「エンリを助けてくださり、ありがとうございました!」
声を上げ。頭を下げるンフィーレアに死柄木はあっけに取られた。
これほど真っすぐに感謝を伝えられた事など今までに無かったからだ。
確かに村長などから感謝の言葉は伝えられたが、それは尊敬が籠ったモノであり、単純な感謝とは違った感情だった。
つまり、現実では一切向けられることの無い物であり。空想の様に感じたのだ。
だが、単純な感謝であり。真っすぐと伝えれる言葉は死柄木に衝撃を与えた。
なまじ嘘感知などの感情把握系の個性を持っている事も後押しした。ンフィーレアの言葉が真っすぐと心に打ち付けられる。
(どこか、うつつのゆめの様に感じていたのかもな)
現実では有り得ない体に力に世界。夢の様に感じていたのを死柄木は実感した。
「感謝、ね。俺は利益──つまり金欲しさでこの村の連中を助けただけだ、エンリ・エモットが生き残ったのは単なる偶然だ」
「それでも。エンリを助けてくれたことには変わりありません。だから、何度でも言います」
ありがとう──と。
■
エ・ランテル。
バハルス帝国に最も近い都市であり他国からの侵略を防ぐ為三重構造になっている城塞都市。
国で一番大きい保存倉庫と墓を持つ大都市でありトブの大森林というモンスターの世界も近いことから冒険者の数も非常に多い。
また王国。帝国。法国の三か所を繋ぐ都市でもある為人の流通も非常に多い。
建築様式はレンガを使った家が多く熟練の大工が作った家に人々は住んでいる。
その様な都市を歩く。風変わりな者が一人。
長身──非常にガタイのいい体をしている男だ。服の上からでも分かる程に鍛え上げられた筋肉をしている。
背丈は百九十程度であり都市の中でも背が大きい方だろう。しかしながらその程度なら多少珍しいだけ、中には二百もの長身の大男だっている。
男が周囲の注目を多少集めるのはその髪と眼。
老人の様に白い髪。そして赤い瞳。多少知識があるモノならばアルビノだろうかと疑問を抱き、胸元を見て納得する。
胸に輝くのは銅の板。それが指し示すのは冒険者。
冒険者ならば成程。白い髪も納得がいくというもの。髪の色を変えるマジックアイテム等有り触れている。冒険者は一部人気商売じみたところがある。
その為知名度と人気の為に髪の色を変え、眼の色も何かしらの手段で変えたのだろう、と一部の者は納得し目を反らす。
そして周囲の視線を受けながら歩く男──死柄木は地図を頭の中に詰め込む。
(冒険者登録で使った金と、村長から貰った銅貨から考えると無駄使いは出来ないな。これなら騎士を灰にしないで剥いでおけばよかったか?)
物騒な事を考えながら歩くのは死柄木弔本体。分身は現在トブの大森林の掌握と研究中である。
森の掌握は現在順調であり森の近辺に居たデカいハムスターを捕まえて支配下に置くことに成功している。
他にも二足歩行の蜥蜴や気持ち悪いカエルなどを発見済みであり情報収集と掌握の同時進行は難しいとし現在は森内部の調査用分身を新たに作り支配と調査で分けている。
個性研究の方は分身を三体にし創造やハイスペックを駆使しているも進捗は芳しくない。精々が電球の作成にようやく成功した状態だ。
(ここか?)
