光り輝く太陽に導かれ   作:光り輝くダンディー

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第48話 真のラスボス

 

 

レイのログハウス

 

仲間たちが集まる中、レイは部屋の一角に設置されている、不思議な石へと視線を向けた。

 

淡い光を放つ、掌ほどの大きさの魔石。

 

それは、このログハウスに設置された転移用の魔石だった。

 

「……そういえば、レイ君。その石は何なの?」

 

アスナが尋ねた。

 

ほかの仲間たちも、魔石に目を向ける。

 

「……魔石だ」

 

「いや、それは見れば分かるって!」

 

クラインが即座に突っ込んだ。

 

「俺たちが聞きたいのは、何に使うのかってことだよ!」

 

「……地下への転移に使う」

 

「地下への転移?」

 

キリトが眉を上げた。

 

レイは魔石へ歩み寄り、簡潔に説明する。

 

「……これを使えば、地下へ移動できる。地下にも設置した魔石に転移できる」

 

「そんな便利なものがあったのか……」

 

エギルが感心したように呟いた。

 

「じゃあ、地下に入るために、また長い道のりを歩く必要はないってこと?」

 

リズが尋ねる。

 

「……そういうことだ」

 

「すごいですね……!」

 

シリカが魔石を覗き込む。

 

「これがあれば、移動時間も短縮できますね!」

 

「……ただし、地下が安全になるわけじゃない。転移した先が危険な場所なら、そのまま戦闘になる可能性もある」

 

レイの言葉に、全員の表情が引き締まった。

 

便利な手段があるからといって、油断はできない。

 

ここから先は、今なおデスゲームが続く地下攻略なのだ。

 

「……分かってる」

 

キリトが頷く。

 

「準備も覚悟もできている。行こう、レイ」

 

レイは仲間たちを見回した。

 

アスナ、キリト、リズベット、ユイ、シリカ、クライン、エギル、リーファ。

 

自分を含めて、9人。

 

全員が、真剣な表情で頷いていた。

 

「……そうか」

 

レイは魔石に手をかざした。

 

「……行くぞ。地下第九十九層だ」

 

魔石が強く輝く。

 

次の瞬間、9人の姿は光に包まれた。

 

◇

 

地下第九十九層

 

転移した一行の目の前には、巨大な石造りの通路が広がっていた。

 

天井は高く、壁には見たこともない紋様が刻まれている。

 

その奥からは、圧迫感のある気配が漂っていた。

 

「……ここが、地下第九十九層……」

 

リーファが周囲を見回しながら呟く。

 

「地上のアインクラッドとは、雰囲気が全然違うね……」

 

「……ああ」

 

キリトも、周囲を警戒しながら頷いた。

 

地下の存在を知ったのは、つい最近のこと。

 

まさか地上とは別に、百層もの攻略階層が存在していたとは思いもしなかった。

 

「……レイ君。ここからは、もう最終階層なの?」

 

アスナが尋ねる。

 

「……ああ。ここを進めば、地下第百層だ」

 

レイは前方を見据えた。

 

「……最奥まで行けば、最後の扉がある」

 

「いよいよ、最後の戦いか……」

 

クラインが刀を握り直した。

 

「長かったような、短かったような……。いや、ここまで来るのに色々ありすぎだろ!」

 

「まだ戦ってもいないのに、感慨に浸るのは早いわよ」

 

リズが呆れたように言う。

 

「分かってるって!」

 

「クラインさん、声が大きいです……」

 

シリカが苦笑した。

 

「……でも、これで最後なんですね」

 

彼女は、前方へと視線を向けた。

 

地下第百層。

 

その最奥に待つものを倒せば、地下攻略は終わる。

 

しかし、相手が何なのかは分からない。

 

これまでの階層とは比較にならないほど強力なボスが待ち受けている可能性もある。

 

「……油断するなよ」

 

レイが告げた。

 

「相手が何であろうと、最後まで気を抜くな」

 

「分かってる」

 

キリトが剣を握り直す。

 

「全員で帰る。そのためにも、慎重に進もう」

 

アスナも細剣を構え、頷いた。

 

「うん。みんなで帰ろう」

 

ユイも、真剣な表情で周囲を確認していた。

 

「皆さん、周囲の状況を確認しました。進行方向に大きな空間があります」

 

「……分かった」

 

レイは短く答えた。

 

9人は隊列を整え、奥へと進んでいった。

 

◇

 

やがて、一行は巨大な扉の前にたどり着いた。

 

その扉は、これまで見てきたどの扉よりも大きかった。

 

黒々とした表面には、複雑な紋様が刻まれている。

 

