か。今後ワープ距離はどんどん伸びていくだろう。だが現時点でもっとも距離の長いワープは今回のものだ。今回もし異常がでれば、次の長距離ワープに活かす事ができる。
次のワープまでの間、手の空いている主計科と戦術科を使って館内を見て回る事になった。
「わざわざ主計長自ら手伝ってもらうほどのものでもなかったんだがな」
「主計長って、案外暇なのよ。なんせ部下の給養員たちが優秀で、やることと言ったら艦内備品の管理くらいだから」
主計長の
「そう謙遜するな。おかげで備品の一覧や、場所を細かくデータにしてくれているから、いつも助かっている」
ヤマトから余分なものを受け取って、置き場所に困るなんて事は今のところ起きていない。彼女が気だと管理してくれているからこそだ。
「今のところ、乗員も
「そうみたいね。後は機関部を確認すれば終わりね」
機関部に向かっていると、突如警報が鳴り響いた。
「すまない、後は頼む。私は艦橋に行ってくる」
後の作業を等松二尉に任せ、私は艦橋に向かった。
「何が起きた」
「ヤマトが超高密度のプラズマフィラメントに接触したようです」
「プラズマフィラメントというと、確か恒星から放射されるプラズマの束だったか」
簡単に言えば、太陽風でしかない。だがそれだけで警報が鳴る訳がない。何か特別な事情があるのだろう。
「ヤマトからの報告によると、明らかに人為的なものとの事です」
「人為的だと?」
「ガミラスか、あるいは別の異星人か。いずれにせよ入れたという事は何処かに出口があるはずだよ」
「入口に戻ればいいのではないですか?」
入口から出てはいけないなんてルールはないはずだ。
「戻るとなると、場合によってはこのグリーゼ581を大きく迂回しなければならないかもしれない。ただでさえ予定より遅れてるんだし、このまま横断できるならしてしまいたいよ」
ここに来て太陽圏での遅れが響いてきたか。戻るだけでも多少の時間はかかるし、確かにできるならこのまま横断したいか。
「後方にワープアウト反応。数は三隻!」
「総員第一種戦闘配備!」
「敵艦魚雷発射、近いです。迎撃不可能域まで後
「対空ミサイル、発射準備」
納沙二尉の言葉に立石二尉が即座に反応した。西崎三尉が命令を受け照準を合わせる。前方のヤマトでも感知しているはずだが、迎撃する様子は見られない。
「対空ミサイル、いつでも行けるよ!」
「ヤマトの指示を待ちますか、艦長」
「必要ないよ。ミサイル撃ち方はじめ」
「
ハレカゼから放たれたミサイルは、魚雷の迎撃に成功した。
「待ってください、迎撃した魚雷付近に未確認物体があります」
未確認物体は、周囲のプラズマを吸収しながらどんどん近づいてくる。接触されればハレカゼはおろかヤマトも分解され消えてしまうだろう。
『こちら気象観測室、勝田ぞな。解析したプラズマの出口は、目の前の恒星ぞな』
ハレカゼの気象観測部門は、装備においてはヤマトと大差無い。おそらくヤマトでもこの情報は確認されているだろう。
「ヤマト、グリーゼに向かいます」
「艦長このままでは艦内温度が高くなりすぎてしまいます。波動防壁を使いましょう。あれなら多少は温度もマシになるはずです」
「まだ防壁は必要ないよ。ただいつでも使えるようにしておいて。防御隔壁閉鎖。総員船外服着用」
ハレカゼの艦内温度が六十度を超えた時点で艦長はそう命じた。ハレカゼより大きいヤマトなら、もう少し持つのかもしれないがハレカゼではこの辺が限界だ。
「ヤマト前方に巨大なフレアが発生」
「ヤマトは回避できそうか?」
「不可能です!」
後方には敵の戦艦、前方にはフレア。ヤマトは一体どうするんだ。
「ヤマト機関停止を確認」
「ヤマトは諦めたのか?」
ここまできて、座して死を待つとでもいうのだろうか。
「第三砲塔発射準備。目標後方の敵戦艦。同時に波動防壁展開」
「艦長?」
「沖田提督が諦める訳がないよ。何かするつもりだ。なら私達はその時間を稼がないとね」
岬艦長は確信している様子だった。たしかに地球の命運を託されたヤマトが、そう簡単に諦めるとは思えない。だがここから巻き返せる手段が本当にあるのだろうか。
「いつでも行けるよ!」
「撃ち方はじめ」
「
当たり前ではあるが、ハレカゼの主砲でガミラスの弩級戦艦の装甲を貫く事は困難だ。魚雷なら話が違っただろうが、生憎艦尾に魚雷発射管はない。
「敵艦に被害確認できず」
「ヤマトの真後ろにつけて。波動防壁は最大出力で展開!」
最大出力であった事が功を奏し、ガミラスのビームをなんとか弾く事ができた。だかそれはそう長く持たない事は火を見るより明らかだ。
「波動防壁の損耗が著しいです。もって後二発です」
「十分だよ。それだけあれば沖田提督が現状を打開してくれる」
そうしている間にも、敵艦隊は距離を詰めてくる。そう長くは持たない。
「ヤマト艦首に膨大な熱反応、波動砲を撃とうとしています!」
「波動砲でフレアを撃ち抜く気つもりなのか!?」
浮遊大陸を破壊した波動砲なら、あるいはそれが可能なのかもしれない。だが本当にそんな事が可能なのだろうか。
「ヤマト、波動砲発射しました!」
ヤマトの波動砲は、見事フレアに大穴を開けてみせた。これなら行ける。
「ヤマト前進を開始しました」
「リンちゃん、ハレカゼも前進させて」
ハレカゼがフレアを突破した時点で、フレアはほぼ閉じかかっていた。レーダーでは、そこに駆逐艦二隻が突っ込み消失したのが確認された。弩級戦艦に関しては、フレアでレーダーが遮られその最後は確認できなかったが、おそらく同じような結末を辿ったのだろう。
「フレアを撃ち抜くなんて……」
西崎三尉はあっけに取られた様子だった。
「強力な兵器だ。南部砲雷長が冥王星基地攻略で、しきりに使用を訴えたのも理解できる」
「なんで使わなかったんだろ。あれがあれば、冥王星基地はもっと簡単に攻略出来たはずだよね」
「あの威力では、基地どころか冥王星そのものまで破壊しかねないからな」
「そっか。流石に星を破壊するのはやりすぎだよね」
何気なく艦長席を見ると、岬艦長は眉間に皺を寄せ深く考え込んでいた。
「どうかしたんですか、艦長」
「え、ああいや。ガミラスの技術って不思議だなと思って」
明らかに何か取り繕った様子だったが、本人が聞かれたくないのならあまり突っ込まない方がいいだろう。
「あのガス状物質、多分生物ですよね。生物を兵器に転用するなんて、ガミラスの技術力は高いのか低いのかよくわかりませんね」
「別に生物の兵器利用は何もガミラスに限った事じゃないですよ」
「そうなのか?」
「たとえば大昔の地球では、核地雷の寿命を延ばすために鶏を使ったらしてたんですよ」
核地雷の寿命を延ばすために鶏を使う? いったいどういう事なのだろうか。
「なんとですねーー」
その後はとんでもなく長い話が続き、何故か彼女の好きな仁義の無い感じのヤクザ映画の話に移った。適当に返事をしたせいで、今度一緒に見る事になってしまったのは誤算だった。
黒木洋美
2179年11月1日 誕生
2195年4月1日 士官学校入学
2199年2月10日 士官学校卒業。准宙尉
2199年2月11日 ハレカゼ機関長補佐