光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第33話 望まぬ絶望

 

 

第五十七層

 

俺たち7人は、迷宮区の奥深くにある巨大な扉の前に立っていた。

 

「……ここか」

 

目の前にあるのは、周囲の壁と同じ石材で造られた巨大な扉。

 

装飾らしい装飾はなく、長い年月を経たかのような不気味な雰囲気を漂わせている。

 

「うわぁ……。いかにも何か出てきそうな扉だね」

 

リズが扉を見上げながら呟いた。

 

「こういう場所って、だいたい面倒な仕掛けがあるんだよな」

 

クラインが嫌そうな顔をする。

 

「でも、ここまで来たんだから、確かめないわけにはいかないでしょ?」

 

アスナはそう言うと、俺たちの顔を順番に見た。

 

「準備はいい?」

 

「ああ、問題ない」

 

俺が短く答えると、キリトたちもそれぞれ頷いた。

 

「よし。それじゃあ、行こう」

 

アスナの言葉を合図に、俺たちは扉を押し開いた。

 

重々しい音を立てて、巨大な扉がゆっくりと開いていく。

 

その向こうには、広々とした石造りの広間が広がっていた。

 

天井は高く、壁には等間隔に燭台が設置されている。

 

しかし、灯っている炎は弱々しく、広間の隅々まで照らすには至っていなかった。

 

「広いな……」

 

キリトが周囲を見渡す。

 

「けど、モンスターの姿は見当たらないわね」

 

アスナの言うとおり、広間には俺たち以外の姿が見当たらなかった。

 

「……いや」

 

俺は視線を奥へと向けた。

 

「いるぞ」

 

その直後だった。

 

ガシャンッ!

 

背後で重い音が響いた。

 

振り返ると、開いていたはずの扉が、いつの間にか閉じていた。

 

「うおっ!? ちょっと待て! 今、勝手に閉まらなかったか!?」

 

クラインが慌てて扉へ駆け寄る。

 

「クライン、落ち着いて。まずは周囲を確認しましょう」

 

アスナが声をかけるが、クラインは扉を押したり引いたりしていた。

 

「いやいや、こういうのは最初が肝心だろ! 帰れなくなったら困るじゃねえか!」

 

「……開かないみたいだね」

 

シリカが扉の様子を確かめながら言った。

 

「まあ、今は先に進むしかないだろ」

 

キリトが剣を構える。

 

「扉が閉まったってことは、何かのイベントが始まった可能性もある。みんな、気をつけろ」

 

その言葉を聞き、全員が武器を構えた。

 

俺も剣の柄に手をかける。

 

すると、広間の奥から複数の足音が響いてきた。

 

「来たか」

 

暗がりの中から現れたのは、ダークロム・ドワーフの集団だった。

 

その後ろには、石像のような姿をしたディケスティオ。

 

さらに、巨大な武器を手にしたケンタウロス・バーバリアンまで姿を現した。

 

「うわっ、結構な数だな!」

 

クラインが声を上げる。

 

「でも、これくらいなら問題ないでしょ」

 

リズは余裕のある笑みを浮かべ、武器を構えた。

 

「数が多いだけだ。いつもどおり、連携して片づけよう」

 

キリトの言葉に、全員が頷く。

 

「レイ君、右側をお願いできる?」

 

アスナが俺に声をかけた。

 

「……ああ」

 

俺は短く返事をすると、右側から迫ってくるダークロム・ドワーフたちへと向かった。

 

最初の一体が武器を振り下ろしてくる。

 

俺は半歩だけ身体をずらして攻撃をかわし、その隙に剣を振るった。

 

一撃

 

ダークロム・ドワーフのHPが一気に削れ、ポリゴンとなって砕け散る。

 

続く個体も、ほとんど間を置かずに斬り伏せた。

 

その間、反対側ではキリトとアスナが息の合った連携を見せていた。

 

キリトが敵の攻撃を受け流し、体勢を崩したところへアスナが鋭い突きを放つ。

 

二人の攻撃を受けたモンスターが、次々と消滅していった。

 

「こっちも任せな!」

 

クラインが声を上げ、迫ってきた敵の攻撃を刀で受け止める。

 

その隙を逃さず、リズが武器を叩き込んだ。

 

「はい、一丁上がり!」

 

「おう! いい連携じゃねえか!」

 

「しゃべってる暇があるなら、次!」

 

リズに急かされ、クラインは慌てて次の敵へ向き直った。

 

シリカもピナと連携しながら戦っている。

 

ピナが敵の注意を引きつけ、その隙にシリカが側面から攻撃を仕掛ける。

 

エギルは前衛で敵の動きを受け止め、仲間が攻撃しやすい状況を作っていた。

 

数こそ多いものの、敵の動きはそれほど速くない。

 

7人がそれぞれの役割を果たせば、苦戦する相手ではなかった。

 

やがて、最後のダークロム・ドワーフが砕け散る。

 

残ったディケスティオも、エギルが攻撃を受け止めたところへキリトが斬り込み、あっさりと消滅した。

 

「よし、残りはあいつだな!」

 

クラインがケンタウロス・バーバリアンを指差す。

 

巨大な武器を振り回す敵は、見た目こそ迫力があったが、動きは大振りだった。

 

攻撃の軌道さえ見極めれば、避けることは難しくない。

 

俺が正面からの攻撃をかわして敵の注意を引きつけると、キリトが反対側から斬り込んだ。

 

さらにアスナが追撃を加え、体勢を崩したところへエギルの一撃が叩き込まれる。

 

ケンタウロス・バーバリアンは大きくよろめいた。

 

「今だ!」

 

キリトの声に合わせ、クラインとリズが左右から攻撃を仕掛ける。

 

最後は俺が踏み込み、剣を一閃させた。

 