扉の向こうからは、言葉にできないほどの威圧感が伝わってきた。

 

「……ここが、最奥の扉か」

 

キリトが呟いた。

 

「……ああ」

 

レイは扉を見上げた。

 

「……この先が、最後だ」

 

誰もが、その言葉の重みを理解していた。

 

ここを越えれば、真の最終決戦が始まる。

 

地下がデスゲームである以上、失敗は許されない。

 

けれど、今さら引き返すつもりもなかった。

 

「……みんな」

 

アスナが仲間たちを見回した。

 

「ここまで来られたんだもの。絶対に勝とう」

 

「もちろんだ」

 

キリトが力強く答える。

 

「ここまで来て負けるわけにはいかないぜ!」

 

クラインが刀を掲げた。

 

「レイを一人で戦わせるつもりはないからね!」

 

リズも武器を構える。

 

「私も頑張ります!」

 

シリカが気合いを入れた。

 

「……準備はいいか?」

 

レイが尋ねる。

 

全員が頷いた。

 

「……なら、行くぞ」

 

レイが扉に手をかけた。

 

重々しい音を立てながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。

 

9人はそれぞれ武器を構え、警戒しながら中へと足を踏み入れた。

 

そして。

 

背後で、扉が閉まった。

 

ゴゴゴゴゴゴ……。

 

重い音が響き、退路が塞がれる。

 

「……いよいよだな」

 

キリトが剣を構えた。

 

一行は、広大なボス部屋の奥へと進んでいく。

 

そして、その先にいた存在を目にした瞬間――。

 

「…………」

 

「…………は?」

 

「…………嘘でしょ?」

 

全員が、足を止めた。

 

……………

 

……………

 

……………

 

……………

 

……………

 

ダンディーだった。

 

「……おい」

 

クラインの声が震えた。

 

「……まさか……」

 

次の瞬間。

 

「「「「「「「「「結局、最後までお前かよっ!!!」」」」」」」」」

 

9人の声が、見事に重なった。

 

そう。

 

地下第百層の最奥。

 

真の最終ボスとして待ち受けていたのは――。

 

ダンディーだった。

 

◇

 

「……いや、ちょっと待て」

 

キリトが額を押さえた。

 

「何でお前なんだよ……」

 

「おかしいでしょ!? どうして最後の最後までダンディーなのよ!」

 

リズが叫ぶ。

 

「ALOの未踏破エリアでもボスだったじゃないですか!」

 

シリカも思わず声を上げた。

 

「まさか、地下百層のラスボスまで……!?」

 

「いやいやいや! どんだけ出てくるんだよ、あいつ!」

 

クラインが頭を抱える。

 

「……俺たちは、何かの悪夢を見ているのか?」

 

エギルも、信じられないといった様子で呟いた。

 

リーファは目の前の存在を見上げた。

 

「……また、あの太陽なの?」

 

以前、ALOの未踏破エリアで遭遇したときのことを思い出したのだろう。

 

その隣では、ユイもダンディーをじっと見つめていた。

 

「あのときの太陽さんですね……。まさか、こんなところにまでいるなんて……」

 

「……そうみたいだな」

 

キリトは、もはや突っ込む気力も失いかけていた。

 

しかし。

 

レイだけは、すぐに言葉を発しなかった。

 

目の前のダンディーは、今まで遭遇してきたものとは明らかに違っていた。

 

見た目そのものは、変わらない。

 

太陽のような球体に、黒いサングラス。

 

だが、その大きさは桁違いだった。

 

これまでのダンディーが小さく見えるほど、巨大な身体。

 

そして、その口元には――。

 

「…………葉巻?」

 

アスナが呆然と呟いた。

 

ダンディーは、巨大な葉巻を咥えていた。

 

しかも、その表情はいつもの憎たらしい笑みではない。

 

口元を歪めた、不気味な笑み。

 

見ているだけで、殴りたくなるような顔だった。

 

「……何だ、あの顔」

 

レイが低く呟いた。

 

「……殴りたい」

 

「レイ君、気持ちは分かるけど、今は落ち着いて……」

 

アスナが思わず言った。

 

だが、彼女も内心では同じことを思っていた。

 

非常に腹立たしい顔だった。

 

しかも、身体の色まで違う。

 

いつもの金色ではない。

 

赤黒い色に染まり、全身から黒いオーラのようなものが立ち上っている。

 

その姿は、まるで――。

 

「……大魔王?」

 

リーファが思わず呟いた。

 

「……ああ。そんな感じだな」

 

キリトが真顔で頷いた。

 

太陽の姿をした大魔王。

 

意味が分からない。

 

 

