戦場となったニューヨークの上空を、一筋の赤い閃光が駆け抜けていた。
「……ああ、もう! 次から次へと!」
背中の炎翼を噴射しながら、俺は思わず悪態をついた。
先ほどから休む暇もなくチタウリの軍勢を相手にしている。空を飛び回る飛行艇だけでも厄介だというのに、地上には歩兵が溢れ、時折リヴァイアサンと呼ばれる巨大な怪物まで姿を現す始末だ。
しかも、こちらはつい数十分前まで普通の人間だった身である。
閃刀姫レイとしての身体と兵装を手に入れたとはいえ、戦場での経験まで備わっているわけではない。装備の操作方法は自然と理解できても、敵の攻撃を避けるたびに心臓が跳ね上がるし、誰かが危険に晒されれば冷静な判断も難しくなる。
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
『レイ、聞こえるか?』
「はい! 聞こえてます!」
『キャップの位置を送る。彼の指示に従ってくれ。地上の連中をまとめるのは、僕より彼の方が向いてる』
通信越しに聞こえてきたのは、アイアンマンことトニー・スタークの声だった。
視界に新しい情報が表示され、目的地を示すマーカーが点灯する。
「了解です!」
『それと、くれぐれも無茶はするなよ。君のスーツには興味があるが、スクラップになったものを調べる趣味はない』
「……努力します!」
『努力じゃなくて約束してほしいんだがね』
そんな軽口を最後に、通信が切れた。
俺は小さく息を吐くと、目的地へ向かって飛行速度を上げた。
ビルの谷間を抜けた先、道路の中央に見覚えのある人物が立っていた。
青を基調とした戦闘服。胸元には白い星。そして、左腕には星条旗を模した円形の盾。
キャプテン・アメリカ。
スティーブ・ロジャースその人だった。
「……本当にいるんだな」
映画の中で何度も見た人物が、今は自分の目の前にいる。
そんな感慨に浸る暇もなく、俺は道路へ降下した。
着地すると、キャプテンは一瞬だけこちらへ視線を向けた。
「君がスタークの言っていたレイか?」
「はい! レイです!」
「スティーブ・ロジャースだ。スタークから話は聞いている。協力してくれるそうだな」
「はい。できることなら何でも」
俺の返事に、スティーブは短く頷いた。
「ならば、まずはあの建物に残された市民を避難させてほしい。敵の増援が接近している。上空から援護できるか?」
「任せてください!」
そう答えると、俺は再び炎翼を展開した。
スティーブは俺の装備を興味深そうに見ていたが、今はそれについて尋ねるつもりはないらしい。
「よし。行ってくれ!」
「了解!」
その言葉を合図に、俺は空へ飛び上がった。
目的の建物は、道路を挟んだ向かい側にあった。
入口付近には数人の民間人が集まっている。しかし、その前方にはチタウリの兵士たちが展開しており、逃げ道を塞いでいた。
「……あれか」
敵の数は六体。
正面から突っ込めば、民間人を巻き込む危険がある。
ならば、まずは注意を逸らす。
「ホーネットビット!」
俺の呼びかけに応じ、小型の無人兵装が展開された。
ホーネットビットは俺の周囲を一度旋回すると、指示に従ってチタウリの頭上へ向かう。
小型兵装による牽制攻撃が始まった。
『ギギッ!?』
突然の攻撃に、チタウリたちが一斉に上空を見上げる。
その隙を逃さず、俺は急降下した。
「はあああっ!」
炎剣を振り抜き、先頭のチタウリを斬り伏せる。
続けて身体をひねり、隣の敵へ斬りかかった。
しかし、三体目のチタウリがこちらへ武器を向ける。
「ウィドウアンカー!」
射出されたアンカーが敵の武器へ絡みつき、銃口を強引に逸らした。
青白い光弾が空へ向かって放たれる。
その隙に接近し、炎剣で敵を撃破した。
「……あと三体!」
残る敵へ向き直る。
