光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第17話 遠いようで近い二人

 

 

アスナは、ログハウスの窓から差し込む光を眺めながら、昨日起きた出来事を思い返していた。

 

レイに告白した。

 

そして、断られた。

 

思い出すだけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

 

「……うぅ」

 

アスナは枕に顔を埋めた。

 

昨日は帰宅してからも、なかなか眠れなかった。

 

自分から告白するなんて思っていなかった。

 

もちろん、断られる可能性は考えていた。

 

レイとの関係は、まだ以前のようには戻っていない。

 

それでも、実際に断られれば、やはり悲しい。

 

「……でも」

 

枕から顔を上げ、アスナは天井を見つめた。

 

後悔はしていない。

 

気持ちを伝えられたことは、よかったと思っている。

 

レイが自分をどう思っているのかは分からないけれど、少なくとも、自分の気持ちを隠し続ける必要はなくなった。

 

そう考えると、ほんの少しだけ気持ちが軽くなった。

 

「よし……!」

 

アスナは勢いよく起き上がった。

 

いつまでも落ち込んでいても仕方がない。

 

今日は血盟騎士団の仕事もあるけれど、その前に少し街を歩こう。

 

もしかしたら、レイに会えるかもしれない。

 

そう考えた瞬間、アスナは自分の頬を両手で押さえた。

 

「……もう。昨日、振られたばかりなのに」

 

思わず苦笑する。

 

けれど、会いたいという気持ちは消えなかった。

 

むしろ、昨日の告白で自分の気持ちを再確認したせいか、以前よりも強くなっている気がした。

 

アスナは身支度を整え、ログハウスを出た。

 

◇

 

街へ向かう途中、アスナはふと足を止めた。

 

昨日のレイの言葉が、頭の中によみがえったからだ。

 

『地上の攻略だって危険だ』

 

「……あれ?」

 

アスナは小さく首を傾げた。

 

地上の攻略。

 

レイは、確かにそう言った。

 

ただ攻略と言えばいいところを、わざわざ地上の攻略と言っていた。

 

まるで――。

 

「……地下もあるみたいな言い方ね」

 

口にしてから、アスナは少し考え込んだ。

 

SAOには、迷宮区の下層へ続く通路や、通常の攻略では発見されていない隠しエリアが存在する可能性はある。

 

けれど、少なくとも攻略組の間で、地下に別の攻略階層が存在するという話は聞いたことがなかった。

 

レイはソロプレイヤーだ。

 

一人で行動している分、自分たちが知らない情報を持っていても不思議ではない。

 

しかし、それなら、なぜ今まで何も言わなかったのだろう。

 

アスナは少しだけ眉を寄せた。

 

「……うーん」

 

昨日のことを思い出す。

 

突然告白してしまった自分。

 

その後の、気まずいような、恥ずかしいような空気。

 

レイだって、多少は困惑していたはずだ。

 

もしかしたら、言葉を選び間違えただけかもしれない。

 

あるいは、単純に地上の攻略を強調したかっただけなのかもしれない。

 

「……きっと、そうよね」

 

アスナは小さく頷いた。

 

今は、それ以上考えないことにした。

 

レイが何かを隠しているのかどうか。

 

それを確かめる必要もない。

 

彼には彼の事情がある。

 

自分だって、誰にでも話せることばかりではないのだから。

 

それよりも――

 

「……今日は、会えるかな」

 

気づけば、またそんなことを考えていた。

 

アスナは頬を緩め、街へ向かって歩き出した。

 

◇

 

第五十層の街

 

アスナは大通りを歩きながら、周囲に視線を向けていた。

 

道具屋

 

武器屋

 

広場

 

以前、レイと偶然会った場所を、何となく順番に回っていく。

 

もちろん、偶然を装うつもりだった。

 

昨日、告白したばかりなのだ。

 

さすがに、翌日から露骨に探し回っていると思われるのは恥ずかしい。

 

もっとも、実際にはこうして探しているのだが。

 

「……いないわね」

 

少しだけ肩を落とした、そのときだった。

 

大通りの向こう側。

 

人混みの中に、見覚えのある黒い外套が見えた。

 

「あ……!」

 

アスナの足が止まる。

 

黒い髪。

 

落ち着いた歩き方。

 

腰に差した、黒い刀身に銀色の紋様が刻まれた片手剣。

 

間違いない。

 

レイだ。

 

胸が、どくんと跳ねた。

 

昨日の告白が、一瞬にして頭の中によみがえる。

 

『私……レイ君が好き』

 

『……すまない』

 

『今は、誰かと付き合うつもりはない』

 

「……っ」

 

思い出しただけで、顔が熱くなった。

 