敵のHPが尽き、巨体が光の粒子となって消滅する。

 

「ふぅ……。思ったより楽勝だったな」

 

クラインが刀を肩に担ぐ。

 

「これだけの人数がいるんだもの。これくらいなら当然でしょ」

 

リズが得意げに胸を張った。

 

「油断はしないで。まだ何があるかわからないから」

 

アスナが周囲を警戒しながら言った。

 

「……そうだな」

 

俺も剣を下ろさず、広間の奥へ視線を向けた。

 

すると、奥の暗がりから低い唸り声が響いてきた。

 

ゴゴゴゴゴ……。

 

石造りの床が微かに揺れる。

 

「な、何だ!?」

 

クラインが声を上げた直後、暗がりの中から巨大な影が姿を現した。

 

「……ドラゴンか」

 

キリトが目を細める。

 

現れたのは、巨大な竜だった。

 

全身を覆う硬い鱗。

 

大きく開かれた口から覗く鋭い牙。

 

太い四肢には獲物を引き裂くための巨大な爪が備わり、背中には広大な翼が広がっている。

 

その姿には、見る者を威圧するだけの迫力があった。

 

頭上に表示された名前を確認する。

 

《ヴリトラ・ザ・パワーネイト》

 

この広間を守るボスということらしい。

 

「うわぁ……。こいつ、見た目だけでボスてわかるな」

 

クラインが顔を引きつらせる。

 

「見た目に惑わされないで。みんな、行くわよ!」

 

アスナが声を張り上げた。

 

ヴリトラが大きく口を開き、こちらへ突進してくる。

 

その巨体から繰り出される攻撃は強烈だが、動きそのものは単調だった。

 

「正面は俺が引きつける!」

 

エギルが前に出て、ヴリトラの注意を引きつける。

 

竜の爪が振り下ろされる直前、エギルは横へ飛び退いた。

 

その攻撃で生じた隙を逃さず、キリトとアスナが左右から斬り込む。

 

「今だよ、ピナ!」

 

シリカの声に合わせ、ピナがヴリトラの顔付近へ飛び立った。

 

一瞬だけ竜の視線が逸れる。

 

その隙にリズが懐へ踏み込み、武器を叩きつけた。

 

「これでどう!」

 

ヴリトラが苦しげに唸り、巨体を大きく揺らす。

 

だが、反撃に移るよりも早く、クラインが側面から斬りかかった。

 

「そらよっ!」

 

「……終わりだ」

 

俺はヴリトラの動きを見極め、攻撃の届かない位置から一気に距離を詰める。

 

振り下ろされた爪をかわし、そのまま剣を振り抜いた。

 

鋭い斬撃が竜のHPを削り切る。

 

ヴリトラ・ザ・パワーネイトは大きな咆哮を上げ、やがて光の粒子となって消滅した。

 

広間に静寂が戻る。

 

「……よし。これで終わりか?」

 

クラインが刀を鞘に収めかけた、そのときだった。

 

「待って。まだ何かいるわ」

 

アスナの声に、全員が動きを止める。

 

「え? まだいるのかよ?」

 

クラインが周囲を見回す。

 

「……気配がある」

 

俺は剣を構え直した。

 

確かに、何かがおかしい。

 

敵の姿は見えない。

 

足音も聞こえない。

 

それなのに、広間のどこかから、こちらを観察するような気配が伝わってくる。

 

「キリトくん、索敵は?」

 

アスナが尋ねた。

 

「今、確認してる……。けど、妙だな」

 

キリトは眉をひそめた。

 

「敵がいるような感覚はある。でも、赤いターゲットマーカーが表示されない。こんなの、初めてだ」

 

「索敵に引っかからないってことか?」

 

エギルが警戒を強める。

 

「完全に反応がないわけじゃない。ただ、場所を特定できないんだ」

 

キリトが答えた。

 

「……厄介だな」

 

俺は広間の床や壁、天井に目を向けた。

 

敵が隠れているのか。

 

それとも、姿そのものを消しているのか。

 

考えを巡らせていると、突然、リズの背後の空間が歪んだ。

 

「リズ、後ろ!」

 

俺が声を上げた瞬間、黒い影がリズの背後に現れた。

 

「えっ!?」

 

振り向いたリズの目の前で、透明な刃が閃く。

 

ガキィンッ!

 

リズはとっさに武器を構え、攻撃を受け止めた。

 

しかし、衝撃に押されて大きく後退する。

 

「くっ……!」

 

「リズ!」

 

アスナが駆け寄ろうとする。

 

だが、黒い影はすでに姿を消していた。

 

「消えた……!?」

 

シリカが驚きの声を上げる。

 

「今の、見えたか?」

 

クラインが刀を構えたまま尋ねた。

 

「一瞬だけ……。黒いローブみたいなものが見えた気がする」

 

リズが息を整えながら答える。

 

「でも、攻撃してきたときには、もう目の前にいたわ」

 

「全員、背中を取られないように注意しろ!」

 

キリトが声を張り上げる。

 

俺たちは互いの位置を確認しながら、周囲への警戒を強めた。

 

その直後、今度はシリカの背後で空間が揺らいだ。

 

「シリカ!」

 

アスナが叫ぶ。

 

シリカが振り返るよりも早く、黒い影がその背中へ刃を振り下ろそうとしていた。

 

だが、ピナが素早く割り込んだ。

 

小さな身体で刃の軌道を遮り、シリカをかばう。

 

「ピナ!」

 

シリカが叫んだ。

 

刃がピナの身体をかすめる。

 

ピナは苦しげな鳴き声を上げながらも、シリカのそばを離れなかった。

 

「このっ!」

 

シリカが短剣を振るう。

 

しかし、刃は空を切った。

 

黒い影は攻撃が届く直前に姿を消し、再び広間のどこかへと潜んでしまった。

 