だが、そこで背後から声が響いた。
「伏せろ!」
「えっ?」
反射的に身を屈める。
直後、頭上を円形の盾が通過した。
盾はチタウリの一体へ直撃すると、そのまま跳ね返って別の敵を打ち倒した。
そして、投げた本人の手元へ戻っていく。
「……おお」
思わず声が漏れた。
キャプテン・アメリカの盾投げ。
映画で何度も見た光景だったが、実際に目の当たりにすると想像以上に凄まじい。
「レイ! 右だ!」
「っ!」
声に反応して振り返る。
最後のチタウリが武器を構えていた。
俺は炎翼を噴射して一気に距離を詰めると、炎剣を振り抜いた。
敵が崩れ落ちる。
周囲を確認すると、どうやらこの一帯の敵は片づいたらしい。
「……ふう」
息を吐いたところで、スティーブが駆け寄ってきた。
「よくやった。市民の避難は俺たちが引き受ける。君は上空の警戒を頼む」
「分かりました!」
そう答えて飛び立とうとしたとき、スティーブが声をかけてきた。
「レイ」
「はい?」
「君はまだ若い。無理をする必要はない」
思わず言葉に詰まった。
確かに、今の俺の外見は少女そのものだ。
だが、中身は別の人生を経験した人間である。
とはいえ、そんな事情を説明できるはずもない。
「……大丈夫です」
俺は小さく笑った。
「できることを、やるだけですから」
スティーブはしばらく俺を見つめていたが、やがて静かに頷いた。
「分かった。だが、危険だと思ったらすぐに退け。生き残ることも大切な任務だ」
「……はい!」
その言葉を胸に、俺は再び空へ飛び上がった。
戦いは、まだ終わっていない。
◇
それから、どれほどの時間が経過したのだろう。
ニューヨークの空では、相変わらずチタウリの軍勢が暴れ回っていた。
俺はカガリの機動力を活かし、飛行艇の迎撃や民間人の避難支援を続けていた。
だが、敵の数は一向に減らない。
「……これ、キリがないぞ」
飛行艇を一機撃破したところで、思わず呟く。
ワームホールが開いている限り、敵はいくらでも現れる。
この戦いを終わらせるには、あの穴を閉じるしかない。
そのことは、映画を見ていた俺には分かっていた。
そして、ニューヨーク決戦がどのように終わるのかも。
「……確か、そろそろだったよな」
そう呟いた直後、通信に緊迫した声が響いた。
『全員、聞いてくれ!』
スティーブの声だった。
『敵の増援が続いている。だが、こちらも突破口を見つけた。各自、持ち場を維持してくれ!』
俺は空を見上げた。
巨大なワームホール。
その向こう側には、チタウリの母艦が存在している。
映画では、トニーが核ミサイルをワームホールへ運び、母艦を破壊することで侵攻を終わらせた。
そして、その代償として――。
「……トニーが、死にかける」
思わず呟いた。
映画の結末を知っている。
だが、それはあくまでも映画の話だ。
俺という異物が混ざったことで、何かが変わってしまう可能性もある。
それでも、できることはあるはずだ。
「……よし」
俺は通信を開いた。
「トニー、聞こえますか?」
『ああ。どうした、お姫様』
「今、どこにいますか?」
『ちょっと忙しいところだ。何か用か?』
「……いえ」
言葉に詰まる。
これから核ミサイルが発射される。
それを知っているなどと言って、果たして信じてもらえるだろうか。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「トニー! 空から何か来るかもしれません! 気をつけてください!」
『空から? そりゃあ今も山ほど来てるが――』
そのときだった。
遠くの空に、一筋の光が見えた。
高速で飛来する細長い物体。
その形状を見た瞬間、俺は息を呑んだ。
「……来た!」
核ミサイル。
映画で見た、あの場面だった。
『……おいおい、冗談だろ』
トニーの声が変わった。