今さら、どんな顔をして話しかければいいのだろう。

 

昨日、あんなことを言ってしまったのに。

 

気まずく思われていたらどうしよう。

 

避けられたら、どうしよう。

 

そんな不安が胸をよぎる。

 

それでも、会いたかった。

 

話がしたかった。

 

アスナは一度深呼吸をすると、レイの方へ歩き出した。

 

「……レイ君!」

 

声をかけると、レイが足を止めた。

 

そして、こちらを振り向く。

 

「……よく合うな」

 

いつもと同じ声。

 

いつもと同じ表情。

 

昨日のことなど、何もなかったかのような態度だった。

 

アスナは、ほんの少しだけ目を見開いた。

 

「こ、こんにちは」

 

「ああ」

 

「今日は、何をしていたの?」

 

「買い物だ」

 

レイは手に持っていた小さな袋を軽く持ち上げた。

 

「そうなんだ。私も、少し街を歩いていたの」

 

嘘ではない。

 

ただし、レイを探していたことは言えなかった。

 

レイは特に気にした様子もなく、短く頷いた。

 

「そうか」

 

それだけだった。

 

けれど、彼は立ち去ろうとしなかった。

 

アスナの話に付き合うように、その場に留まっている。

 

そのことに気づいた瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。

 

(……よかった)

 

昨日、告白した。

 

断られた。

 

だから、今日からは気まずくなってしまうのではないかと思っていた。

 

もしかしたら、もう話しかけない方がいいのかもしれない。

 

そんなことまで考えていた。

 

けれど、レイはいつもと変わらなかった。

 

少なくとも、今のところは。

 

アスナは、ほっと息を吐いた。

 

「そういえば、最近の攻略はどう? 第五十六層まで進んだけれど、これから先はもっと大変になりそうね」

 

「そうだな」

 

「攻略組のみんなも、少しずつ装備を整えているみたい。私も、細剣の調整をしようと思っているの」

 

「……悪くないんじゃないか」

 

「ふふっ。レイ君にそう言われると、何だか安心するわ」

 

そう口にしてから、アスナははっとした。

 

今の言い方は、少し親しげすぎただろうか。

 

しかし、レイは特に反応しなかった。

 

「そうか」

 

いつもどおりの短い返事。

 

それなのに、アスナは嬉しかった。

 

昨日の告白で、二人の距離が遠くなってしまうと思っていた。

 

けれど、こうして話していると、以前とまったく同じではないにしても、決して遠ざかってはいないように感じられた。

 

むしろ、ほんの少しだけ近づいたような気さえした。

 

それからも、二人は話を続けた。

 

アスナが最近の出来事を話し、レイが短く答える。

 

レイが買い物で何を探していたのかを尋ねれば、彼は必要な範囲で説明してくれた。

 

途中で会話が途切れても、以前のように気まずさを感じることはなかった。

 

沈黙が訪れても、レイはすぐに立ち去ろうとはしなかった。

 

それが、アスナには嬉しかった。

 

気づけば、思っていた以上に時間が経っていた。

 

「……あ、もうこんな時間」

 

アスナが街の時計を見上げる。

 

そろそろ血盟騎士団の仕事に戻らなければならない。

 

「ごめんなさい。引き止めちゃったわね」

 

「別に構わない」

 

その言葉に、アスナの表情が明るくなった。

 

「……ありがとう、レイ君」

 

レイは小さく頷いた。

 

そして、別れ際。

 

「じゃあな、アスナ」

 

「――えっ?」

 

アスナは、思わず声を上げていた。

 

レイが足を止め、こちらを見る。

 

「……何だ?」

 

「い、いえ……!」

 

慌てて首を振る。

 

けれど、顔の熱さは隠しきれなかった。

 

今、何と言ったのだろう。

 

副団長さん。

 

そう呼ばれると思っていた。

 

昨日だって、最後までそうだったのだから。

 

それなのに。

 

『じゃあな、アスナ』

 

名前で呼ばれた。

 

久しぶりに。

 

あまりにも自然に。

 

まるで、以前の二人に戻ったかのように。

 

(……アスナって)

 

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 

名前を呼ばれただけ。

 

たった、それだけのことなのに。

 

こんなにも嬉しい。

 

「……ううん、何でもない」

 

アスナは、精いっぱい平静を装って微笑んだ。

 

「またね、レイ君」

 

「ああ。またな、アスナ」

 

もう一度。

 

今度は、はっきりと聞こえた。

 

アスナ。

 

彼は、自分の名前を呼んでくれた。

 

その事実を噛みしめている間に、レイは歩き出そうとした。

 