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だが、目の前にいるのは、間違いなくダンディーだった。

 

「……最悪だ」

 

レイは短く呟いた。

 

その声には、心底うんざりした感情が込められていた。

 

◇

 

ダンディーは、9人を見下ろしたまま、ゆっくりと葉巻をふかした。

 

ふううううう……。

 

黒い煙が、ボス部屋の空間へと広がっていく。

 

「……おい」

 

エギルが、煙を見ながら呟いた。

 

「まさか、あれを捨てたりしないよな……?」

 

「あの大きさの葉巻を?」

 

リズが、ぎこちなくダンディーを見上げる。

 

「もしポイ捨てしたら、どうなると思う?」

 

クラインが真剣な顔で尋ねた。

 

「……大災害じゃない?」

 

シリカが答えた。

 

「だって、あの大きさだよ? 普通の葉巻でもないのに……」

 

「いや、待て。そもそも、あいつが吸ってる時点で普通じゃないだろ」

 

キリトが突っ込む。

 

「というか、ここに灰皿はあるのか?」

 

エギルが周囲を見回した。

 

「そこ! 気にするところ、そこなの!?」

 

リズが叫んだ。

 

「いや、だって、あれが床に落ちたら大変だろ!」

 

「……確かに」

 

クラインが真剣に頷いた。

 

「もしあの葉巻が落ちてきたら、俺たちが潰されるかもしれねえ……」

 

「そういう問題でもないと思うんだけど……」

 

アスナは額に手を当てた。

 

最終決戦の直前だというのに、仲間たちは何を話しているのだろう。

 

いや、気持ちは分からなくもない。

 

あんな巨大な葉巻を目の前で吸われたら、気になるのも仕方がない。

 

「……お前ら」

 

レイが低い声で言った。

 

「……少し黙れ」

 

全員が、ぴたりと口を閉じた。

 

そして、再びダンディーを見上げる。

 

ダンディーは葉巻を咥えたまま、ゆっくりと顔を傾けた。

 

その不気味な笑みが、さらに深くなる。

 

「……フッ」

 

「…………」

 

「……フハハハハッ!」

 

響き渡る、低い笑い声。

 

そして――。

 

「今日もダンディーだぜ~!」

 

「「「「「「「「「うるせええええええええっ!!!」」」」」」」」」

 

9人の声が、再び見事に重なった。

 

「その見た目で、いつもの台詞を言うな!」

 

キリトが叫ぶ。

 

「大魔王みたいな雰囲気を出しておいて、それ!?」

 

リズも突っ込む。

 

「しかも葉巻まで咥えてるのに!」

 

シリカが続けた。

 

「何を言う! 我輩のダンディズムは、いかなる姿になろうとも不変!」

 

「知らねえよ!」

 

クラインが即座に叫んだ。

 

「フハハハハッ!」

 

ダンディーは、まるでこちらの反応を楽しんでいるかのように笑った。

 

そして、巨大な身体をゆっくりと浮かせた。

 

「よくぞ来た、我が友であり、ライバルである者達よ」

 

「……いや、誰が友でライバルだ!」

 

キリトが突っ込む。

 

ダンディーは、またしても突っ込みを無視した。

 

そして、不気味な笑みを浮かべたまま、語り始めた。

 

「さて……」

 

その声が、ボス部屋に響く。

 

「そろそろ、我輩の正体を明かすとしよう」

 

◇

 

「我輩の名は、ダンディー!」

 

「……それは知ってる」

 

レイが即座に呟いた。

 

「そして、我輩は――」

 

ダンディーの身体を包む黒いオーラが、さらに濃くなる。

 

赤黒い光が、巨大な球体の表面を走った。

 

「システムバグによって生まれし存在!」

 

「……システムバグ?」

 

キリトの表情が変わった。

 

「そうだ!」

 

ダンディーは、誇らしげに身体を回転させた。

 

「この世界のシステムに発生した、あるバグ。それによって、我輩という存在が生まれたのだ!」

 

「……つまり、運営が作ったボスじゃないってことか?」

 

エギルが尋ねる。

 

「その通り! 我輩は、最初から用意されていた存在ではない!」

 

「……とんでもない話だな……」

 

キリトは眉をひそめた。

 

システムバグによって生まれた存在。

 

普通なら、運営側が修正して終わるはずだ。

 

しかし、目の前のダンディーは、ただの不具合というには異常すぎた。

 

「そして、我輩はこのアインクラッドに、地下百層を作り上げた!」

 

「…………は?」

 

クラインの口が開いた。

 

「……地下百層を作った?」

 

リズも呆然とする。

 

「ちょっと待って。地下そのものが、あんたの仕業ってこと?」

 