色々考えてる内に目的地に到着する。
辿り着いたのは宿だ。騎士の記憶を奪うことで文字も読めるだろ、ガハハと余裕ぶっていたが騎士は法国出身であり法国の文字しか覚えていなかった。
これが六色聖典だったら違ったのだろうが所詮は使い捨ての囮部隊である。結果死柄木はこの国──王国の文字がわからないまま。
そこらのチンピラから奪うか。学習するか。後者だな、と考えながら冒険者組合の受付に教えられた宿の扉を開ける。
扉は木製のウエスタンドアの簡素な物。開ければギィという軋む音がする。
入れば実にみずぼらしい宿であった。
第一に、汚い。
食べかすが床の隙間にこびりついている。碌な掃除をしていないのか窓枠には埃が溜まっている。
立地其の物は悪くないのだろうが整備も掃除もしていないのが印象を更に悪くさせる。
更には椅子なども老朽化が酷く強くたたけばそれだけでへし折れそうである。
他の特徴は椅子や机は木製。酒場を兼ねている一階は非常に広いという所だろう。大人数での飲み食いを想定しているのだろう。
カウンターの隣には二階へと上がる階段があり、当然のように階段も汚れている。
客層は実に柄が悪い。全員が武装した冒険者なのは冒険者向けの宿なので当然だが、ガラが悪いモノしかいない。
悪く言えばヤンキー等の雰囲気だ。暴力に成れた雰囲気を醸し出している。客の九割が男なのもこの雰囲気に助力している。
前──この世界に来る前の死柄木ならば回れ右して帰った光景だ。だが今の自分はこの程度の塵芥等意に介さない力を持っている。その事実が死柄木に余裕を与え足を進ませた。
(これなら大森林の家の方がマシだな)
思わずこのままワープゲートで帰るか悩んだが諦めて進む。
真っすぐ進めばそこはカウンター。バーカウンターに似た作りであり髪をそっている男が立っている。
ちらり、と男が死柄木を一瞥するとふん、と鼻を鳴らした。
「宿だな。相部屋で一日五銅貨。飯は──」
「飯は要らん。一人部屋を希望したい」
あぁ、と店主は客、死柄木を睨む。
死柄木は一歩も引かない。この程度の塵の視線も感情も取るに足らないモノだから。
「なんで俺が相部屋って言ったか、わかるか?」
「わからん。そこまで頭を回す気はないからな」
「少しはその頭で考えたらどうだ?!」
ドン、とテーブルを叩き店主は怒鳴る。
前の死柄木ならば恐怖で竦むだろうが今は違う。逆に邪魔だし殺そうかなと手が出そうに成るのを抑える。
「冒険者ってのは、仲間がいないといけねぇ。一人じゃできる事なんざ限られてる。だから相部屋で暮らして、仲間を得るんだ。わかったか?」
まぁ、そうだろうなと察しは着いていた死柄木はそれでもあっそ、という雰囲気を崩さない。
「で、今の話を聞いた上でもう一回だけ聞いてやる。部屋は?」
「一人部屋に決まってんだろ」
当然死柄木は一人部屋希望。何が悲しくて何処の誰とも知らんおっさんと同じ部屋で眠らなければいけないのか。
「……ちっ、一日七銅貨。部屋は二階の奥を使え」
「わかった」
ポケットから財布を取り出し銅貨を七枚取り出し払う。
店主から鍵を渡され二階へ向かおうと足を向ける。
足元を見れば、これ見よがしに足を突き出す男が一人。
へらへらと薄ら笑いを浮かべている。
(こちらを値踏みするつもりか?)
