光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第34話 呪いの珍獣

 

 

翌日

 

第五十層の飲食店に、7人の姿があった。

 

テーブルを囲んでいるのは、レイ、アスナ、キリト、リズベット、シリカ、クライン、エギル。

 

それぞれ食事を注文し、昨日の探索について話していた。

 

ただし、話題の中心は未探索エリアでも、そこで遭遇した大量のモンスターでもない。

 

「……で、結局あいつは何なんだ?」

 

クラインが、真剣な顔で尋ねた。

 

昨日、7人を苦戦させた巨大な黄金色の球体。

 

黒いサングラスをかけ、やたらと陽気な声で叫び続ける謎のモンスター。

 

その名は――ダンディー。

 

「レイ、お前は前からあいつを知ってたんだよな?」

 

キリトが尋ねる。

 

「ああ」

 

レイは短く答えた。

 

「じゃあ、詳しく教えてくれよ。あんなモンスター、聞いたこともなかったぞ」

 

「……最初はバスケットボールくらいの大きさだった」

 

「……は?」

 

クラインが固まった。

 

「ちょっと待て。昨日のあのデカさで、最初はバスケットボールくらいだったって?」

 

「ああ」

 

「どんだけ成長してんだよ!?」

 

クラインの叫びが、店内に響いた。

 

周囲のプレイヤーたちが一瞬こちらを見る。

 

しかし、レイは気にした様子もなく、話を続けた。

 

「倒しても、しばらくすると復活する」

 

「……復活?」

 

シリカが目を丸くした。

 

「倒したら終わりじゃないんですか?」

 

「普通はな」

 

「普通は、って……」

 

リズベットが額を押さえた。

 

「つまり、倒しても倒しても、また出てくるってこと?」

 

「ああ」

 

「最悪じゃない!」

 

「しかも、時々分裂する」

 

「…………」

 

6人が黙り込んだ。

 

数秒後。

 

「……分裂?」

 

キリトが聞き返した。

 

「ああ」

 

「……何体に?」

 

「二体」

 

「いや、増えてるじゃねえか!」

 

クラインがテーブルを叩きそうな勢いで叫んだ。

 

「一体でもあれだけ面倒なのに、二体になるのかよ!?」

 

「そうだ」

 

「そうだ、じゃねえよ!」

 

レイはクラインを一瞥した。

 

「……落ち着け。いつも分裂するわけじゃない」

 

「いつもじゃなくても十分嫌だわ!」

 

クラインは頭を抱えた。

 

キリトも難しい顔をしている。

 

「復活するうえに、どんどん巨大化して、分裂までする……。そんなモンスターがいるなんてな」

 

「しかも、会うたびに強くなる」

 

レイが付け加えた。

 

「…………」

 

今度こそ、全員が完全に黙り込んだ。

 

「……会うたびに?」

 

アスナがおそるおそる尋ねる。

 

「ああ。攻撃も厄介になるし、動きも速くなる。おまけに必殺技も増える。」

 

「ちょっと待って。昨日のあれより、さらに強くなる可能性があるってこと?」

 

リズの声が裏返った。

 

「ある」

 

「嫌よ! 絶対に嫌!」

 

「……同感だ」

 

レイが即答した。

 

そのあまりにも迷いのない返事に、キリトは思わず苦笑した。

 

「お前、よっぽどあいつが嫌いなんだな……」

 

「好きになる理由がない」

 

「それは……そうだな」

 

キリトも否定できなかった。

 

強い。

 

倒しても復活する。

 

時には分裂する。

 

そして、会うたびに強くなる。

 

普通なら、そんなモンスターに何度も関わりたいとは思わないだろう。

 

しかし、ダンディーには、さらに厄介な問題があった。

 

「……それから」

 

レイが口を開いた。

 

「いつの間にか、俺を友と呼ぶようになった」

 

「…………は?」

 

クラインが再び固まった。

 

「友?」

 

「ああ」

 

「……あいつが?」

 

「ああ」

 

「お前を?」

 