『ジャービス、あれは何だ?』
『核弾頭を搭載したミサイルです、サー』
『……なるほど。どうやら上の連中は、街ごと吹き飛ばすつもりらしい』
通信越しに、トニーが舌打ちする音が聞こえた。
『レイ、悪いが少し離れていてくれ』
「トニー!」
『心配するな。ちょっと配達に行ってくるだけだ』
その言葉を最後に、アイアンマンは急加速した。
赤と金の装甲が、核ミサイルへ向かって飛んでいく。
「……くそっ!」
俺も炎翼を展開した。
追いかけようとする。
だが、すぐに気づいた。
今の自分には、あのミサイルを安全に処理する手段がない。
アフターバーナーで撃墜すれば、核弾頭を街の上空で破壊する危険がある。
ウィドウアンカーで拘束したところで、ミサイルをどこへ運べばいいのか。
そして、何より。
トニーは既にミサイルを抱え、ワームホールへ向かっていた。
「……頼むぞ」
俺は空を見上げた。
アイアンマンが、青白い光の渦へ飛び込んでいく。
その姿が見えなくなった。
そして、数秒後。
ワームホールの向こう側で、眩い光が瞬いた。
「……っ!」
その直後、街中のチタウリが次々と動きを止め始めた。
飛行艇が制御を失い、地上へ墜落する。
兵士たちも糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
チタウリの母艦が破壊されたのだ。
「……終わった?」
だが、まだ安心はできない。
トニーが戻ってきていない。
俺は再びワームホールを見上げた。
青白い光の渦が、徐々に小さくなり始めている。
「……トニー!」
通信を開く。
「トニー! 聞こえますか!?」
返事はない。
「トニー!」
何度呼びかけても、通信は沈黙したままだった。
そのとき。
閉じかけたワームホールから、小さな赤い影が落ちてきた。
「……いた!」
アイアンマンだった。
だが、その身体からは推進炎が出ていない。
完全に意識を失っているらしい。
「まずい!」
俺は炎翼を全開にした。
赤い閃光となって、落下するアイアンマンへ向かう。
しかし、距離がある。
このままでは間に合わない。
「ウィドウアンカー!」
右腕からアンカーを射出する。
伸びたアンカーが、アイアンマンの装甲へ接続された。
「よしっ!」
すぐさま巻き取りを開始する。
だが、落下する装甲の重量と速度は想像以上だった。
「ぐっ……!」
腕に凄まじい負荷がかかる。
カガリの推進機構が唸りを上げた。
それでも、俺はアンカーを離さなかった。
「……落とすかよ!」
炎翼を噴射し、全力で減速する。
アイアンマンの落下速度が、少しずつ弱まっていく。
だが、地面はもうすぐそこだった。
「くそっ……!」
その瞬間、視界の端に緑色の影が映った。
ハルク。
地上から跳躍した緑色の巨人が、落下するアイアンマンへ向かって腕を伸ばしていた。
「ハルク!」
俺はアンカーを解除する。
次の瞬間、ハルクがアイアンマンを抱き止めた。
そのまま地面へ着地する。
轟音とともに道路が陥没した。
「……はあ」
思わず息を吐いた。
間に合った。
俺も地上へ降下する。
ハルクはアイアンマンを慎重に地面へ下ろしていた。
その周囲には、スティーブやソーたちが集まってくる。
「トニー!」
スティーブが駆け寄った。
だが、アイアンマンは動かない。
俺も慌てて近づく。
「……まさか」
映画では、この後にハルクの咆哮でトニーが目を覚ましたはずだ。
だが、もし何かが変わっていたら。
そんな不安が胸をよぎった。
その瞬間。
「グオオオオオオッ!」
ハルクが吠えた。
凄まじい咆哮が周囲へ響き渡る。
思わず耳を塞ぐ。
「うわっ!?」
そして。
『……なんだ? 何があった?』
アイアンマンの声が聞こえた。
トニーが目を覚ましたのだ。
「……っ!」