新しく来た同業者に対する対応として間違っていないかと死柄木は感じるがそれはそれとしてむかつく。
なので普通に歩き──突き出された足を踏み潰した。
「ぎゃぁぁあ!!!」
本気の絶叫が男から発せられた。
如何に個性を使って強化をしていなかったとはいえ
骨は折れ、ぐちゃぐちゃに成る。なまじ冒険者として使っている鉄板の入った靴を履いていたのもまずい。鉄事踏まれ歪まされた結果靴を脱ぐことすら出来なく成った。
「足! 俺の、足が!」
仲間の本気の絶叫に同じテーブルに就いていた男たちは立ち上がる。
「おい、俺の仲間に何してんだよ」
流れとしては予定通りではある。だが、この様な事をやられるとは露ほども思っていなかった冒険者は怒気を込めて死柄木に言い放つ。
「はぁ? なんのことだ?」
本気でわからない、という風に死柄木は演じる。演じるも何も知らないのだが。
死柄木にとってはこいつがこれで死のうが再起不能になろうがどうでも良い。身寄りもなく後ろ盾も何も無い今舐められれば終わりだ。だからこの手の輩は本気で潰す必要がある。
法が許すならばこの場の全員殺す気ではある。だが流石にそれは許されないので半殺しで済ませる。
半殺しと言っても死んでないだけの状態にするつもりだが。
剣を抜きそうになる冒険者を見た店主が声を上げた。
「辞めろ! 俺の店で刀傷沙汰でも起こす気か! とっとと部屋にあがれ!」
そう声を上げた店主に死柄木はふん、と鼻を鳴らし歯を食いしばる冒険者を横目に二階に上がった。
「──おい、これを使え」
店主が奥からポーションを取り出す。
ここは冒険者向けの宿であり当然気性の荒い者たちが集まる場所だ。だからこそいざと言う時の為の治癒薬であるポーションは常備している。
「すまない、たすかる」
足を踏み潰された冒険者の仲間の一人が感謝と共にポーションを受け取る。
「足はどうだ?」
「これが無事に見えるのか?!」
死柄木に足を潰された男は声を荒げる。
「このままだとポーションを使えんな。靴を斬るぞ」
ポーションは傷を治す効果はあるが、装備品を直す力は無い。
このままポーションをかければ歪んだ鉄入りの靴とポーションによる再生によって歪んだ状態で足が治るだろう。
それがわかっている仲間はナイフを取り出し武技を使って靴を斬る。
ただの鉄製でよかった、と言うべきか高位の金属を使って防御を固めておくべきだったか。どちらともいえない感情をいだきながら靴を裂いた。
靴が完全に外れると同時にポーションをかけて治癒をする。
一部のポーションは飲まなくても効果を発揮する。一定量かければ発動するのは魔法を使ったポーションだからこそだ。
瞬く間に傷が治り足が綺麗に戻る。だが靴は戻らない。
「で、あいつはどうだった?」
その言葉を皮きりに冒険者達は各々話し出す。
また自分たちを直ぐに超えそうなのが現れた、容赦の無い奴だった。足を踏み潰すとか人の心とか無いんか。自分も踏んで欲しい──等など。
だが、共通するのは自分たちなど直ぐに超えていくのだろうな──という嫉妬でも憧れでも無いモノだった。
「これが宿かぁ……」
最低ランクの宿なのだから仕方ないんだろうが。それでもこれは無いんじゃなかろうか。思わずそう言いたくなる酷さであった。
当然、これは死柄木が日本で暮らしていたモノであり宿など精々がビジネスホテルや旅館程度しか経験したことの無い者だからこその感想だ。
探せば日本でもこれぐらいの宿はあるしカプセルホテルなどの色々な危険が生じる宿は日本にだってある。だがそういった物と無関係の死柄木は嘆く。
(危機感知があってよかった。何かあれば知らせてくれるだろ。飯はエネルギー効率があるから別にいいしな)
エネルギー効率は食事・睡眠の効率が非常によくなるというものだ。睡眠は二日に三時間程度で済むという個性である。
