「なにこの赤ぇチップ……とりあえず挿そっと」 作:ちいさくないけどかわいいおじさん
鬼ごっこってさぁ、鬼側のポテンシャルが神がかってこその遊びだよな。何が言いたいかって?こいつら根性なくてすぐバテやがる。飽きたってことよ。
「はぁっ、はぁっ……やっと観念したかァ!?」
「いや……ダサいよ。息整えてから言いなって」
俺の飽きかたはまだ優しいほうだ。Dなんかは近隣の放送電波をジャックして勝手に俺の脳みそをスピーカー代わりにくっだらねぇバラエティ番組を見てるし。
カプリなんかは半径100m以内を飛んで回って俺の耳元に『ねぇねぇ、あそこでおもしろそーなこと始まってるよ!』とか『メトロのトイレでやっちゃいけないことしてる!?』とか要らん情報をお届けしてくれている。
『……どーしてコイツらの前に出たんだ?』
「ロマンとの関係を探る。ガキんちょが悪いやつとつるんでたら止めてあげるのが大人ってモンでしょ」
『あ゛ー……たしかに? メイルストロームよかマシとか思っちまった。やべぇ、だいぶ麻痺してたわ、俺』
「そーだよね、Dはガキのまんま死んだもんね」
『はっ倒すぞバカ』
ちゅーことで、ここからは正面勝負をしてやろうって魂胆だ。理由は一つ。俺は器用貧乏で、カプリの力を借りなきゃわりとザコ寄りだから。それが逆にハンデプレイみたいで楽しそうじゃん?ってワケ。
見たとこ戦闘慣れしてるやつらじゃない。ギャングに入って間もないとか、下らないお遊びに幹部級の引っ張ってなんかいられねぇとかそこんところかね、事情としては。
散々俺たちにおちょくられて人を殺すための
「なにィ? スマート銃なんか使っちゃって……自分の当て感に自信がねェんだ?」
「挑発か? 残念だけどな、信義や信条は神にのみ捧げるって決めてんだ。 銃なんてモンは……当たればそれだけでいいんだよ!!」
「バカだなぁ……素直に真っ直ぐ……ドタマをぶち抜きゃあいいのに」
追尾する銃弾なんてモノの再現は、そりゃまあ色々と工夫が必要だ。手の平にスマートリンクのサイバーウェアを換装して、そんでもってそれに対応する特殊な銃弾を装填しなきゃならない。
ミソっカスなのはこの特殊な銃弾よ。パウダーの量をちょ〜っと減らして、その分入力された命令を実行させるための小型AIを搭載するのさ。だから追尾が可能になってる。
わかんだろ?技術を詰め込むなら必ず他のなにかが犠牲になってんだ。この場合は殺傷力、それが該当してる。だから当たっても大したこと……はある!そりゃ4割くらいしか機械化してねぇからなぁ!当たりゃすっげぇ痛てぇよ!?肉が焼け焦げる感じするし!
「────ま、この距離ならどんだけ速い弾でも俺がお前を殴るほうが速いンだけど」
あと換装したスマートリンクをオーバーロードさせて軌道をズラすとかも余裕。煙を出して故障した片腕を押さえてる内に俺は懐に入って顎に鋭いアッパーカットを放つ。別にぃ?念の為のクイックハックですけどぉ?この業界詰めの甘いヤツから死んでくんで。
「俺たちに……お前のほうから手を出したな? 掟を破った罰を受けてもらうぞォ!!」
「お前らが掟を破らせにきたんじゃん。はた迷惑なヤツらだなぁ……」
一人はオちた。残りは三人。そのうち二人はバットとカタナを、一人はボロっちいパルサーを構えて走ってきている。あーダメだよぉ、こっちがハッカーかもしれないんだから距離を取らないとさーぁ!?
