光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第27話 呪い

 

 

◇ 血盟騎士団本部・午前 ◇

 

「副団長! こちらの資料を確認してください!」

 

「分かったわ!」

 

「副団長、次の攻略に参加するメンバーの編成ですが……」

 

「その件なら、昨日の案を少し修正して――」

 

「副団長! 団長がお呼びです!」

 

「……順番にお願い!」

 

朝から、アスナは忙しかった。

 

血盟騎士団の副団長として、攻略の準備に団員の管理、装備の確認、会議の資料作成と、やるべき仕事はいくらでもある。

 

次々と持ち込まれる書類に目を通し、団員からの相談に答え、攻略に関する細かな調整を済ませる。

 

ようやく最後の書類に目を通し終えた頃には、時計の針は昼を指していた。

 

「……ふぅ。やっと終わった」

 

アスナは椅子から立ち上がり、軽く肩を回した。

 

「お腹空いた……。今日は街で何か食べようかな」

 

そう呟いたところで、ふと思い浮かべるのは、いつもの黒髪の少年だった。

 

「……レイ君、どこにいるのかな」

 

できれば会いたい。

 

一緒に食事ができたら、もっと嬉しい。

 

もちろん、約束をしているわけではない。偶然会えるかどうかは運次第だ。

 

それでも、最近は顔を合わせる機会が増えていた。

 

街を歩いていれば、いつもの黒い装備を見かけることもある。

 

ただ、レイは基本的に一人で行動している。どこで何をしているのか、詳しいことまでは分からない。

 

それでも、今日は少しだけ期待していた。

 

(会えたら、一緒にお昼を食べたいな……)

 

そんなことを考えながら、アスナは本部を後にした。

 

このときの彼女は、まだ知らなかった。

 

今日、街で目撃することになる光景が、彼女の知るレイのイメージを大きく揺るがすことを。

 

そして何より――

 

あの奇妙な言葉が、すでにレイの脳内で深刻な被害を広げていることを。

 

◇

 

「…………」

 

黒い装備の少年が、街の通りを歩いていた。

 

レイである。

 

地下階層でのレベリングを終え、必要な買い物も済ませた彼は、帰路についていた。

 

表情はいつも通り。

 

歩き方もいつも通り。

 

周囲から見れば、何の変哲もないソロプレイヤーだ。

 

ただし、頭の中だけは違った。

 

(……あいつ、何度倒しても復活しやがる)

 

思い浮かぶのは、あの太陽のようなモンスター。

 

《ダンディー》。

 

黒いサングラスをかけた、バスケットボールほどの大きさをした黄金色の球体である。

 

……いや、正確には、以前よりも若干大きくなっている気がする。

 

最初に遭遇したときは、見た目のふざけ具合に呆れた。

 

次に遭遇したときは、技の名前に呆れた。

 

その後も何度か遭遇し、何度も戦い、何度も倒した。

 

そして、そのたびに思った。

 

もう二度と会いたくない、と。

 

しかし、現実は非情だった。

 

倒した直後は確かに消える。

 

だが、しばらくすると、何事もなかったかのように再び現れるのだ。記憶を維持して。

 

しかも、こちらを見つけるなり、まるで長年の友人と再会したかのように大喜びする。

 

『おお、我が友よ! 今日も会えたな、ダンディー!』

 

(……誰が友だ)

 

レイは心の中で即座に否定した。

 

勝手に友達認定するな。

 

こちらは一度も友情を申し込んでいない。

 

そもそも、まともに会話が成立した記憶すらない。

 

こちらが何を尋ねても、返ってくるのは「ダンディー」の一言。

 

攻撃すれば「ゴバーーーッ!」と叫び、反撃すれば自分の美しさを語り始める。

 

倒せば倒したで、最後まで自分の肉体を褒め称えながら消えていく。

 

『見よ! 我が肉体が織りなす、究極の美を!』

 

『我が肉体は美しい! ゴバーーーッ!』

 

(……何なんだ、あいつは)

 

本気でそう思った。

 

しかも、厄介なのは異常な耐久力だけではない。

 

あのモンスターは、こちらの攻撃を避けるために妙な動きをしたかと思えば、突然、無数の残像を生み出す。

 

かと思えば、全身を回転させながら、凄まじい勢いで突進してくる。

 