「くそっ、どこにいやがる!」

 

クラインが周囲を見回す。

 

「見えない敵ってだけでも面倒なのに……!」

 

リズも武器を構え直した。

 

そのとき、キリトが何かに気づいたように目を細めた。

 

「待て……。今、見えたぞ」

 

「何が?」

 

アスナが尋ねる。

 

「敵の姿だ。攻撃の直前に、一瞬だけ空間が歪んだ。その中に、黒いローブのようなものが見えた」

 

「つまり、完全に透明になっているわけじゃないってこと?」

 

「たぶんな。ただ、姿を現す時間が短すぎる」

 

キリトは剣を握り直した。

 

「普通に攻撃しても、姿を捉えられなければ当たらない。こいつ、かなり厄介だぞ」

 

言い終わるより早く、空間が再び歪んだ。

 

今度はキリトの背後。

 

「キリト君!」

 

アスナが声を上げる。

 

キリトは即座に振り向いたが、そこには何もいなかった。

 

次の瞬間、背中に衝撃が走る。

 

「ぐっ……!」

 

キリトの身体が前方へと押し出された。

 

姿を消した敵が、背後から攻撃を仕掛けたのだ。

 

「キリト!」

 

アスナが駆け寄る。

 

しかし、敵は追撃を加えることなく、再び姿を消した。

 

「……ちっ。攻撃する瞬間にしか姿を確認できないのか」

 

キリトが悔しそうに呟いた。

 

「だったら、攻撃してくる瞬間を狙えばいいんじゃないの?」

 

リズが提案する。

 

「それができれば苦労しないんだがな」

 

クラインが苦い顔をした。

 

「攻撃の予兆がほとんどないうえに、狙われる相手も一定じゃない。これじゃあ、かばおうにも間に合わないぜ」

 

その言葉どおり、敵は誰か一人に狙いを定めているわけではなかった。

 

攻撃を仕掛けるたびに姿を消し、次の瞬間には別の仲間の背後に現れる。

 

しかも、エギルが挑発するように声を上げても、敵がこちらを向く様子はない。

 

「おい、こっちだ! 相手をしてやる!」

 

エギルが盾を構え、広間の中央へと進み出る。

 

だが、敵は反応しなかった。

 

代わりに、負傷したリズの背後で空間が歪む。

 

「また、こっち!?」

 

リズが振り返った瞬間、透明な刃が武器へと叩きつけられた。

 

ガキィンッ!

 

激しい音が響く。

 

「っ……!」

 

リズの武器に、細かな亀裂が走った。

 

「何、今の……!?」

 

リズは驚いたように自分の武器を見つめた。

 

「リズ、どうした?」

 

キリトが尋ねる。

 

「武器の耐久値が……急激に減ってる!」

 

「何だと!?」

 

クラインが目を見開いた。

 

リズは武器の状態を確認し、険しい表情を浮かべる。

 

「普通に攻撃を受け止めただけじゃ、こんな減り方はしないわ。あの刃、触れた武器の耐久値を削ってるんだと思う」

 

「つまり、受け止め続けるのは危険ってことか……」

 

キリトが呟く。

 

「そういうこと。何度も受けたら、武器が壊れるかもしれない」

 

リズの言葉に、全員の表情が引き締まった。

 

姿が見えないだけでも厄介なのに、武器の耐久値まで削ってくる。

 

長期戦になれば、こちらが不利になるのは明らかだった。

 

「……面倒な相手だな」

 

俺は周囲を見渡した。

 

敵は攻撃の直前に姿を現す。

 

そして、攻撃が終わればすぐに消える。

 

ならば、姿を現す瞬間を見逃さなければいい。

 

ただし、見つけたところで、攻撃が届かなければ意味がない。

 

「みんな、無理に追いかけるな」

 

俺は仲間たちへ声をかけた。

 

「敵の姿を追おうとすれば、背後を取られる。互いの位置を確認して、単独で動くな」

 

「……そうだな。まずは陣形を崩さないことが大事か」

 

キリトが頷く。

 

「エギルは前衛を維持してくれ。クラインはその近くで援護。キリトとアスナは、敵が姿を現した瞬間に攻撃できる位置を保ってくれ」

 

俺は続けた。

 

「リズとシリカは、無理に攻撃しなくていい。リズは武器の耐久値に気をつけて、シリカはピナと一緒に周囲を警戒してくれ」

 

「わかったわ」

 

リズが頷く。

 

「うん、任せて!」

 

シリカもピナを抱き寄せ、気を引き締めた。

 

「レイ君は?」

 

アスナが俺を見る。

 

「……俺も周囲を見て、敵が姿を現す瞬間を狙う」

 

「わかった。みんなで連携していきましょう」

 

アスナの言葉に、全員が頷いた。

 

俺たちは互いの死角を補えるように位置を調整する。

 

これなら、先ほどのように一人ずつ背後を取られる危険は減るはずだ。

 

だが、敵もこちらの動きを見ているのか、すぐには攻撃してこなかった。

 

静寂が広間を包む。

 

誰もが周囲に注意を払い、わずかな変化も見逃さないようにしていた。

 

そのときだった。

 

「……来る!」

 

俺が声を上げた瞬間、エギルの右側で空間が歪んだ。

 

黒い影が姿を現し、透明な刃を振り下ろす。

 

「させるか!」

 

エギルが盾を構えた。

 

しかし、刃は盾に触れる直前に軌道を変え、エギルの脇をすり抜けようとする。

 

「そこか!」

 

クラインが横から刀を振るった。

 

刃が黒いローブをかすめる。

 

その瞬間、敵の姿が一瞬だけ鮮明になった。

 

黒いぼろぼろのローブ。

 

異様なほど細長い身体。

 