その背中を見た瞬間、アスナの胸に小さな寂しさがこみ上げた。

 

もう少しだけ。

 

あと少しだけ、一緒にいたい。

 

けれど、そんなことを口にする理由が見つからない。

 

昨日、告白したばかりなのだ。

 

これ以上、困らせたくない。

 

そう思っているのに、気づけば口が動いていた。

 

「――あっ、待って!」

 

レイが足を止める。

 

「……何だ?」

 

アスナは慌てて駆け寄った。

 

「そ、そういえば!」

 

何か話題を見つけなければ。

 

そう思って口にしたものの、頭の中は真っ白だった。

 

それでも、ふと思い出したことがあった。

 

「……そういえば、引っ越したの?」

 

「ああ」

 

レイは、いつもと変わらない調子で答えた。

 

「……そうなんだ」

 

アスナは、ほっと胸を撫で下ろした。

 

話を続けるきっかけができた。

 

それだけで、少しだけ気持ちが落ち着いた。

 

「前に住んでいた第二十二層のログハウス、もう誰も住んでいなかったから……。どこに引っ越したのかなって、ちょっと気になっていたの」

 

「二十二層だ」

 

「えっ?」

 

「同じ二十二層の中に引っ越した。前に使っていた家からも、そう遠くない」

 

「そ、そうなんだ……!」

 

思いがけず詳しく教えてもらえたことが嬉しくて、アスナの声が弾んだ。

 

二十二層。

 

以前、レイと一緒に過ごしたこともある、あの静かな階層だ。

 

森が広がり、湖があり、街の喧騒から離れた場所。

 

レイらしい選択だと思った。

 

「二十二層って、静かでいいわよね。私も、あの辺りの雰囲気は好きよ」

 

「……そうか」

 

短い返事だったが、レイは話を打ち切ろうとはしなかった。

 

アスナは、それが嬉しかった。

 

本当は、引っ越し先を聞きたかったわけではない。

 

ただ、もう少しだけ話をしていたかった。

 

それだけだった。

 

けれど、レイはふと何かに気づいたように、わずかに視線を落とした。

 

「……そういえば」

 

「え?」

 

「俺たち、お互いの連絡先を知らないな」

 

アスナは目を丸くした。

 

「そ、そうね……。私たち、今まで何度も会っているのに」

 

考えてみれば、不思議な話だった。

 

何度も偶然(装うのも含め)に出会い、話をしてきた。

 

一緒に行動したことだってある。

 

それなのに、メッセージを送る手段さえ持っていなかった。

 

会えるかどうかは、いつも偶然か探すか。

 

今まで、それを不便だと思う機会がなかったのだ。

 

「……フレンド登録するか?」

 

「――する!」

 

間髪入れずに答えていた。

 

「……あ」

 

アスナは、自分の声の大きさに気づいた。

 

慌てて口元を押さえる。

 

「え、えっと……その……する、するわ!」

 

一度目よりも少し声を抑えたつもりだったが、やはり嬉しさが隠しきれていなかった。

 

レイは一瞬だけアスナを見た。

 

「……そうか」

 

いつもと変わらない反応だった。

 

けれど、アスナは胸の中で小さく飛び跳ねていた。

 

フレンド登録。

 

つまり、これからはレイにメッセージを送れる。

 

もちろん登録したからといって、いつでも自由に会えるわけでもない。

 

それでも、今までとは違う。

 

偶然会えることを願って街を歩き回らなくても、連絡を取ることができる。

 

何より、レイとつながっていられる。

 

そう思うだけで、胸がいっぱいになった。

 

二人はメニューを開き、フレンド登録の操作を行った。

 

やがて、登録完了を知らせる表示が現れる。

 

アスナは、自分のフレンドリストに追加された名前を見た。

 

レイ

 

たった二文字

 

けれど、それが今まで以上に特別なものに思えた。

 

「……登録できたわね」

 

「ああ」

 

「……えへへ」

 

また、笑みがこぼれた。

 

レイは不思議そうにアスナを見た。

 

「……何だ?」

 

「な、何でもない!」

 

アスナは慌てて首を振った。

 

「ただ……嬉しいなって」

 

「そうか」

 

レイは、それ以上何も尋ねなかった。

 

そして、今度こそ帰るために歩き出した。

 

「今度こそじゃあな、アスナ」

 

「うん! またね、レイ君!」

 

アスナは、笑顔で手を振った。

 

レイも、ほんのわずかに手を上げて応じる。

 

それから、彼は街の人混みへと消えていった。

 

アスナは、その背中が見えなくなるまで見送った。

 

そして、そっと自分のフレンドリストを開く。

 

そこには、確かに名前があった。

 