バットを大袈裟にかかげて突っ走ってきているヤツの後ろ、ちょいと独特な構えをしているカタナ持ちに認知負荷をかけてやる。急激なストレス下に放り投げた上で、わざと敵意系統の感情回路には手を加えておかない。
「死ねぇっ────! って、はれ? ごふっ……」
「……あ、あっ? 俺はいまあいつを刺したはずっ? あれ、あれあれあれあれっ?」
「刺し口は心臓からズラしたからすぐに死にはしねぇよ。……ああ、でも貧乏なギャングの下っ端だし……トラウマチームと契約なんかしてねぇか。死ぬかもな」
認知負荷で立ちくらんでいるヤツのみぞおちに一発ぶち込んで、アイアンサイトを覗きこんでたくせにトリガーに指をかけもできなかった意気地無しにグレネードを投げ込んだ。
「う、うわぁぁぁっっ!? …………ぅ、ぁ? なんでだ、なんで起爆しねぇ!?」
「そりゃあ……グレネードじゃねぇもん。人ひとりにグレネード1つはコスパ悪いっしょ。少し捻りゃわかることだろ、バカなんか」
綺麗に騙されてくれたバカがパクパクと口を開けては閉じて汗をダラダラかくもんだから、なんだかジャパンタウンの養殖池に泳いでる鯉みたいで笑い声が出ちまった。
「……なぁ、ロマンについて知ってることありゃ洗いざらい吐いてもらえねーか?ああ、嘘ついてもムダだから。ハックで頭ン中覗きこんでもいーんだけど、お前の善意を信じて……な?」
「……このナイトシティの裏の顔を務めるフィクサーの個人情報は死んでもゲロっちゃならねぇ。それがヴァレンティーノズのDecenteだ」
「……ぶはっ!
「…………あっ」
間抜けな一言を最後に、敬虔なバカは裏拳で沈んだ。白目を剥いて泡吹いて倒れたもんで、俺の靴のつま先にそれがついた。あー……きったねぇ、撥水加工って人の唾とかよだれは適応外なんかな。
○
道ゆく通行人に迷惑にならないように、まぁまぁ楽しく遊べた野郎の触りたくもねぇケツを片手で支えて、一人ずつ道ばたに棄てといた。
置き場所の条件としては、できる限り事件性がある感じを醸し出さないところで、かつ死ぬほど滑稽なふうに見えるところ。高架下に転がってた中身がまだ残ってそーなスプレー缶を振って、コイツらのもたれかかってる壁に書いたのは、「主の御座すところに我ら在り(笑)」。
俺の脳内イメージをカプリが形にして、Dがランナーデッキの代わりに脳内演算でホログラムを形成してくれた。おかげでクッソ綺麗な字体で書けた!学のねぇバカでもこういうときはビシッとキメねぇとな!?悪ふざけになると全力で協力してくんのサイコーにガキ!褒め言葉だぜ?マジで。
おちょくりまくって大満足な俺らは、本来の目的であるロマン捜索に舵切りを戻した。誰でも思いつくことと言えばよぉ、ホロコールに残ってる履歴にあるはずのロマンのアドレスにかけ直すことだわな。
しっかし、永遠に繋がらない。あの映画狂い、マナーモードとかにしてんのか?ヤってるときにママンのコールが来るのを恥ずかしがるピュアボーイじゃねンだし、マナーモードとかすんなよな。
『私ホロコールのこの音きらーい……』
『チッ……なんっで繋がらねぇ……!?』
「映像美に拘るロマンらしいこって……感動の再会ってのはもっと紆余曲折あってからってお約束っつーワケな?」
それに、もうひとつの意図まで感じる。ナイトシティ全てを使って、Dを楽しませようとしてる。ある種の狂気を孕んだ、Dへの執念。たったの6年で、ヴァレンティーノズから信頼される18歳のフィクサーとして裏社会に台頭するくらいの、精神的なエッジを越えた人間の覚悟。
「まぁ〜……あっちから遊びと称した小突きはこれからも来るだろ! それより今日の宿どーすんよ、検問所のカスにチップとして1万エディ渡しちまったから一文無しだ」
『もう金も残ってないかもしれないけど、アラサカの口座から絞ってみるぅ?』
『やってもひと月ふた月生活できるくらいが限度だろ。……考えがある。ロマンに近づくためにもここは一つ……』
「アフターライフで傭兵として依頼を受けて知名度を上げる……だろ?」
裏社会での活動はアブない橋を渡ることも多々あるが、その分報酬は美味い。けどやりすぎてコーポのヤツらに目をつけられることもある。なんなら俺がつけてるこのチップは今でも厄ネタだ。
50:50の賭け。リターンとリスクが同じくらいにある選択肢。……普通のヤツならそこで腰引いて逃げる。覚えてっか、なあ?死体漁りして生計立てるカスがこんなんで逃げると思うか?答えはノーだ!
