「今回の事件を解決してくれたこと、本当に感謝する……!」
エ・ランテル。冒険者組合の三階。
そこには三人の男が居た。
一人は言うまでも無く、冒険者組合の長であるプルトン・アインザック。
もう一人は奇妙な事に貴族。パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアというエ・ランテルの都市長であり王直轄領であるエ・ランテルの領主である男。
貴族にしては──というのも妙だが太った男だ。典型的な肥満体型。頭皮も薄い。
悪役令嬢の転生ものとかに居そうな外見だな、と失礼な感想を述べているのは死柄木弔。
三人は長机に座っている。位置としては死柄木から見て右がプルトン。左がパナソレイだ。
「さて、今回の事件。アンデッド騒動に関する事件の詳細をシガラキ君。君の口から聞きたい」
そういったのはパナソレイだ。普段の──愚者を演じる事無く領主として相応しい貫録を出しながら問いかける。
それに死柄木はわかりました、と素直に答える。と言っても死の宝珠に関してはごまかし、なんかよくわからない力でデスナイトとかいうアンデッドを召喚したとだけ。
「ふむ。プルトン君。そのデスナイトなるアンデッドについて知っている事は?」
「申し訳ありません。都市長。アンデッドに関しては調べてはいるのですが情報も無く……上位のアンデッドであろうことしかわかっていないのです」
「そうか。出来れば引き続き調査の方頼む」
さて、とプルトン・アインザックは気を引き締める。
「まずはこれを。今回の事件を解決したことに関する報酬だ」
そう言って後ろに控えていた従者が死柄木に歩み、袋を差し出す。
報酬の金一封だろう。それを死柄木は受け取る。
「そして次に、新しい冒険者プレートだ」
次に従者は箱を取り出し、開けて死柄木に渡す。
箱の中から輝くのは
当然、理由はある。一つはアンデッドの群れをただの一撃で倒す事が出来る魔法能力。推定第四位階相当の魔法の行使。
そして、王国戦士長を助けたことによる戦闘力の提示と、それに対する謝恩。
一部政治的な理由が絡んでいるが、おおよその理由はこんな所だろう。
だが、プレートを渡す瞬間。プルトンは冷や汗を流す。
トムラ・シガラキの実力は
それほどの実力者なのにたかが
仲間の不足。本来冒険者は複数人でのパーティ活動を前提とするがシガラキは仲間がおらず、ソロ活動だということ。
次に立場をどうするか、という問題。他の冒険者達はシガラキの実力をいやという程知った。ならば当然、力が全ての冒険者の世界ではランクというわかりやすい指標に当てはめる必要がある。
だが、高すぎるランクではダメだ。実力はあるのだろうが人格がわからず、信頼が無い今は。
だからと言って
当然死柄木はそんな内心知らないのでまぁこんなものか、とプレートを素直に受け取る。
「さて、次に君が得たマジックアイテムなのだが……本来、冒険者が活動中に得たアイテムはその冒険者の手に渡る事に成っている。
今回はこれほどの事件を起こした主犯の所持品として一時預かり、という事に成っていたのだが……そのアイテムの一部を、都市に譲って欲しい。
当然、相応の金額は支払う──どうだろう」
これで嫌だ、と言われればそれはもう面倒な事に成る。
シガラキが回収したアイテムである叡者の額冠。それは非常に珍しい代物であった。それこそ二百年前の魔神戦争時代の遺物と言われても納得できてしまうぐらいには。
それは着用者の自我を封じ込めることで高位魔法の媒介にするという、邪悪なアイテム。
これが、単にズーラーノーン内で開発・あるいは回収しているアイテムならばいいだろう。だがそうでない可能性のが高いと二人は考えていた。
シガラキとの聴取でわかった事だが、今回の事件の主犯には協力者がおり、その人物が与えたマジックアイテムである可能性が高い──と。
当然裏は取ってある。何人かの衛兵が刺突武器で殺されているのを確認した。主犯格が魔法詠唱者である為刺突武器使いが協力者で間違いないだろう。
ならば、叡者の額冠はその協力者が与えたアイテムではないか? という疑問が出て来た。
