第3話「それぞれの自宅にて」
午後18時30分ーー身延町切石区・郡上家
一週間の登校を終えた金曜日。
リンとの本栖湖キャンプが明日に迫っていた。
サトルはキャンプに備えて部屋で用具の準備をしている最中だった。
「テントよし…シュラフよし…マットよし…調理器具よし…ランタンよし…」
念入りにチェックした後に彼は近くに置いてあった本に目を向けた。
月曜日のバイト中に見つけた都市伝説の書籍である。
前々からリンが気になっていた本で、プレゼントしようと買っておいたのである。
「…喜んでくれるといいな…」
サトルは笑みを浮かべながらそう呟いた。
するとーー
「サトル〜!!ご飯できたわよ〜!!」
一階から母親の呼ぶ声が聞こえてきた。
「は〜い!ちょっと待ってね〜!」
彼は本を鞄へ入れると荷物の最終確認を始めた。
午後18時35分ーー郡上家・ダイニング
ガチャ…
「お待たせ〜。」
「ただいまサトル。」
「あっ、おかえり父さん。帰って来てたんだ。お疲れ様。」
「あぁ。ありがとう。」
サトルがダイニングへ入ると既に彼の父親である"郡上タツノリ"が座っていた。
サトルにそっくりな顔立ちで、髪色も灰色。
彼の職業は中央市内にあるバイク屋の整備士である。
帰宅後につなぎ姿からは着替えているが、頬には軽くオイル汚れが付着していた。
サトルが席につくと全員で夕食を食べ始めた。
「…何気に今気づいたんだけどさ父さん?」
「ん?」
「今日は仕事終わるの早かったんだね。」
サトルは時計を見ながらタツノリに尋ねた。
「最近残業続きだったから店長から早めに帰れって言われたんだ。」
「なるほどね。」
「まぁ個人的に楽しいから残業しても別に苦にはならないんだけどな。」
「何言ってるの!そんな事したら貴方の身体壊れちゃうでしょ!」
「あははは…カナエが言うなら無理かぁ…」汗
タツノリの隣からキッパリと物申したのは濃紺色のロングヘアが特徴的な女性…サトルの母親"郡上カナエ"。
普段から笑顔が絶えない優しい心の持ち主だが、間違っている事はキッパリと物申すしっかりとした性格だ。
「父さんは母さんに弱いなぁ…」
「昔からだから気にするな。」
「だってお父さんは昔から無理する人だったからねぇ…サトルもお父さんにそっくりだから心配なのよ?」
「俺は父さんほど頑固じゃないから大丈夫だよ。」
「頑固言うなよ…」汗
「あはははっ!」
「でもサトル?」
「ん?どうしたの母さん?」
「リンちゃんからしてみれば貴方も頑固なんじゃない?」
カナエはニコニコとした表情でサトルに尋ねた。
「あ〜…なんとも言えないな…たまに頑固って言われちゃうからね…」汗
「そうでしょ?」
「お前も変わらないじゃないか。」笑
「あはは…」汗
「……そういえば…明日の準備はできた?リンちゃんとキャンプなんでしょ?」
「うん。さっきまで念入りに確認してたからね。」
「リンちゃんかぁ…最近顔見れてないな…元気にしてるか?」
「相変わらずだよ。やっぱり昔を思えば物静かになったけどね。」
「そうか……それで?」
「何が?」
「リンちゃんとは付き合い始めたのか?」
「っ!?ゲホッゲホッ…!!な、何を言ってるんだ父さん…!?///」
サトルは飲んでいた味噌汁を吹き出しそうになりながら赤面した。
「あれ?まだだったんだな?いつだったか結婚の約束した〜みたいな事言っていたからそろそろかなと思ったんだけど?」
「あら、懐かしいわね〜。2人で手を繋いで報告しに来たもんね〜。」
「……まだ付き合ってないです…///」
「…まだってことは…?」
「……今年中には言います…///」
「おっ!!そうか!!楽しみにしておくよ!!」
「楽しみね〜。」
赤面したサトルを前にして両親はニコニコとした表情を見せた。
『…はぁー…まだ付き合えるって決まったわけじゃないのになぁ…///』
サトルは心の中でそう呟きながら夕食を食べ進めた。
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午後18時45分ーー身延町瀬戸・志摩家