それ以外にも活動系の個性を有しておりその気になれば一週間は飲まず食わずで全力全快の戦闘をし続ける事も可能だろう。排泄などは不要になる個性を持っている。
更には植物系の個性ーーつまりは空気中の水分や太陽光からエネルギーを得ることが出来る。その為基本的には食事や睡眠は不要なのだ。この体は。
だがそれはそれとして人として最低限の暮らしをしたいので碌な掃除もされておらずカプセルホテルよりも酷いであろうこの部屋に死柄木は不満しか抱いていない。
飯を断ったのはこんな所の食事等不味くて食えたものではない気がしたから。パンにカビでも生えていそうという偏見である。
後は飯を用意して貰ってもまずくて食えたものじゃなかったら捨てるのも勿体無いという感情。
その気になれば食等の個性で岩だろうが土だろうがカビの生えたパンだって食って糧に出来るが普通にうまい飯を食いたい。
そして死柄木は硬いベットに横につき。眠りに落ちた。
「──あ?」
ガタっと、死柄木は跳び起きた。
危機感知が鳴り響いている。これまで感じた事無いほどに。
これまで反応したのは一度だけ。六色聖典──陽光聖典の隊長ニグン・グリット・ルーインの所持する魔封じの水晶を見た時。
つまり今、暗部組織の隊長に匹敵する危機が迫っている。
扉を開け、階段を下りて進む。軋む階段を気にもせず、ドタドタと他の客を気にもとめず歩く。
一階の酒場まで降り、ウエスタンドアを開けて外に出る。それと同時に街の鐘が痛くなるほどに鳴り響き他の家や先程までいた宿から冒険者等が飛び起きて出てくる。
外は既に夜。暗闇の中。だが紫外線や空間把握等の感知系個性を持つ死柄木には昼間と左程変わらない視界を確保できる。
耳を澄ます──聴覚強化系の個性を併用すれば聞こえるのは人の悲鳴。助けて、誰か。冒険者は、何でここにアンデッドが──という人々の嘆きの声。
(アンデッドだと?)
少しづつ大きくなる悲鳴と剣戟音に周囲の家も窓を開けて状況を確認しようとする。
跳躍。
跳んで進んだ先は冒険者組合の前。組合からランタンや松明等の明かりを持った人間が慌ただしく出てくる中剣や杖を持った冒険者も出てくる。
そこに空から男が降りて来たとなれば、当然注目を集める。
敵か、味方か。思わず武器を手に取りそうになる中胸元に光る銅のプレートに気づき安心すると同時に、何故たかが銅のプレートが空を、という疑問を抱く。
「シガラキさん!」
そこに少しばかり話したことのある冒険者。銀等級でありいっぱしの冒険者として活躍する者の一人。ペテル・モーク。
「これは一体何があったんだ?」
駆け寄って来るペテルに死柄木はぶっきらぼうに尋ねる。尋ねることなくとも既に事態は大体把握しているのだが。
「実は共同墓地からアンデッドが湧いて出て来たんです。数が多く、どうしたものかと……」
それを聞いた死柄木は──
(めんどくせぇぇぇ!!)
その一心であった。
成程確かに。今の死柄木ならばこの程度のアンデッドの群れはどうとでもなる。彼ら程度が苦戦、あるいは苦難しているのがいい証拠だ。
その気になればこの場の全員瞬く間に殺せるのだから。彼ら程度が苦戦する相手ならばどうとでも出来るのは客観的事実と言える。
だが問題がある。一つは解決がそもそも許可されていない、出来ないのだ。
能力だけならば確実にあるが自分のランクは最下級の銅。立場で言えば一番低い。
その様な者がしゃしゃり出て自分が解決すると言えば、どう思うだろうか。いい感情は絶対に抱かないだろう。
良くて村八分。悪くて追放だろう。あるいは"この事態もお前が起こしたんじゃないか"と勘ぐられる事間違いなし。下手すれば犯罪者として指名手配も受ける。
なので死柄木が取る手段はたった一つ。
「そうか。それは大変だな。俺は市民の避難誘導でもすればいいのか?」
これである。
冒険者として関わらないことは許されない。だが自分が解決するのは許されない。だから一般的な銅級が出来るであろうことを提示する。