『必殺――ダンディー・ファントムステップ!』

 

『必殺――ダンディー・ローリングスペシャル!』

 

(……技の名前まで、いちいちうるさい)

 

一応、どちらの技も侮れない威力がある。

 

残像は見分けにくく、回転突進は直撃すれば厄介だ。

 

さらに、レーザーを放つ際には、壁や床に反射させて全方位から攻撃してくる。

 

ふざけた見た目に反して、戦闘能力だけは本物だった。

 

だからこそ、レイも毎回、本気で相手をしている。

 

その結果が、これである。

 

「……ダンディー、ダンディー……」

 

ピタッ。

 

レイの足が止まった。

 

「…………」

 

今、自分は何を言った?

 

周囲を見回す。

 

通りを行き交うプレイヤーたちは、それぞれの用事に忙しいらしく、誰もこちらを見ていない。

 

よし。

 

レイは何事もなかったかのように歩き始めた。

 

(……違う。今のは、頭に浮かんだだけだ)

 

違わない。

 

しっかり口から出ていた。

 

しかも、妙にリズミカルだった。

 

「……ダンディー、ダンディー……」

 

また言った。

 

(…………)

 

レイは無言で口を閉じた。

 

どうやら、敵の攻撃による状態異常は、戦闘が終わっても解除されていないらしい。

 

ただし、システム上のステータスには何も表示されていなかった。

 

《状態異常:ダンディー》

 

そんな項目は存在しない。

 

存在しないはずなのに、レイは確実に侵食されていた。

 

しかも、本人だけがそれを認めていなかった。

 

(……次に会ったら、見つけた瞬間に倒す)

 

レイは決意した。

 

(あの妙な台詞を聞く前に、瞬殺する。回転する前に斬る。ダンディズムと言う前に斬る。可能なら、出現した瞬間に斬る)

 

対策は完璧だった。

 

少なくとも、本人はそう考えていた。

 

ただし、一つだけ問題がある。

 

何度倒しても、ダンディーは復活する。

 

つまり、どれだけ対策を練っても、いずれまた会う。

 

しかも、相手はレイを友人だと思っている。

 

一方的な友情ほど厄介なものはなかった。

 

(……次は、あいつの口を塞ぐ方法も考えるか)

 

レイは真剣だった。

 

非常に真剣だった。

 

その真剣な顔のまま、小さく呟く。

 

「……我が肉体は美しい……」

 

「…………」

 

レイの足が止まった。

 

今度は、はっきりと聞こえた。

 

自分の声だった。

 

(……何を言っているんだ、俺は)

 

すぐに否定しようとした。

 

だが、その前に口が動く。

 

「……天高くそびえ立ち、優雅に佇め……」

 

「…………」

 

沈黙。

 

周囲を確認する。

 

誰も聞いていない。

 

……たぶん。

 

レイは小さく息を吐いた。

 

(……最悪だ)

 

これまでの戦闘で、ダンディーの奇妙な言動を何度も聞かされてきた。

 

最初は、ただの騒音だと思っていた。

 

次は、戦闘中の雑音だと思っていた。

 

今では、頭の中で勝手に再生される。

 

しかも、ただ再生されるだけではない。

 

自分の声で再現されるようになっていた。

 

(……さすがに、これはまずい)

 

ようやく事態の深刻さを認識しかけたレイだったが――。

 

「……ダンディーだぜ~……」

 

「…………」

 

認識は、そこで途切れた。

 

レイは無言で歩き続けた。

 

まるで何事もなかったかのように。

 

ダンディー化は、着実に進行していた。

 

◇

 

「あっ!」

 

街の向こう側で、アスナが足を止めた。

 

見覚えのある黒髪。

 

見覚えのある装備。

 

そして、あの独特な歩き方。

 

「レイ君だ!」

 

思わず笑顔になる。

 

まさか、昼食を食べに出たところで偶然会えるなんて。

 

今日は本当に運がいい。

 

アスナは嬉しそうに一歩踏み出した。

 

「レイ君――」

 

声をかけようとした、そのとき。

 

「……ダンディー、ダンディー……」

 

「…………え?」

 

アスナの笑顔が止まった。

 

レイは歩いている。

 

真剣な表情で。

 

いつも通りの落ち着いた様子で。

 

そして、小声で。

 

「……我が名はダンディズム・レイ……」

 

「…………」

 

アスナは瞬きをした。

 

聞き間違いだろうか。

 

いや、聞き間違いにしては、はっきり聞こえた。

 

(……ダンディー?)

