光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第31話 未探索エリア

 

 

第七十四層まで攻略が進んだ今、レイの日常にも少しずつ変化が生まれていた。

 

以前は、ほとんど1人で過ごしていた。

 

攻略も、食事も、休息も。

 

誰かと行動する必要性を感じなかったし、誰かと一緒にいたいとも思わなかった。

 

だが、最近は違う。

 

「でよ! そのとき俺は思ったわけだ! こいつは絶対に俺が倒すしかねえってな!」

 

「クライン、それ前にも聞いたぞ」

 

「なにぃ!? キリト、細けえことは気にすんな!」

 

「細かくないだろ……」

 

「ふふっ、クラインってば」

 

アスナが笑う。

 

リズも呆れたように肩をすくめ、シリカは楽しそうに話を聞いていた。

 

エギルはそんな一同を眺めながら、静かに飲み物を口に運んでいる。

 

そして、その輪の中にはレイもいた。

 

「なあ、レイ! お前もそう思うだろ?」

 

突然話を振られ、レイはクラインに視線を向けた。

 

「……何がだ?」

 

「だから、強敵を前にしたら、男なら逃げずに立ち向かうべきだって話だ!」

 

「状況による」

 

「おいおい、そこは同意してくれよ!」

 

「勝てない相手に無策で挑むのは馬鹿だろ」

 

「ぐっ……! 正論で返しやがって!」

 

キリトが苦笑した。

 

「まあ、レイの言うとおりだな。勝てる見込みがないなら、撤退も選択肢だ」

 

「キリトまでそっちかよ!」

 

「クラインさん、落ち着いてください!」

 

シリカが慌てて声をかける。

 

そんな騒がしいやり取りを、レイは黙って眺めていた。

 

(……悪くない)

 

そう思っていた。

 

もちろん、自分から積極的に会話を盛り上げるつもりはない。

 

クラインのように騒ぐのは性に合わないし、リズのように遠慮なく話しかけてくる相手への対応にも、まだ少しばかり慣れていない。

 

それでも、不思議と居心地は悪くなかった。

 

会話に無理に参加する必要はない。

 

黙っていても、誰かが勝手に話しかけてくる。

 

答えれば、それで話が続く。

 

そして何より――

 

「レイ君、これ美味しいよ。食べてみる?」

 

隣に座っていたアスナが、料理を差し出してきた。

 

「……ああ」

 

レイはそれを受け取った。

 

「どう?」

 

「悪くない」

 

「もう、レイ君ってば。美味しいなら美味しいって言えばいいのに」

 

アスナは小さく笑った。

 

「美味しいものは、美味しいって素直に言ってくれた方が嬉しいよ?」

 

「……美味しい」

 

「うん!」

 

満足そうに微笑むアスナ。

 

その笑顔を見て、レイはわずかに視線を逸らした。

 

(……調子が狂う)

 

彼女と2人で過ごす時間も、もちろん嫌いではない。

 

むしろ、最近では楽しみにしている自分がいる。

 

ただ、こうして7人で集まる時間も、思いのほか気に入っていた。

 

騒がしくて、賑やかで、ときどき面倒くさい。

 

それでも、誰かと一緒にいることが、必ずしも煩わしいわけではない。

 

そんな当たり前のことを、レイは少しずつ理解し始めていた。

 

もっとも、本人はそれをわざわざ口にするつもりなどなかったが。

 

◇

 

「そういや、みんな!」

 

一通り話が落ち着いたところで、クラインが声を上げた。

 

「ちょっと面白い話を聞いたんだがよ!」

 

「面白い話?」

 

リズが首を傾げる。

 

「ああ。第五十七層で、まだ誰も立ち入っていないエリアが見つかったらしいぜ!」

 

その言葉に、キリトが反応した。

 

「第五十七層で?」

 

「ああ! どうやら、これまでの攻略ルートから少し外れた場所らしい。入口自体は発見されていたらしいんだが、奥まで調べた奴はいなかったんだとよ」

 

「それって、隠しダンジョンみたいなものですか?」

 

シリカが目を輝かせた。

 

「まだ分からねえ。けど、未探索の場所なら、何か珍しいアイテムが見つかるかもしれねえだろ?」

 

「確かに。未発見の宝箱や、特殊なクエストがある可能性もあるな」

 

キリトも興味を示した。

 

「それで、どうするつもりなの?」

 

アスナが尋ねる。

 

クラインは待ってましたとばかりに笑った。

 

「決まってるだろ! せっかくだから、この7人で行ってみねえか?」

 

「私たち7人で?」

 

「ああ、そうだ!」

 

クラインは一同を見回した。

 

「せっかく知り合いが集まってるんだ。たまには攻略以外の探索も悪くねえだろ? 未知の場所を調べるのも、冒険の醍醐味ってもんだぜ!」

 

「……まあ、悪くはないな」

 

キリトが頷く。

 

「私も賛成! 珍しい素材が見つかったら、鍛冶の参考になるかもしれないし」

 

リズも乗り気だった。

 

「私も行きたいです!」

 

シリカが手を挙げる。

 

「俺は構わないぞ。準備さえ整えれば問題ないだろう」

 

エギルも賛同した。

 

そして、全員の視線がレイとアスナに向いた。

 

「レイ君はどう?」

 

アスナが尋ねる。

 

レイは少しだけ考えた。

 

未探索の場所。

 

未知の仕掛け。

 

発見されていないアイテムや、これまで知られていなかった情報が眠っている可能性。

 

そう考えれば、探索する価値はある。

 

それに、7人で行動することにも、以前ほど抵抗はなくなっていた。

 