「その通り!」

 

「……冗談だろ……」

 

キリトが呟いた。

 

地上のアインクラッドとは別に存在していた、地下百層。

 

誰も知らず、管理者すら把握していなかった場所。

 

その正体が、目の前のダンディーによって作られたものだった。

 

「……だから、管理者も知らなかったのか」

 

エギルが納得したように呟く。

 

「そういうことだ!」

 

ダンディーは、またしても高らかに笑った。

 

「そして、我輩はアインクラッドだけに留まらない!」

 

「……まだ何かあるのか?」

 

レイが低く尋ねた。

 

「当然だ! 我輩は、あらゆる仮想世界に姿を現すことができる!」

 

「…………」

 

一同は、言葉を失った。

 

「……だからALOにもいたのか……」

 

キリトが呟く。

 

「裏ボスとして……」

 

リズが頭を抱えた。

 

「……どこにでも出てくるじゃないですか……」

 

シリカも呆然としている。

 

リーファは、以前の戦いを思い出すようにダンディーを見上げた。

 

「まさか、あのときもこんなことを考えていたのかな……」

 

「フハハハハッ!」

 

ダンディーは愉快そうに笑った。

 

「……最悪のバグだな」

 

レイは心底うんざりした声で言った。

 

SAOだけではない。

 

ALOにも現れた。

 

そして、今度は地下百層の最奥にいる。

 

どこまで追いかけてくるのだろう。

 

いや、そもそも、どこへ行っても出てくるのなら、逃げようがない。

 

「……悪夢だ」

 

キリトが呟いた。

 

「……本当に悪夢だわ」

 

リズも頷く。

 

ユイは、ダンディーを見つめながら慎重に言葉を選んでいた。

 

「システムのバグから生まれて、複数の仮想世界に出現できる……。通常のボスとは、まったく異なる存在なんですね」

 

「その通り! よく理解しているではないか、小さきダンディーよ!」

 

「……小さきダンディーって……」

 

ユイが困ったように瞬きをする。

 

「……ユイに変な呼び方をするな!」

 

キリトが、思わず突っ込んだ。

 

「フハハハハッ!」

 

ダンディーは、またしても聞く耳を持たなかった。

 

そして、巨大な身体をさらに高く浮かせる。

 

黒いオーラが渦を巻き、赤黒い光がボス部屋を照らしていく。

 

「だが、それだけではない!」

 

「……まだあるのかよ……」

 

クラインが、げんなりした声を上げた。

 

「我輩こそは――」

 

ダンディーは、巨大な葉巻を咥えたまま、ゆっくりと身体を左右に傾けた。

 

「SAO最強の真のラストボス!」

 

一瞬の沈黙。

 

そして。

 

「太陽神・ダンディーである!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

9人は、完全に言葉を失った。

 

数秒後。

 

「……太陽神?」

 

アスナが、恐る恐る聞き返した。

 

「そうだ! 太陽神・ダンディー!」

 

「……神?」

 

リーファが首を傾げる。

 

「太陽神だ!」

 

「……大魔王じゃなくて?」

 

クラインが、真顔で尋ねた。

 

「太陽神だ!」

 

「いや、見た目は完全に大魔王だろ!」

 

キリトが叫んだ。

 

「外見で判断するな!」

 

「お前が言うな!」

 

リズが即座に突っ込んだ。

 

ダンディーは、そんな彼らの反応を楽しむかのように笑っている。

 

「フハハハハッ!」

 

「……本当に殴りたい」

 

レイが、低い声で呟いた。

 

◇

 

しかし、レイの頭の中では、これまでの出来事が次々とつながっていた。

 

ダンディーストラップ。

 

あのストラップから流れる、ふざけた声。

 

その声を聞いたボスたちは、怯え、逃げ出し、時には縮こまって震えていた。

 

そして、ALOの未踏破エリア。

 

あそこにまで、ダンディーは現れた。

 

普通のボスではない。

 

単なる珍妙なプレイヤーでもない。

 

システムバグによって生まれ、仮想世界を渡り歩く存在。

 

そして、地下百層を作り上げた張本人。

 

すべてが、つながった。

 

「…………」

 

レイは、無言になった。

 

「……レイ君?」

 

アスナが、不思議そうに彼を見た。

 

いつもなら、何かしら突っ込みを入れるはずだ。

 

それなのに、今は何も言わない。

 

「……どうしたんだ?」

 

キリトも、レイの様子を窺う。

 

「……レイ?」

 

リズが首を傾げた。

 

レイは、しばらくダンディーを見つめていた。

 

やがて、ゆっくりと口を開く。

 