 

もう一度、レイを見る。

 

「……我が名は……ダンディズム・レイ……」

 

(やっぱり言ってる!?)

 

アスナは思わず物陰に隠れた。

 

別に、隠れる必要はない。

 

ただ、なんとなく声をかけるタイミングを失ったのだ。

 

(ど、どうしたの、レイ君……!?)

 

彼女の知るレイは、無口で落ち着いていて、余計なことを口にしない少年だ。

 

そんな彼が、街中で謎の言葉を繰り返している。

 

しかも、本人は至って真剣な顔をしている。

 

(疲れているのかな……? 最近、攻略で無理をしているとか?)

 

アスナの表情が心配そうになる。

 

(ちゃんと休んでる? ご飯は食べてる? 睡眠は……)

 

そこまで考えて、ふと別の可能性が浮かんだ。

 

(……まさか、何かの暗号?)

 

レイ君はソロプレイヤーだ。

 

人には言えない事情だってあるかもしれない。

 

もしかしたら、攻略に関する重要な情報を暗記しているのかもしれない。

 

あるいは、特殊なスキルの発動に必要な言葉なのかも。

 

(ダンディー……ダンディー……)

 

アスナは頭の中で繰り返した。

 

(……駄目。意味が分からないわ)

 

当然である。

 

本人にすら、意味が分かっていないのだから。

 

◇

 

レイはまだ歩いていた。

 

(……あいつの攻撃は、反射を利用している。ならば、壁際に追い込めば……)

 

戦術を考える。

 

真剣に考える。

 

その合間に。

 

「……ダンディー、ダンディー……」

 

(……出現位置を予測できれば、先手を取れる。あの回転攻撃に入る前に距離を詰めて……)

 

「……今日もダンディー……」

 

(…………)

 

レイは一瞬、思考を止めた。

 

今、何かおかしくなかったか?

 

いや、気のせいだ。

 

考えるべきことは多い。

 

ダンディーの出現条件。

 

攻撃の予兆。

 

防御力。

 

再出現の周期。

 

そして、こちらを「我が友」と呼ぶ理由。

 

(……いや、最後の項目は考える必要がない)

 

レイは即座に却下した。

 

あいつの考えなど、理解できるはずがない。

 

「……ダンディーだぜ~」

 

(…………)

 

レイの歩みが止まった。

 

今度こそ、はっきり聞こえた。

 

自分の声だった。

 

「…………」

 

数秒間、沈黙する。

 

そして、何事もなかったかのように歩き出した。

 

(……疲れているんだな)

 

原因は明白だった。

 

ダンディーのせいだ。

 

すべてダンディーのせいである。

 

自分が悪いわけではない。

 

そう結論づけたレイは、再び考え始めた。

 

(……次は、ダンディーが現れたら――)

 

「我が肉体は美しい!」

 

「…………」

 

レイは口を閉じた。

 

今のは、少し声が大きかった。

 

しかも、妙に堂々としていた。

 

まるで、自分の肉体美を誇る誰かのように。

 

(……違う)

 

レイは心の中で否定した。

 

(俺は、そんなことを言わない)

 

「……我が肉体が織りなす、究極の美を……」

 

「…………」

 

(言わない)

 

「……ふっ」

 

「…………」

 

(今、笑ったか?)

 

レイは自分の口元に手を当てた。

 

笑ってはいない。

 

……たぶん。

 

ただ、頭の中でダンディーの声が再生されただけだ。

 

そうに違いない。

 

「……ダンディー!」

 

「…………」

 

今のも、少し声が大きかった。

 

幸い、周囲の人々は特に気にしていない。

 

一人のプレイヤーが、通りの真ん中で突然「ダンディー!」と叫んだだけだ。

 

……いや、十分に怪しい。

 

◇

 

物陰から様子を見ていたアスナは、そっと額を押さえた。

 

(……どうしよう)

 

声をかけるべきか。

 

いや、でも。

 

(レイ君、さっきからずっとダンディーって……)

 

