「チャウカンディーさん、ベイト様のお噂とは?」
「こちらのベイト様はな、各地を巡りながら数多くの不死者と闘ってきた、歴代最強と謳われる巡礼者なのだよ!!!」
チャウカンディーがふとこぼした言葉に、シェラが疑問を投げかける。
それに対し彼は、興奮冷めやらぬといった様子で熱く語りだした。
例えば、巡礼者候補生の送迎や護衛。
例えば、現地民だけではどうにもならない諸問題の解決や治安維持。
――例えば、不死者の討伐。
行く先々の町や村で、聖都にある教会本部からの指示を受け、ベイトをはじめとする巡礼者達は様々な役割を担っているのだ。
「その証拠に、ベイト様はお一人で巡礼の旅を行っているだろう?」
「そういえば、他の方が見受けられませんね。別行動をしているものかと思っていましたが……」
前回は四人、その前は二人。その時々によって人数はまちまちだったが、ベイトの前にこの街を訪れた巡礼者達は、いずれも複数人で旅をしていた。
だから巡礼者は複数で行動するのが一般的だと思っていた。チャウカンディーの口ぶりからして、どうやらその認識は合っているようで、ベイトの方が特殊な例らしい。
「巡礼の旅には不測の事態が付き物だからな! 一人では対処できない問題に直面した場合を想定し、巡礼者は複数人で行動するのが基本になっているのさ」
「つまり、ベイト様はお一人でも問題ないくらいの実力を持ってるから、一人で巡礼を行っている、ということでしょうか?」
「そういうことなのです!!! 一人で巡礼を行う巡礼者は他にも数名いらっしゃるが、その中でもベイト様は、特別強大な力を持っているというお話だよ!!!」
「――望んで得た力じゃないがね」
「……? ベイト様、どうかなさいましたか?」
「別に。なんでもねーよ」
ぼそりと小さく呟いた言葉の真意を、ベイトは適当にはぐらかした。
「まー確認は済んだことだし、次の質問といくか。ヴァルナ、この街の状況を知りたい」
「この街の状況、といいますと?」
「最近なんか変わったこととか、妙な事件とかはないかと思ってね」
今回ベイトが受け持った任務は、シェラを聖都まで護送することと、その道中遭遇した諸問題の解決だ。
問題解決にあたるためには、まず町の状況を知らなければならない。
まるでそちらが本分だといわんばかりのベイトの言葉に、ヴァルナは少し考え込んでから、やがて首を横に振った。
「ベイト様がご心配なされるようなことはなく、この街は平和そのものですよ。鉱山の町で気の短い男が多いものですから、多少の諍いは起こりますが、ね」
「ふーん。平和、ねえ……」
ヴァルナの返答を受けて、ベイトの視線がちらと窓の外に泳ぐ。
教会の外では青空の下、街の住民達が行きかうのが見えた。
買い物にいそしむ女性。走り回って遊ぶ子供達。街に男性の姿が少ないように思えるのは、仕事で鉱山の方に向かっているからだろうか。
その光景はヴァルナが口にした通り平和そのもの。どこの街でも見かけるような、平凡で、ありふれた日常以外の何物でもなかった。
彼の口にしたことはもっともなのだろう。そうベイトが納得しかけたところで、ヴァルナがふと、思い出したように呟いた。
「強いて言うならば、以前から隣町を騒がせていた通り魔が、ここ最近めっきり姿を現さなくなったという話が気になるでしょうか」
「隣町ですか? でしたら、私達には関係のないことと思いますが……」
「ええ。ですから、強いて言うならば、です」
シェラの疑問ももっともだ。ベイトが訊ねたのはあくまでこの街の状況や起きた事件だ。隣町まで範囲を広げられたところで、今から現場に向かい、問題解決にあたるのは難しい。
最初に話題を振ったベイトといえば、ヴァルナの言葉に「ふーん」と、興味があるのかどうかよくわからない相槌を打つばかりだ。