第2話「静かな嫉妬」
午前7時55分ーー本栖高校・駐輪場
次の日、本栖高校の駐輪場へ水色と白色のツートンカラーのヤマハ・ビーノが入ってきた。
乗っているのはもちろんリンである。
昨日は寝坊だったが今日は忘れ物を取りに帰っていたのでいつもより遅く登校した。
ブロロロロロ…キィィ…
「ふぅー…『忘れ物取りに行ってたら遅くなっちゃった…サトルはもう来てるか…』」
彼女は隣に停めてあるサトルのYBに目を向ける。
しかしながらサトルが見当たらない…
いつもならリンが来るまで待っているはずだ…
「サトル…どこ行ったのかな…?」
そう呟きながら駐輪場の外へ出る。
すると部室棟の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「いや〜元気そうだな。」
「先輩も元気そうで安心しました!怪我したって聞いた時は心配しましたよ…!」
「心配かけたね…ごめん。」
「いえいえ!」
「……ん?この声は…」
リンが部室棟へ目を向けるとそこにはサトルと知らない女子生徒が談笑していた。
女子生徒は見るからに1年生のようだ。
サトルは相変わらず笑顔で接している。
「……むぅ…」
それを見たリンは少し頬を膨らませた。
サトルは昔から男女関係なく誰にでも対等に接している。
常に笑顔で話し、相手の話をしっかりと聞くので"仏"と言われるほどの優しい性格だ。
しかしーーリンは他の女子生徒と話しているサトルを見ると自然に頬を膨らませてしまうのである。
「…あんなに楽しそうにしちゃって…」ムスッ
「…あっ!リン!おはよう!」
彼女がボソッと呟いているとサトルがこちらへ気づいて笑いかけた。
しかしーー
「…ふん…」プイッ
「あれ〜…?」汗
リンは頬を膨らませながらサトルに背を向けて歩き出した。
それを見た彼は唖然とする。
『もしかして昨日の事で拗ねてるのかなぁ…?バイトで疲れてたから帰ってからも連絡してなかったし…』汗
「…先輩?」
「ん?どうしたの?」
「あの人って…志摩先輩ですよね?」
「あぁ。山本も覚えてたんだ。」
「先輩達が中学時代の頃によく練習見に来てくれた人ですから。」
「懐かしいね〜。リンが来てくれるとつい張り切っちゃって打撃練習も空振りばっかりでさ〜。」
「そんな事もありましたね〜。……でもなんだか安心しました。」
「ん?何が?」
「今でも仲睦まじそうだからですよ。昔から変わってないので。」
「…当たり前だよ。リンは俺にとって大切な人だからさ。」
「ふふっ。じゃあ早く行ってあげてください?」
「あぁ。今日もお互い頑張ろう。」
そう言うとサトルはリンを追いかけた。
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同時刻ーー昇降口
一方、ムスッとした表情で昇降口へやって来たリン。
丁度靴を履き替えて教室へ向かうところだった。
「…はぁー…『…私もひどい女だな…別に他の女の子と話すくらいサトルの自由なのに…』」
「またため息ついちゃってどうしたの?」
「!!」
リンが振り返るとそこには恵那が立っていた。
「斎藤…おはよ。」
「おはよう〜。サトルくんは一緒じゃないんだ?」
「…部室棟前で女の子と話してたから邪魔したら悪いと思って。」
平然を装ったリンだったが、恵那にはお見通しだったのかニコニコとした表情だ。
「…なるほどね〜。リンは嫉妬しちゃったわけか〜。」
「っ…べ、別に嫉妬してない…!///」
「ほんとかな〜?」
「………///」
リンは頬を赤く染めながら黙り込んでしまった。
恵那はそんな彼女を見て揶揄うような笑顔をやめて優しく微笑んだ。
「リン?」
「……何…?///」
「別に嫉妬くらいしても良いんじゃない?だってそれくらい好きなんでしょ?」
「…うん…///」
彼女は素直に答えると少し俯いた。
「でもね…?」
「うん。」
「サトルが誰とでも仲良くなるのは昔からだし…私も幼馴染だからそれはよく分かってるつもり…でも…」
「うん。」
「…さっき話してるのを見て…勝手に不機嫌になって…挨拶してくれたのに無視して来ちゃったから…私って最低だなと思って…」
「…そっかそっか〜。確かにそれは謝らないとね〜。」
「………」
「でもね?」
恵那は微笑みながら続ける。
「リンは悪気があって無視したわけじゃないでしょ?」
「…うん…」
「じゃあ大丈夫だよ。サトルくんはリンに甘いからそういうの多分気にしないし、多分分かってるはずだから。」
「……サトルはこういう時鈍感だから分かってないと思う…」
「そうかな?まぁいずれにせよサトルくんだってリンの事は大切に思ってるから心配しなくても良いと思うよ?私から見る限りサトルくんってリンと話す時はいつも以上に優しそうだからさ。」
「…そうだといいな…」
するとそこへーー
「リン!」
「!!」
「まだ昇降口にいたんだね。」
「サトル…」
サトルがやって来るとリンは再び俯いた…
「リン?どうかした?」
「…その……さっきはごめん…」
「えっ?」
「…せっかく挨拶してくれたのに無視しちゃったから…」
「…ははっ、なんだそんな事か〜。別に気にしてないよ。」
「えっ…?」
リンは驚いたように顔を上げた。
サトルは相変わらずの穏やかな表情で続ける。
「むしろリンがそういう反応する時って大体俺に問題があるからさ?また何かやっちゃったのかなって逆に不安になったよ。」
「サトル……馬鹿…」
「え…?」汗
「こういう時くらい怒ってよ…無視されたんだから…」
「…無理だなぁ…俺にとってリンは大切な人だからそんな事で怒れないよ…」
「……えっ?///」
リンは頬を赤く染めながらサトルを見上げる。
よく見ると彼も頬を少しだけ赤くさせていた。
「…ほら、早く教室行こう。」
「う、うん…///」
『…ふふっ、やっぱりね〜。』
少し離れた場所へ移動して様子を見ていた恵那はニコニコとした表情になっていた。
「…あっ、おはよう恵那。」
「おはよう〜。朝から仲良しだね〜。」
「斎藤…」
「ん〜?どうしたの〜?」
「…ありがと…」
「!!…ふふっ、どういたしまして。」
「何の話?」
「サトルには関係ない。」
「女の子2人だけの秘密だよ〜。」
「えぇ…?」汗
3人はそう言いながら教室へと歩き出した。
リンはすっかりモヤっとした気持ちは無くなり、口元には軽く笑みを浮かべていた。
ーー第2話・完ーー