「ああ」

 

クラインはゆっくりとキリトを見た。

 

「……なあ、キリト」

 

「何だ?」

 

「……俺、今、何かとんでもない話を聞いた気がするんだが」

 

「いや、俺も聞き間違いじゃなければ、今そう聞こえた」

 

「だよな……」

 

2人は揃ってレイを見た。

 

レイは至って真面目だった。

 

「最初はライバルと呼んでいた。だが、いつの間にか『友』と呼ぶことも増えた」

 

「……何でだよ」

 

キリトが思わず呟く。

 

「知らん」

 

レイは即答した。

 

「お前が何かしたんじゃないのか?」

 

「何もしていない」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

レイは一切表情を変えない。

 

「否定しても聞かない。何度違うと言っても、友と呼んでくる」

 

「……面倒くさすぎるだろ」

 

エギルが深く息を吐いた。

 

「昨日も、レイ君のことを『我がライバル』とか『我が友』とか呼んでいたわね……」

 

アスナが思い出したように呟く。

 

「そうだ」

 

レイはアスナに視線を向けた。

 

「だから、お前たちも気をつけろ」

 

「……え?」

 

シリカが首を傾げる。

 

「何をですか?」

 

「そのうち、お前たちまで友と呼ばれるかもしれない」

 

「いらないです!」

 

シリカが即座に叫んだ。

 

「まだ何も起きてないだろ!」

 

クラインが突っ込む。

 

「でも、あんなのに友って呼ばれるのはちょっと……!」

 

「気持ちは分かるわ」

 

リズも頷いた。

 

「私も遠慮したいわね……」

 

「……俺もだ」

 

キリトも真顔で同意した。

 

エギルは腕を組み、重々しく頷いた。

 

「友と呼ばれるだけならまだしも、あの妙な口調まで真似することになったら厄介だな」

 

「……そのとおりだ」

 

レイの声が、わずかに低くなった。

 

「実際、戦闘が終わったあとに口調がうつる」

 

「…………」

 

6人の表情が変わった。

 

「……うつる?」

 

キリトが尋ねた。

 

「ああ」

 

「何が?」

 

「ダンディーの口調」

 

「…………」

 

レイは淡々と言い切った。

 

「気をつけても無駄だ。……最早、呪いだ」

 

「呪い!?」

 

クラインが叫んだ。

 

「ちょっと待て! モンスターの口癖がうつるって、そんなことあるのか!?」

 

「実際にうつっている」

 

「いや、そうだけど!」

 

クラインは昨日のことを思い出した。

 

戦闘が終わったあと。

 

自分が、無意識に口にしていた言葉。

 

『ダンディー、ダンディー……』

 

あれは確かに、自分の意思で言ったわけではなかった。

 

「……まさか、昨日のあれも?」

 

リズが青ざめる。

 

「そうだろうな」

 

レイが答えた。

 

「……私も、帰り道で変なことを言っていたわ」

 

アスナが口元に手を当てた。

 

『今日もダンディーだぜ~!』

 

昨日、自分が呟いた言葉が脳裏によみがえる。

 

「……あれ、口調がうつっていたの?」

 

「そういうことだ」

 

「そんなの、どうやって防げばいいのよ!?」

 

「無理だと言った」

 

「何でそんなに落ち着いてるのよ!」

 

リズベットが思わず突っ込んだ。

 

レイは少し考えた。

 

「……慣れろ」

 

「慣れたくないわよ!」

 

リズベットの叫びに、シリカも何度も頷いた。

 

「私もです! もう二度と、あんなことを言いたくありません!」

 

「ダンディー……」

 

クラインが、ぽつりと呟いた。

 

全員の視線が一斉に彼へ向いた。

 

「…………」

 

クライン自身も、口を押さえた。

 

「……今のは違う! わざとじゃねえ!」

 

「……始まっているな」

 

レイが冷静に指摘する。

 

「始まってねえよ! まだ俺は大丈夫だ!」

 

「ダンディズム……」

 

今度はリズが呟いた。

 

