上位存在のイケニエとして差し出された穀潰しの少年、なぜかめちゃくちゃ溺愛される 作:茨木野
故郷の村を出た俺だったが。これからのことを、あんまり深く考えていなかった。
でもなー、とりあえず生きていくには金を稼がないといけないわけで。
「って、いつまで飛んで、どこまで行こうとしてんの? ルシエラ」
彼女は俺を後ろから抱きかかえた状態で、ずっと飛んでいる。飛ぶ、というか、跳ぶだ。彼女の背中に翼的なものは生えていない。なのに、あの一回から地面に一度も降り立っていない。これは非常に不思議だが、問題はそっちじゃない。ずっと飛び続けていることだ。
「いつまでもっ♡ どこまでもっ♡ ずぅっと、こうして二人きりで空の旅してたいな〜っ♡」
「いや、腹減ってきたし。そろそろ」
「なるほど。わかったわ」
ようやっと、下りる気になってくれたようだ。やれやれ。しかし、故郷の村からとんでもない勢いで跳んできたわけだ。かなり離れたところまでやってきてしまったらしい。
俺たちが降り立ったのは、鬱蒼とした森のなか。どうやらルシエラは、目立たないように木々の間に降り立ってくれたようだ。ありがたい。不用意に目立ってもめんどうだしな。どうやらルシエラは、その存在だけで目立ってしまうみたいだし。
「ありがとぉ〜っ♡ あたしのこと考えてくれてっ。大好き大好きっ♡」
ルシエラが嬉しそうに俺の腕にひっついてくる。可愛い子に抱きつかれて悪い気はしない。村の連中は、怯えて怖がっていた。どうやらルシエラはとんでもない量の魔力を垂れ流しており、それが周囲の人間を恐怖させちまうらしい。
でも。魔力感知が一切できない俺には、それがよくわからないのである。だから怖いとも思わないし。それに、魔力の大小だけで相手を判断するのも、どーかなとは思うのだ。
「ううううっ〜♡ すきがあふれでちゃうよぉ〜♡」
「なんかキャラ変わってない? ルシエラ。それに、なんか森の木々揺れてるし」
風?
「あ、ごめん。あたしの魔力が垂れ流しになっちゃって。気持ちが高ぶると、自然に出ちゃうの」
「そりゃ不便だな」
懸念事項としては、このままルシエラを連れて街へ行けるのかってことだ。
「なんとかならねーかな」
「現状、アントニオの反魔力のおかげで、だいぶ魔力出力は抑えられているんだけどね」
でもそれでも、村人を怖がらせちゃうって考えるとなぁ。
「っ。こほん。良い考えがあるわ」
「良い考え?」
「ええ。さらに高レベルの契約を結んで、新しい神器を手に入れるの」
「それがどう良い考えなんだ?」
そのときだった。
「きゃぁあああああああああああああああっ!」
どこからか、鋭い悲鳴が聞こえてきた。なんだ?
俺は気になったので、声のする方へ走って向かう。
「た、たすけてっ!」
「ひぃいっ!」
「あら? なんだあいつら?」
少し開けた場所に、女の子が二人へたり込んでいた。腰に剣をぶら下げたり、手に木製の杖を持っている。ありゃ、なんだ?
女の子のそばには巨大な魔物がいた。熊の魔物だ。そいつが今にも、二人に襲いかかろうとしている。
あの子達が誰なのかはわからない。
ただ、魔物が人を襲おうとしているってことだけは理解できた。
ならほっとけねー。俺の親も、昔魔物に食われて死んだって聞くし。両親と同じような目にあおうとしているのを、やっぱ見過ごせない。
「レベル1神器、出てこいっ!」
ずずず、と俺の右腕に重厚な大砲が出現する。俺の反魔力を吸って圧縮された弾丸となり、それが一気に発射される。
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
木々をなぎ倒しながら、熊へ向かって一直線に弾丸が飛ぶ。
熊は俺に気づいたのか、ばっ、と野生の勘でギリギリで避ける。直撃はしなかった。が、弾丸の凄まじい風圧だけで熊が横へ吹っ飛んでいった。
「大丈夫か、あんたら」
「は、はい」
「ルシエラ。俺の方はいいから、この子らを守ってくれ」
「……………………ちっ」
ちっ、って。今、舌打ちしましたよね。まあでも、渋々納得してくれたようだ。へたり込む二人の前に立ってくれている。よし、これでOK。
俺は彼女らの前に立ち、巨大な大砲の先端を起き上がった熊に向ける。
「二発目っ!」
どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!