そして、顔のあるはずの場所を覆う黒い靄の中に、冷たい赤い光が二つ浮かんでいた。

 

「見えた!」

 

キリトが踏み込む。

 

アスナも同時に動き、左右から斬撃を放った。

 

しかし、二人の剣が届く寸前、敵は再び姿を消した。

 

「くそっ、あと少しだったのに!」

 

キリトが悔しそうに吐き捨てる。

 

「でも、今のでわかったことがあるわ」

 

アスナが剣を構え直した。

 

「クラインさんの攻撃が当たった瞬間、敵の姿が少しだけ長く見えた。攻撃を受けると、隠れていられなくなるのかもしれない」

 

「なるほどな……。つまり、こっちから攻撃を当てられれば、姿を捉えやすくなるってことか」

 

エギルが頷いた。

 

「問題は、その一瞬をどうやって作るか、だな」

 

キリトが周囲を見回す。

 

俺は床に目を向けた。

 

敵の姿は見えない。

 

だが、完全に何の痕跡も残さないわけではないらしい。

 

攻撃の直前、空気がわずかに揺らぐ。

 

その揺らぎは、熱で景色が歪むときに似ていた。

 

「……空間の歪みを見ろ」

 

俺は仲間たちに告げた。

 

「姿そのものを探すんじゃない。攻撃する前に、周囲の空気が揺らいでいる」

 

「本当だ……。注意して見ると、ほんの少しだけ変化があるな」

 

キリトが目を凝らす。

 

「でも、これを見つけても、すぐに攻撃してくるんでしょ?」

 

シリカが不安そうに尋ねた。

 

「ああ。だから、一人で追うな。誰かが歪みを見つけたら、すぐに知らせろ。ほかの全員で対応する」

 

俺がそう答えると、アスナが力強く頷いた。

 

「わかった。全員で合図を共有しましょう」

 

「おう! 今度こそ捕まえてやるぜ!」

 

クラインが刀を握り直す。

 

俺たちは再び陣形を整えた。

 

敵が姿を現す瞬間を待つ。

 

そして――。

 

「右だ!」

 

キリトの声が響いた。

 

エギルの右側で空間が歪む。

 

「エギルさん、下がって!」

 

アスナの声に、エギルが即座に後退した。

 

敵が振り下ろした刃は、空を切る。

 

その隙を狙い、アスナが鋭い突きを放った。

 

刃が黒いローブを捉える。

 

敵の姿が一瞬だけ浮かび上がった。

 

「今だ!」

 

俺は踏み込んだ。

 

剣を振り抜く。

 

確かな手応えがあった。

 

敵のHPバーがわずかに減少する。

 

しかし、反撃を加える前に、敵はまた姿を消してしまった。

 

「よし、ダメージは通る!」

 

キリトが声を上げる。

 

「なら、次も同じようにいけば……!」

 

その言葉を遮るように、再び空間が歪んだ。

 

今度はリズの背後。

 

「リズさん、避けて!」

 

シリカが叫ぶ。

 

リズは反射的に横へ飛び退いた。

 

透明な刃が空を切る。

 

その直後、ピナが敵の進路へ飛び込み、泡を吐き出した。

 

泡は敵の姿が消えた場所を包み込むように広がる。

 

「ピナ、ナイス!」

 

シリカが声を上げた。

 

泡そのものが敵を捕らえたわけではない。

 

それでも、泡が揺れた場所に、わずかな空気の乱れが浮かび上がっていた。

 

「そこだ!」

 

クラインが刀を振るう。

 

敵の身体が再び姿を現す。

 

今度は、リズもすぐさま反応した。

 

「同じ手は通用しないわよ!」

 

武器の耐久値を削られないよう、リズは透明な刃を正面から受け止めず、横から弾くように攻撃を加えた。

 

刃と武器が触れた瞬間、敵の身体がわずかによろめく。

 

その隙に、エギルが盾を構えて敵の退路を塞いだ。

 

「逃がすか!」

 

敵が反対側へ移動しようとしたところへ、キリトが斬り込む。

 

アスナも続き、二人の連撃が敵のHPを削った。

 

「まだだ!」

 

敵は再び姿を消そうとした。

 

だが、その瞬間、俺は空間の歪みを見逃さなかった。

 

「左だ!」

 

俺の声に、アスナが即座に反応する。

 

彼女は敵の移動先へ踏み込み、剣を振るった。

 

黒い影が姿を現す。

 

そこへ、キリトが追撃を加えた。

 

「これで……!」

 

二人の攻撃を受け、敵のHPバーが大きく減少する。

 

しかし、敵はなおも消えようとしていた。

 

「シリカ!」

 

俺が呼ぶと、シリカはすぐにピナへ指示を出した。

 

「ピナ、もう一度!」

 

ピナが広範囲に泡を吐き出す。

 

泡が広間を漂い、敵が移動した場所の空気を揺らした。

 

「見つけた!」

 

クラインが刀を構える。

 

今度は、全員が同時に動いた。

 

エギルが敵の正面を塞ぎ、クラインが退路を断つ。

 

リズは耐久値を削られないように距離を保ちつつ、敵が逃げようとする方向へ攻撃を放った。

 

キリトとアスナが左右から迫り、俺も正面から剣を構える。

 

逃げ場を失った敵が、透明な刃を振り回した。

 

だが、もう先ほどのように、一人ずつ背後を取られることはなかった。

 

「みんな、攻撃を避けて!」

 

アスナの声に合わせ、全員が刃の軌道から身をかわす。

 

敵の攻撃が空を切った。

 

その一瞬の隙を、俺たちは逃さなかった。

 

「今だ!」

 

キリトが斬り込み、アスナが追撃する。

 

クラインの刀が敵の側面を捉え、エギルの一撃がその身体を大きく揺らした。

 