一方、リンの自宅でも父親の"志摩渉"と母親の"志摩咲"を含めた3人で食卓を囲んでいた。
リンも明日の準備が整っており、内心はワクワクしていた。
『…明日はサトルと久々に2人でキャンプ…楽しみだなぁ…』
明日の事を考えるだけで口元が自然と緩んでしまう。
普段は1人を好む彼女でも好きな人とのキャンプはそれほど楽しみなのだ。
「…リン?」
「…ん?何?」
「さっきから嬉しそうね?明日が楽しみで仕方ないんでしょ?」
母親の咲がニコニコとした表情で尋ねてきた。
「…だってサトルとのキャンプだから…2人で行くの久々だし…」
「そうね〜。なんせ好きな人だものね〜。」
「っ!?お母さん!!///」
リンは顔を真っ赤にさせると身を乗り出すかの勢いで声を上げた。
「あら?違うの?」
「違う…!!……わけじゃないけど…///」
「わけじゃないけど?」
「…口にするとまだ恥ずかしいから…///」ボソ
「…ふふっ。ちょっと揶揄いすぎたかしら?」
「むぅ…///」
咲がくすくすと笑うとリンは頬を膨らませた。
「リン。」
「…何?///」
今度は父親の渉が声をかけた。
しかし咲とは違って穏やかな笑顔だ。
「覚えてるかい?サトルくんと結婚の約束したっていう話。」
「…覚えてるよ…忘れるわけない…///」
「手を繋いで報告に来てくれたものね〜。」
「お母さん…!!///」
「あはははっ。…それでねリン?」
「…うん…」
「父さんな?もうその時からリンのことサトルくんに託すつもりだったんだよ?」
「……えっ…?」
リンはキョトンとした表情で顔を上げた。
「だってさ?リンって昔からサトルくんについて回ってたじゃん?でも普通…あのくらいの歳頃の男の子なら恥ずかしがって突き放す事があると思うんだ。それでもサトルくんはリンを突き放さずにむしろ一緒に居てくれたから父さんもなんだか安心できた。」
「お父さん…」
「不思議だよね。まだ小さかった男の子に娘を託そうって感じるなんて。」
「昔からサトルくんは何かと頼りになったからじゃない?」
「それもあるかもね。」
「……そっか…」
リンは両親がこんなにもサトルの事を信頼してくれていたのかと感じ、今だに素直になれない自分が情けなく感じた。
「…リン。」
「…ん?」
「もしも2人が幼馴染から関係を変えたとしても父さん達はサトルくんのことを受け入れるからね。自分達のペースで頑張りなさい。」
「……うん。ありがと。」
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午後22時ーー志摩家・リンの部屋
夕食を食べ終え、風呂と着替えを済ませたリンはベッドに腰掛けていた。
視線の先には幼少期から高校入学までに撮影されたサトルとのツーショットが飾られている。
「……自分達のペースか…」
リンは先程父から言われたことを呟いた。
あの言葉のおかげで少し気持ちが軽くなったと感じたのである。
「…明日…もう少し素直になってみようかな…」
するとーー
ブブッ…
「ん?……サトル?」
サトルからメッセージが届いたのである。
・サトル
『リン!1日お疲れ様!明日の準備はできた?リンと久々に2人で行くキャンプ楽しみだよ!』
「…ふふっ、相変わらずだな。」
リンはメッセージを見て微笑むとすぐに返信した。
・リン
『サトルも1日お疲れ様。準備はできてるよ。私もサトルとのキャンプ楽しみ。』
・サトル
『なら良かった!自分だけ浮かれてるのかと思ったよ(笑)』
・リン
『そんなわけないでしょ。サトルとのキャンプ好きだから。』
・サトル
『そう言ってもらえて嬉しいよ!じゃあまた明日ね!おやすみリン。』
・リン
『うん。おやすみサトル。』
「……ちょっと素直になってみたけど…気づいてないだろうな…」
リンはくすくすと笑うとベッドに横たわった。
そして再びトーク画面を眺める。
「…大好きだよサトル…」
そう呟きながらリンは電気を消して眠り始めた。
明日の好きな人とのキャンプを心待ちにしながら。
ーー第3話・完ーー