思わず膝から力が抜けた。
よかった。
本当に、よかった。
スティーブたちも安堵した様子を見せている。
その中で、トニーはゆっくりと身体を起こした。
『……ああ、そうだ。核ミサイルは?』
「成功した。敵は全滅したよ」
スティーブの言葉に、トニーは小さく笑った。
『……そいつはよかった』
その直後、彼の視線がこちらへ向けられた。
『おや。お姫様もいるのか』
「……いますよ」
『そんな顔をするな。俺はちゃんと戻ってきただろ?』
「……心配したんですからね」
『悪かったよ』
軽い口調だった。
だが、その声には確かな安堵が感じられた。
俺は小さく息を吐くと、ようやく笑みを浮かべた。
「……おかえりなさい、トニー」
『ああ。ただいま』
こうして、ニューヨーク決戦は終結した。
◇
戦いが終わったニューヨークには、奇妙な静けさが訪れていた。
先ほどまで街を埋め尽くしていたチタウリの軍勢は動きを止め、空を覆っていたワームホールも消えている。
しかし、街に残された傷跡は大きかった。
破壊された建物。
炎上する車。
瓦礫に埋もれた道路。
そして、負傷した人々。
戦いが終わったからといって、すべてが元通りになるわけではない。
「……ひどいな」
俺は小さく呟いた。
カガリの装甲を解除し、元の姿へ戻っている。
銀色の髪が風に揺れた。
戦闘中は気にする余裕もなかったが、こうして改めて自分の身体を見下ろすと、やはり奇妙な気分になる。
細い腕。
小さな手。
そして、見慣れない服装。
どこからどう見ても、閃刀姫レイそのものだった。
「……本当に転生しちゃったんだな」
今さらながら、実感が湧いてくる。
俺は、元の世界へ戻れるのだろうか。
それとも、このままレイとして生きていくことになるのだろうか。
そもそも、どうしてこの世界へ来たのか。
考えなければならないことは山ほどある。
だが、今は何も分からなかった。
「……はあ」
思わずため息を吐く。
すると、背後から声が聞こえた。
「おい、レイ」
振り返る。
そこには、装甲を解除したトニー・スタークが立っていた。
「……トニー」
「無事だったみたいだな」
「はい。なんとか」
「そいつはよかった」
トニーは軽く頷くと、俺の姿を上から下まで眺めた。
「それにしても、驚いたな。スーツを脱ぐと本当に普通の女の子じゃないか」
「……そう見えます?」
「ああ。少なくとも、宇宙人の軍勢を相手に暴れ回っていたとは思えない」
そう言って、トニーは小さく笑った。
「ところで、君の装備について聞きたいことが山ほどあるんだが」
「……ですよね」
「当然だ。あんな技術、見たことがない。どこの企業が開発した? それとも政府の秘密兵器か?」
「……えっと」
どう答えたものか。
まさかカードゲームの世界から来たなどと言っても、信じてもらえるとは思えない。
俺が返答に困っていると、トニーは肩をすくめた。
「まあいい。今すぐ答えろとは言わないさ」
「……助かります」
「ただし、君が何者なのかは、いずれ聞かせてもらう」
その言葉に、俺は小さく頷いた。
当然だろう。
突然ワームホールから現れた正体不明の少女。
しかも、未知の兵装を使用してチタウリと戦っていた。
そんな存在を、S.H.I.E.L.D.が放置するはずもない。
「……分かってます」
「ならいい」
トニーはそう言うと、俺の肩を軽く叩いた。
「とりあえず、今日は休め。君も相当疲れてるだろ?」
「……はい」
正直、今すぐ眠りたいくらいだった。
身体は無事でも、精神的な疲労が尋常ではない。
なにしろ、転生初日から宇宙人の軍勢と戦わされたのだ。
「……本当に、長い一日だった」
そう呟いた俺に、トニーは苦笑した。
「同感だ」
そして、彼は少し離れた場所へ歩いていった。
俺はその背中を見送りながら、ようやく一息ついた。