リズも武器を振るい、シリカはピナとともに敵の動きを妨害する。

 

俺は敵が体勢を立て直す前に踏み込んだ。

 

剣を振り抜く。

 

鋭い斬撃が敵のHPを削り切った。

 

黒いローブが大きく揺らぐ。

 

その奥に浮かんでいた赤い光が、ゆっくりと消えていった。

 

次の瞬間、敵の身体は無数のポリゴンとなって砕け散った。

 

広間に、ようやく静寂が戻る。

 

「……倒した、のか?」

 

クラインが刀を構えたまま呟く。

 

「みたいだな」

 

キリトが周囲を確認し、剣を下ろした。

 

「はぁ……。もう、心臓に悪いったらないわ」

 

リズが大きく息を吐いた。

 

「でも、みんな無事でよかった……」

 

シリカはピナを抱き寄せ、ほっとしたように笑った。

 

ピナも安心したように鳴き声を上げる。

 

「最初はどうなることかと思ったが、連携すれば何とかなるもんだな」

 

エギルが斧を下ろす。

 

「ああ。敵の姿が見えないうえに、挑発も通用しない。厄介な相手だった」

 

キリトが頷いた。

 

「でも、空間の歪みを見つけてからは、少しずつ対応できるようになったわね」

 

アスナが俺を見る。

 

「レイ君が最初に気づいてくれたおかげだよ。ありがとう」

 

「……別に。みんなが合わせてくれたから倒せたんだ」

 

俺はそう答え、剣を下ろした。

 

地下のモンスターは、地上のものとは難度が違う。

 

今回の敵も、姿を消す能力に加え、攻撃した武器の耐久値まで削ってくる厄介な相手だった。

 

だが、互いに状況を伝え合い、それぞれの役割を果たしたことで、確実に仕留めることができた。

 

「さて……」

 

キリトが広間の奥へ視線を向けた。

 

「これで終わりなのか。それとも、まだ何かあるのか……」

 

誰もすぐには答えなかった。

 

俺たちは武器を構え直し、広間の奥を警戒する。

 

ここまでの戦闘は、決して楽ではなかった。

 

それでも、全員で協力したことで乗り越えられた。

 

だからこそ、最後まで油断するわけにはいかない。

 

広間の奥には、まだ暗がりが広がっていた。

 

俺たちは警戒を解かないまま、広間の奥へと足を進める。

 

すると、暗がりの向こうに、何か大きなものが見えた。

 

その異様な存在感に、全員の足が止まる。

 

◇

 

「……でかいな」

 

エギルが呟く。

 

「何あれ……?」

 

リズベットも困惑した表情を浮かべた。

 

「ボスモンスター、でしょうか?」

 

シリカが恐る恐る尋ねる。

 

「……多分な」

 

キリトは剣を構え直した。

 

見た目は妙だが、ここまでの状況を考えれば、特殊なモンスターである可能性は高い。

 

それに、あの大きさだ。

 

普通のモンスターと同じように考えるべきではないだろう。

 

「まあ、弱そうだけどな」

 

クラインが言った。

 

「おい、油断するなよ」

 

「分かってるって! でも、あれなら7人でかかればすぐに終わるだろ!」

 

キリトは少しだけ考えたあと、頷いた。

 

「……確かに。ここまでの敵を倒せたんだ。全員で攻撃すれば、何とかなるかもしれない」

 

「じゃあ、とっとと片付けちゃいましょう」

 

アスナが細剣を構えた。

 

リズベット、シリカ、エギルもそれぞれ武器を構える。

 

7人は、広間の奥にある異様な存在へと近づいていった。

 

そのときだった。

 

「ダンディー! ダンディー!」

 

突然、広間に声が響き渡った。

 

「「「「「「……は?」」」」」」

 

全員が足を止めた。

 

今の声は、間違いなくあのモンスターから聞こえてきた。

 

「えっ、今、喋ったよな……?」

 

クラインが目を丸くする。

 

「う、うん……。確かに聞こえたよね?」

 

リズベットも戸惑った様子で、広間の奥を見つめた。

 

「モンスターが喋るなんて……」

 

シリカがピナを抱き寄せる。

 

キリトとエギルも、警戒を解かないまま相手の様子を窺っていた。

 

そんな中、アスナだけは別のことを考えていた。

 

――今日もダンディーだぜ~!

 

以前、レイが独り言のように口にしていた言葉。

 

あのときは意味が分からず、困惑するだけだった。

 

けれど、今の声と、その言葉が頭の中で結びつく。

 

まさか……。

 

「……げっ」

 

そのとき、レイが小さく声を漏らした。

 

「ダンディー!!」

 

その声は、普段のレイからは想像できないほど大きかった。

 

6人が一斉に振り返る。

 

そこには、いつもどおりの黒い装備に身を包んだレイが立っていた。

 

ただし。

 

その表情には、明らかな動揺が浮かんでいた。

 

「……レイ君?」

 

アスナが目を丸くする。

 

キリトたちも驚いていた。

 

いつも冷静で、多少のことでは表情を変えないレイ。

 

その彼が、今は珍しく顔を引きつらせている。

 

しかも、あの異様な存在を見た途端に。

 

「……レイ君、もしかして知ってるの?」

 

「……ああ」

 

「……強い」

 

「強い?」

 

キリトが聞き返す。

 

「速い」

 

レイは続けた。

 

「それから……」

 

一瞬、言葉を切る。

 

ダンディーは、相変わらず宙に浮かびながら、楽しそうに身体を回転させていた。

 

「……うるさい」

 

「そこ!?」

 

リズが思わず突っ込んだ。

 

「いや、でも……確かにうるさいな」

 

クラインも頷いた。

 

「ダンディー! ダンディー! ダンディズム! ダンディズム!」

 

