「まーいいや。あんたが平和だっつーんならそうなんだろ。それじゃ邪魔したな」
確認すべきことを終え、さっさとシェラ達に背を向けたベイトに、ヴァルナが声をかける。
「どちらに行かれるので?」
「宿探すがてらその辺散策してくる」
「もう行かれるのですか? 長旅でお疲れでしょう。よろしければ、こちらで休む傍ら祈りを捧げていかれては?」
そう言って、ヴァルナはすぐ横のチャーチベンチに座るよう促した。
チャウカンディーが黙ってさえいれば静かな教会の中。四人を除けば誰もいない今、多少居座られたところで何ひとつ問題はない。
神への祈りを勧められたのも、あくまで教会に居座る名目を作るためなのは明白だ。わざわざ口に出すまでもないほどわかりやすい、ヴァルナの善意からの提案だった。
「あいにく、カミサマに祈るほど信心深くないものでね」
「……そうでしたか」
そんなヴァルナの提案を、ベイトはあっさりと突っぱねた。
そればかりか、教会所属の人間にあるまじき発言とともに、教会を立ち去ろうとする始末。
やれやれといった様子で流すヴァルナの横で、シェラは複雑な表情を浮かべていた。
そんな彼女の顔を盗み見て、ヴァルナが一つ提案する。
「それではベイト様。シェラに町の案内をさせましょう」
「えっ?」
不意に自分の名前を挙げられ、シェラが素っ頓狂な声をあげる。
それと同じく、予想外の提案が投げかけられたベイトも、自分に対して未だ穏やかに対応するヴァルナをいぶかしむように睨みつける。
「シェラはこの町と教会のためによく働いてくれておりますので、この町のことはよく理解しております。案内役としては十分でしょう」
「……ふーん。そういうこと……」
ヴァルナとシェラの顔を交互に見て、ベイトが納得してぽつりと呟いた。
それとは対照的に、未だヴァルナの真意に気付いていないシェラに、そっと彼が耳打ちする。
「これから先、多少なりとも同じ時間をともにするお方です。少しでも、親交は深めておいた方がいいでしょう?」
「それは……、確かにそうですね」
「あと、町の外について、お話を聞きたいのでしょう? 巡礼者訓練所への入寮が決まった日から、ずっと顔に書いてありましたよ」
図星をつかれ、シェラの表情が固まる。
そのまま、視線をベイトの方へ向けた。
「……ここで断ったところで、どーせ道中聞かれるだけだしな」
渋々といった彼女の反応に、シェラが上気した顔でヴァルナの方を振り向いた。
多少浮かれていたと言われれば否定できないし、隠し切れずに表に出てきてもいたのだろう。
だが、今はそんなことどうでもよかった。
「それでは神父様、行ってきます!」
彼女を待つわけでもなく、先にさっさと教会の外に出ようとするベイトの後を追って、シェラがぱたぱたと駆け出した。