戦いは終わった。
少なくとも、今日のところは。
そう思っていた。
夕暮れのニューヨーク。
俺は人通りの少ない路地裏に立っていた。
トニーたちとは一度別れ、今後のことを考えるために少しだけ一人になっていたのだ。
もっとも、完全に自由というわけではない。
遠くにはS.H.I.E.L.D.の関係者らしき人影が見えるし、トニーからも連絡先を渡されている。
どうやら、俺の存在は既に監視対象になっているらしい。
「……まあ、当然だよな」
小さく呟く。
これからどうしよう。
住む場所もない。
金もない。
身分証明書だってない。
しかも、今の俺はどう見ても未成年の少女だ。
ニューヨーク決戦を生き延びたところで、問題は山積みだった。
「……はあ」
思わずため息を吐いた。
そのときだった。
背後の空間が、突然歪んだ。
「……え?」
振り返る。
何もなかったはずの路地裏に、黒と赤の光が渦巻いていた。
空間そのものが裂けるように、円形の穴が開いていく。
ポータル。
映画で見た魔術師たちのものとは、明らかに異なる。
黄金色の火花ではなく、黒い魔力と赤い光が入り交じった、不気味な門だった。
「……なんだ、これ?」
思わず身構える。
カガリへの換装を意識した、その瞬間。
ポータルの向こう側から、足音が聞こえた。
こつん。
こつん。
硬い靴底が地面を叩く音。
やがて、黒い影がゆっくりと姿を現した。
最初に見えたのは、大きな魔女帽子だった。
黒を基調とした帽子の内側には、鮮やかな赤色が覗いている。
続いて、長い銀髪。
そして、黒いドレスに身を包んだ女性が、ポータルをくぐって現れた。
その姿を見た瞬間、俺は息を呑んだ。
「……嘘だろ」
見覚えがある。
いや、ありすぎる。
遊戯王OCGに登場するモンスター。
罪宝を巡る物語の中心人物。
黒魔女ディアベルスター。
その本人が、目の前に立っていた。
「……ディアベルスター?」
思わず名前を口にする。
すると、女性はゆっくりとこちらへ顔を向けた。
銀色の髪が揺れる。
帽子のつばの下から覗く瞳が、俺を捉えた。
そして、彼女は小さく笑った。
「……へえ」
その声は、どこか楽しそうだった。
「本当にいたんだ」
「……え?」
思わず聞き返す。
ディアベルスターは俺の姿を上から下まで眺めると、納得したように頷いた。
「銀色の髪に、その顔。間違いないね」
彼女は一歩、こちらへ近づいた。
「閃刀姫・・・レイ……で合ってる?」
「……そう、ですけど」
警戒しながら答える。
すると、ディアベルスターは満足そうに笑った。
「よかった。人違いじゃなかったみたい」
「……あなたは、何者なんですか?」
思わず尋ねる。
いや、姿を見れば分かる。
だが、知りたいのはそういうことではない。
どうしてディアベルスターがMCUの世界にいるのか。
なぜ、俺のことを知っているのか。
そして、どうして突然目の前に現れたのか。
そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
ディアベルスターはしばらく俺を見つめていたが、やがて口を開いた。
「……そうだね。まずは自己紹介からかな」
彼女は帽子のつばに指を添えると、芝居がかった仕草で軽く頭を下げた。
「黒魔女ディアベルスター、地球ではアステーリャの名前を使ってるからよろしく。まあ、見たまんまだけど」
そして、顔を上げる。
「それと――」
彼女は少しだけ声を落とした。
「私も、あなたと同じ転生者だよ」
「…………は?」
思考が止まった。
転生者。
今、確かにそう言った。
「……え?」
思わず聞き返す。
ディアベルスターは、そんな俺の反応を楽しむように笑った。
「驚いた?」
「……いや、驚くに決まってるでしょう!?」
思わず声を荒らげる。