「ちょっと! リズまで!」

 

「わ、私だって、今のは無意識よ!」

 

「……全員、重症だな」

 

エギルが呆れたように言った。

 

「エギル、お前も気をつけろよ!」

 

「分かっている」

 

「今日も我が肉体は美しい……」

 

「エギル!?」

 

キリトが叫んだ。

 

「……すまん。今のは、口が勝手に」

 

エギルは苦々しい顔で口元を押さえた。

 

レイは深く息を吐いた。

 

(……やはり、呪いだ)

 

自分1人でも十分に厄介だった。

 

それが、仲間全員にまで広がっている。

 

考えるだけで頭が痛くなる。

 

◇

 

その後も、七人の話題はダンディーから離れなかった。

 

「でも、あんなに大きくなるなら、最初のバスケットボールくらいのときに倒しておけばよかったんじゃないか?」

 

キリトが尋ねる。

 

「倒した」

 

「……え?」

 

「何度も倒した」

 

「……何度も?」

 

「ああ」

 

レイは水を一口飲んだ。

 

「復活する」

 

「……そうだったな」

 

キリトは、納得したような、納得したくないような顔をした。

 

「じゃあ、逃げればいいんじゃないの?」

 

リズが言う。

 

「逃げても、また会うことがある」

 

「何でよ!?」

 

「知らん」

 

「知らんって……!」

 

「しかも、あいつは俺を見つけると、すぐに寄ってくる」

 

レイは無表情のまま続けた。

 

「『我が友よ!』とか『我がライバルよ!』とか言いながら」

 

「……うわぁ」

 

シリカが顔を引きつらせた。

 

「それは……大変ですね」

 

「大変なんてものじゃない」

 

レイの声には、珍しく疲労が滲んでいた。

 

「……会いたくない」

 

その一言には、これまでの苦労が凝縮されているようだった。

 

アスナは、そんなレイを見つめた。

 

(レイ君がここまで嫌がるなんて……)

 

普段のレイは、どんな時も冷静だ。

 

強敵と戦っているときでさえ、必要以上に感情を表に出さない。

 

そのレイが、ダンディーの話になると、明らかに疲れた様子を見せる。

 

よほどの相手なのだろう。

 

「……レイ君」

 

「何だ?」

 

「本当に、大変だったのね……」

 

「ああ」

 

レイは短く答えた。

 

「……もう二度と会いたくない」

 

「うん……」

 

アスナは、心から同情した。

 

そのときだった。

 

「……そういやよ」

 

クラインが、ふと思い出したように口を開いた。

 

「昨日のあいつ、LAボーナス(ラストアタックボーナス)は何だったんだ?」

 

「…………」

 

レイの動きが止まった。

 

ほんの一瞬。

 

だが、キリトは見逃さなかった。

 

「……レイ?」

 

「……ゴミだ」

 

レイは即答した。

 

「ゴミ?」

 

クラインが身を乗り出す。

 

「何だよ、そこまで言うなら見せてくれよ!」

 

「……見る価値はない」

 

「いいから、いいから!」

 

クラインがしつこく迫る。

 

キリトたちも気になったのか、レイへ視線を向けた。

 

「……本当に、くだらないものだぞ」

 

「いいって! どんなアイテムだったんだよ?」

 

レイはしばらく黙っていた。

 

やがて、諦めたようにメニューを操作する。

 

そして、一つのアイテムを取り出した。

 

「……これだ」

 

テーブルの上に置かれたものを見て。

 

6人は、言葉を失った。

 

それは――

 

ダンディーのストラップだった。

 

黄金色の球体。

 

黒いサングラス。

 

妙に自信満々な笑顔。

 

どう見ても、昨日のあの珍獣を小さくしたストラップだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

沈黙

 

誰も、何も言わない。

 

レイはストラップを見下ろし、淡々と説明した。

 

「……LAボーナスだ」

 

「…………」

 

「ゴミだ」

 

「…………」

 

「……捨てるのも面倒だから、持っている」

 

