※現実世界でもプレイヤーネーム呼びです
「……実はな」
エギルは、集まった仲間たちを見渡した。
キリト、アスナ、リズ、シリカ、クライン、リーファ。
そして、テーブルの上に置かれたノートPCの画面には、ユイの姿が映っていた。
現実世界に身体を持たないユイは、こうしてノートPCなどの端末を通じて、仲間たちと会話している。
『エギルさん、何があったんですか?』
ユイが画面越しに尋ねた。
「ああ。まずは、これを見てくれ」
エギルは手元の資料を取り出し、テーブルの上に広げた。
「SAOが復活したらしい」
「……は?」
キリトが眉をひそめる。
「SAOって……あのSAOか?」
クラインが思わず聞き返した。
「ああ。俺たちが閉じ込められていた、あのアインクラッドだ」
一瞬、部屋の空気が変わった。
「ちょ、ちょっと待って! SAOが復活したって……どういうことよ!?」
リズが身を乗り出す。
「もちろん、デスゲームじゃねえ。今度は普通のゲームとして復活したらしい」
エギルは落ち着いた口調で説明した。
「プレイヤーがゲーム内で死亡しても、現実の人間が死ぬことはない。普通のVRMMOとして、再び遊べるようになったってことだ」
「……そうか」
キリトは複雑な表情を浮かべた。
あの世界が、再びゲームとして蘇った。
かつて自分たちの命を懸けて戦った場所が、今度は安全な遊び場として存在している。
喜ぶべきことなのかもしれない。
だが、キリトにとってSAOは、ただのゲームではなかった。
仲間と出会い、戦い、失い、そして生き抜いた世界だ。
「……皮肉なもんだな」
クラインが呟いた。
「俺たちはあそこで命懸けで戦ったってのによ……」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
そんな中、エギルが次の資料を取り出した。
「それで、もう一つある」
「……まだ何かあるのか?」
キリトが尋ねる。
「ああ。こっちが本題だ」
エギルは、ノートPCに画像を表示した。
そこに映っていたのは、見慣れない場所だった。
周囲の景色も、建物も、キリトたちには心当たりがない。
しかし――。
「……っ!」
アスナの目が、大きく見開かれた。
画像の中に、一人の人物が写っていた。
黒い装備。
見覚えのある剣。
そして、その雰囲気。
顔ははっきりと確認できない。
それでも。
「……レイ君……?」
アスナの口から、震える声がこぼれた。
「……まさか」
キリトも画面を凝視した。
確かに、レイに見える。
あの黒い装備。
あの立ち姿。
見間違いだと言い切ることはできなかった。
「これ、どこから出てきたんだ?」
キリトが尋ねる。
「そこが分からねえんだ。いつ、誰が撮影したのかも不明。画像そのものが、どこから流出したのかも分かっていない」
エギルは首を横に振った。
「今のところ、俺が手に入れられた情報はこれだけだ」
「……レイが、写ってる……?」
シリカが呆然と呟いた。
「でも、レイさんは……」
その先を言葉にすることはできなかった。
レイは、SAO第七十五層でアスナを守り、命を落とした。
誰もが、その瞬間を覚えている。
HPがゼロになり、光となって消えていった姿を。
それなのに。
画像には、レイらしき人物が写っている。
「……本当なの?」
アスナが、ゆっくりとエギルに向き直った。
その表情には、抑えきれない期待と恐怖が入り混じっていた。
「エギル……それ、本当なの?」
「あ、ああ。画像自体は確かに手に入れたものだ。だが、本人かどうかまでは――」
「本当に、レイ君なの!?」
アスナはエギルの肩を掴んだ。
「どこにいるの!? レイ君は生きてるの!? ねえ、教えて!」
「お、おい、アスナ!?」
エギルの身体が激しく揺さぶられる。
「ちょ、ちょっと待て! 俺にも分からねえ! だから揺らすな、話せねえだろ!」
「お願い! 何でもいいから、知っていることを教えて!」
「だから、何も分からねえって!」
ガクガク、ガクガク。
「ア、アスナ! 落ち着いて!」
リズが慌てて止めに入る。
「アスナ、エギルが喋れなくなってるから!」
「そ、そうだよ! まずは落ち着いて話を聞こう!」
シリカも必死に声をかけた。
キリトもアスナの肩に手を置く。
「アスナ。頼む。続きを聞こう」