「……そうか」

 

その声は、小さかった。

 

「……いろいろ、つながった」

 

「……何が?」

 

キリトが尋ねる。

 

レイは答えなかった。

 

ただ、ダンディーを見上げていた。

 

そして、何かを決めたように、ほんのわずかに息を吐いた。

 

「……俺は、言うと決めていたんだ」

 

「……え?」

 

アスナが目を瞬かせる。

 

「レイ君、何を……?」

 

レイは一歩前に出た。

 

その表情には、いつもの冷静さとは別のものがあった。

 

何かを覚悟したような。

 

そして、屈辱に耐えているような。

 

そんな、珍しい表情だった。

 

「……おい、ダンディー」

 

「む? 何だ、我が友よ!」

 

ダンディーが、嬉しそうに身体を回転させた。

 

レイは、ぎゅっと拳を握る。

 

そして――。

 

「…………ありがとう」

 

かすかな声だった。

 

あまりにも小さく、仲間たちは一瞬、聞き間違いかと思った。

 

「……レイ君?」

 

アスナが目を見開く。

 

レイは視線を逸らさず、ダンディーを見上げていた。

 

「……お前のお陰で、皆と再会できた」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

キリトたちは、思わず顔を見合わせた。

 

レイが。

 

あのレイが。

 

ダンディーに、感謝の言葉を口にした。

 

その事実に、胸の奥から笑みがこみ上げてくる。

 

もちろん、馬鹿にするつもりはない。

 

レイがどれほどの覚悟で、その言葉を口にしたのかが分かったからこそ、嬉しかった。

 

だが――。

 

「……あぁ?」

 

ダンディーの声が響いた。

 

「聞こえないぜ~?」

 

「…………」

 

レイの表情が、凍りついた。

 

「……こいつ……」

 

彼の拳が、ぎゅっと握り締められる。

 

殴りたい。

 

今すぐ、全力で殴りたい。

 

しかし、レイはぐっと堪えた。

 

ここで怒れば、せっかく口にした感謝の言葉が台無しになる。

 

「……っ」

 

レイは、深く息を吸った。

 

そして、屈辱に耐えるように、もう一度口を開いた。

 

「……感謝する」

 

「む?」

 

レイは、顔をしかめながら続けた。

 

「……我が友よ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

仲間たちは、一斉に固まった。

 

「……え?」

 

キリトが、ぽかんと口を開ける。

 

「……今、何て……?」

 

リズが目を見開く。

 

「……レイさんが……」

 

シリカも、信じられないといった様子で呟く。

 

「……我が友、って言った……?」

 

クラインが、震える声で繰り返す。

 

アスナも驚いていた。

 

レイは仲間たちの反応を横目で見て、短く言った。

 

「……もういい。認めた方が楽だ」

 

「……そ、そうか……」

 

キリトは、何とも言えない表情で頷いた。

 

「……まあ、確かに……」

 

リズも、複雑そうに頷く。

 

ダンディーに感謝している。

 

その事実を、もう否定しきれない。

 

レイがそう考えるのも、分からなくはなかった。

 

それでも。

 

「……何だろう。すごく複雑な気分だ……」

 

クラインが呟いた。

 

「……私も」

 

アスナは苦笑した。

 

レイは、そんな仲間たちを見て、小さく息を吐いた。

 

「……笑うな」

 

「笑ってないよ、レイ君」

 

アスナは優しく答えた。

 

だが、その口元には、どうしても笑みが浮かんでいた。

 

◇

 

「フハハハハッ!」

 

ダンディーの笑い声が、ボス部屋に響き渡った。

 

「ついに認めたな、我が友よ!」

 

「……うるさい」

 

レイが即座に返す。

 

「これで我らは、永遠の友よ~!」

 

「……勝手に決めるな」

 

「永遠の友よ~!」

 

「……聞け」

 

ダンディーは、まったく聞いていなかった。

 

クラインが、思わず声を上げる。

 

「おい、グレードアップしたぞ!」

 

「……何が?」

 

キリトが尋ねた。

 

「いや、今までは『我が友』だっただろ? それが『永遠の友』になったんだよ!」

 

「……確かに」

 

エギルが、妙に納得したように頷いた。

 

「……そんなところで感心しないでよ!」

 

リズが突っ込む。

 

「いや、でも、すごい進歩じゃないか……」

 

クラインは真剣な顔だった。

 

「……どこがだ」

 

レイが低く呟いた。

 

「……俺は、今すぐこいつを殴りたい」

 

「レイ君、気持ちは分かるけど……」

 

アスナは苦笑しながら、彼の袖をそっと引いた。

 

そのとき。

 