「……なるほど」

 

キリトは複雑そうな顔をした。

 

「レイが嫌がる理由は、何となく分かった気がする」

 

「……分かったなら、帰るぞ」

 

レイは真顔で言った。

 

「いやいや、まだ戦ってないだろ!」

 

クラインが慌てて止める。

 

「こいつを倒さないと、出れないだろ?」

 

「……そうだったな」

 

レイは諦めたように目を閉じた。

 

そして、もう一度ダンディーを見た。

 

「強敵と書いて友と読む!」

 

ダンディーが大きく回転した。

 

「会いたかったぞ、我がライバルよ!」

 

「……友じゃないんだ?」

 

アスナが小さく呟いた。

 

独り言のつもりだったのだろうが、俺の耳にはしっかり届いている。

 

「……アスナ?」

 

「な、何でもないよ、レイ君!」

 

アスナは慌てて首を横に振った。

 

その反応に、俺は小さく息を吐く。

 

……本当に、勘弁してほしい。

 

「今日もダンディーだぜ~! 我が肉体は美しい!」

 

黄金色の身体が、これでもかというほどの存在感を放ちながら叫んだ。

 

その姿を見て、俺は確信する。

 

間違いない。

 

こいつだ。

 

「……どうしてお前がここにいる」

 

「ハッハッハ! それはこちらの台詞だ、我がライバルよ!」

 

「……ライバルでもない」

 

「強敵と書いてライバルと読む! 実にダンディー!」

 

「……話が通じないな」

 

「レイ君、このモンスターって……」

 

「……気にするな。関わるだけ面倒だ」

 

「おいおい、つれないことを言うな! 我が友よ!」

 

「友じゃない」

 

俺が即答すると、ダンディーは大げさに身体を震わせた。

 

「な、なんという冷たさ! だが、それもまたダンディー!」

 

……何が、だ。

 

「とにかく、倒すぞ」

 

俺が剣を構えると、仲間たちもそれぞれ武器を構えた。

 

「うん。油断はできないね」

 

アスナが細剣を握り直す。

 

「相手が何であれ、やることは同じだな」

 

キリトも剣を構えた。

 

「よーし、やってやるわよ!」

 

リズが気合いを入れる。

 

シリカはピナと一緒に後方へ下がり、クラインとエギルも戦闘態勢に入った。

 

俺たちは、ダンディーを取り囲むように陣形を整える。

 

「さあ、始めようではないか! 今日も我が肉体は美しい!」

 

ダンディーの身体が、まばゆい光を放った。

 

次の瞬間。

 

「ダンディー・レイ!」

 

一本の光線が、凄まじい速度で放たれた。

 

俺たちはすぐさま散開する。

 

光線は壁に激突すると、角度を変えて跳ね返り、さらに別の壁へと向かっていった。

 

「うわっ! 反射するのかよ!」

 

クラインが慌てて身をかわす。

 

反射した光線は、壁だけではなく床や天井までも利用し、複雑な軌道を描いて襲いかかってくる。

 

一度かわしたからといって、安心はできない。

 

「みんな、軌道を見て!」

 

アスナの声が響く。

 

俺は迫ってきた光線を見極め、横へ飛び退いた。

 

直後、光線が背後の壁に激突し、再び跳ね返る。

 

「レイ君、右!」

 

「……分かってる」

 

俺は身体を捻り、光線を回避した。

 

その隙に、キリトがダンディーへ接近する。

 

しかし、ダンディーは急上昇して距離を取った。

 

「我が肉体よ、天高くそびえ立ち優雅に……見せよ!」

 

「だから、何なんだよその台詞!」

 

クラインの叫びを無視し、ダンディーは空中で回転を始めた。

 

「ダンディズム・レイ!」

 

身体を回転させながら、無数の光線が放たれる。

 

「っ、数が多い!」

 

キリトが声を上げた。

 

光線は四方八方へと飛び散り、壁や床、天井に反射しながら俺たちへ迫ってくる。

 

「散開!」

 

俺の声に合わせ、全員がそれぞれの方向へ飛び退いた。

 

俺は光線の軌道を見極め、次の攻撃が届く前に位置を変える。

 

地上のモンスターとは違い、地下の敵は攻撃の威力だけでなく、こうした特殊な能力も厄介だ。

 

だが、動きを見極めれば対処できる。

 

「キリト、次は俺が行く。お前は反対側から仕掛けろ」

 

「分かった!」

 

俺は床を蹴り、ダンディーへ向かって駆け出した。

 

正面から迫る光線をかわし、懐へ飛び込む。

 

剣を振り抜くが、ダンディーは急上昇して攻撃を避けた。

 

そこへ、反対側からキリトが斬りかかる。

 

「今だ!」

 

キリトの攻撃に合わせ、アスナも細剣を突き出した。

 

ダンディーは身体を捻って回避しようとする。

 

だが、その動きにわずかな隙が生まれた。

 

「……もらった」

 

俺は踏み込み、剣を振り抜く。

 

刃が黄金色の身体を捉え、ダンディーのHPがわずかに減少した。

 

「ゴバーーーッ!? 我が美しい肉体に傷がぁぁぁ!」

 

「……騒がしいな」

 

「ちょっと! まだまだこれからよ!」

 

リズが叫ぶ。

 

俺たちは攻撃の手を緩めず、ダンディーを追い詰めていった。

 

すると、ダンディーは突然動きを止めた。

 

「……む?」

 

何かを思いついたように、こちらへ向き直る。

 

そして。

 

「マイサン!」

 

ダンディーは、これまでにないほど眩しい笑顔を浮かべた。

 

黄金色の身体が輝き、その表情が妙に自信に満ちたものへと変わる。

 

……何をするつもりだ?

