「ほらほら、2人とも! いつまでも話してないで、さっさとギルドを作ってきなさいよ!」
リズが、レイとアスナの背中を押すように言った。
「……分かっている」
「う、うん! 行ってくるね、リズ!」
アスナは嬉しそうに頷いた。
その表情を見て、リズは満足げに笑う。
「はいはい。頑張ってね、アスナ♪」
「……何を頑張るんだ?」
レイが不思議そうに尋ねた。
「何でもないわよ!」
リズは即答した。
「ほら、早く行った行った!」
「……妙な奴だな」
レイは小さく呟き、歩き出した。
アスナは慌ててその後を追う。
(レイ君と2人だけのギルド……!)
考えるだけで、胸が弾んだ。
これからは同じギルドの仲間として、レイと一緒に活動できる。
もちろん、今までも2人で会っていたし、一緒に過ごす時間もあった。
けれど、ギルドを組むというのは、また違う意味を持っているように思えた。
(……えへへ)
思わず頬が緩む。
「……アスナ」
「は、はいっ!」
突然呼ばれ、アスナは背筋を伸ばした。
「……何を笑っている?」
「えっ!? な、何でもないわ!」
「……そうか」
レイは特に気にした様子もなく、再び歩き始めた。
アスナは、ほっと胸を撫で下ろす。
(あ、危なかった……)
顔に出さないようにしなければ。
そう思うのだが、嬉しさを隠すのはなかなか難しかった。
◇
ギルドの創設手続きは、思っていたよりも簡単だった。
必要事項を入力し、創設者やギルド名などを登録する。
あとは、正式に申請すればいい。
「……ギルド名は決めたのか?」
手続きを進めながら、レイが尋ねた。
「うん。考えてきたわ」
アスナは、少し緊張した様子で頷いた。
実は、ここへ向かう途中でずっと考えていたのだ。
2人だけのギルド。
レイと自分が所属する場所。
せっかくなら、2人にとって意味のある名前にしたい。
しかし、あまり露骨な名前をつけるのも恥ずかしい。
ずいぶん悩んだ末、アスナは一つの名前を選んでいた。
「……『双翼』はどうかな?」
「……双翼?」
「ええ。2人で一緒に飛んでいく、という意味を込めてみたの」
アスナは、少しだけ頬を赤くしながら説明した。
「2人だけのギルドだから……2人で支え合って、進んでいけたらいいなって」
もちろん、レイと恋人になりたいという気持ちも、心のどこかにはあった。
けれど、それだけではない。
レイと一緒に、同じ場所を目指していく。
彼が1人で進むことを好むのは知っている。
だからこそ、無理に彼を変えようとは思わない。
ただ、同じギルドの仲間として、隣にいられたら。
今のアスナには、それだけで十分だった。
「……悪くないな」
レイは、あっさりと頷いた。
「それにしよう」
「……えっ?」
あまりにも簡単に決まったため、アスナは目を瞬かせた。
「い、いいの? もっと考えなくても?」
「……お前が考えたんだろう」
「う、うん」
「なら、それでいい」
レイは淡々と言った。
「……俺は、ギルド名に特別なこだわりはない」
「……そっか」
アスナは、胸の奥が温かくなるのを感じた。
自分が考えた名前を、レイが受け入れてくれた。
それだけのことなのに、どうしようもなく嬉しかった。
「……ありがとう、レイ君」
「……別に構わない」
レイはそう答え、登録画面へ視線を戻した。
アスナは、もう一度だけ画面を見つめた。
そこには、これから自分たちが所属するギルドの名前が表示されている。
ギルド名――『双翼』
(……双翼……)
心の中で、そっと繰り返す。
2人で一緒に。
その言葉が、今のアスナには何よりも大切に思えた。
◇
「……これで終わりか」
最後の確認を済ませ、レイが呟いた。
ギルドの創設手続きは、あっという間に終わった。
創設者はレイ。
そして、最初のメンバーはアスナ。
2人だけの、小さなギルドが正式に誕生したのだ。
「……できたわね」
アスナは、画面に表示されたギルド情報を眺めながら呟いた。
「……ああ」
レイは、特に感慨深そうでもなく頷く。
「……これで、しつこい勧誘も少しは減るだろう」
「……うん」
アスナは微笑んだ。
レイにとっては、あくまで勧誘対策なのだろう。
けれど、アスナにとっては違う。
レイと同じギルドに所属できる。
これからも、一緒に過ごせる。
その事実だけで、胸がいっぱいだった。
「……それじゃあ、拠点も決めないとな」
レイが言った。
「あ、そうね!」
アスナは顔を上げる。
「どこにする?」
「……第二十二層でいいだろう」
その言葉に、アスナの表情がぱっと明るくなった。
第二十二層。
2人がいつも待ち合わせをしている場所。
それぞれのログハウスがあり、何度も一緒に過ごしてきた思い出のある層だ。
「……うん! 私も、そこがいい!」
アスナは即答した。
「……そうか」
レイは頷き、拠点の設定を済ませた。
これで、ギルド『双翼』の拠点は第二十二層に決まった。
「……よし。終わったな」
「うん!」
アスナは満面の笑みを浮かべた。
(第二十二層が、私たちのギルドの拠点……!)