その言葉に他の冒険者はそりゃそうだ、と直ぐに興味を無くすがペテルは違う。
前依頼主であるンフィーレアやカルネ村の住人から何が起こったかを凡そ知ってしまった彼は死柄木が帝国騎士を打ち倒したと聞いている。
流石に王国戦士長がらみの話題は聞いていないしそもそも王国戦士長を助けたのは知らない。あくまでも助けたのはドラゴンであり死柄木ではない。そのことは村人も知っている。───シガラキ様が何かしたのだろうと察せられてはいるが。
だが、帝国騎士。つまりは専業騎士であり冒険者ランクで言えば銀等級相応の者たちを一方的に倒した実力者。そうでなくとも野盗の類を一方的に倒せる力の持ち主。
ここで戦って貰えば、事態は必ずいい方に動くという確信がペテルにはある。だが、ペテル以外のモノにとっては別だ。
それにペテル自体もそこまで戦って欲しいと思っている訳ではない。もし、助けてもらえたらという希望的観測に溢れた思考に過ぎなかった。
だからこれでペテルはこれ以上言うのを止めようと思い。別れの言葉を切り出そうとし──
「やぁやぁやあ! 君がシガラキ君だね!!!」
大声にそれは邪魔された。
この場の全員、死柄木もペテルも近くに来ていたルクルットも驚愕し動きが止まる程の声量。
声の主は冒険者組合長。若くは無いが年寄りという程老いても無く。力強く強者だとわかる体をしている。
ここエ・ランテルの冒険者組合の長であるプルトン・アインザックだ。
まぁまぁまぁ、とにこやかな、営業マンの様な笑みを浮かべたまま死柄木の肩を掴みいっそ不気味に思えるほどにいい笑顔のまま死柄木と共に冒険者組合の中に連れ去った。
一連の流れを見たペテル他冒険者は一体何だったんだ、と疑問を抱き──進軍するアンデッドを前に思考を切り替えた。
「単刀直入に言おう。私は君がしたことを──帝国騎士を打ち倒したという事を聞いている」
「へぇ?」
プルトン・アインザックはこの都市で最も力の強い人物の一人だ。物理的な戦闘力ではなく権力という意味で。
単純な権力ならば商人組合を越え、都市長に次ぐ権力を有している。これもそれもトブの大森林に近い冒険者組合の長という立場だからこそだ。その権力に見合うだけの心労を重ねているのは兎も角。
ならば当然、情報収集をしておりトムラ・シガラキが帝国騎士を打ち倒したという話は勿論、間接的に王国戦士長を助けたという話も知っている。
王国戦士長は言葉では彼は何もしていないのだろうと言っていたがその実彼が何かしてくれたという確信を抱いていた事も、知っている。
だからこそのこの対応。この緊急事態を解決してくれるかもしれない英雄への希望。
「この事態には恐らく、ンフィーレア・バレアレ氏が関わっている。
というのも彼の祖母、リイジー・バレアレ氏が彼が行方不明になったと主張した途端にアンデッド騒ぎ。関係ないと思う方が可笑しいと思わないか」
「あぁ、ンフィーレア・バレアレのタレントですか」
「そうだ。彼の持つタレント──"どのようなアイテムも使用・装備が可能"というタレントを使われていると組合は判断している。彼自身が悪意を持って使っているというよりは精神操作等で操られていると思われる」
ンフィーレア・バレアレのタレントは強力無比。装備に一定条件が必要な物──例えば特定種族でしか装備出来なかったり隠し職業についていないと装備出来ないなどの制限がある装備を無視して使える。
だが装備・使用が出来るだけ。装備する事によって発生するデメリットや使用に関するデメリットは踏み倒せない。
この世界のマジックアイテムは何かしらの制約がある方が強いという傾向がある。王都のアダマンタイトの一人が装備する鎧も処女という神聖なる者でないと装備出来ないという制約がある。──余談だがンフィーレア・バレアレは普通にそれを装備出来る。