「……っ」
アスナは、ようやくエギルの肩から手を離した。
エギルはふらつきながら、深く息を吐いた。
「……お前、こんなに力が強かったのかよ……」
「ご、ごめんなさい……」
アスナは申し訳なさそうに俯いた。
しかし、その視線はすぐに画像へと戻った。
「……でも、レイ君……」
彼女の声は、まだ震えていた。
レイは死んだ。
それは、アスナ自身が誰よりも分かっている。
自分を守るために、目の前で消えていったのだから。
それでも。
もし、あの画像の人物が本当にレイなら。
もし、何か事情があって生きているのなら。
もう一度、会えるかもしれない。
もう一度、声を聞けるかもしれない。
その可能性を、アスナは捨てられなかった。
「……エギル。続きを頼む」
キリトが静かに言った。
エギルは頷いた。
「ああ。実は、もう一つ気になる情報がある」
「……何だ?」
「ALOとSAOのつながりについてだ」
「ALOとSAO?」
キリトが聞き返す。
「ああ。お前たちも知っていると思うが、ALOはSAOとまったく無関係に作られたゲームじゃない。システムの根幹には、SAOと共通する技術が使われているんだ」
「そうなのか?」
クラインが意外そうに目を見開いた。
「俺たちがALOを始めた頃は、そんなこと気にしてなかったな……」
「まあ、普通に遊んでいる分には意識する必要もねえからな。だが、SAOとALOにはシステム上のつながりがある。だからこそ、今回のSAO復活にも何か関係があるんじゃないかと考えている」
エギルは資料を指で叩いた。
「それで、もう一つ。ALOに、未踏破エリア、いわゆる隠しダンジョンが存在するらしい」
「未踏破エリア?」
リーファが首を傾げた。
「ああ。普通にプレイしているだけじゃ、まず見つからないような場所らしい。詳しい位置も、そこに入るための条件も、まだはっきりとは分かっていない」
「そんな場所があったんだ……」
リーファは驚いたように呟いた。
「そして、そのエリアのボスを倒すと、報酬として1つだけ、アインクラッドに関する情報を教えてもらえるそうだ」
「……アインクラッドの情報?」
キリトの目が細くなる。
「それが本当なら、SAOの復活や、あの画像について何か分かるかもしれないってことか」
「ああ。ただし、どんな情報を教えてもらえるのかは分からねえ。レイについて聞けば、必ず答えが得られるという保証もない」
エギルは念を押した。
「それでも、今の俺たちにはほかに手掛かりがない」
部屋が静まり返る。
誰もが、ノートPCに表示された画像を見つめていた。
そこに写っている人物が本当にレイなのか。
そもそも、なぜSAOが復活したのか。
そして、ALOの隠しダンジョンに用意されたという報酬は、何を意味しているのか。
分からないことばかりだった。
だが、何もしなければ何も分からないままだ。
やがて、キリトが口を開いた。
「……行こう」
その言葉に、全員が彼を見た。
「未踏破エリアを攻略する。ボスを倒して、レイのことを聞く」
「キリト……」
リズが小さく呟いた。
「もちろん、私も行くわ」
「私も!」
シリカがすぐに続いた。
「俺だって行くぜ!」
クラインが拳を握る。
「レイのことが分かるかもしれねえんだ。何もしないで待ってられるかよ」
エギルも頷いた。
「決まりだな。明日、全員で攻略に向かう」
『ユイも行きます! レイさんのこと、もっと知りたいです!』
ノートPCの画面に映るユイも、真剣な表情で言った。
「ユイも一緒に来てくれるんだな」
キリトが画面に向かって微笑む。
『はい! パパやママたちと一緒に、レイさんの手掛かりを探します!』
「ありがとう、ユイ」
リズも優しく微笑んだ。
リーファは仲間たちを見渡し、力強く頷いた。
「私も協力するよ。アスナさんの大切な人なんでしょ?」
「……ありがとう、リーファちゃん」
アスナは小さく頭を下げた。
そして、再び画像へ視線を向ける。
黒い装備の人物。
その姿は、確かにレイに見えた。
「……レイ君」
アスナは、画面にそっと手を伸ばした。
「お願い……。もし、本当にあなたなら……」
その先の言葉は、声にならなかった。
◇
やがて、仲間たちはそれぞれ帰る準備を始めた。
明日は、ALOの未踏破エリア攻略。
何が待ち受けているのかは分からない。