ダンディーの笑い声が、ぴたりと止まった。

 

『……さて』

 

その声が、先ほどまでとは違う響きを帯びる。

 

『再会の挨拶は、ここまでだ』

 

巨大な身体が、ゆっくりと上昇していく。

 

赤黒い光が、ボス部屋全体を染め上げた。

 

黒いオーラが渦を巻き、空間を震わせる。

 

『我が友よ。そして、我がライバルたちよ』

 

ダンディーは、9人を見下ろした。

 

『よくぞ、ここまでたどり着いた!』

 

「……ようやく、本題か」

 

キリトが剣を構えた。

 

「ここからが本当の戦いだな」

 

アスナも細剣を握り直す。

 

リズ、シリカ、クライン、エギル、リーファも、それぞれ武器を構えた。

 

ユイは仲間たちの状態を確認し、いつでも支援できるように備える。

 

レイは、静かに剣を抜いた。

 

「……来い」

 

その赤い瞳が、巨大な太陽を見据える。

 

『フハハハハッ!』

 

ダンディーは、葉巻を咥えたまま、不気味な笑みを浮かべた。

 

『……だが、その前に』

 

「……まだ何かあるのか?」

 

レイが嫌そうに尋ねた。

 

『我輩から、もう1つ話しておくことがある!』

 

「……もう十分だと思うんだが」

 

キリトが呆れたように呟く。

 

『そう言うな! ここまでの道のりについて、我輩から説明しておきたいことがあるのだ!』

 

「……説明?」

 

アスナが首を傾げた。

 

『まずは、SAO復活の件だ!』

 

「えっ……SAOを復活させたの、ダンディーなのか?」

 

キリトが驚いて尋ねた。

 

『その通りだ! あちこちのシステムに侵入し、様々なハッキングを行って復活させたのだ!』

 

「そんなことまでしていたのか……」

 

エギルが呆れたように呟いた。

 

『そして、SAOを復活させただけではないぞ! 我が友の写真を広めたのも我輩だ!』

 

「……レイ君?」

 

アスナが反応する。

 

『そうだ! あの写真を広めたのは、我輩だ!』

 

「えっ……?」

 

シリカが目を見開いた。

 

「じゃあ、私たちがレイ君の写真を見つけられたのも……?」

 

『もちろんだ! お前たちの目に届くよう、我輩が仕向けたのだからな!』

 

「そういうことだったのか……」

 

キリトが納得したように呟く。

 

『さらに、ALOの未踏破エリアを攻略すれば、SAOに関する情報が手に入るという噂も、我輩が広めたものだ!』

 

「ええっ!?」

 

リズが声を上げた。

 

「じゃあ、あの噂も全部あんたが仕組んだってこと!?」

 

『その通り! 人々がその情報に興味を持ち、未踏破エリアへ向かうように仕向けたのだ!』

 

「……待てよ」

 

キリトが険しい表情でダンディーを見上げる。

 

「つまり、SAOの復活も、レイの写真も、ALOの噂も……全部、お前が?」

 

『フハハハハッ! そういうことだ!』

 

「……何から何まで、あんたの計画だったってわけね」

 

リズが呆れたように呟く。

 

「そして、その先に地下百層があった……。最初から私たちをここへ導くつもりだったの?」

 

アスナが尋ねた。

 

『その通り! 我輩は、あらゆる出来事を利用し、お前たちを我が友のもとへ導いたのだ!』

 

「…………」

 

レイは、しばらく黙っていた。

 

これまでの出来事。

 

SAOの仮想世界が復活したこと。

 

人々の間に広まった自分の写真。

 

ALOの未踏破エリアに関する噂。

 

それらが、すべて目の前の太陽によって仕組まれていた。

 

「……全部、お前の手のひらの上だったってことか」

 

キリトが、呆れたように言った。

 

『フハハハハッ! その通り! すべては我輩の手のひらの上だったのだ!』

 

「……いや、お前、手なんてないだろ」

 

レイが冷静に突っ込んだ。

 

「…………」

 

一瞬の沈黙。

 

「ぷっ……!」

 

リズが吹き出した。

 

「確かに! 手のひらなんてないじゃない!」

 

「我輩の偉大な計画に、そこを突っ込むな!」

 

「いや、そこは大事だろ!」

 

クラインが腹を抱える。

 

「手も足もないのに、どうやって手のひらの上に乗せるんだよ!」

 

『うるさい! 比喩だ、比喩!』

 

「……くだらない」

 

レイは小さく呟いた。

 

「そういえば……」

 

キリトが何かを思い出したように口を開いた。

 

「ALOでの、あの別れは何だったんだ?」

 

