上位存在のイケニエとして差し出された穀潰しの少年、なぜかめちゃくちゃ溺愛される 作:茨木野
俺が助けた女の子たちに、近くの街まで案内してもらうことになった。
冒険者登録をするためである。
森から歩くことしばし。到着したのは、そりゃもう立派な街だった。
「ここが、都会かっ」
人がたくさんいる。視界いっぱいに、人や行き交う馬車、そして背の高い建物が広がっている。別に誰かが大声を出している訳じゃないが、それでもざわめきが絶え間なく鼓膜を揺らす。こんなの、静かな田舎じゃあり得ない光景だ。
「ここノォーエツは辺境都市ですよ。都会はもっと広くて大きいです」
「まじかっ。これ以上があるのか。すげえ。いたたたたっ」
ぎゅうううっと、ルシエラが細い指先で俺の頬を強くつねってきた。
「なんだよ」
「あたしのこと見てないから」
「え。だからなんでつねるんだよ」
「しらないっ」
えー。理不尽すぎませんかね。答えも教えてくれないなんて。しかし何か怒らせるようなことはしたみたいだ。
「悪かったな。怒らせて」
「んーんっ♡ ぜーんぜん怒ってないよっ♡」
情緒。まあ機嫌が直ったならいいか。しかしほんとわからないな。ご機嫌になるときと、そうじゃなくなる時の違いが。
女の子たちに連れられ、俺はそのまま冒険者ギルドとやらへと向かう。人が多すぎて肩がぶつかりそうになるが、レベル2神器の槍が俺の背中にあるおかげで、ルシエラの魔力が抑えられているのは心からありがたい。
ばちっ。
ん? 何の音だろう。
今なにか、静電気が爆ぜるような音が聞こえたような。気のせいか。
ほどなくして、俺たちはギルドの建物前へとやってきた。二階建ての重厚なレンガ造りだ。すげえ。こんな立派な建物なんて、初めて見た。
中に入ると、これまた人がすごい。人のことしか言っていないが、そりゃそうだ。俺はずっと田舎で、土と虫ばかり見て過ごしてきたのだから。
建物の中は、汗と革鎧の匂いが充満し、むせ返るような熱気に包まれていた。
女の子たちと同じく、杖を持っていたり、腰に剣をぶら下げている人たちが多く見受けられた。これ全員、冒険者ってことだよな。
すごいなぁ。人ってこんなにたくさんいたんだなぁ。
「手続きはあの奧にある、受付で行えますよ」
「ありがとなっ」
俺は木の床を踏み鳴らし、受付の列に並ぶ。どうやら彼女らのように、依頼を受けたり、逆に依頼したりすることもできるみたいだ。
少し待つと、俺の番になった。
「いらっしゃいませっ。冒険者ギルドへようこそっ」
はぁ、美人だ。ルシエラが世界で一番美人だと思ったし、実際に彼女が一番だが、それでも都会の受付嬢は整った顔立ちの美人だな。
「ふふんっ♡」
あ、ルシエラが隣で得意げに胸を張っている。そういや魔力からある程度心が読めるらしいけれど、反魔力からでも心が読めるものなのだろうか。
「愛のパワーで読めるのっ♡」
「へー、まじか。すげえな」
「えっへへ〜っ♡」
なんだか嬉しそうだな、ルシエラさんよ。
「それで、御用向きは?」
「あ、冒険者に登録したいんだ。確か試験を受けるんだっけ?」
「登録試験ですね。はい、できますよ。そちらのお嬢さんも?」
「やらないわ」
と、ルシエラが冷たく言い放つ。あれ?
「やんねーの?」
「うん。興味ないし」
「そっか。じゃあ俺だけ試験受けるわ」
受付嬢は「かしこまりました」と微笑み、引き出しから羊皮紙の書類を取り出して、俺に手渡した。アントニオと名前を記入する。
「では、試験の説明を」
そのときだった。
「ふはっはっ。なんだなんだ、そこの汚らしいガキは?」
がちゃがちゃと、派手な金属音を鳴らしながら、誰かが背後から近づいてきた。振り返ると、金髪で顔の整った、いけ好かない男が立っている。
「カマセッケさん」
受付嬢が困ったように眉をひそめた。カマセッケと呼ばれた男が俺の元へやって来て、ふん、と鼻を鳴らす。
強い香水の匂いが鼻をついた。
「この疾風のカマセッケを知らんとはっ。まったくどこの田舎から出てきたのかね、ふはっはっ。まあ田舎者ならしかたないかねっ。ふはっはっ」
「いや、申し訳ない。今日田舎を出てきたばっかなもんでね」
「そうかっ。ふはっはっ。では疾風のカマセッケの名前を覚えて、田舎に帰るがいいっ。ふはっはっ。なぜなら君のようなひ弱な男は、試験に絶対、百パーセント通らないのだからっ」
まじか、そんなに難しい試験なのか。急に手のひらに汗をかいて、緊張してきたな。
カマセッケは「ふは?」とルシエラに気づいた。
「おおっ。なんという美人っ。君も田舎からでてきたのかい? ふはっはっ。このわたしが仲間にしてやろうかっ。ふっはっはっ。光栄だろうっ」
ルシエラがスカウトされている。まあこの子、魔力量がとんでもないからな。でも。
「ねーえ、アントニオ。早く試験とやら終わらせよーよ。街でデートしましょデートっ♡」
ガン無視である。
「ふ、ふは。ふはは。このわたしを無視するとは、良い度胸だねっ」
顔を引きつらせたカマセッケが、ルシエラの細い腕を乱暴に掴もうと手を伸ばす。あ。
「あぶねえっ」
俺は咄嗟に手を出した。ルシエラはとんでもない魔力量を持っている。うっかり普通の人間が触れたら、反動でぶっ飛んじまう。
俺はカマセッケを守ろうとして、急いで彼を押し退けようとした。のだが。
どんっ。
手加減を間違え、勢いよく彼を突き飛ばしてしまった。
「ふっはぁああああああああああああああああああああああんっ」
とんでもない勢いでカマセッケが宙を舞い、ギルドの分厚い壁に激突してめり込む。
「な、なんてパワーだっ」
「Aランカーを一撃で倒しただとっ!?」
「あのルーキー、何者だっ!?」
静まり返ったギルド内に、冒険者たちの驚愕の声だけが響き渡った。