上位存在のイケニエとして差し出された穀潰しの少年、なぜかめちゃくちゃ溺愛される   作:茨木野

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第4話 邪教徒、必ず魔神と少年を捕まえると決意する

 ルシエラ・ド・シュブ=ニグラス。太古、この星の外から来たという、祖にして外なる魔神の一柱。

 彼女が行う挙動のひとつひとつが、大魔法となる。手を少し振っただけで山がえぐれ、彼女が少し声を出すだけで、聞いた者は発狂する。

 

 いにしえの勇者ユージーンによって倒され、深い眠りに封印されなかったら、今頃世界はとっくに滅んでいただろう。

 

 ルシエラは本来、永遠に目覚めぬはずだった。しかし邪悪なる教団が、強大な魔神ルシエラに目を付けたのだ。

 魔神を復活させ、己の力としてコントロールできれば、無敵であると。

 

 教団はルシエラの封印を解いたはいいが、しかし一つだけ必要なものがあった。それは、生き血。

 

 彼女が完全に顕現するためには、人の生きた血が必要だったのだ。 

 教団員は生き血をもとめて、よそから騙して連れてきた人間たちを、魔神の住まう塔の最上階へと送り込んだ。

 

 通常の人間は、魔神の存在を見ただけで魂が砕け散って死んでしまう。あの膨大な量の魔力を見た者で、正気を保てる人間はいないのだ。

 ただ、彼らにとって誤算だったのが。

 

『わたしはもう復活したくない、外に出たくないの……。もう誰も、殺したくないの……っ! だからほっといてよっ!』

 

 魔神が、心優しく臆病な小娘だったこと。

 

 彼女は、自分の規格外の力を完全にコントロールできない。

 彼女の前に人がやって来れば、問答無用で発狂死させてしまう。そんなのは彼女が望んだことではなかったのだ。

 

 そもそも、顕現なんてもうしたくなかった。彼女が現世に降り立ったとき、多くの人間を無自覚に殺してしまった。

 それは別に暴れたとか、悪意があったとか、そういうのではない。単に、そこに生きていた。それだけだった。誰も望んでいない悲しい殺戮だったのだ。

 

 しかし、教団員はそんな彼女の事情などお構いなしだった。

 欲しいのは魔神が持つ、圧倒的な殺戮の力。彼女の意思なんてどうでもいい。

 

 魔神を復活させ、顕現させるために必要なエネルギーは、よそから仕入れてくる。

 あとは、魔神の自我を完全に洗脳して、終了のはずだった。

 

 洗脳の儀式には長い長い時間が必要だった。あと、少しだった。あと二十五日で、儀式は完成する。

 魔神は教団の言いなりとなり、世界を滅ぼす殺戮兵器になる、はずだったのだ。

 

「ちく、しょおぉっ」

 

 アントニオを連れてきた教団員が、口から血を吐きながら、悠然と立つ魔神と彼を見上げる。

 

(もう少し。もう少しだったんだっ。なんで、あんなガキが、魔神を従えているっ!? 洗脳でも行ったのかっ!?)

 

 否。彼がやったのは、教団員とは真逆のことだ。

 彼女が望む安らぎを、彼は与えた。

 彼女を魔神や化け物としてではなく、ただの一人の人間として接した。

 

 たったそれだけのことが、孤独な魔神の心を強く動かし、魂の契約に至ったのである。

 

「さ、いきましょう。アントニオ」

 

「そうだな。悪いなおっさん。バイト代はいらないから」

 

 ルシエラがアントニオの背中に回り、細い腕でぎゅっと抱きかかえる。

 

「ちょ、なに?」

 

「飛ぶわよ」

 

「飛ぶって。うわあああああああああああああああっ」

 

 魔力で強化した足で、ルシエラは力強く飛び上がる。大砲でぶち抜かれた天井の穴から、外へ。そして、何もない空をふわりと蹴って、そのまま風に乗ってどこかへと飛び去っていった。

 

「ありえ、ねえ」

 

 魔神の魔力をあんな間近で浴びせられたら、人間は正気を保てないはずだ。だが少年は生きていた。

 それに、不可解だ。

 

 魔神が魔力を解放したというのに、あの程度の跳躍、あの程度の奇跡しか行えていない。

 

 本気で魔力強化して跳躍すれば、星の外まで飛んでいくことすら可能な存在なのだ。

 

「あいつだ」

 

 アントニオ。あの少年が、何かおかしな力を持っているのだ。

 魔神をそそのかし、強大すぎる魔神の力をコントロールする、何らかの未知の術を。

 

「絶対。絶対に見つけ出してやるぞっ。ルシエラっ。アントニオぉっ」

 




【※おしらせ】

新作投稿しました。

『TS転生幼魔女かえで、1ちゃい、ゆーちゅーぶch始めました』

よろしくお願いします!

https://syosetu.org/novel/431760/
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