今までだって、あの場所は特別だった。
けれど、これからはもっと特別になる。
そう思うと、自然と頬が緩んでしまう。
「……アスナ」
「な、何?」
「……そろそろ帰るぞ」
「あっ、うん!」
2人は手続きを終え、その場を後にした。
◇
第二十二層へ戻る道中
レイは、ふと足を止めた。
「…………」
「……レイ君? どうしたの?」
アスナが不思議そうに振り返る。
レイは少し考え込んだあと、口を開いた。
「……そういえば、今後の方針を決めていなかったな」
「……方針?」
「ああ。ギルドとして、これからどう活動するかだ」
レイは淡々と説明した。
「攻略を優先するのか、それとも普段は別々に行動するのか。連絡の取り方や、ギルドとしての決まりも決めておいたほうがいい」
「……あっ、確かにそうね」
アスナは頷いた。
ギルドを創設することばかり考えていて、そこまでは意識していなかった。
もっとも、彼女の場合は、レイと同じギルドになれた時点で喜びがいっぱいだったのだが。
「……どこかで話し合うか」
レイが言った。
「そうね。落ち着いて話せる場所がいいわね」
アスナは考え込む。
店に入ってもいい。
どこかの休憩所を利用する手もある。
しかし、レイは少し面倒そうに周囲を見回した。
「……今から戻って店を探すのも面倒だな」
「え?」
「……俺のログハウスで話すか?」
「…………えっ?」
アスナの思考が止まった。
レイのログハウス。
つまり、レイの家。
彼が普段、1人で過ごしている場所だ。
今まで何度も第二十二層で会ってきたが、レイのログハウスに招かれたことはない。
(……レイ君の、家……?)
胸が大きく跳ねた。
「……行く!」
気がつけば、即答していた。
「…………」
レイがアスナを見る。
「……まだ、何も説明していないんだが」
「はっ!?」
アスナは、はっと我に返った。
「あ、あのっ! その……!」
顔が一気に熱くなる。
「……別に構わないだろう?」
「う、うん! もちろん! 行く行く!」
結局、もう一度即答してしまった。
レイは少しだけ首を傾げたが、特に気にした様子はなかった。
「……そうか。なら、行くぞ」
「……うん!」
アスナは、彼の隣へと並んだ。
(レイ君のログハウス……!)
胸の鼓動が、なかなか落ち着かない。
別に、特別なことをするわけではない。
これからのギルドの方針を話し合うだけだ。
分かっている。
分かっているのだが――。
(……レイ君の家に行けるんだ……!)
どうしても、嬉しさが込み上げてしまう。
一方のレイは、そんなアスナの内心など知る由もなく、いつもの調子で歩いていた。
「……何か飲むか?」
「えっ!? い、いいの?」
「……飲み物くらいある」
「そ、そうよね! ありがとう!」
(……どうしよう。嬉しい……!)
