異世界でオフラインFPS【銃が強くても無双できない紙装甲のぼくは頭をフル回転させて脅威を嵌め殺し生き残る】 作:PUKIKA
「ナリ、小林、ここで待ってろ」後続の二人に声をかけてから、篠原が前に向き直る。「雨宮、ゆっくりだぞ。猫のように動け」
ほんの一〇メートルかそこらでミニチュアのジャングルが途切れる。その境界線でアキラと篠原はしゃがみ、葉の隙間から外の様子を窺う。
「あれか?」
「うん。丘を背にしてるし、横に生えてる木がおんなじ」
根菜か何かの畑の向こう、五〇メートル右手にくだんの家。ペンキも何も塗っていない木造二階建てで、屋根はおそらく、スレート敷き。あるいは、スレートに似た建材。全体的にかなり年季が入っている。その奥に並ぶ倉庫のような二つの建物も、やはり古そうだ。
「こうして見るとほんとフツーの家だね。ボロいけど。人かな、住んでるの?」
「かもな。住居の発想が人間のそれと似すぎてる。というより、西欧の発想と」
「雨戸がぜんぶ閉まってる」
「鎧戸っていうんだ。横板がヴェネチアン・ブラインドみたいになってるだろ」
アキラは鎧戸を順繰りに見、眉をひそめる。「今、昼過ぎだっけ?」
「ああ。なのに閉め切ってる」
「留守っぽいね」
「シエスタの習慣でもあるのか、そこらで野良仕事してるだけか……。もうちょい近づこう。の前に、あいつらにひと言いってくる。待ってろ」
篠原が数分で戻ってくる。
「よし、行こう」
二人は数メートル後退し、境界線に沿って畑の中をそろそろと進む。度々足を止めては、家と倉庫を新しいアングルで眺める。
「母屋も倉庫も、カンペキに閉め切ってるな」
「真ん中のはやっぱ納屋かな? 干草が周りに積んである」
「おい、あれ。納屋と倉庫のあいだにある荷車。見てみろ」
アキラは最初、荷車の何に注目すべきなのかわからず……ああ、と酪農を営む北海道の親戚宅にあった荷車とは決定的に違う部分を認める。
「ぜんぶ木で出来てるね。車輪まで木だ」
「いま気づいたんだが、辺鄙なクソ田舎の一軒屋であろうとも、あって然るべきものがない」
家と納屋と倉庫を順繰りに見やって、「えーと?」
「電柱と送電線。あるか?」
「いや、ない……と思う。うん、ない」
「さっき小林の上から見たときどうだった? 辺りに電柱あったか?」
アキラは記憶を反芻する。「なかった。一本も見てない」
「となると、おれらの歴史で言う一九世紀末から二〇世紀初頭に相当するのかもな。たぶん。もしかしたら」
「この世界が?」
「ああ。楽観的に見積もって」
「根拠は?」
「おれが読んだ本によると、電気が発明されて爆発的に広まったあとも、何十年かのあいだ、クソ田舎じゃランプと蝋燭の生活を送っていたんだと。その頃は馬車が現役で、木製の道具がたくさん使われてた。これ、先進国の話だぜ?」
「漠然ともっと古い時代にいると思ってた。そっか。そういう可能性もあるのか」
「つっても、この世界の事情はさっぱりだから、あんま当てにならねえけど」
倉庫の正面まで進んだところで、畑を分断している小道にぶつかり、アキラは左右を覗き見る。
「誰もいない」
「いやに静かだな」
「虫もいないね」
篠原が一瞬、何を言われたのかわからない顔になる。「虫?」垂れ下がっている葉や、柔らかい土の地面を見回してから、「ほんとだ、一匹もいないな。森の中じゃ結構いたのに。農薬でも使ってんのか?」
「シノ、行き止まりだし、そろそろ戻らない?」
「だな。ナリのやつが騒ぎ出す前に、いったん戻ろう」
「おい……おい、起きろ」 肩を揺さぶられてアキラは目をしばたく。仮眠のつもりが、熟睡していたらしい。すぐそばの地面では、同じく仮眠を取っていた成田が、枕代わりの鞄から頭を起こしたところだ。
「時間?」アキラはしわがれ声で尋ねる。
「ああ」篠原が腕を引っ込める。「おまえらの番」
「小林は?」
「まだあっちにいる」
成田が伸びをする。「いま何時?」
「四時ちょうど」
すでに日が傾き、似非トウモロコシ畑の中は影が深くなり始めている。あと一時間もすればお互いの姿が闇に沈み、自分のたなごころも見分けがつかなくなりそうだ。
成田が目をこすり、首の後ろを揉む。「なんか進展はございました?」
篠原が首を横に振る。
「じゃあ……この四時間半、誰も家から出てこなかったし、戻ってこなかったし、そこの道に人通りもなかったわけだ。監視の意義を承知した上で一個提案があるんだけど、怒らないで聞いてくれる?」
「それは約束できねえけど、言ってみろよ」
「もうちょい積極的に動いてもいいんじゃないスかね?」大あくびをしてから、「おれらが何時間もぼけーっと見張ってるあの家は、明らかに留守でしょ。調べ物するのに好都合だと思わん? この世界のこととか、住人のこととか、そういった手掛かり的なやつ」
はたで聞いていたアキラは、篠原がまたぞろいら立つのを予想する。
ところが、そうはならない。
「調べる方法は?」と篠原。
「ステップ1、出て行って玄関をノックします。ステップ2、ご不在ならドアと窓を試して――なんなら窓を破って――ちょっとお邪魔します。ステップ3、レッツ家捜し。もちろん、言いだしっぺのおれがやりましょう。おまえらはここで待機。どう?」
「実を言うと……おれも似たようなこと考えてた」
「マジ? じゃあ今から――」
「いや、まだだ。畑仕事か何かで出払ってるだけなら、そろそろ戻ってきてもおかしくない。こうしよう。日が落ちるまで待つ。動きがなければ、ほかにも家がないか辺りを調べる。あったら在宅かどうか確認する。いきなりノックはなしだ。おれも行く」
「別に保護者は必要ないんですけど。ほんっと信用ないのな」
「そうじゃねえよ。二人なら、お互いの死角をカバーできる。二人なら、不法侵入の実行と見張りって具合に役割分担できる。二人なら、割合安全かつ目立たず動ける。でも二人以上は駄目だ。見つかるリスクが高い」
「空き巣の権威みたいな言い草だな。何、経験者?」
「おれはおまえと違って、いつも頭を使ってるんだ」
成田がまた大あくびをする。「上手くいけば食いもんが手に入るかも。あー、マジ腹減った」
「断っとくが、最優先で探すのは地図だ。食い物関係は特に慎重にやるぞ。原住民には栄養満天でも、おれらには青酸カリの同等物かもしれない」
「わあってますって」
第11話は本日21時05分に投稿いたします。