「イイね。ノった! リターンがあるならやるしかねぇ! それになにより────楽しそうじゃねぇか!」
『ハイハイ! お金貯まったら生身のカラダで月に行きたい!』
「ああ、色々終わったら行こうぜカプリ!」
『ナイトシティからさんざかっぱらった金でバッドランズに新生スネーク族を発足してもおもしれェか?』
「そしたらオミも捜そう! アイツも言うてチンピラだ、まともなフリはさせてやんねぇ!」
○
『「───ってことで、ちょっと手ェ貸してちょ、ウィーク♡」』
「…………ちょっと待ってくれ、考える時間をくれないか??」
目頭を押さえて、低く唸っているキングならぬウィーク。押さえているクロームの右手はあまりにも心ともなく、人差し指にある「K」のイニシャルが寂しく反射した。
ま、そうだよね〜!俺とは初対面だし、Dとはそんな面識無いし、頼られても困るよね〜!それにさっきは伝説のソロから落ちぶれた彼のあまりにも弱々しい側面にフューチャーしたが、顔は意外にも生き生きとしている。
サイバーパンクとしての家業から足を洗っても、生きがいを見出してるヤツの瞳だ。だから、戸惑ってるんだろう。
「……すーーーー……単刀直入に言おう。俺はお前の力になれない」
「ふぅん。それはどうして?」
「俺には愛する娘がいる。とても大切な娘だ。娘との平穏な生活を一秒足りとも減らしたくないんだ」
ウィークが目配せしたのは、車椅子に座りきりの少女とウィーク本人が並んだツーショットが映し出されたロケットペンダントだった。愛おしそうに少女を見つめるその顔は、たしかに一度エッジを越えてサイコシスになったとは思えないあたたかなものだ。
『……あ、この子じゃん! タリア! タリアだよ〜!』
ウィークに会うまで実感無かったみたいに、Dの意識が混ざりあってもタリアって少女のイメージが実は固まりきってなかった。そーなんだ、この子がタリアなのね。四肢がひしゃげて潰れかけたゴキブリみたいなトコしか記憶に無かったわ。かわいいじゃん。
『なんだ、生きてんのか。……よかったな』
『そりゃ私が混ざるとき私が動きやすいよう諸々修復したからねー! ここだけの話、ナノマシンも私の制御下でさ! 転移する癌をすぐさまバイオナノマシンで置換しちゃえば……あとは勝手に撃退!置換!撃退!置換!……ってしてくれるんだ〜!』
「……娘さんって、タリアのこと?」
「なぜ名前を……ほんとうにお前はDの記憶を引き継いでいるのか……!?」
「引き継ぐっつーか、同居してんだけどね。脳みそに」
「……ううむ。にわかには信じ難いが……そうだ。タリアは今は俺の義理の娘で、絶望的と思われた容態も見る見るうちによくなっていった。まさに奇跡としか言いようがない」
「……なるほどねぇ。まぁ〜、事情はりょーかい! 理解したよ」
本当は背中を預けられる相棒が欲しかったんだけど、こーなりゃプランBだわ!え、プランAとかBとか用意してたのかって?してるわけねぇじゃん。ナイトシティで計画的に生きてるやつなんて頭が出世のことでいっぱいなコーポのヤツらしかいないよ。つまり大体は無計画の無鉄砲ってこと。
「じゃあさ、キングの名前を借りてもいい?」
「ソロ時代の俺の名前をか?……落ちぶれた傭兵の名前なんざなんの役にも立ちはしないと思うが」
「おいおい、良くも悪くもナイトシティは実力社会だぜ?落ちぶれてたぁ〜とか、今はもう……とか、そんなん仕事っぷりで黙らせりゃあいいんだよ。それに、マイナスからのスタートってサイコーにハードゲームで楽しいだろーが」
「……お前がそれで排水溝の汚水に浮かんでいても、哀れとは思わんぞ」
「OK!交渉成立だ、そうだな……タイトルはこうだ。【キングの一番弟子、ナイトシティに降り立つ!】……どうよ、イカすだろ?」
ちょっと俺の中のオタクが俺の書いた文に異議を申し立ててきたから怪文書を書いとくな〜
ウィークは最後、本当に自分の手元から零したくないもの(タリア)を掴むために過去愛した女(アヴィダの遺灰)、名声、自分を形作っていた泣け無しの殻(キングのコート)を脱ぎ捨てて情けなく走り出したんだ
だから本当はウィークはキングの名前なんてものにこだわりも執着もない、そこにあるのはこの先を惨めでも愛する娘と生きていくためのでけぇ男の背中なんだよ
……でも!でもなんだ!俺はウィークが伝説の傭兵であったことを形骸化させたくないし、デイヴィッド・マルティネスがナイトシティ中に語り継がれるように、キングの名を語り継ぎたかったんだ!
そのためには欲にまみれたバカが必要だった。混じりっけのない、下心と野心を開けっぴろげにして近づくバカが!
ウィークはもう戦場に立たなくてもいい!高機能なインプラントを二度とつけなくてもいい!代わりに、代わりに俺らが父ちゃんの分まで走り抜けっからさ、腹減ってないか!?って誘ってくれよ!!!!!!