マジックアイテムの鑑定をおこなったエ・ランテルの魔術師組合の長。テオ・ラケシルが狂喜乱舞し文字通りにマジックアイテムをしゃぶりそうになるほどの強大な力を持つアイテムだ。
それほどのアイテムをズーラーノーンが作っていたというよりは何処からか盗って来たと考えた方が良い。
複数の製造が可能ならばたった一つである訳が無い。製作が可能ならば複数の叡者の額冠を作り使わせていたはずだと都市長は考えている。
問題は何処から来たのか、という問題。たかが犯罪組織が用意するには難しいアイテムは何処かの国から盗って来た可能性が高いと踏んでいる。
だからこその叡者の額冠を都市に渡すという事になったのだ。
当然これは冒険者組合の規則から外れた行為だ。本来ならば組合は冒険者を守る必要があるが、事が事である以上どうすることも出来ない。
「正当な対価が払われるのならば、いいですよ」
──と、あっさりとシガラキは認めた。
■
「疲れた……」
はぁ、と死柄木は溜息をつきベットに倒れこむ。
整った部屋だ。掃除も行き届いており調度品の質もいい。
初日に泊まった安宿ではない。
その宿に組合長との話し合いが終わると同時に真っすぐ向かい、倒れこむ。
「あー、もう。なんで組合長なんぞと話さないとあかんのだ……」
一般人を主張する死柄木にとっては冒険者組合長と都市長の話は雲の上の様な事だ。
現状国の一つでも創ろうかと画策しているがそれはそれ、これはこれ。
それこそ日本で例えるならば冒険者組合長は一会社の社長だし、都市長は言うまでも無く知事相応の者だと認識している。
だからこその倒れこみであり溜息。バタバタと足を動かし嘆く。
無論本気では動かさない。本気でバタ足などしようものならこの宿は潰れる。物理的に。
「あーくそ、だけど都市長をサーチで登録出来たのは良かったと思うべきか……?」
サーチは見た者の位置と弱点を把握する。これで都市長が何処に居ようが見つけ出し暗殺する事が可能となった。
将来的にエ・ランテルに対し戦争でも仕掛ける場合は重要な要素となるだろう。──する予定は無いが。
(しかし、プラチナか。現実にもある鉱石だがこの世界では違うのだろうか。というか丁度真ん中程度のランクか──上がり過ぎたな)
死柄木としては別にランクを上げる気など毛頭無かった。というのも情報を集めるうちに高位の冒険者は面倒だとわかったからだ。
普通に暮らす分には名誉はいいだろう。だが、国を興し王となる予定の自分が冒険者として大成して何になるのか。
冒険者が一国の王になる。成程確かに夢溢れる事だ。だが、実際に王に成れば所属していた組織である冒険者組合やそれのある国等、様々な問題がやって来る。
だからこそランクとしては
これでは問題ごとが多すぎる。それに組合長の反応を見る限りではもっと上にしてきそうだし。
「はぁ~~~めんどくせぇ~~~」
そうして嘆き、飯食うかと立ち上がるまでごろごろし続けた。
「さて、話はこれで終わりではないのだろう?」
「その通りです。都市長」
死柄木が消えた後の組合で二人の密談が始まる。
議題は当然、トムラ・シガラキ。
「先日、戦士長殿がトブの大森林にて発見したドラゴン。それに関する調査をエ・ランテル都市長として冒険者組合に依頼したい」
ドラゴン。永遠を生きるモノ。超越者。人を超えた者。
力の象徴であるドラゴンは人手は到底太刀打ちできない存在。それに抵抗するには人類の限界。英雄と称される者たちの力がいる。
つまりは。
「アダマンタイト級冒険者に依頼をしたい」
都市長としてはこれは無視できぬ問題であり、冒険者組合としても対処すべき案件だ。
ドラゴンはいるだけで問題となる。トブの大森林に居座りでもするのならば生態系が大きく変わり、モンスターがあふれ出てくる事態となるだろう。
下手したら部族連合でも創られて群れとなりこのエ・ランテルに襲撃をかけるかもしれない。それほどの事態だ。
だが同時に、ドラゴンが何なのか、という問題が現状出ている。戦士長の危機に駆け付けたドラゴンと村を助けたシガラキ。関係性が無いと思う方が可笑しいだろう。
つまり、件のドラゴンがシガラキが使役しているのか、逆にシガラキが使役されているのか、調べる必要がある。
──まったくもって面倒な事になった、とプルトンは頭を抱えたくなった。