遊戯王キャラ達のMCU   作:のうち

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 マスターデュエルでドミナス系を2種類いれてなにも動けなくなるとかいうミスを起こしました。ええ、まさかドミナス系の複数導入にあんな罠があるとは思いませんでした。マジで萎えて降格がかかっているのにサレンダーしてしまいました。


第八話 時を越えて帰る子

 白き森の奥で、リゼットは読みかけの本から顔を上げた。窓の外では、いつもと変わらず白い枝葉が揺れている。それでも、遠くアスガルドの方角から伝わってきた気配に、指先が冷えた。かつてボーの時代に触れた、あの闇。長い年月の底に沈んだはずのものが、今は娘の暮らす場所にある。

 

 椅子を引き、立ち上がる。卓上には飲みかけの茶を残した。何が起きたのかは分からないが、便りを待つつもりはなかった。白い衣の裾が床を離れ、足元に広がった魔法の光が彼女の姿を包む。次に靴先が触れたのは、アスガルド王宮の磨かれた石床だった。

 

 回廊には兵士の足音が響いていた。まだ、戦いの音ではない。近くを通った侍女がリゼットに気づいて足を止めたが、彼女は軽く手を上げただけで歩き出した。フリッガの気配は分かる。まず娘のもとへ行く。そのつもりで角を曲がりかけ、ふと足を止めた。

 

 ソーがいる。それ自体はおかしくない。しかし、離れた場所にもう一人、同じ孫の気配があった。片方に意識を向ければ、もう片方が消えるということもない。どちらも確かに存在している。リゼットは眉を寄せ、近い方へ進んだ。王宮を歩く者に道を尋ねる必要はなかった。幼い頃、森の茂みに隠れて息を殺していた子を見つけるのと、そう変わらない。

 

 柱の陰で、男がこちらに背を向けていた。長く伸びた髪は乱れ、厚手の衣服の下では腹が大きく張り出している。知っている孫の姿とは随分と違う。けれど、歩み寄ったリゼットが名を呼ぶと、振り返った目だけは間違えようがなかった。

 

「ソー。そこで何をしているの」

 

 男の口がわずかに開いた。何かを言おうとして、声にならない。彼は逃げ道を探すように一度だけ回廊を見渡し、それから再びリゼットを見た。その顔に浮かんだ驚きが、ゆっくりと別のものに変わっていく。

 

「……ばあちゃん?」

 

「ええ。あなた、いつからそんな――」

 

 言い終わる前に、腕が伸びてきた。大きな身体に抱き込まれ、白い衣が強く引かれる。幼い時のように勢いのある抱擁だったが、再会を喜んではしゃいでいるのではなかった。肩口に伏せられた顔から、震える息が伝わってくる。リゼットは上げかけた手を止め、それからゆっくりと孫の背に回した。

 

「どうしたの」

 

「いや……何でもない。ただ、会えると思っていなかった」

 

「それにしては、ずいぶん離してくれないのね」

 

 軽く言っても、ソーは笑わなかった。抱く腕にかえって力がこもる。リゼットはそれ以上尋ねず、しばらく背を撫でていた。彼がようやく顔を上げた時、近くの小さな休憩室を指した。誰もいない室内へ入れ、椅子を勧めると、孫は素直に腰を下ろした。座った途端に全身から力が抜けたように見えた。

 

 リゼットは向かいに立ち、その顔を見直した。髭に覆われた頬、疲れのにじむ目元。太ったことより、こちらを見ながらも何か別のものを恐れている目が気に掛かった。彼女が手を伸ばすと、ソーは叱られる子どものように肩をすくめた。頬に触れる指先を避けはしなかった。

 

「王宮に、あなたがもう一人いるわ」

 

 その一言で、ソーの表情が固まった。リゼットは扉の外へ目を向けた。遠い方の気配は動いているが、目の前の孫は座ったままだ。幻ではない。触れている肌には熱があり、その奥に感じるものも、昔から知るソーのものだった。ただ、二人の間には、今ここで過ごした時間だけでは説明のつかない隔たりがある。

 

「私の知っているあなたより、長く生きているのね」

 

「……どうして分かる」

 

「分からないことの方が多いわ。だから聞いているの」

 

 ソーは膝の上で両手を組み、親指を擦り合わせた。しばらく黙っていたが、やがて観念したように頷く。「先の時代から来た」と言う声は小さかった。リゼットは息をついた。予想を言葉にしただけだったが、答えを聞くと、改めて目の前の姿の意味を考えずにはいられなかった。

 

「一人で?」

 

「仲間がいる。やることがあるんだ。ここにあるものが、必要で……」

 

 そこまで話したところで、ソーの呼吸が乱れた。続きを言おうとするたびに息を吸い直し、視線が部屋の入口へ逃げる。リゼットは卓上の水差しから杯を満たし、その手に持たせた。「急いで話さなくていいから、まず飲みなさい」。彼は両手で杯を包んだが、口元へ運ぶまでに少し時間が掛かった。

 

「母上は?」

 