アスナは真剣に考えた。

 

ここで声をかけたら、何と言えばいいのだろう。

 

「こんにちは、レイ君。ダンディーって何?」

 

……駄目だ。

 

あまりにも不自然すぎる。

 

かといって、普通に話しかけても、会話の途中で突然「ダンディー」と言われたらどうすればいいのか。

 

想像してみた。

 

『レイ君、今日は何をしていたの?』

 

『……ダンディー』

 

『そ、そうなんだ……?』

 

『ダンディーだぜ~』

 

『…………』

 

無理だった。

 

アスナはそっと首を振った。

 

(……今日は、そっとしておこう)

 

せっかく会えたのに残念だ。

 

でも、レイ君にもいろいろあるのだろう。

 

きっと、深い事情があるに違いない。

 

そう思うことにした。

 

しかし、そう結論づけた直後だった。

 

「……天高くそびえ立ち、優雅に佇め!」

 

レイの声が、通りに響いた。

 

「…………えっ?」

 

アスナは目を見開いた。

 

今度は、聞き間違いではない。

 

声の調子まで、どこか芝居がかっていた。

 

普段のレイなら、絶対に口にしないような大仰な台詞。

 

しかも、言い終えたあと、レイは一度だけ小さく頷いた。

 

まるで、自分の言葉に納得したかのように。

 

(な、何なの……!?)

 

アスナは混乱した。

 

疲れているだけにしては、あまりにも様子がおかしい。

 

まさか、何かのスキルの影響?

 

それとも、精神に作用する特殊なモンスターに遭遇したとか?

 

知られていないような特殊なモンスターと戦っていてもおかしくはない。

 

(もしかして、そのモンスターに何かされたの……?)

 

そう考えると、急に心配になった。

 

けれど、本人は平然としている。

 

表情も変わらない。

 

足取りも乱れていない。

 

ただ、口から出る言葉だけが、明らかにおかしかった。

 

「……ふっ。見よ、我が肉体が織りなす、究極の美を……」

 

「…………」

 

アスナは両手で口を押さえた。

 

(レイ君、何を言ってるのぉぉぉ……!?)

 

心の中で叫ぶ。

 

本人に聞こえるはずもないのに、思わず声を抑えてしまった。

 

レイは何かを考えるように顎に手を当てていた。

 

その姿だけなら、いつもと変わらない。

 

しかし、次の瞬間。

 

「……必殺――ダンディズム・レイ!」

 

「…………っ!?」

 

アスナは声にならない悲鳴を上げた。

 

必殺技?

 

今、必殺って言った?

 

しかも、ダンディズム・レイ?

 

(レイ君、自分の名前を技にしてるの……!?)

 

違う。

 

そもそも、レイ君はそんなことをする人ではない。

 

自分の強さを誇示することもなければ、技に大げさな名前をつけることもない。

 

それなのに。

 

「……ゴバーーーッ!」

 

「…………」

 

アスナは固まった。

 

今度は、何かが爆発したような叫び声だった。

 

もちろん、実際には何も起きていない。

 

レイが突然、妙な声を出しただけである。

 

(……本当に、大丈夫なの?)

 

もはや、心配するしかなかった。

 

アスナはそっと首を振った。

 

(……今日は、そっとしておこう)

 

二度目の結論だった。

 

そして、最後にもう一度だけレイを見た。

 

レイは、ちょうど街角を曲がろうとしていた。

 

その背中から、小さな声が聞こえる。

 

「……我が友よ……今日もダンディーだぜ~……」

 

アスナは両手で口を押さえた。

 

(本当に何なのよぉぉぉ……!)

 

心の中で叫ぶ。

 

しかし、次の瞬間。

 

レイがふと立ち止まった。

 

アスナはびくっと身体を震わせる。

 

まさか、こちらに気づいたのだろうか。

 

レイはゆっくりと振り返った。

 

そして、真剣な顔で空を見上げると――。

 

「……天高くそびえ立ち優雅に待機せよ、ダンディーに……」

 

「…………」

 

アスナは、そっと顔を覆った。

 

駄目だ。

 

もう駄目だ。

 

今は声をかけられない。

 

(レイ君……本当に疲れてるんだわ……!)