 

俺たちは警戒を強めた。

 

しかし、いつまで待っても、特に何も起こらない。

 

「……?」

 

キリトが首を傾げる。

 

アスナもリズも、シリカもクラインも、エギルも、特に様子が変わったようには見えなかった。

 

全員、普通にこちらを見ている。

 

ダンディーだけが、満面の笑みを浮かべていた。

 

「な、なんだと…」

 

ダンディーの声が震えた。

 

「我輩のアルティメットスマイルが……

通じぬだと!?」

 

「……何を期待してたんだ」

 

俺は思わず呆れた声を漏らした。

 

「いや、そこは驚くところじゃないでしょ!」

 

リズが叫ぶ。

 

「そもそも、何をされたのかも分からないんだけど……」

 

アスナも困惑した様子で呟いた。

 

「マイサン! マイサン! なぜだ! なぜ誰も魅了されない!?」

 

ダンディーは空中で激しく震え始めた。

 

……今だ。

 

「隙だらけだぞ」

 

俺は一気に距離を詰めた。

 

「レイ君、合わせるよ!」

 

アスナが俺の動きに合わせて飛び込む。

 

キリトも反対側から斬りかかり、リズのメイスが続いた。

 

シリカの攻撃を補助するように、ピナが泡を吐き出す。

 

クラインが叫びながら斬り込み、エギルも両手斧を振り下ろした。

 

「お、おい! ちょっと待て! まだ我が笑顔の説明が――」

 

「説明はいらない!」

 

リズの一撃が、ダンディーの言葉を遮った。

 

俺たちは攻撃を重ね、ダンディーのHPを削っていく。

 

「ゴバーーーッ!? 我輩の肉体が! 我輩の美しい肉体がぁぁぁ!」

 

「……うるさい」

 

俺は剣を構え直した。

 

ダンディーが再び光を放つ。

 

「ダンディー・ファントムステップ!」

 

次の瞬間、ダンディーの姿がぶれた。

 

一体だったはずの黄金色の身体が、複数の残像を生み出す。

 

「分身……じゃない?」

 

シリカが目を凝らす。

 

「残像だ! 本体を見極めろ!」

 

キリトが叫んだ。

 

残像はそれぞれ別の方向へ動き、こちらの狙いを惑わせる。

 

だが、完全に同じ動きをしているわけではない。

 

俺は動きのわずかな違いを見極め、本体の位置を探った。

 

「……そこだ」

 

剣を振るう。

 

手応えがあった。

 

「ゴバーーーッ!? なぜ本体を見抜けるのだ!?」

 

「……動きが違う」

 

「な、なんという洞察力! それもまたダンディー!」

 

「……黙れ」

 

俺は剣を構え直した。

 

ダンディーは残像を消し、今度は勢いよく回転を始める。

 

「ダンディー・ローリングスペシャル!」

 

「来るぞ!」

 

キリトが声を上げる。

 

ダンディーは回転しながら、凄まじい勢いで突進してきた。

 

「うおっ!?」

 

クラインが横へ飛び退く。

 

俺も軌道を見極めて回避したが、ダンディーは勢いを落とさず、そのまま壁へと突っ込んだ。

 

轟音が響き、壁にぶつかった反動でダンディーの身体が跳ね返る。

 

「今だ!」

 

俺の声に合わせ、全員が動いた。

 

アスナが細剣を突き出し、キリトが剣を振り下ろす。

 

リズとシリカも攻撃を重ね、クラインが大きく踏み込んだ。

 

エギルの両手斧が唸りを上げる。

 

俺も一気に距離を詰め、剣を振り抜いた。

 

ダンディーのHPが大きく減少する。

 

「おのれ……! 我がダンディズムが……!」

 

ダンディーの身体が再び光を放った。

 

「ダンディズム・レイ!」

 

回転と同時に無数の光線が放たれる。

 

「全員、軌道を見て回避!」

 

俺は光線の流れを読み、仲間たちの位置を確認しながら動いた。

 

アスナたちも互いの動きを見て、攻撃を避けていく。

 

光線の一部が壁に当たり、角度を変えてダンディーへと向かった。

 

「なっ!?」

 

自ら放った光線が、自分の身体へ迫る。

 

ダンディーは慌てて回避しようとしたが、無数の光線をすべて避けることはできなかった。

 

「ゴバーーーッ!? 我がダンディズムが、我が身を襲うだとぉぉぉ!」

 

光線が直撃し、ダンディーのHPがさらに減少する。

 

「今だ!」

 

俺の声に、全員が反応した。

 

アスナの細剣が閃き、キリトの剣が斬り込む。

 

リズとシリカも攻撃を重ね、クラインが大きく踏み込んだ。

 

エギルの両手斧が唸りを上げる。

 

俺も最後の一撃を叩き込んだ。

 

ダンディーのHPが、ついにゼロへと到達する。

 

「今日も……我が肉体は……美し……い……!」

 

大げさな声を残し、黄金色の身体が光に包まれた。

 

そして、ダンディーは消滅した。

 

「……終わったか」

 

俺は剣を下ろした。

 

「はぁ……。何だったの、今の……」

 

リズが疲れたように息を吐く。

 

「最後までよく分からなかったな」

 

キリトも剣を収めながら呟いた。

 

「でも、倒せてよかったです!」

 

シリカが笑顔を見せ、ピナも嬉しそうに鳴いた。

 

「……ああ」

 

俺は短く答えた。

 

ただ、ひとつだけ気になることがあった。

 

「……分裂しないな」

 

「分裂?」

 

アスナがこちらを見る。

 

「……以前、倒したあとに分裂したことがある」

 

「えっ、そうなの!?」

 

クラインが驚きの声を上げた。

 

「……ああ。だから、念のため警戒している」

 

俺たちは周囲を見回した。

 