 ようやく水を飲んだあと、ソーが尋ねた。リゼットは頷き、王宮の奥へ目を向ける。「ここにいるわ。私も会いに来たところよ」。それを聞いた孫は目を閉じた。ほっとした顔だった。けれど、安堵があまりにも深く、次に目を開けた時には、涙が浮かんでいた。

 

 リゼットは椅子を引き、そばに座った。孫の顔を見ているうちに、自分が何を聞こうとしているのかが分かった。それでも、言葉にするまでに間があった。

 

「あなたのいたところでは、あの子に会えないの?」

 

 ソーは答えなかった。杯を握る指に力が入り、水面が揺れる。その沈黙を前にして、リゼットはもう一度娘の気配を確かめた。確かにいる。今、この王宮で生きている。胸の奥に生まれた冷たさを抑え、彼女はソーの手から杯を受け取った。

 

「俺は、いろんなことを間違えた」

 

 絞り出すような声だった。ソーは自分の両手を見つめていた。大きく、強い手。かつては木の枝を剣に見立て、森で一番強い騎士になるのだと言っていた子の手だった。

 

「守れると思っていた。次こそは間に合うと。俺がもっと早く、ちゃんとやっていれば……」

 

 言葉が途切れた。リゼットは続きを促さなかった。何が起きたのか、この子がどこまで責任を負っているのか、今の彼女には分からない。知らないまま赦すと言うことも、何も悪くないと断じることもできなかった。ただ、隣にいる孫が、こうしている間にも自分を責め続けていることは分かった。

 

「ソー。こちらを見て」

 

 すぐには顔が上がらなかったので、彼女は膝の上に置かれた手に触れた。昔、泥で汚れた手を差し出させた時のように、掌を上へ向ける。傷を探す必要はなかったが、握り締められていた指が少しずつほどけていくのを待った。

 

「今、誰かを助けるために来たのね?」

 

 孫が小さく頷く。リゼットはその手を両手で包んだ。

 

「なら、その話を聞かせて。まだできることがあるなら、一人で抱え込まないで」

 

「俺に、できるのか分からない」

 

「分からないまま、ここまでは来たのでしょう」

 

 ソーがようやく顔を上げた。濡れた目を見て、リゼットは指先で頬を拭った。立派な戦士になってからは、そんなことをさせる子ではなかった。今は嫌がらない。それが悲しくもあり、ここに自分が来てよかったとも思った。

 

 しばらくして、ソーが小さく息を漏らした。「ばあちゃんの家なら、茶が出てくるところだな」。リゼットはようやく口元を緩めた。「お茶だけで済むと思うの。食事をさせて、お風呂に入れて、その髪もどうにかするわ」。孫は髭に手をやり、今度は少しだけ笑った。

 

「昔、ロキと本の続きを聞いていたら、いつの間にか寝かされていた」

 

「二人とも、最後まで起きていたことの方が少ないもの」

 

「俺は起きていたぞ」

 

「そう言っていたわね。寝言でも」

 

 ソーの笑い声はすぐにかすれた。それでも、組み合わされていた手はもう震えていなかった。リゼットはその肩を一度撫で、立ち上がった。娘に会わなければならない。遠くから感じた闇と、孫の沈黙。その二つを無関係だと片付けることはできなかった。

 

「母上に、会ってもいいだろうか」

 

 背後から掛かった声に、リゼットは振り返った。ソーは立ち上がりかけたまま、彼女を見ていた。先の時代から持ってきた事情が、その足を止めているのだろう。説明されていない約束まで否定することはできない。それでも、母親に会いたいという言葉に返す答えを、リゼットは持っていた。

 

「会いたいのでしょう。あの子に、あなたが来ていると伝えましょう」

 

 差し出した手を、ソーが見つめた。幼い頃なら、その手を取って引っ張っていったはずだった。今は少しためらい、それから確かめるように握った。リゼットは握り返し、二人で部屋を出た。

 

 回廊の窓から、アスガルドの明るい空が見えた。ソーがその景色を眺めるたびに歩調を緩めるので、リゼットも足を合わせた。一方で、娘の気配からは意識を離さなかった。角を曲がった先、侍女と言葉を交わしていたフリッガが、二人に気づいて顔を上げる。

 

「お母様? いらしていたの――」

 

 その目が、隣のソーに止まった。戸惑いが浮かび、次いで、何かを読み取るように静かになる。握られた孫の手が強張った。リゼットがそっと力を抜くと、ソーは一歩だけ前に出た。

 

「母上」

 

 その呼び声を聞いたフリッガは、手にしていたものを侍女へ預けた。問い掛けるより先に息子へ歩み寄り、伸びた髭の向こうにある顔を覗き込む。ソーの口元が歪み、それでも何とか笑おうとするのを見て、彼女は両手を伸ばした。

 

 リゼットは、娘の肩に顔を伏せる孫を見守った。聞かなければならないことは、いくつもある。けれど今は、フリッガが息子の背に腕を回すまで待った。孫の手を離した自分の掌には、まだ、その震えが残っていた。

 




 最後まで読んでくれてありがとうございます。ドゥームズデイの日本語の予告が公開されました。マジで秒読みの段階に入ろうとしております。marvel遊戯王ともに盛り上げていきましょう。
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