「なにこの赤ぇチップ……とりあえず挿そっと」 作:ちいさくないけどかわいいおじさん
おっ、撮れてるか?……あ?レンズの横っちょが赤く点滅してたら録画が開始できてる証拠だ?あ゛ー……視力強化のインプラント導入してねぇっつの!点滅小さすぎてわかんねぇよ!
ま、撮れてる前提で始めっか!あー、あー……よっ、
でもな、俺はお前のことを知ってる。なんでかって?……わかりすいのはコレか?お前の少年期、あるチップを巡って起きた大事件の象徴……赤いスパークが見えたか?そ、カプリだよ!んでもって、Dもいんぜ!
このビデオを撮影し終えたら、テキトーなURLでも作ってネットの海に放り投げる予定だ。まだおめーがアナログな映像美にこだわってるギーク野郎なら、きっと拾ってくれるって信じてる。
んじゃ、まずは色々話すことがあるから……順を追って語ろうか。俺ことルーシー、──はっ、女みてぇな名前だろ?……が、どうやってこのチップを拾ったかってことから。
○
男の気を引く女じゃあるまいし、長々とあれがああでこれがああで……ってのはちょっとキモいよな?だからスパッとストレートにいこう。
俺はノーマッドで、ジャンクヤードでゴミ漁りをして生計を立ててるグズだった。ネットランナーが棄てるに困ったメイルストロームの死体とか、コーポの連中が実験ついでで殺したナイトシティの連中の死体とか……そっからかっぱらったサイバーウェアやインプラントを売りさばいて生きてた。
その日はバカみてぇな炎天下だった。体内温度調整機能とかいう高級なインプラントなんて無いからさ、汗だくになりながら今日もオンボロ愛車のマーヒアを走らせてジャンクヤードに向かってた。
その道中だ。けっこー前にラジオで流れてた、ナイトシティ全域が停電に見舞われ、なんでか知らんが郊外にぶっぱなされた爆撃の跡地を通り過ぎる予定だった。
ノーマッドの情報網ってのはわりと侮っちゃいけなくてな、跡地に関する情報はウソくせぇのも含めてバカみたいに耳に入ってきてた。異様な光景だぜ?機械の残骸が不格好に継ぎ接ぎされたまんま残って、もうちょっと部屋掃除が下手なやつでも綺麗にとっ散らかすぜってくらいの散乱度合いだ。
その中心地点、どーにも血飛沫かなんかが飛び散って鉄クズが赤く染まってるトコに……人相もわからねぇ死体が転がってたんだよ。おいおい、ツイてんなぁ!?そう思ったね。どんなクソみてぇなインプラントでも数売りゃあまぁまぁな金になっからさ、死体はあるだけ歓迎なんだわ。
インプラントをパクるときにはコツがあってな。身元によっちゃあ盗難防止用のオートロックが触られただけで自動的にかかるものがまだ生きてたりする。だから、脳を傷つけない範囲でハックすんだ。
だがよ、弾かれたんだ。ハックってのは意識のない人間ならわりかしすんなり通る。それに対して、ましてや意識どころか心臓止まってる死体だぜ?こんがり焼けてて顔も焼け落ちてる!ふつー通るはずなんだ!ありえねぇくらい強固なプロテクトが、死してなお機能してるって時点で、身元のわからねぇこいつが厄ネタじゃねぇかとは勘付いてた。
でもさぁ、ここで止まれてたらスカベンジャーなんてカスの生業やってねぇよな!?ハックによる機能ダウンが狙えねぇなら、チップ関連よ。チップは物理的に挿し込む構造上、オートロックなんてもんはねぇ。幸い、こいつの右首にあったチップは壊れてなかった!しかも見たことねぇ形状のチップだ!これは高値で売れる!そう思ったね!
