「シェラ、その必要はありませんよ」
「ヴァルナ神父様!」
教会の奥の扉が軋みながら開き、さらにその向こうから声がかけられる。
その声に反応して、シェラはぱあっと顔を輝かせながら扉の方へと振り向いた。
彼女の視線の先に立つ初老の男性が、ふっと優しく微笑みかける。
身につけたカソックはぴっちりと一番上のボタンまで閉められ、丁寧に磨かれた鏡を模したネックレスが首元で銀色の輝きを放っていた。
どちらもかなり古いものであるのだが、それを一切感じさせることなく、落ち着いた雰囲気へと昇華させている。
およそベイトとは対照的な、模範的で典型的、実直な神父といった出で立ちだった。
そんな彼の後ろから、やたらに筋骨隆々な大男が扉をくぐってついてきた。
初老の神父と比べると、縦は頭二つ分高く、横は二倍には少し及ばない程度に広い。
カソックも装飾品の類も一切身に着けず、半袖のシャツ一枚で過ごす彼が教会所属の人間であるなどと、一目見て気づける者はそういないだろう。
「神父様、先ほどこちらの教会にお越しになられた、巡礼者のベイト様です」
「おや、遠路はるばる、よくお越しで。この教会の管理を任されている、ヴァルナ・クレリックと申します」
「そういう堅っ苦しい前置きはどうでもいい。あんたにも一応確認なんだが、そいつが今回聖都に連れていく巡礼者候補生で間違いないな?」
「ええ、今回ベイト様に聖都への引率をお願いしていただいている、巡礼者候補生のシェラです」
ヴァルナもまたシェラと同様に、うやうやしく、敬意を込めてお辞儀をする。
そんな彼にも変わらず辟易とした態度を見せ続けるベイトに、シェラはむっとした表情をわずかに覗かせたが、ヴァルナは依然変わらず彼女に対しにこやかに、穏やかに対応を続けていた。
「……改めて、になりますが、巡礼者候補生のシェラです。よろしくお願いします」
「だからそういう堅っ苦しいのは……まーなんでもいいか。どーぞよろしく」
ヴァルナからの紹介を受けつつ、挨拶をするように目配せされたシェラが再度頭を下げる。
すでにベイトの態度に不信感を受けつつあるため、やや渋々といった様子の彼女の挨拶を、ベイトが軽く受け流す。
それから、先ほどからやたら視界の隅に映りこむ、主張の激しい大男を見やった。
「……んで、あんたは?」
「申し遅れました! 自分、こちらの教会に所属させていただいている、チャウカンディー・パッロコと申します!!!」
彼の名乗りは教会の壁を突き抜け、外まで届かんばかりに響き渡った。
教会内の空気が震え、最奥に飾られていた大鏡がかたかたと小刻みに揺れる。
彼の騒々しさに対し苦笑いを浮かべるシェラと、朗らかな笑みを崩さないヴァルナとは対照的に、ベイトはそのやかましさに思わず目を細めた。
「うるせ……」
なんなら不満を口に出してすらいた。
そんな彼女の様子などお構いなしといわんばかりに、チャウカンディーがベイトに握手を求める。
差し出されたチャウカンディーの右手を、ベイトが反射的に掴んでしまう。
「いやあ、ベイト様のお噂はかねがね耳に挟んでおりましたので、こうしてお会いすることができてとても光栄です!!!」
そうして握られた手を、チャウカンディーは遠慮なしにぶんぶんと上下に振るう。
善良ないい人。ではあるのだろう。
ただ、とにもかくにもやかましく、暑苦しい。
不快感を隠そうともせず、ベイトは露骨に顔をしかめた。
「なんなんだよこいつまじで……」
なんなら不満を口に出してすらいた。
さすがにベイトの様子に気付いたチャウカンディーが、ぱっとベイトの手を離して謝罪する。
「これはこれは失礼しました。自分、声の大きさが人の数倍ある上に、興奮するとどうにも自分を抑えられませんので」
口ぶりからして、彼は自分の欠点についてはきっちり自覚し、そして反省もしているようだ。
……反省してこれならば、おそらく、彼の性分は一生治ることはなさそうだが。