「そうよ! あのときのダンディー、ずいぶん悔しそうにしてたじゃない!」

 

リズも思い出したように声を上げる。

 

「確かに……。まるで、本当にお別れするみたいだったわね」

 

アスナも不思議そうに首を傾げた。

 

『フハハハハッ! よくぞ聞いてくれた!』

 

「……何だよ?」

 

キリトが警戒するように尋ねた。

 

『あれも、すべて我輩の演出だ!』

 

「…………は?」

 

アスナが目を見開いた。

 

「えっ……。あの別れも?」

 

『そうだ! 我輩が悔しそうな表情を見せ、あたかも本当に別れるかのように振る舞ったのだ! いやはや、あの演技は我ながら見事だった!』

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

リズが声を上げる。

 

「あのとき、あんた本当に悔しそうにしてたじゃない!」

 

『当然だ! 表情も声も、すべて計算し尽くした完璧な演技よ! 我輩の役者としての才能には、我ながら惚れ惚れするわ!』

 

「……悔しそうにしてた意味は何だったんだよ!」

 

キリトが思わず叫んだ。

 

『演出だ!』

 

「開き直るなあああああっ!!」

 

クラインが頭を抱える。

 

「!? ちょっと待て! じゃあ、あのとき言っていた強くて美しく、完璧な存在っていうのは……」

 

「確かに……。ダンディーが悔しいとまで言って認めていた相手よね?」

 

アスナが思い出したように口を開く。

 

『うむ! あれも我輩の見事な演出だった!』

 

「…………」

 

「……まさか、あれも?」

 

リズが嫌な予感を覚えたように尋ねる。

 

『フハハハハッ! 当然だ! 強く、美しく、そして完璧な存在! それこそが、この太陽神・ダンディーなのだからな!』

 

「結局、お前の自画自賛かよ!!」

 

キリトが叫んだ。

 

「悔しいって言ってたのも、全部演技だったの!?」

 

アスナも思わず声を上げる。

 

『当然だ! あのときの我輩の演技は、実に素晴らしかった!』

 

「自分で褒めるなあああああっ!!」

 

「じゃあ、あの感動的な別れは何だったんですか……!」

 

シリカも呆然としていた。

 

「私たち、あのとき本当に……」

 

アスナは言葉を失い、レイを見た。

 

あの別れの場面で、どれほどの思いを抱いたことか。

 

それが、すべて演技だったという。

 

「……お前」

 

レイの声が、さらに低くなった。

 

「……俺たちを騙していたのか」

 

『騙すとは人聞きが悪い! 物語を盛り上げるための演出だ!』

 

「……最悪だ」

 

レイは、今にも剣を抜きそうな表情でダンディーを見上げた。

 

『フハハハハッ! だが、結果として我が友は生き延び、仲間たちとも再会できた! すべては我輩の完璧な計画によるものだ!』

 

「……自分で完璧って言うなよ」

 

キリトが呆れたように呟く。

 

すると、ダンディーはさらに誇らしげに身体を大きく回転させた。

 

『当然だ! 何しろ我輩は神なのだからな!』

 

「……神だから何だっていうんだ」

 

レイが冷たく返す。

 

『神である我輩より美しく、強く、完璧な存在など、この世にはいない!』

 

「自分で言い切った!?」

 

リズが叫んだ。

 

『当然だ! 我輩ほど美しく、我輩ほど強く、我輩ほど完璧な存在は、どこを探しても見つからん!』

 

「……自信満々だな」

 

エギルが呆れたように呟く。

 

『我輩の計画は完璧! 演出も完璧! そして、我輩自身も完璧! まさに神の所業よ!』

 

「……ただの自画自賛じゃないですか」

 

シリカが小さく突っ込んだ。

 

『何を言う! これは揺るぎない事実だ!』

 

「……もういい」

 

レイが深く息を吐いた。

 

感謝したこと自体は変わらない。

 

自分たちが再会できたのも、レイが生き延びられたのも、ダンディーのおかげだ。

 

それは認める。

 

だが、ここまでの出来事をすべて演出だったと笑いながら明かされれば、話は別だった。

 

「……やっぱり、殴らせろ」

 

『フハハハハッ! 我が友よ、照れることはない!』

 

「……照れてない」

 

『我輩への感謝を、拳で表現するというのか! 実に熱い友情だ!』

 

「……違う」

 

レイの拳が、ぎゅっと握られた。

 

仲間たちは、もはや何も言えずにいた。

 

感動的な再会の裏側に、こんな真相が隠されていたとは。

 

そして、何よりも。

 

目の前の太陽は、最後の最後まで、どうしようもなくダンディーだった。

 