(……たまには、こういうのも悪くないか)

 

「俺は構わない」

 

「よっしゃあ!」

 

クラインが勢いよく立ち上がった。

 

「これで決まりだな!」

 

「まだ日程も決めてないだろ」

 

キリトが冷静に指摘する。

 

「おっと、そうだった!」

 

「まったく……」

 

リズが呆れたように笑った。

 

その後、7人は探索の日程や準備について話し合った。

 

未探索の場所である以上、何があるか分からない。

 

回復アイテムは十分に用意すること。

 

装備の耐久値を確認すること。

 

危険な仕掛けや強力なモンスターが現れた場合は、無理をせず撤退すること。

 

キリトとエギルが中心になって、必要な確認を進めていった。

 

レイも、ときどき意見を求められれば答えた。

 

「未知の場所なら、退路は先に確認しておいた方がいい」

 

「そうだな。入口が塞がれたりしたら厄介だ」

 

キリトが頷く。

 

「あと、通路が狭い場合は、全員が一度に進まない方がいい」

 

「なるほど……」

 

シリカが真剣に聞いていた。

 

「レイって、こういう探索にも慣れてるのね」

 

リズが感心したように言う。

 

「必要なことを言っただけだ」

 

「はいはい。そういうところ、相変わらずね」

 

レイは答えず、話し合いへ意識を戻した。

 

未探索の場所へ向かう以上、事前の準備は欠かせない。

 

どれだけ実力のあるプレイヤーが集まっていても、油断すれば命を落としかねない。

 

それは、この世界では誰もが理解していることだった。

 

だからこそ、レイも必要な確認は怠らなかった。

 

こうして、7人での探索が決まった。

 

そのときのレイは、まだ知らなかった。

 

この決断を、後になって心の底から後悔することになるなど。

 

◇

 

「レイ君と探索……!」

 

話し合いが終わったあと、アスナは嬉しさを隠しきれずにいた。

 

レイ君と一緒に探索できる。

 

そう思うだけで、自然と胸が弾んだ。

 

同じ景色を見ながら、同じ目的地を目指して歩く。

 

そんな時間を、アスナは心から楽しみにしていた。

 

(……楽しみ!)

 

アスナは、ついレイの方を見た。

 

彼はいつもと変わらない表情で、キリトたちの話を聞いている。

 

浮かれている様子はない。

 

けれど、参加を断らなかった。

 

それだけでも、アスナには嬉しかった。

 

(レイ君と一緒に探索するの、いつ以来かな……)

 

かつて、2人で攻略に関わっていた頃。

 

あの頃とは、少しずつ関係が変わっている。

 

今は、レイに自分の気持ちを伝えたうえで、一緒に過ごしている。

 

恋人同士ではない。

 

レイが自分の告白を断った理由も、アスナは理解していた。

 

だから、無理に関係を進めようとは思わない。

 

ただ、今度の探索で、また1つ楽しい思い出が増えたらいい。

 

そう考えるだけで、自然と笑顔になった。

 

「アスナ、なんか嬉しそうだな?」

 

クラインがにやにやしながら声をかけてきた。

 

「えっ? そ、そんなことないよ?」

 

「いやいや、分かりやすいって!」

 

「クライン!」

 

「はははっ!」

 

キリトが苦笑し、リズも楽しそうに笑う。

 

「まあまあ、いいじゃない。久しぶりに一緒に探索できるんだし」

 

リズの言葉に、アスナは少しだけ頬を赤くした。

 

「……うん。楽しみなのは、本当」

 

そう言って、レイを見つめる。

 

「よろしくね、レイ君」

 

「ああ」

 

レイはいつもどおり、短く答えた。

 

その返事だけで、アスナはさらに嬉しくなった。

 

◇

 

一方のレイは。

 

(……探索か)

 

未探索の場所を調べる。

 

それ自体は、嫌いではない。

 

むしろ、未知の情報を得られる可能性があるなら、積極的に調べる価値はある。

 

1人で行くなら、何の問題もない。

 

だが、今回は7人だ。

 

キリトは戦闘に慣れている。

 

アスナも攻略の経験が豊富だ。

 

エギルは落ち着いていて、状況判断もできる。

 

リズは鍛冶屋としての知識があり、シリカも決して足手まといではない。

 

そして、クラインは……。

 

「よっしゃ! 未知のダンジョン探索だ! こういうのこそ、冒険って感じがするよな!」

 

「クライン、あまり騒ぐなよ。まだ何があるか分からないんだから」

 

「分かってるって、キリト!」

 

「本当に分かってるのか……?」

 

レイは、わずかに目を細めた。

 

(……まあ、何とかなるだろ)

 

少なくとも、今の段階ではそう考えていた。

 

7人で探索することに、特別な問題はない。

 

全員が十分な準備をして、慎重に進めばいい。

 

未知の場所とはいえ、SAOのダンジョンだ。

 

危険はあるが、対処できないものばかりではない。

 

レイはそう判断していた。

 

もっとも、彼はまだ知らない。

 

どれほど慎重に準備を整えようと、どれほど警戒していようと、予想もしない事態が起こることはある。

 

そして、その事態が自分にとって、これまで経験したどんな戦闘よりも厄介なものになる可能性も。

 

このときのレイは、そんなことなど考えてもいなかった。

 

7人での探索。

 

それは、いつもとは少し違う冒険になるはずだった。

 

少なくとも、レイはそう思っていた。

 

そして、その判断こそが――。

 

後に、自分を激しく後悔させることになるのだった。





未探索ていいよね(ゲームに限り)

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