すると、彼女は肩をすくめた。
「まあ、そうだよね。私も最初は驚いたし」
「……最初?」
「うん」
ディアベルスターは静かに頷いた。
「私も昔は、普通の人間だったんだよ」
その言葉に、俺は息を呑んだ。
彼女も、俺と同じ。
別の世界で生きていた人間が、遊戯王のキャラクターとして転生した存在。
そして、今はMCUの世界にいる。
「……どうして」
思わず呟く。
「どうして、ここに……?」
ディアベルスターは少しだけ考えるような仕草を見せた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……長い話になるけどね」
彼女の瞳が、どこか遠くを見つめる。
「私がいた世界では、もう全部終わったんだ」
「……終わった?」
「うん。罪宝を巡る戦いも、あの子たちとの旅も……全部」
その声には、どこか懐かしむような響きがあった。
「いろいろあったけど、最後まで見届けたよ」
ディアベルスターは小さく笑った。
「だから、今度は少し違う世界を見てみようと思ってね」
「……それで、ここに?」
「そういうこと」
彼女は軽く頷いた。
そして、改めて俺を見つめる。
「それで、あなたは?」
「……俺?」
「そう。どうしてこの世界に来たの?」
その質問に、俺は言葉を失った。
どうして。
そんなこと、こちらが聞きたいくらいだ。
「……分かりません」
正直に答える。
「気がついたら、あのワームホールから落ちてきて……」
「……ワームホール?」
「はい。さっきまで、宇宙人と戦ってました」
ディアベルスターは一瞬だけ目を丸くした。
そして。
「……ぷっ」
小さく吹き出した。
「……え?」
「いや、ごめん」
彼女は口元を押さえながら笑っていた。
「転生したと思ったら、いきなり宇宙人との戦争に放り込まれたんだ?」
「……そうですけど」
「それはまた……ずいぶん大変だったね」
そう言いながら、彼女は楽しそうに笑っている。
こっちは本当に死ぬかと思ったというのに。
「……笑い事じゃないんですけど」
「ごめんごめん。でも、ちょっと想像しちゃって」
ディアベルスターはひとしきり笑うと、ようやく落ち着いた様子でこちらを見つめた。
「……まあ、安心して」
「……何がですか?」
「少なくとも、私はあなたの敵じゃないよ」
その言葉に、俺は少しだけ肩の力を抜いた。
だが、まだ完全には信用できない。
なにしろ、相手は黒魔女ディアベルスターだ。
しかも、罪宝狩りの悪魔の物語を終えた後の存在。
どれほどの力を持っているのか、想像もつかない。
「……それで、何の用なんですか?」
俺が尋ねると、ディアベルスターは小さく首を傾げた。
「用?」
「はい。わざわざポータルを開いて、俺の前に現れたんですよね?」
「ああ、それね」
彼女は思い出したように頷いた。
そして、にっこりと笑った。
「迎えに来たんだよ」
「……迎え?」
「そう」
ディアベルスターは右手を差し出した。
「この世界で、あなたが一人ぼっちにならないように」
その言葉に、俺は思わず目を見開いた。
夕暮れのニューヨーク。
戦いの傷跡が残る街の片隅で、黒衣の魔女が微笑んでいる。
その背後には、今も黒と赤のポータルが開かれていた。
そして、彼女は言った。
「ようこそ、レイ」
その声は、不思議なほど優しかった。
「私たちの、新しい世界へ」
こうして、俺の転生初日は終わりを迎えた。
いや。
正確には、ようやく始まったのかもしれない。
閃刀姫レイとしての、新しい人生が。
最後まで読んでくださりありがとうございます。感想コメントやアンケート、遊戯王に関するアドバイスありましたら是非お願いします。
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