だが、黄金色の身体が再び現れる気配はない。

 

しばらく待っても、何も起こらなかった。

 

「……今回は、これで終わりらしいな」

 

俺がそう言った直後、視界の端にシステムメッセージが表示された。

 

《エリア攻略完了》

 

「おっ、攻略成功ってことか!」

 

クラインが嬉しそうに声を上げた。

 

「これで一段落だね」

 

アスナもほっとしたように微笑む。

 

「……ああ。戻るぞ」

 

俺たちは来た道を引き返すことにした。

 

◇

 

町へ向かう道中。

 

俺たちは、先ほどの戦闘について話しながら歩いていた。

 

「それにしても、あのレーザーは厄介だったな」

 

キリトが言う。

 

「反射するうえに、あんなに複雑な軌道を描くなんてね」

 

アスナも頷いた。

 

「でも、最後は自分の攻撃が自分に当たったんですよね」

 

シリカが少し楽しそうに言った。

 

「ゴバーーーッ!? って感じだったわね」

 

リズが笑う。

 

「……ゴバーーーッ!?」

 

クラインが、なぜか同じ言葉を繰り返した。

 

「……何だ、それ」

 

俺が尋ねると、クラインは不思議そうな顔をした。

 

「え? いや、何となく口から出たんだけど……」

 

「ダンディーの口癖が移ったんじゃない?」

 

リズが呆れたように言った。

 

「そ、そんなわけあるかよ!」

 

クラインは否定したが、その直後。

 

「今日もダンディーだぜ~!」

 

……と、無意識に口にした。

 

「……おい」

 

「……あ」

 

クラインが口を押さえる。

 

「クラインさん……」

 

シリカが何とも言えない表情を浮かべた。

 

「いや、違う! 今のは違うからな!?」

 

「……何が違うんだ」

 

俺は呆れた声を漏らした。

 

「それにしても、今日もダンディーだったな!」

 

クラインが、妙に晴れやかな声で言った。

 

「……クラインさん、また言ってますよ?」

 

シリカが指摘する。

 

「だから、わざとじゃねえって!」

 

クラインは慌てて否定した。

 

「……我が肉体は美しい」

 

今度はエギルが、低い声で呟いた。

 

「エギルさんまで……」

 

シリカが目を丸くする。

 

「……いや、今のは何となくだ」

 

エギルは自分の腕を見下ろしながら答えた。

 

「何となくで出る台詞じゃないでしょ……」

 

リズが呆れたように言う。

 

「ダンディズム……」

 

「……リズ?」

 

キリトが隣を見た。

 

「えっ?」

 

リズは自分の口元を押さえた。

 

「ちょっと待って! 今の、私が言ったの!?」

 

「……ああ」

 

「うそでしょ……」

 

リズは頭を抱えた。

 

「強敵と書いてライバルと読む!」

 

キリトが、何の前触れもなく言い放った。

 

「……キリト君?」

 

アスナが目を丸くする。

 

キリト自身も、少し遅れて自分の発言に気づいた。

 

「……今のは、違う。いや、違わないけど……何でだ?」

 

「キリトまで……!」

 

リズが驚きの声を上げた。

 

「今日もダンディーだぜ~!」

 

「……えっ?」

 

今度はアスナだった。

 

自分の口から出た言葉に、アスナ自身が一番驚いている。

 

「レ、レイ君! 今のは違うからね!?」

 

「……何が違うんだ」

 

「違うものは違うの!」

 

顔を赤くして言い返すアスナに、俺は小さく息を吐いた。

 

「ダンディー! ダンディー!」

 

「……あっ」

 

シリカも、思わず口を押さえた。

 

「わ、私まで……?」

 

腕の中のピナが、不思議そうに首を傾げる。

 

「ピナは真似しなくていいからね?」

 

「キュルル?」

 

シリカはピナに言い聞かせるように話しかけた。

 

……いや、ピナに言っても仕方ないだろ。

 

「我が肉体は美しい……」

 

エギルが再び呟く。

 

「だから、そこはもういいって!」

 

クラインが突っ込んだ。

 

「この鍛え抜かれた筋肉美……。まさに、究極の肉体芸術……!」

 

「それ、ダンディー言ってなくね?」

 

クラインの突っ込みが、夕暮れの道に響き渡った。

 

「……くだらない」

 

俺は呆れながら呟いた。

 

……くだらない。

 

本当に、くだらない。

 

「……ダンディー」

 

……。

 

……今、俺は何を言った?

 

「……レイ?」

 

キリトがこちらを見た。

 

「……何だ」

 

「今、ダンディーって言わなかったか?」

 

「……言ってない」

 

「いや、言っただろ」

 

「……気のせいだ」

 

俺は即座に否定した。

 

だが、全員の視線がこちらに集まっている。

 

「レイ君も、うつっちゃったんだね……」

 

アスナが、どこか申し訳なさそうに呟いた。

 

「……違う」

 

「でも、今……」

 

「……気のせいだ」

 

俺はそれ以上、何も言わずに歩き出した。

 

……今までは、俺一人でダンディーと関わっていた。

 

だから、あいつの口癖がうつるのも、自分だけなのだと思っていた。

 

だが、違ったらしい。

 

クラインも、エギルも、キリトも、リズも、シリカも、アスナも。

 

そして、俺自身も。

 

……全員にうつっている。

 

しかも、本人の意思とは関係なく、勝手に口から出てくるらしい。

 

「ダンディー! ダンディー!」

 

「今日もダンディーだぜ~!」

 

「強敵と書いてライバルと読む!」

 

背後から次々と聞こえてくる声に、俺は深く息を吐いた。

 

「……絶望だ」

 

結局、町に着くまで、ダンディーの口癖が途切れることはなかった。





お疲れ様です( ・∀・)っ旦

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