だからこそプルトンはその可能性に思い至った。ンフィーレアは何かしらのマジックアイテムを装備させられ、使用されているのではないか、と。
故にこそ、トムラ・シガラキへの要請。
だが同時に違和感もいだいている。
ンフィーレア・バレアレの帰還の一時間後にトムラ・シガラキの来訪と冒険者登録。その日の晩にこのアンデッド事件。関係性はあるのだろうか。
一瞬思考が割かれそうになるも即座に辞める。今それを考えて何に成る。必要なのは今をどうにかする力だ──と。
「それに関する報酬や、ぽっと出の餓鬼が解決する事に関する問題は?」
当然の疑問だ。それと同時にまだ若いな、とプルトンは思う。
「報酬ならば相応の物を用意している。他の冒険者たちも──君ほどの実力者が解決してくれるならば何も言わないだろう」
一人、大きく文句を言いそうな男の顔が浮かんだがかき消す。
「了解、じゃあ、さっそくやらせてもらう」
「ま──」
プルトンが呼び止める暇無く。死柄木は組合から出る。
如何にシガラキが実力者と言えど相手の実力が未知数な今。一人で向かわせるのは愚の骨頂。故に都市最高の冒険者であるミスリル級を付ける予定だった。
死柄木を追い自身も組合を慌てて出る。だがそこに既に死柄木の姿は無い。
何処だ、と視線を動かせば既に冒険者たちの先頭に居た。
「おい、あんた──」
「ああ、邪魔」
声をかけた冒険者の一人を無視し先頭に躍り出る。
冒険者達は各々武器を手にアンデッドの軍勢を迎え撃たんとしていた。
アンデッド相手にバリケードは無意味。無駄。知能があれば別だが知能無き低位アンデッドは簡易的なバリケード等力任せに壊すか文字通りに仲間の屍を踏み越える。
これが城壁レベルなら話は別だが、今作れるとなるとどうしても人と同程度の高さの壁だ。それを作る暇があるなら市民の避難を優先させた。
だからこそ、冒険者達は夜の帳から真っすぐと、命亡き瞳で見つめながら歩いてくるアンデッドを迎え撃たんとしている。
市民の避難は完了とは言えないが、ほぼ済んでいる。銅や鉄級の冒険者を総員し、今も街の鐘を鳴らし続けているからこそ。
アンデッド、と一口で言っても種類は豊富だ。
代表的なのはスケルトンとゾンビ。だがスケルトンでも
やって来る軍勢でも大多数は低位の、一般的な冒険者には雑兵と言って差し支えない雑魚ばかり。単なるスケルトンやゾンビ等この数の冒険者なら相手に成らないし、都市最高のミスリル級ならば文字通り紙の様に散らせる。
だが中位ともなって来ると変わって来る。
それをわかっている冒険者達は固唾をのみ、ひょい、とやって来た男──死柄木にあっけに取られる。
「邪魔だ。雑魚共」
この程度の雑魚の群れに個性を掛け合わせるのも馬鹿らしい。
「死者は死者らしく、灰に帰れ──!」
火葬文化がある国出身らしい言葉。
発動する個性は蒼炎。荼毘の個性を発動する。
ここで最大火力等出せば都市が焼け落ちる為そこだけは制御し放つ。
青い、いっそ幻想的で神秘的な炎が都市の一角を包み込む。
避難していたからよかっただろう。出なければ周囲の家の住人は焼死するか炎で肺が焼かれ死ぬだろう。それほどの火力。
群れていたアンデッド──スケルトンから
アンデッドは偽りの生命が尽きれば消える。だからこその、一掃。
「すげぇ……」
そう呟いたのは誰だろうか。自分か、あるいは別の誰かか。
ぶんぶんと軽く腕を振るい、何も無かったかのように死柄木は振る舞う。
その内心は若干あれている。
(あってよかった痛覚遮断! なかったらこれ反動で泣いてるぞ!!)
少しばかり皮膚が焼かれてしまった。即座に超再生で治ったからいいものも火力をミスってしまった。
事実道路や家の壁などが若干溶けている。石やレンガの融解温度を軽く超える炎を放ったのだから当然と言えば当然だが。
「じゃあ、行ってくる」
ドン、と地面を蹴り、飛び上がった。