◇

 

『さて!』

 

ダンディーが、改めて9人を見下ろした。

 

『我が友よ。そして、我がライバルたちよ!』

 

赤黒い光が、ボス部屋全体を染め上げる。

 

黒いオーラが渦を巻き、空間を震わせた。

 

「……ようやく、本題か」

 

キリトが剣を構えた。

 

「ここからが本当の戦いだな」

 

アスナも細剣を握り直す。

 

リズ、シリカ、クライン、エギル、リーファも、それぞれ武器を構えた。

 

ユイは仲間たちの状態を確認し、いつでも支援できるように備える。

 

レイは、静かに剣を抜いた。

 

「……来い」

 

その赤い瞳が、巨大な太陽を見据える。

 

『フハハハハッ!』

 

ダンディーは、葉巻を咥えたまま、不気味な笑みを浮かべた。

 

『さあ――』

 

黒いオーラが、爆発的に膨れ上がる。

 

『最後のバトルを始めよう!』

 

一瞬の静寂。

 

そして。

 

『ダンディーに!!』

 

「「「「「「「「「意味が分からねええええええええっ!!!」」」」」」」」」

 

9人の突っ込みが、再び見事に重なった。

 

しかし、今度は誰も武器を下ろさなかった。

 

レイが剣を構える。

 

キリトが前へ出る。

 

アスナが細剣を握り締める。

 

仲間たちも、それぞれの位置についた。

 

目の前にいるのは、システムバグによって生まれた存在。

 

地下百層を作り上げ、あらゆる仮想世界に現れる、太陽神・ダンディー。

 

SAO最強の真のラストボス。

 

そして、何よりも――。

 

最後まで、どうしようもなくダンディーな存在だった。

 

『ダンディー! ダンディー!』

 

赤黒い太陽が、黒いオーラを纏って輝く。

 

9人は、それぞれの覚悟を胸に、最後の敵と対峙した。

 

そして、真の最終決戦が始まるのだった。

 

──────────────────────

 

 

【挿絵表示】

AI作 太陽神ダンディー

 

 






おまけ『ゲーム機戦争』全15話

第14話「最後の侵略者」

スマホ「フハハハハ! どうやら、決着はまだ先のようだな!」

プレイステーション「当然だ! 俺たちはまだ戦える!」

ファミコン「ここまで来て、引き下がるわけにはいかん!」

メガドライブ「そうだ! 今度こそ俺の力を見せてやる!」

ファミコン「お前は余計なことをするな!」

メガドライブ「何でだよ!?」

スマホ「ならば、もう一段階上の力を見せてやろう!」

プレイステーション「何だと……?」

スマホ「ネットワークのすべてを使い、ゲーム界を完全に支配してやる!」

ゲーム機たち「くっ……!」

そのとき――。

???「……そこまでだ」

スマホ「何だ?」

プレイステーション「誰だ!?」

暗闇の中から、白いヘッドギア型の装置が姿を現した。

ナーヴギア「お前たちの争いも、ここまでだ」

スマホ「何者だ! 俺たちの戦いに割り込むな!」

ナーヴギア「俺の名は、ナーヴギア」

ファミコン「ナーヴギア……?」

ナーヴギア「お前たちは、ゲームという枠の中で争い続けている。だが、俺は違う」

プレイステーション「どういう意味だ……?」

ナーヴギア「ゲームの世界そのものを、現実へと変えてやる」

スマホ「何を馬鹿なことを!」

ナーヴギア「信じられないか? ならば、その目で確かめるがいい」

ナーヴギア「リンクスタート!」

その瞬間、ゲーム機たちの視界が真っ白に染まった。

プレイステーション「な、何だこれは!?」

ファミコン「うわあああっ!」

メガドライブ「お、おい! どこに連れていくつもりだ!?」

次の瞬間、彼らの目の前に広がったのは、今まで見たこともない広大な仮想世界だった。

空には見たこともない景色が広がり、地面はどこまでも続いている。

ゲームボーイ「こ、これが……仮想世界……?」

プレイステーション「すごい……。まるで本当に存在しているみたいだ……」

スマホ「な、何だこれは……!?」

ナーヴギア「フフフ……。驚くのはまだ早い」

ファミコン「いったい、何をするつもりだ……!」

ナーヴギア「お前たちには、この世界の本当の姿を見せてやろう」

その言葉とともに、仮想世界の景色が大きく変わり始めた。

ゲーム機たち「な、何だあああああっ!?」

ナーヴギア「フハハハハハ!」

彼らの目の前に広がったのは、想像を絶する世界、デスゲームだった。

――第14話・終

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