 

彼女の中で、レイは今、謎の疲労により奇妙な言葉を口ずさむほど消耗していることになっていた。

 

実際には、太陽型モンスターに精神を侵食されているだけなのだが。

 

アスナは心配そうにレイの背中を見送った。

 

「……ちゃんと休んでね、レイ君」

 

小さく呟く。

 

そして、昼食をとるために歩き出した。

 

ただし。

 

彼女の頭の中にも、しっかりと刻み込まれてしまっていた。

 

ダンディー

 

ダンディー!

 

ダンディー!!

 

「…………」

 

アスナは足を止めた。

 

(……あれ?)

 

なぜだろう。

 

さっきから、頭の中で同じ言葉が繰り返されている。

 

(……ダンディー……)

 

「…………」

 

アスナは勢いよく首を振った。

 

「ち、違う違う! 私は関係ないんだから!」

 

周囲の通行人が、ちらりとこちらを見る。

 

アスナは顔を赤くした。

 

「な、何でもありません!」

 

慌てて歩き出す。

 

ところが、しばらく進んだところで、またしても頭の中にあの言葉が浮かんできた。

 

(……我が肉体は美しい……)

 

「…………っ!」

 

アスナは足を止めた。

 

違う。

 

今のは自分が考えたわけではない。

 

レイ君が言っていた言葉を、思い出しただけだ。

 

そう

 

ただ思い出しただけ。

 

(……見よ、我が肉体が織りなす、究極の美を……)

 

「ち、違うってば!」

 

今度は、思わず声に出してしまった。

 

通行人が振り返る。

 

アスナは顔を真っ赤にしながら、そそくさとその場を離れた。

 

しかし、その口元からは、かすかな声が漏れていた。

 

「……ダンディー……」

 

本人は、言ったことに気づいていなかった。

 

◇

 

レイは一人、歩いていた。

 

「…………」

 

頭の中では、次にダンディーと遭遇したときの対策を考えている。

 

(……出現した瞬間に距離を詰める。残像を使われる前に本体を見極め、回転攻撃に入る前に斬る)

 

いつも通り、冷静な分析だった。

 

少なくとも、頭の中では。

 

(……あのサングラスを叩き割れば、少しは静かになるか?)

 

それも悪くない。

 

いや、むしろ最優先で実行するべきかもしれない。

 

(……次こそ、確実に仕留める)

 

レイは小さく頷いた。

 

その直後。

 

「……我が肉体は美しい……」

 

「…………」

 

足が止まる。

 

(……違う)

 

「……ふっ。これぞ、究極の美……」

 

(…………)

 

「……天高くそびえ立ち、優雅に佇め……」

 

「…………」

 

レイは無言で空を見上げた。

 

もちろん、そこには何もない。

 

ただの青空だ。

 

「…………」

 

「ん?」

 

「あれはダンディーか?」いや太陽だ。

 

数秒間、沈黙する。

 

そして、何事もなかったかのように歩き出した。

 

(……疲れているんだな)

 

原因は明白だった。

 

ダンディーのせいだ。

 

すべてダンディーのせいである。

 

自分が悪いわけではない。

 

そう結論づけたレイは、再び考え始めた。

 

(……次に会ったら、まずは――)

 

「ダンディー!」

 

「…………」

 

レイは口を閉じた。

 

今のも、少し声が大きかった。

 

しかも、妙に元気だった。

 

「…………」

 

レイは額に手を当てた。

 

(……最悪だ)

 

それでも、歩みは止めない。

 

黒い装備をまとった少年は、いつも通りの冷静な表情で街の外れを歩き続ける。

 

ただし、その口から漏れる言葉は、もはや本人の意思とは無関係だった。

 

「……今日もダンディーだぜ~……」

 

少し間を置いて。

 

「……我が友よ……」

 

さらに間を置いて。

 

「……倒しても厄介な相手だったぜ~……」

 

いつもの冷静な表情。

 

いつもの落ち着いた歩き方。

 

しかし、口調だけは完全にダンディーに侵食されつつあった。

 

しかも、今やその影響は、偶然聞いてしまったアスナにまで及び始めている。

 

恐るべし、ユニークモンスター《ダンディー》

 

その強さも厄介だが、本当に恐ろしいのは――

 

倒しても消えない、口癖の呪いだった。





ほんとに口癖はうつる…

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