レイ

 

「……ふふっ」

 

頬が緩む。

 

昨日、告白して断られた。

 

それなのに、今日は名前を呼んでもらえた。

 

しかも、フレンド登録までできた。

 

自分から頼んだわけではない。

 

レイの方から、提案してくれたのだ。

 

その事実が、どうしようもなく嬉しかった。

 

「……レイ君から、言ってくれたんだものね」

 

思い返すだけで、胸が温かくなる。

 

もちろん、フレンド登録をしたからといって、恋人になれたわけではない。

 

彼の気持ちが変わったと決まったわけでもない。

 

それでも、昨日より少しだけ、距離が縮まった気がした。

 

アスナは、フレンドリストを閉じては開き、もう一度レイの名前を確認した。

 

「……えへへ」

 

また笑ってしまう。

 

自分でも、少し変だと思う。

 

たった一人の名前が追加されただけなのに。

 

こんなにも嬉しくて、顔が緩んでしまうなんて。

 

「……私、本当にレイ君のことが好きなんだなぁ」

 

小さく呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく、街の喧騒に溶けていった。

 

◇

 

街を離れたレイは、静かな路地を歩いていた。

 

「…………」

 

ふと、先ほどのやり取りを思い返す。

 

アスナの告白を断ったのは、自分だ。

 

彼女の気持ちを知りながら、受け入れないと決めた。

 

自分の置かれた状況を考えれば、それが正しいと思ったからだ。

 

それなのに。

 

『じゃあな、アスナ』

 

気づけば、彼女の名前を呼んでいた。

 

これまでは、ずっと『副団長さん』と呼んでいた。

 

彼女との距離を置くために。

 

かつてのように親しく接すれば、自分の気持ちが揺らいでしまうと分かっていたから。

 

それなのに、今日に限っては、どうしてもその呼び方を続けられなかった。

 

告白を断ったからといって、彼女との関係まで断ち切りたいわけではない。

 

アスナと話すことが嫌になったわけでも、会いたくなくなったわけでもない。

 

むしろ――

 

「……くだらない」

 

レイは、小さく呟いた。

 

自分で距離を置いておきながら、今さら何をしているのだろう。

 

彼女の気持ちに応えられないのなら、これ以上、期待させるようなことはしない方がいい。

 

頭では分かっている。

 

それでも、名前くらいは呼びたかった。

 

せめて、以前のように話したかった。

 

告白を受け入れることはできなくても、彼女とのつながりまで失いたくはなかった。

 

だから、名前を呼んだ。

 

自分にできることを、ほんの少しだけ。

 

それだけのつもりだった。

 

なのに

 

「……フレンド登録、か」

 

今度は、自分から提案してしまった。

 

これからは、偶然会わなくても連絡が取れる。

 

アスナが望めば、自分にメッセージを送ることもできる。

 

つまり、自分から彼女に近づくための道を作ったのだ。

 

彼女との距離を置こうとしていたはずなのに。

 

自分から、距離を縮めている。

 

「……何をやっているんだ、俺は」

 

思わず、ため息が漏れた。

 

矛盾している。

 

自分でも、そう思う。

 

アスナの気持ちを受け入れるつもりはない。

 

それは、今も変わらない。

 

それなのに、彼女との関係を以前よりも遠ざけることには、どうしても抵抗があった。

 

名前を呼びたかった。

 

話を続けたかった。

 

そして、これからも連絡を取れるようにしておきたかった。

 

どれも、些細なことだ。

 

けれど、その一つ一つが、自分の決めた距離を少しずつ縮めていく。

 

それでも、やめられなかった。

 

「…………」

 

レイは足を止め、空を見上げた。

 

答えは出ない。

 

自分の気持ちを整理することも、今はできそうになかった。

 

ただ、一つだけ確かなことがある。

 

アスナとの距離を置こうとしていたはずの自分が、結局、彼女とのつながりを求めてしまった。

 

それが何を意味するのか。

 

今は、まだ考えたくなかった。

 

「……面倒だな」

 

そう呟き、レイは再び歩き出した。

 

黒い外套が、街の人混みの中へと消えていく。

 

彼はまだ知らない。

 

今日、自分が選んだ小さな行動が、これから二人の関係を少しずつ変えていくことを。

 

遠ざけたはずなのに、気づけば自分から近づいている。

 

そんな矛盾を抱えたまま、レイは歩き続けた。

 

そして、アスナもまた、フレンドリストに表示された彼の名前を、何度も嬉しそうに見つめていた。

 

二人の距離は、まだ遠いようでいて――

確かに、近づき始めていた。





地に腰を下ろしてても問題なかったな

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