アスナは心の中で叫んだ。
ただギルドの話をするだけ。
それだけなのに、今日という日は、彼女にとって忘れられない1日になりそうだった。
◇
レイのログハウス。
木の温もりを感じさせる室内は、必要な家具だけが置かれた、落ち着いた空間だった。
余計な装飾はほとんどない。
テーブルと椅子。
簡素な棚。
そして、窓から見える第二十二層の穏やかな風景。
いかにもレイらしい部屋だった。
「……適当に座ってくれ」
「お、お邪魔します……!」
アスナは少し緊張しながら椅子に腰を下ろした。
レイは飲み物を用意すると、彼女の前に置いた。
「……ほら」
「ありがとう、レイ君」
アスナはカップを受け取り、そっと口をつけた。
(……レイ君の家で、レイ君が用意してくれた飲み物……)
胸の中で、何かが弾けそうになる。
もちろん、ただの飲み物だ。
けれど、アスナにとっては特別だった。
「……それで」
レイが向かいの椅子に座る。
「今後の方針だが……」
「は、はい!」
アスナは背筋を伸ばした。
「……まず、ギルドの目的は勧誘対策だ」
「……うん」
「俺は今までどおり、基本的にはソロで攻略する。お前も、必要なら自分の予定を優先して構わない」
「そうね……」
「……あとは、連絡手段か。フレンド登録はしているから、何かあればメッセージを送ればいい」
「うん。分かったわ」
「……ギルド資金も、今のところは必要ないだろう。ギルドホームも、拠点は第二十二層に設定したが、すぐに用意する必要はない」
「……そうね」
アスナは真剣に頷いた。
話している内容は、いたって現実的だった。
ギルドの目的
活動方針
連絡手段
資金管理
どれも大切なことだ。
けれど、話し合いを進めるうちに、アスナはあることに気づいた。
(……あれ?)
そもそも、2人のギルドは勧誘対策として作ったものだ。
大勢のメンバーを集めるつもりもない。
ギルドとして大規模な活動をする予定もない。
2人とも、普段から自分の判断で行動できる。
必要なときに連絡を取り合い、何かあれば相談する。
それだけで、ほとんどの問題は解決してしまうのだ。
「……以上だな」
レイが言った。
「……えっ?」
アスナは顔を上げた。
「……ひとまず、決めることはこんなものだろう」
「……そ、そうね」
アスナは、少しだけ肩の力を抜いた。
話し合いは、思った以上に早く終わってしまった。
せっかくレイの家に来られたのに。
いや、もちろん、ギルドの方針を決めるために来たのだから、これでいいのだ。
いいのだが……。
(……もう終わっちゃった……)
アスナは、少しだけ名残惜しさを感じていた。
そんな彼女の内心を知らないレイは、カップを手に取った。
「……何か、ほかに決めておきたいことはあるか?」
「……ううん。今のところは大丈夫だと思うわ」
「……そうか」
短い沈黙が落ちた。
けれど、気まずさはなかった。
窓の外には、穏やかな風景が広がっている。
アスナはカップを両手で包みながら、そっとレイを見た。
自分の向かいに、レイがいる。
今は2人きりだ。
それだけで、心が満たされていくようだった。
◇
しばらくして。
アスナは、ふと思いついたように口を開いた。
「……ねえ、レイ君」
「……何だ?」
「私たちのギルドって、これから誰かを勧誘する予定はあるの?」
レイは、少しだけ考えた。
「……いや」
「……そうなの?」
「ああ。そもそも、勧誘対策で作ったギルドだからな」
レイは何でもないことのように答えた。
「……ずっと2人でいいだろう」
「…………」
アスナの動きが止まった。
(……ずっと、2人で……?)
レイは、特別な意味を込めたつもりなどない。
ただ、ギルドを作った目的を考えれば、わざわざメンバーを増やす必要はない。
それだけの話だった。
しかし、アスナにとっては違った。
2人だけのギルド。
これからも、ずっと2人。
その言葉が、胸の奥へゆっくりと染み込んでいく。
「……そ、そうね!」
アスナは、必死に平静を装った。
「私も、2人だけでいいと思う!」
「……なら、それで決まりだな」
「……うん!」
アスナは満面の笑みで頷いた。
(……ずっと、2人だけ……!)
嬉しい。
とにかく、嬉しい。
レイは、自分と2人だけのギルドでいいと言ってくれた。
ほかの誰かを勧誘する必要はない。
2人で十分だと。
もちろん、これは恋人としての言葉ではない。
レイにとっては、勧誘対策として合理的な判断なのだろう。
アスナも、それは分かっている。
それでも――
(……レイ君と、ずっと同じギルド……)
胸の奥が、温かくなった。
思わず笑みがこぼれる。
「……何か、嬉しそうだな」
レイが言った。
「えっ!?」
アスナはびくりと肩を跳ねさせた。
「そ、そうかな?」
「ああ」
「……えっと……」
何と答えればいいのだろう。
本当のことを言えば、きっと恥ずかしくて顔から火が出てしまう。
だから、アスナは少しだけ視線を逸らしながら答えた。
「……2人だけのギルドって、何だか特別な感じがするから」
「……そうか?」
「うん!」
アスナは、今度は素直に頷いた。
「私、嬉しい。レイ君と一緒にいられる場所ができたから」
言ってから、頬が熱くなった。
少し踏み込みすぎただろうか。
そう思って、恐る恐るレイの様子を窺う。
しかし、レイはいつもの落ち着いた表情で頷いただけだった。
「……なら、作ってよかったな」
「…………っ」
アスナは、思わず胸元を押さえた。
(……レイ君……!)