だが熊も馬鹿じゃない。俺の放った弾丸を、今度は軽々と避けた。
レベル1神器の大砲は、確かに火力は高い。だが、小回りがきかないうえ、攻撃の軌道が直線的だ。動きの速い相手には、結構技を見切られてしまう。
「ぐろおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
熊が雄叫びを上げて襲いかかってくる。俺は神器を消した。念じれば自由に出し入れ可能のようである。熊に接近し、強化したこぶしで直接殴り付けようとする。だが、熊の方が圧倒的にガタイがデカく、リーチが長い。
先にあいつの丸太のような腕が襲いかかってくる。こぶし同士が激しくぶつかる。
「ぐっ!」
こぶしを反魔力で強化していたというのに、衝撃で結構腕がしびれた。手の皮がむけちまっている。
硬い。
もう少し強めに殴った方が良いのか。いや、でも。
「ああっ! アントニオぉっ!」
ルシエラが駆け寄ってきて、俺の右拳を両手で優しく包み込む。
「血っ! 血が出てるわっ! ああ。なんて」
痛そう、ってか?
「おいしそうっ♡ もったいないっ♡」
「え?」
おいしそうって。いやこれ、人の血なんですけれども。
ルシエラは目に♡を浮かべ、そして俺の血がにじむこぶしにチュッと口づけをする。そして、こぼれた血をちろりと舐め啜る。
瞬間、俺の右手の円の紋章が激しく輝いた。そこから、また黒い煙が噴出する。
「今度はなんだ? 槍?」
煙が晴れると、一本の黒い古びた槍が出てきた。長い柄の先に、鋭いナイフが付いているような形状である。
槍の刃の付け根には、ボロボロの布が巻きつけられていた。
「あたらしい、レベル2の神器よ」
「いつの間にレベルが」
どうして? どうやって?
「ぐろおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
熊の魔物が口を大きく開く。そして、勢いよく口から灼熱の炎を吐き出した。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
「魔法か? なら反魔力で打ち消しを」
すると、俺の意思とは関係なく、槍が自動で先端を炎に向ける。切っ先に炎がぶつかると、シュゥウウウウウウウウウと、凄まじい勢いで吸い込まれていく。
刃の付け根の布の色が、炎を吸って鮮やかな紫色に染まっていく。
「なんだ? 炎を吸収してるのか?」
「どうやら、レベル2の槍は、魔力を吸収する効果があるようね」
なるほど。あの魔物の炎は魔力でできているんだ。で、吐き出された炎の魔力を、この槍が吸収している、と。
「どうやら取り込んだ魔力は、その布にため込まれてるみたいだわ」
反魔力は強いが、相手の力を全部消しちまうのが、若干もったいない感じがあった。でもこの槍なら、相手の魔力を余さず自分の力として使えるってわけか。
「取り込んだ魔力を。解き放つっ!」
槍が眩く輝く。そして取り込んだ魔力が、紫の布から一気に放出される。
ぐんっ、と体が前へ引っ張られる。槍が魔力のエネルギーを後方へ噴出。槍を握っている俺はそのまま、ロケットのように熊に向かって猛突進した。
鋭い先端が、熊の分厚い体を易々とぶち破った。
「よっしゃ。って、とまらねええええええええええええええっ!」
俺はそのまま木々をなぎ倒しながら突っ走り、ようやく止まった。相手の魔力を吸収し、強力な突進力に変えるレベル2の槍。
これがあれば、俺の反魔力と併せて、ルシエラの強大すぎる魔力をさらに上手く抑え込むことができるかもしれない。
「す、すごい。貴方は一体」
さっき助けた女の子が、震える声で俺に尋ねる。俺は、えーっと、なんて答えればいいか。
「もしかして、高名な魔剣士さまですか?」
「あ、いや。田舎から出てきた、ただの穀潰しです」
女の子たちは俺の正直な返答を聞いて、ぽかんと間の抜けた顔で口をあけるのだった。