「ここより南にある港町では魚が美味だと聞きました。ベイト様は行ったことがおありなのですか?」
「昔一回だけな。そん時食った白身魚の揚げ物は美味かった」
ひどく不愛想な態度を取り続けるベイトだったが、シェラが町の案内をしている間、彼女との会話は思った以上に弾んだ。
「聖都にある大聖堂というのは、それはそれは立派なものだそうですね。私も一度お目にしたいと思っておりましたが、ベイト様から見ても、やはり素晴らしいものなのでしょうか?」
「私は聖都に着くたび大聖堂に向かうよう義務づけられてるからな。もういい加減見飽きたわ」
シェラが質問して、ベイトが回答する。二人の会話はこの繰り返しでしかなかったが、無限に湧いて出てくるシェラの質問が、とめどなくあふれ出てベイトにぶつけられ続けたおかげで、二人の会話が途切れることはなかった。
「ベイト様が過去訪れたことのある町で、特に印象に残っているところはありますか? いつか晴れて巡礼者になった時は、ぜひとも行ってみたいものです」
「特にねえな。多少の特色の違いはあれど、大きく違うところなんざそうそうねえよ」
シェラの質問攻めにベイトは、辟易とした態度でひたすら淡白な返答を続けていた。
それでもなお、期待の眼差しとともに投げかけられ続ける質問に、いい加減うんざりしてきたのだろう。
「あー……、たまにはこっちから質問いいか?」
矢継ぎ早に放たれ続けるシェラの質問の合間を見て、ベイトがふと口を挟んだ。
「ずいぶんとまあ、熱心にいろいろ聴いてきてるわけだが、なんであんた、そんなに巡礼者になりたがってんの?」
ベイトの方から質問が返ってくるとは思っておらず、シェラは面倒くさそうに口にする彼女の質問に思わず動き続けていた口が止まった。
やがて、周りの目を少しだけ気にしながら、シェラはぽつりとつぶやいた。
「……ヴァルナ神父様に憧れて、ですね」
先ほどまでの質問攻めとは打って変わって、声を潜めて話すシェラ。
きっと、街の住人つてに、当の本人まで話が届かないようにしているのだろう。
「孤児院の育ちで身寄りのない私を、神父様はずっと優しく世話をしてくれました。ですから、今度はヴァルナ神父様のような立派な聖職者になって、ヴァルナ神父様に恩を返すのが私の夢なんです」
「その話の流れで、どうして巡礼者志望として訓練所に入ることになるんだよ。聖職者志望として神学校へ入学すんのが普通で、そっちのが手っ取り早えだろ」
「ヴァルナ神父様も、かつては巡礼者として巡礼の旅に赴いておられたそうなのですよ。ですので、神父様と同じように学ぶことで、神父様の後を追っていけたらと思い、まずは巡礼者を志望しました」
「……なるほど、そういうこと、ね」
「おかしいですか?」
「いんや、別に? ただ……」
聖職者と巡礼者。
どちらも教会が管轄する役職だが、その実、明確に区分されているわけではない。
シェラと同じように、巡礼者から聖職者に転身する者もさして珍しくはない。
それどころか、将来聖職者を志望する者が、巡礼の旅を通し様々な経験を積むことを目的に巡礼者をやっていることも多い。
それを別に悪いものだとは思わない。巡礼者が旅をする理由など様々だ。
だから、ベイトが気にかかったのはそこではない。
「その純真さが、いつまで続くものかと思ってね」
「……すみません。どういう意味でしょうか?」
「そのうち分かる」
数々のシェラからの質問に対し、簡潔ながらも明確な返答をし続けてきたベイトが、初めて回答をはぐらかした。
その真意も掴むことができないまま、シェラはただ首をかしげることしかできないでいた。
そして、それとほぼ同時に、町の外の様子についてだいたいのことは聞き終えてしまった。
連れ立って歩く二人の間に、少しばかりの沈黙が流れる。