……なんかなぁ、ここで小心者らしく懐にしまえば良かったんだ。が、なにをとち狂ったかハイになった俺はどんなチップか試したくなって……自分の首に挿しちまったんだ。
これが、始まりだったんだ。
「─────は?」
世界のテクスチャが真っ白に置きかわった。俺を照りつけて喉を乾かせる炎天下も、遠くに見えるきったねぇナイトシティも、辺りにあった鉄クズの残骸も、全部が消えた。その真っ白な世界で、俺は電子のマテリアルで構成された二人を見た。
『…………およ? 久しぶりの来客だね。ヤッホー!元気ィ!?』
『────チップ側に謎のアクセスがあったかと思えば。誰だ、オマエ?』
一瞥された。目と目が合った気がした。すると、脳に駆け巡るような……数百人の人間が一斉に笑い出したかのような、声の波が襲った。BDとも違う、自分でない人格がファイルを置き換えていくように自分を上書きしてくるような、そんな感覚だった。
それとは別に、ある一人の男の記憶も駆け巡った。俺と同じノーマッドで、名前の知らねぇクランに所属していて、これまた俺と同じしょーもねぇことをして生計を立てていた小悪党の。
男はバカだった。バカみたいなことで、気持ちよく笑う男だった。その男が、車をパクった帰り、燃え盛るクランの拠点を過呼吸気味に眺めていた。笑うことは、もうできなくなっていた。
それからは地獄のような毎日を過ごしていた。酒に溺れても仲間たちの影が腕にまとわりつく。女の柔らかな乳房に溺れても、枕元でガキが悲哀を囁いてくる。
人格の上書きよりもこっちのほうがよっぽど堪えた。こいつの視点を追体験しながら、色モノホラーBDの方がマシってくらい精神的恐怖に追い込まれるもんだからさ。
ンなとき、お前だよ。お前に会ったんだ、ロマン。このご時世誰にウケるかもわかんねぇ古ぼけたカメラを持って、ちょこまかと足元をうろついてくる、お前。
一丁前に大人をナメてかかってくるわ、肝座ってんのか危機感ねーのかバカみたいな命知らずなことするわ。でも、ちょっとは「あの頃」みたいだった。時々ウザい小言を挟んできて、イラつきもしたけど……それもなんか、オミみたいだった。
ま、お前の忠告も無視してアラサカに喧嘩売っちまって……後戻りできなくなったけど。あーいや、その前からだ。カプリがおかしくなって、ロマンも
守らなきゃ、って思った。アラサカに潜入したときに殺り損ねたから、こいつは報復に来たって。でも、守るべきお前から「やり過ぎだ」って諭されたときに……裏切られた気がした。
だから、心残りなんだ。結局、ちゃんとお前と仲直りできなかった。お前はずっと俺を心配して、ずっと俺を見てくれてた。カメラを、向けてくれてた。カプリと俺が下らねぇことでギャングどもをおちょくって……それをお前が撮る。それが、理想だったんだ。
「…………っ! っはぁ、はぁっ!! ……っぐ、ぁ」
『うお、人格が上書きされない……はちゃめちゃに凄いはずなんだけどな、私!? 適応できるヤツ、多すぎない!?』
『……チッ、俺の記憶を見やがったな。 人工コンストラクトの性質が仇になりやがった……!』
「デイヴィッド……ちがう。D……!」
苦しすぎて色々と記憶が曖昧なんだけど、俺こんとき自分が俺なのかDなのかよくわかってなかったんだよな。でもこれだけは共感できてさ。めっちゃロマンに「ごめん」って謝りたいっていう、純粋なそれが。
「バッッッカすぎんだろ、お前ぇっ……!」
ロマンでさえ、最期はあんな顔してお前を引き留めたじゃねぇかって、思ったんだよ。粗いピクセルに収まった、今にも泣きそうなロマンの顔をさ、見たんだろ。ガキが素直に引き留めてんのに、成人したお前はなにやってんだって。
「この体がでけえだけのガキが……ロマンに謝りいくぞって……! それまで、ごめんって言ってくるまで、お前らに体を譲ってやらねぇからな!!」
『……あはっ、なにそれおもしろ! イイね、イイよ! ちょっと衛星探索も飽きたとこだし、ナイトシティに帰省でもしちゃおーよ!?』
『んな……まだ俺がいいって言ってねぇだろうが! 大体、どうせアイツら……俺が死んでると思ってんだろ。会ったってわかりゃしねぇよ』
「うるせぇーー!! そうやって理解してもらえないって腐ってばっかなのをガキだって言ってんだアホ! 理解してもらえなくても! 行くんだよォ!」
○
……さ、つーことで今の俺の体にゃカプリとDが共存してる。しっかし……便利ねぇ、この力!カートリッジの容量がなくても無理やり機械だったら動かせるし、なんなら通電性の物だったら弾いたりできちゃう!
Dが調子乗ってアラサカの連中殺し回るワケだわ!これならコーポのやつら潰せると勘違いしちゃうよな。俺ぁ、あんまコーポのやつらに恨みとかないからどーでもいいけど!
ぶっちゃけもう語ることは無いんだけど……あ、そうだ。あの子は無事か?ってDが一応質問入れとけって……あ痛っ!?てめぇガラクタぶつけてくんじゃねぇ、危ないだろうが!
……話が逸れた。そうそう、あのピンク髪のさぁ……タリア?って言ったっけ?めっちゃボロボロだったじゃん、あれからサイバーウェア治った?なんか復讐したそうだったのに横槍入れてごめんなって言っとけって、これまたDが……あーっ!?せっかく金目になりそうなインプラントがぁ!?
あーあ……ナイトシティで当分暮らすための資金源が……。ともかくさ、このビデオを撮ったらすぐに捜しにいくから、誰だこいつ!?ってなっても身構えないでくれると嬉しいぜ。……そうだ!なんならこの映像に俺のホロコールのアドレス置ときゃいーじゃん!
……え、なにカプリ。うんうん、あー、んぇ?……あっ。
……あのさロマン、これネットに放ったらお前がお尋ね者ちっくになること失念してたわ、えへ!もし職場のやつらに「この動画で言われてるロマンさん?」とか言われたら、別人です!って言っとけな!じゃまた!