ボスがどれほど強いのかも。
そして、報酬として得られる情報が、本当にレイにつながるのかも。
何一つ、確かなことはなかった。
それでも、彼らは挑むことを決めた。
「……明日、必ず情報を手に入れよう」
キリトが言った。
「ああ!」
クラインが力強く頷く。
「任せて!」
リーファも笑顔で答えた。
「みんなで行けば、きっと何とかなるよ」
シリカも不安を振り払うように言った。
「そうね。せっかく見つかった手掛かりだもの。絶対に無駄にはできないわ」
リズも頷く。
エギルはそんな仲間たちを見渡し、静かに笑った。
「よし。明日は早い。今日はしっかり休んでおけよ」
「ああ。準備を整えておく」
キリトが答える。
アスナは、最後にもう一度だけ画像を見つめた。
「……待っていて、レイ君」
小さな声だった。
けれど、その瞳には確かな決意が宿っていた。
「私、あなたのことを諦めないから」
レイが本当に生きているのか。
画像の人物は、ただのそっくりさんなのか。
その答えは、まだ誰にも分からない。
だからこそ、確かめる。
どんな結果が待ち受けていようとも。
今度こそ、自分たちの手で。
◇
その夜──
自室に戻ったアスナは、ベッドの端に腰掛けていた。
部屋の明かりは落とされ、窓から差し込む月明かりだけが、静かな室内を照らしている。
今日、エギルから見せられた画像。
そこに写っていた黒い装備の人物が、何度も頭の中に浮かんでくる。
「……レイ君」
小さく名前を呼ぶ。
本当に、あの人なのだろうか。
まだ何も分かっていない。
生きているという確証もない。
それでも、あの姿を見た瞬間、胸の奥に押し込めていた想いが溢れ出した。
もう一度会いたい。
もう一度、あの声を聞きたい。
そして、今度こそ――。
アスナは、そっと自分の手を見つめた。
SAOの第七十五層で、レイは自分を守るために命を懸けた。
目の前で消えていく彼を、ただ見ていることしかできなかった。
どれだけ手を伸ばしても、届かなかった。
その光景を思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
「……もう、あんな思いはしたくない」
アスナは、ゆっくりと顔を上げた。
もし、本当にレイが生きているのなら。
今度は自分が彼を助ける。
彼が自分を守ってくれたように、今度は自分が彼のもとへ行く。
どんな場所にいたとしても、必ず見つけ出す。
そして、もう二度と離さない。
「……今度は、私がレイ君を助けるから」
その声には、迷いはなかった。
アスナはベッドから立ち上がり、窓の外に広がる夜空を見つめた。
明日から始まる攻略。
そこに何が待ち受けているのかは分からない。
それでも、もう立ち止まるつもりはなかった。
「待っていてね、レイ君」
彼女は胸元に手を添え、静かに目を閉じた。
「必ず、あなたのところへ行くから」
その瞳には、かつて閃光と呼ばれた少女の、強い決意が宿っていた。
おまけ『ゲーム機戦争』全15話
第10話「黒き最終兵器」
プレイステーション2「次は俺の時代だ」
ファミコン「……また黒いボディか」
メガドライブ「おい、やめろ! その言い方は危険だ!」
プレイステーション2「何の話だ?」
メガドライブ「黒いボディには不穏なジンクスがあるんだよ!」
プレイステーション2「迷信だ。俺の性能を見れば、そんなことは言えなくなる」
ファミコン「確かに、かなりの力を秘めているな……」
プレイステーション2「当然だ。俺は次世代を担う存在だからな!」
そこへ、さらに黒い影が現れた。
プレイステーション3「……俺もいる」
ファミコン「また増えた!?」
メガドライブ「おいおい、黒いボディが増えすぎだろ!」
プレイステーション3「俺の力は、計算能力も映像も、すべてが桁違いだ」
プレイステーション2「……後輩か」
プレイステーション3「先輩。時代は進むものだ」
メガドライブ「おお、何だか格好いいぞ!」
その瞬間――
バチッ!
プレイステーション3「……ん?」
ファミコン「まさか……!」
メガドライブ「黒いボディのジンクスが、また来るのか!?」
プレイステーション3「いや、これは故障ではない! きっと演出だ!」
ファミコン「その言い訳、どこかで聞いたぞ!」
――第10話・終