6人は、依然として沈黙していた。

 

キリトは、目の前のストラップを見つめている。

 

アスナは口元を押さえていた。

 

リズベットは、何かを言おうとして、結局言葉を失っていた。

 

シリカは困惑しきった表情で固まっている。

 

エギルは腕を組んだまま、じっとストラップを見ていた。

 

そして、クラインは――。

 

「……ぷっ」

 

笑いを堪えきれなかった。

 

「……何だ?」

 

レイが視線を向ける。

 

「い、いや……! 悪い……!」

 

クラインは肩を震わせた。

 

「だってよ……! あんなに苦労して倒したモンスターの報酬が……!」

 

「……笑うな」

 

「いや、無理だって!」

 

クラインはついに吹き出した。

 

「ダンディーのストラップって何だよ!? 何に使うんだよ、そんなもん!」

 

「知らん」

 

「お前も知らねえのかよ!」

 

キリトも、とうとう顔を背けた。

 

「……確かに、これは……」

 

「笑うな」

 

レイの声が低くなる。

 

「いや、でも……!」

 

キリトも肩を震わせていた。

 

リズは、ついにテーブルに突っ伏した。

 

「ちょっと待って……! 昨日、あんなに命懸けで戦ったのよ……!?」

 

「……そうだな」

 

「それで、報酬がこれって……!」

 

「……そうだな」

 

「何なのよ、これ!」

 

レイは無言でストラップを手に取った。

 

「……押すと喋る」

 

「…………は?」

 

笑っていたクラインが、ぴたりと止まった。

 

レイはストラップの丸い身体を指で押した。

 

すると。

 

『ダンディー! ダンディー! 今日も我が肉体は美しい!』

 

やけに元気な声が、テーブルの上に響き渡った。

 

「…………」

 

6人が固まった。

 

レイは、何事もなかったかのようにストラップをもう一度押す。

 

『天高くそびえ立ち優雅に……見たいか?』

 

「…………」

 

さらに、もう一度。

 

『キャー、ダンディー! ダンディー、キャー!』

 

甲高い裏声まで再現された。

 

「…………」

 

レイはストラップをテーブルに置いた。

 

そして、いつもどおりの無表情で言った。

 

「……いらないだろ」

 

次の瞬間。

 

「「「「「「いらな!!」」」」」」

 

6人の声が、見事に揃った。

 

店内の何人かが、驚いてこちらを振り返る。

 

だが、7人はそれどころではなかった。

 

「何だよ、その余計な機能!?」

 

クラインが叫ぶ。

 

「せめて音が出ないようにできないの!?」

 

リズベットがストラップを指さした。

 

「これ、アイテム欄に入れておくだけでも嫌なんですけど……!」

 

シリカが本気で困った顔をする。

 

「……捨てればいいんじゃないか?」

 

キリトが言った。

 

「実は試した」

 

レイが答える。

 

「……捨てられなかった」

 

「何でだよ!?」

 

クラインが再び叫んだ。

 

「呪いのアイテムなの!?」

 

「……知らん」

 

レイはストラップを見下ろした。

 

「ただ、捨てようとすると、なぜか手が止まる」

 

「怖いこと言わないでよ!」

 

リズベットが身を乗り出した。

 

「……まさか、本当に呪いなんじゃ……」

 

シリカが青ざめる。

 

アスナは、レイの顔をそっと覗き込んだ。

 

「レイ君……それ、持っていて大丈夫なの?」

 

「……大丈夫ではない」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「……考え中だ」

 

レイはストラップをメニューに戻した。

 

その瞬間。

 

『我が友よ!』

 

どこからともなく、あの声が響いた。

 

「…………」

 

7人が、一斉に固まった。

 

レイは、ゆっくりと目を閉じた。

 

「…………」

 

そして、低い声で呟いた。

 

「……本当に、二度と会いたくない」

 

その言葉に、6人は深く頷いた。

 

心の底から。






【挿絵表示】
ダンディー・レイ

【挿絵表示】
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