散りゆく乙女じゃいられない!〜運命なんてどうでもいいです〜 作:eternal17
歴史として語り継がれた出来事は、果たしてどこまで真実なのでしょうか。
そんな疑問を交えながら、物語の背景を振り返ってみます。
第一次虚空島戦役
ノースランドの空に、忌まわしき島――虚空島が突如として現れた。
そこに神々が降臨した。
しかし、それは破壊、混乱、殺戮、恐怖を司るものだった。
後に「四神」、あるいは「四狂神」と呼ばれる存在である。
そして、一人の英雄が現れた。彼の名はマキシム。
神々に抗うマキシムの手には、精神の力を増幅する剣「デュアルブレード」が握られていた。
激闘の末、四神は消え去った。虚空島もまた、海の底へと沈んだ。
四神の脅威が去り、地上には再び人々の営みが戻った。
第二次虚空島戦役
戦役からおよそ百年。
かつての惨禍は昔語りとなり、人々は平穏な日々を送っていた。
しかし、かつての英雄の子孫とされる一人の少年は、その平和を信じきってはいなかった。
その少年の傍らに、一人の少女がいた。
「運命の少女、ルフィア」
彼女は自らの生い立ちを知らず、心を許した相手はその少年だけだったと伝えられる。
やがて、ウェストランドの地で四神が復活した。
四神の再来は、このルフィアと呼ばれる少女と深く結びついていたという。
そして、忌まわしき虚空島もまた、人類の頭上に姿を現した。
かつてマキシムが振るったデュアルブレードは、今度はその子孫の手に託された。
少年はその剣を携え、虚空島へと向かった。
戦いの末、少年はルフィアに剣を向けた。
世界を救うため、少年は愛する女性に剣を向けるという、あまりにも過酷な選択を迫られた。
戦いは終わった。
四神も虚空島も、この地から消え去った。
ただし、その勝利には大きな代償があったという。
後世の人々は、この戦いをマキシムの血筋に連なる新たな英雄の勝利として語り継いだ。
以上が、二度にわたる虚空島戦役を記した「ホラルド史譚」と呼ばれる書物における記述である。
第一次虚空島戦役は、英雄マキシムによって地上が救われた、痛快な英雄譚。
第二次虚空島戦役は、マキシムの子孫とルフィアの自己犠牲を伴う、悲劇的な英雄譚。
そう感じた人も多いだろう。
だが、この説には疑問が残る。
第一次、第二次虚空島戦役ともに、英雄たちのその後がほとんど記述されていないのである。
第一次虚空島戦役においては、マキシムの他にセレナ、ガイ、アーティという人物が虚空島に同行した。
そして、少なくともガイとアーティは虚空島から帰還したという記録も存在する。
だが、彼らはそこで何があったのかを、あまり語らなかったようだ。
また、マキシムについてはこのような逸話もある。
第一次虚空島戦役の翌年、パーセライトで行われた戦没者追悼式典において、
「未だ帰らぬマキシムとセレナの子、ラルフを、パーセライト政府が保護することを全会一致で決議した。」
という記録が残されている。
また、マキシムらの活躍を讃える像や石碑などは、ノースランドを中心に点在する。
しかしながら彼らの戦いは、必ずしもめでたしめでたしと言えるものではなかったようだ。
第二次虚空島戦役に至っては、さらに疑問が残る。
虚空島に乗り込んだ英雄たちの記録が、いっそう少なく、不確かなのである。
まず、マキシムの子孫とされる少年の名前が記録に残っていない。
後世の創作物ではセイ、スズなどと呼ばれることもあるが、正式にそうだったという記録はない。
その少年は、ウェストランドのアレキア地方に暮らしていたということまでは確かなようだ。
また、この少年がファルシオン号に乗って虚空島に向かった際には、
ロルベニアの騎士団に所属していたアグロス、ハーフエルフの少女で弓と魔法の使い手であるジュリナが同行したとされる。
ルフィアとされる少女は、この時にはいなかったのである。
そして、何より不自然なのが、ルフィアに剣を向けた少年のその後がはっきりしないことである。
「ルフィアとともに、沈みゆく虚空島で運命を共にした。」
「虚空島からは生還したが、仲間の手を振り切って立ち去り、その後は行方が知られなかった。」
「アレキア近くの島にある祠に住み着き、そこでルフィアを悼みながら生涯を過ごした。」
「戦役から数年後、ロルベニアの港町で、アグロスと思われる大柄な戦士と親思しそう。」
などの説が入り乱れるが、いずれも確証に乏しい。
それ以上に謎なのが、ルフィアの存在である。
ホラルド史譚の記述からすれば、とてつもない悲劇があったことになる。
ルフィアや少年を憐れみ、その悲劇を悼むような記録が残されていても不思議ではない。
しかしながら、当時の信憑性の高い記録には、そのようなものがほとんど見当たらないのである。
また、ルフィアについて伝わる人物評も、一様ではない。
ここまでの記述から、犠牲になる運命を早くから悟り、心を閉ざしていた幸薄そうな聖女を思い浮かべた人も多いだろう。
しかし、実際にルフィアと接した人々の発言などを記した資料には、
「清楚な雰囲気で親切な娘だった。」
「確かに優しく礼儀正しいが、親しみは感じにくかった。」
という評価のほかに、
「嫉妬深い女だ。」
「赤髪の少年に対しては、馴れ馴れしい態度をとっていた。」
「表情が顔に出やすい少女。」
などの記録も存在する。
また、少年についても、伝説に登場する聖女に付き従うような、
非の打ちどころのない守護騎士というわけではなかったらしい。
「好色で軽い口を叩く、年相応の少年であった。」
「剣の腕前は優秀だが、彼の祖先であるマキシムには及ばない。」
という評価も残されている。
多くの人々は、英雄の物語を欲しがったのだろう。
しかし、英雄たちの素顔はどうだったのだろうか。
英雄たちの偉業は後世に語り継がれても、その素顔や日常まで伝わるとは限りません。
「ホラルド史譚」も、嘘とまではいかないまでもそこまでは記載できなかったのでしょうか。
では、実際の彼らはどんな人々だったのか。次回からは、その姿を辿っていきます。