散りゆく乙女じゃいられない!〜運命なんてどうでもいいです〜 作:eternal17
あの少年には、辛い思いをさせたくなかったが、彼女の本音が漏れる。
私は力尽きようとしていた。
もう、お別れなのだということはわかっていた。
ならせめて、あいつには辛い思いをさせたくなかった。
好きだから。
「わたし……まだ、死にたくない……。そばにいたいの……」
こんなふうに泣くつもりはなかったのに。
本当は、最後まで笑っていたかった。
あいつが悲しそうな顔をするのは、見たくなかったから。
それなのに、近寄ってきたあいつの顔を見た途端、涙がこぼれてしまった。
もう少しだけ、そばにいてほしかった。
「死なないよ。おまえが死ぬわけないだろ」
あいつの声が聞こえる。
力強くて、優しい声。
つい最近まで子供っぽいと思っていたあいつも、いつの間にか、ずいぶん凛々しい顔をするようになった。
「ほんとう?」
「ああ。本当だ。本当だとも!」
「そ、それじゃ……これからも、ずっと一緒ね」
少しだけ、安心した。
「……良かった」
「ああ。そうだとも」
あいつの声が、遠くなっていく。
「お、おい!」
呼ばれている。
すぐそばにいるはずなのに、ずっと遠くから聞こえてくるみたいだった。
目に涙を浮かべながら、必死に叫んでいるあいつの顔が、ぼやけていく。
駆け寄ってくる人たちの姿も、だんだん見えなくなっていく。
いやだ。
こんなふうに、みんなが見えなくなっていくのは嫌だ。
やっと、ここまで来たのに。
せっかく、掴みかけた幸せだったのに――。
ほんと、あいつには何度も腹が立った。
意地っ張りで、時々どうしようもなく頑固で。
喧嘩したことも、呆れたことも、泣かされたこともあった。
でも――あいつのそばにいると、不思議と安心した。
わたしが楽しそうにしていると、あいつも楽しそうだった。
わたしが怒っていたとき、あいつは受け止めてくれた。
わたしが間違えたときは、叱ってくれた。わたしだって、あいつを叱ったことがあった。
わたしが泣いていたとき、何も言わず、ただそばにいてくれた。
わたしが笑っていたとき、一緒に笑ってくれた。
そんな毎日が、当たり前だと思っていた。
朝になれば、いつものように一日が始まる。
顔を合わせれば、くだらないことで言い合いになることもあった。
それでも、一緒にご飯を食べて、笑って、また明日を迎える。
何か特別なことがあったわけじゃない。
同じような毎日の繰り返しだった。
でも、わたしはそんな毎日が好きだった。
あいつがいて、みんながいて、いつものように笑っていられる。
それだけで、十分幸せだった。
そして、仲間たち。地元のみんな。旅の途中で出会った人たち。
喧嘩もした。困らせたことも、助けられたこともあった。
一緒に怒った。泣いた。笑った。同じ道を歩いた。
旅に出てからは、楽しいことばかりじゃなかった。
怖い思いもしたし、もう嫌だと思ったことだってあった。
それでも、みんなと一緒に過ごした時間は、かけがえのないものになっていた。
帰る場所があった。
また会いたい人たちがいた。
旅が終わったら、またいつもの毎日が始まると思っていた。
きっと、あいつとはまたくだらないことで喧嘩する。
わたしが怒って、あいつが言い返して。
それでも、いつの間にか仲直りして、二人で笑っている。
そんなことを、これからも何度だって繰り返すんだと思っていた。
旅が終わっても、わたしたちの人生は続いていく。
そう信じていた。
これから先、どんなことが待っているのかは、まだわからない。
楽しいことばかりじゃないかもしれない。
それでも、あいつやみんなと一緒なら、きっと大丈夫だって。
これからも、いくらでもそんな日が続くと思っていた。
まだ、話したいことがある。
まだ、行ってみたいところがある。
まだ、一緒に笑っていたい。
まだ――。
終わりたくない。
わたしは――
もっと、生きたい。
彼女は、最後までもっと生きたかったと思っていたと思います。