その何気ない一言が、どれほど嬉しいか。
きっと、レイには分からないだろう。
けれど、今はそれでいい。
レイ君と一緒にいられる場所ができた。
それだけで、今は十分だった。
今は、この時間を大切にしたかった。
◇
そのあとも、2人は少しだけ話をした。
最近の攻略のこと。
第二十二層での過ごし方。
仲間たちとの出来事。
とりとめのない話ばかりだった。
けれど、アスナは一つ一つの会話を楽しんでいた。
レイのログハウスで、2人きりで過ごす時間。
それは、いつもの待ち合わせとは少し違う。
彼の普段の生活を、ほんの少しだけ知ることができた気がした。
そして、レイもまた、アスナと話す時間を特に苦にしてはいなかった。
必要なことを話し終えたあとも、すぐに帰れとは言わなかった。
それだけで、アスナには十分だった。
やがて、窓の外の景色を眺めながら、レイが口を開いた。
「……そろそろ解散するか」
「……うん。そうね」
アスナは頷いた。
本当は、もう少しだけ一緒にいたかった。
けれど、いつまでも居座るわけにはいかない。
彼女はカップを置き、立ち上がった。
「今日はありがとう、レイ君」
「……何がだ?」
「えっと……ギルドのこともそうだし、お家に招いてくれたことも」
「……別に構わない」
レイはいつもの調子で答えた。
「……また何かあれば、ここで話せばいい」
「…………えっ?」
アスナは、思わず顔を上げた。
「……また、来てもいいの?」
「……ああ。話し合うことがあればな」
「……うん!」
アスナは、嬉しそうに頷いた。
(……また、レイ君の家に来られる……!)
今日だけで、いったい何度嬉しい思いをしたのだろう。
もう、数えきれない。
「……じゃあ、またね。レイ君」
「ああ。気をつけて帰れ」
「うん!」
アスナは玄関を出た。
扉が閉まる直前、もう一度だけ振り返る。
レイは、いつもどおりの表情でこちらを見ていた。
「……またな、アスナ」
「……うん。またね!」
扉が閉まった。
アスナはログハウスの前で、しばらく立ち尽くしていた。
そして――。
「…………」
両手で頬を押さえる。
「……ふふっ」
笑みがこぼれた。
(レイ君と、2人だけのギルド……)
(しかも、ずっと2人でいいって……!)
もちろん、レイにとっては勧誘対策だ。
分かっている。
分かっているけれど。
「……嬉しいなぁ……」
アスナは、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
2人だけのギルド『双翼』
その始まりは、レイにとっては面倒事を避けるための、ささやかな対策にすぎない。
けれど、アスナにとっては違った。
レイと同じ場所に帰り、同じ目的を持ち、これからも一緒に過ごしていくための、大切な一歩だった。
彼女は胸の前で、そっと両手を握った。
(……これからも、よろしくね。レイ君)
そして、満面の笑みを浮かべながら、自分のログハウスへと帰っていった。
その背中は、いつも以上に軽やかだった。
おまけ『ゲーム機戦争』全15話
第5話「合体計画、まさかの白紙!」
スーパーファミコン「これからの時代、ゲームはもっと進化する」
ファミコン「ほう?」
スーパーファミコン「そこで考えた。新しい装置と組み合わせれば、さらに可能性が広がるはずだ」
???「その計画、俺も協力しよう」
スーパーファミコン「お前は?」
???「まだ名乗る段階じゃない。だが、光ディスクの力で新しい世界を切り開いてみせる」
スーパーファミコン「なるほど……悪くない話だ」
二台は協力計画を進めていく。
ところが――。
スーパーファミコン「……待てよ?」
???「どうした?」
スーパーファミコン「これ、俺だけでよくね?」
???「……は?」
スーパーファミコン「いや、よく考えたら別々に進めたほうがよくないか?」
???「おい! 今までの計画は何だったんだ!?」
スーパーファミコン「というわけで、合体計画は白紙!」
???「納得できるかぁぁぁっ!」
計画は、あっけなく終わった。
だが、協力するはずだった存在は、このまま引き下がるつもりなどなかった。
???「……いいだろう。ならば俺は、俺自身の力で立ち上がる!」
その瞳に、新たな決意が宿る。
――第5話・終